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ずっと一緒に
十月一日・2
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悠登がずっと手を握っていてくれたおかげで気持ちが落ち着いて、二人の家に到着する頃には涙が止まっていた。
…優斗と別れるのが、離れるのが悲しくて泣いていると思われたかもしれない。
昨日の夜優斗の夢を見て、家を出る前に優斗に抱きしめられた時に走馬灯の様に思い出が駆け巡った。
離れるのが悲しいんじゃない。一度は愛し合い、夫婦になった、永遠の愛を誓った相手ともこうやって別れが来るんだな…と思うと悲しくなった、それだけだ。
もう優斗のことは好きじゃないんだってこと、改めてもう一度ちゃんと話さないと。
***
「お邪魔します…」
「お邪魔しますじゃないっしょ」
「あ、そっか。ただいま」
「おかえり」
自分の家なのにお邪魔します、と言ってしまったあたしを悠登が笑った。
広々としたリビング。壁はアイボリーに近い白で、家具は黒を基調としたものが多いけれど観葉植物を置いたりしているから暗い印象は無い。南向きの部屋だから日が入るし、それもあるだろう。
大きなテレビとガラスのテーブル、二人でゆったりと座れるソファがありアイランドキッチンの横にダイニングテーブルが置かれていて、これからはここで一緒にご飯を食べるんだな…と何だかワクワクする。
料理を勉強し直したいな。離婚してからは簡単なものしか作っていないし買ってきたもので済ませることも多かったから、これからは美味しいご飯を作って悠登と二人で食べたいな…
悠登が先にここに引越してから数回はここに来ていたし洋服類は寝室のクローゼットに入れていたけれど、今日持ってきたダンボールの中にまだ服や下着、その他の生活用品が入っている。
家具は何も持ってきていないからすぐに荷解きが出来るし、引越しとは言えども既に部屋は出来上がっているしすぐに終わりそうだ。
リビングの先のスライド式のドアを開けると、勉強机や本棚がある。悠登の仕事部屋でもあり、あたしの仕事部屋でもある。家に仕事を持ち帰ったとしても基本的にパソコンがあれば出来るからあたしはそこを使うことは少ないだろうけれど。
初めて来たわけでは無いのにここから新しい生活が、いや人生が始まるような気がしてとても新鮮だ。
今日から毎日悠登と一緒に過ごせるんだ。大好きな大好きな悠登と。
ほぼ毎日仕事場で顔を合わせているけれど、あたしと悠登が普段言葉を交わすことはとても少ない。「おはよう」は職場でも言っているけれど、これからは同じベッドで目を閉じる前におやすみが言えて、目が覚めてすぐにおはようと言える。
そう思うとさっきまで泣いていたのは嘘みたいに気持ちが明るくなって悠登がもっともっと愛しくなって、悠登と触れ合いたくなってしまった。
何を考えているんだ、こんな昼間から…
「あのさ…未央」
「ん?」
「帰ってきて早々なんだけど」
悠登が何かを言いたそうにもごもごしていて、その表情は少し照れている様にも見える。
「どうしたの」
「…未央ってやっぱめちゃくちゃ可愛いなって思って」
「急になんか恥ずかしいよ…」
「なんか全部可愛くて。さっきまで泣いてたけどここ帰ってきたら嬉しそうな顔してるし…」
「うん…さっきは泣いててごめんね。もう大丈夫だから」
「いや、全然いいんだけどそんなの。あの」
「どうしたの?」
「…今すぐセックスしたいんだけど」
「えっ…」
「あーごめん、忘れて。先に荷物やんなきゃだね、ごめんごめん」
「…あたしも」
「え?」
「寝室いこ…」
***
「…シーツ替えなきゃ…」
「…だね。後で一緒にしよ」
「ごめんね悠登、汚しちゃって…」
「ううん。気持ちよかった?」
「…うん…」
荷解きするより何より先にあたし達は体を重ねた。引っ越してきて初めての夜どころか、真っ昼間からしてしまった上に感じすぎて潮まで吹いてしまった…
「俺もー」
悠登がにこっと笑ってあたしを抱きしめた。
「明るくなったね」と優斗に言われたあたしだけれど、そんなあたしより変わったのは悠登だ。
他人に興味がないなんて言っていた悠登があたしを好きになってくれてプロポーズしてくれて、よく笑うようになった。
職場では近寄り難いオーラを発していたけれど、最近は物腰が柔らかくなったと思う。言いたいことははっきりと言うけれどちゃんとフォローをしながら話している様だし、悠登のことをぐちぐち言う人もいなくなり、あたしはそれがとても嬉しい。
「ちゃんと荷物片付けるね」
「うん。んで飯食いに行こ、この辺で良さそうなとこ見つけたし」
「ありがと」
初めての共同作業があたしの汚したシーツを替えるというのが恥ずかしいけれど、一緒に何か出来ることが嬉しい。
朝泣いていたことが嘘のようにあたしの気持ちは晴れやかで、幸せでいっぱいだった。
「じゃー未央、帰ってきたらこれからの話色々相談しよっか」
「うん」
「結婚式の話もしたいしなー」
「…ん?」
「ん?」
「結婚式…するの?」
「しないの?」
「バツイチだよ?バージンロードじゃないよ?」
「だから?バツイチでもバージンロード歩く人なんていくらでもいるじゃん。未央が嫌なら無理にとは言わないけど…前、結婚式したんだっけ?」
「ううん。結婚式…したい。前はしてないし」
「じゃある意味バージンロードじゃん。決まりね。未央のウエディングドレス姿見るの楽しみだなっ」
