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∞18【自分に出来る思いっきりで】

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「……なにが?」

 父はアゾロが考えたようなタイミングなど測ってはいなかった。
 父の方が先に高所に位置したのはたまたまだし、たった今丘の上から風が吹き下ろしたのもたまたまだ。だから、勝手にアゾロが考察したことは父にとっては『すべて的外れ』ということになる。

 勝手になんか色々考察した挙げ句に父に対して『……やるわね』とか言っちゃってる娘に対して、父は内心で『……いいからはよ来い』と思っていた。

 父は木剣を片手にだらんと下げたまま、アゾロが攻撃して来るのをずっと待っている。
 
 父からしたら、今やってる『これ』は単なる手合わせなので、騎士である父の方から大人気おとなげなく娘に攻めかかっていく気持ちは毛頭ない。
 だからアゾロからの攻撃を父は大人しく待っている。

 しかし、アゾロはいつまでも動かない。
 
 父との間合いを測りかねるようにアゾロは中途半端に距離を取り、中途半端に六尺棒を構える。
 低所に位置するアゾロの構えは、棒の先端を頭上に掲げた『防御(待ち)の型』だ。
 
 父は声に出さず心の中だけで思った。

(……剣相手に長柄の武器で防御の構えしてどうする?あと自分の方が相手より低い所にいるんならせめて『遮蔽物』とか『敵の突進を止められるもの』くらい探せ……)

 せっかく間合いの外から一方的に突ける|六尺棒(えもの)を持ってるのに、アゾロはその利点を理解していない。

 棒の先で父を牽制しつつ有利な位置に移動するとか、なんなら六尺棒のリーチを活かして思いきって突きかかって来たっていい。

 武器の違いからくる間合いの利があるにも関わらず、父の動きを警戒するばかりでアゾロはいつまでも自分の方から動こうとしない。

 父はアゾロを丘の上から見下ろしながら思った。
 
(……意味のない構え。意味のない間合い。そして意味のない無言の時間。これじゃ『手合わせ』にならん……)
 
 アゾロからしたら、この手合わせを挑んできたのは父の方だからなんとなく先に仕掛けるのは父の方…かな?という感覚がある。それに父の方が圧倒的に『格上』でもあるので、自分から仕掛けるのは戦術的にまずいのでは?という思いもあった。

 しかし、父からしたら『そんな考え方すること自体ムダだ』ということになる。手合わせに遠慮とかいらないし、格上相手の手合わせなら警戒だけしたって意味ないだろ。
 だから、『自分に出来る思いっきり』で来いよ。

 父は心の中ではそう思っている。
 それを面倒くさがって口に出して言わないのが、この父の難儀なところだ。

 
 アゾロは動かない。
 あくまで、父を迎撃する腹積もりらしい。

 父はふぅ…とひとつため息をつきアゾロにこう宣言した。

「……そっちから来んならこっちから行くぞー」



…To Be Continued.
⇒Next Episode.
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