…というわけで、あたしは結婚二度目にして初めてのウエディングドレスを着ることになった。
お母さん、なんて言うかな…
…優斗と別れるのが、離れるのが悲しくて泣いていると思われたかもしれない。
昨日の夜優斗の夢を見て、家を出る前に優斗に抱きしめられた時に走馬灯の様に思い出が駆け巡った。
離れるのが悲しいんじゃない。一度は愛し合い、夫婦になった、永遠の愛を誓った相手ともこうやって別れが来るんだな…と思うと悲しくなった、それだけだ。
もう優斗のことは好きじゃないんだってこと、改めてもう一度ちゃんと話さないと。
***
「お邪魔します…」
「お邪魔しますじゃないっしょ」
「あ、そっか。ただいま」
「おかえり」
自分の家なのにお邪魔します、と言ってしまったあたしを悠登が笑った。
広々としたリビング。壁はアイボリーに近い白で、家具は黒を基調としたものが多いけれど観葉植物を置いたりしているから暗い印象は無い。南向きの部屋だから日が入るし、それもあるだろう。
大きなテレビとガラスのテーブル、二人でゆったりと座れるソファがありアイランドキッチンの横にダイニングテーブルが置かれていて、これからはここで一緒にご飯を食べるんだな…と何だかワクワクする。
料理を勉強し直したいな。離婚してからは簡単なものしか作っていないし買ってきたもので済ませることも多かったから、これからは美味しいご飯を作って悠登と二人で食べたいな…
悠登が先にここに引越してから数回はここに来ていたし洋服類は寝室のクローゼットに入れていたけれど、今日持ってきたダンボールの中にまだ服や下着、その他の生活用品が入っている。
家具は何も持ってきていないからすぐに荷解きが出来るし、引越しとは言えども既に部屋は出来上がっているしすぐに終わりそうだ。
リビングの先のスライド式のドアを開けると、勉強机や本棚がある。悠登の仕事部屋でもあり、あたしの仕事部屋でもある。家に仕事を持ち帰ったとしても基本的にパソコンがあれば出来るからあたしはそこを使うことは少ないだろうけれど。
初めて来たわけでは無いのにここから新しい生活が、いや人生が始まるような気がしてとても新鮮だ。
今日から毎日悠登と一緒に過ごせるんだ。大好きな大好きな悠登と。
ほぼ毎日仕事場で顔を合わせているけれど、あたしと悠登が普段言葉を交わすことはとても少ない。「おはよう」は職場でも言っているけれど、これからは同じベッドで目を閉じる前におやすみが言えて、目が覚めてすぐにおはようと言える。
そう思うとさっきまで泣いていたのは嘘みたいに気持ちが明るくなって悠登がもっともっと愛しくなって、悠登と触れ合いたくなってしまった。
何を考えているんだ、こんな昼間から…
「あのさ…未央」
「ん?」
「帰ってきて早々なんだけど」
悠登が何かを言いたそうにもごもごしていて、その表情は少し照れている様にも見える。
「どうしたの」
「…未央ってやっぱめちゃくちゃ可愛いなって思って」
「急になんか恥ずかしいよ…」
「なんか全部可愛くて。さっきまで泣いてたけどここ帰ってきたら嬉しそうな顔してるし…」
「うん…さっきは泣いててごめんね。もう大丈夫だから」
「いや、全然いいんだけどそんなの。あの」
「どうしたの?」
「…今すぐセックスしたいんだけど」
「えっ…」
「あーごめん、忘れて。先に荷物やんなきゃだね、ごめんごめん」
「…あたしも」
「え?」
「寝室いこ…」
***
「…シーツ替えなきゃ…」
「…だね。後で一緒にしよ」
「ごめんね悠登、汚しちゃって…」
「ううん。気持ちよかった?」
「…うん…」
荷解きするより何より先にあたし達は体を重ねた。引っ越してきて初めての夜どころか、真っ昼間からしてしまった上に感じすぎて潮まで吹いてしまった…
「俺もー」
悠登がにこっと笑ってあたしを抱きしめた。
「明るくなったね」と優斗に言われたあたしだけれど、そんなあたしより変わったのは悠登だ。
他人に興味がないなんて言っていた悠登があたしを好きになってくれてプロポーズしてくれて、よく笑うようになった。
職場では近寄り難いオーラを発していたけれど、最近は物腰が柔らかくなったと思う。言いたいことははっきりと言うけれどちゃんとフォローをしながら話している様だし、悠登のことをぐちぐち言う人もいなくなり、あたしはそれがとても嬉しい。
「ちゃんと荷物片付けるね」
「うん。んで飯食いに行こ、この辺で良さそうなとこ見つけたし」
「ありがと」
初めての共同作業があたしの汚したシーツを替えるというのが恥ずかしいけれど、一緒に何か出来ることが嬉しい。
朝泣いていたことが嘘のようにあたしの気持ちは晴れやかで、幸せでいっぱいだった。
「じゃー未央、帰ってきたらこれからの話色々相談しよっか」
「うん」
「結婚式の話もしたいしなー」
「…ん?」
「ん?」
「結婚式…するの?」
「しないの?」
「バツイチだよ?バージンロードじゃないよ?」
「だから?バツイチでもバージンロード歩く人なんていくらでもいるじゃん。未央が嫌なら無理にとは言わないけど…前、結婚式したんだっけ?」
「ううん。結婚式…したい。前はしてないし」
「じゃある意味バージンロードじゃん。決まりね。未央のウエディングドレス姿見るの楽しみだなっ」
…というわけで、あたしは結婚二度目にして初めてのウエディングドレスを着ることになった。
お母さん、なんて言うかな…
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