同居離婚はじめました

仲村來夢

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ずっと一緒に

十月十日

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「まじで?やばいなそれ」

結婚してから数ヶ月後。残業を終えて家に帰ると、先に家に帰っていた悠登がリビングのソファに寝転がって友達と電話をしていた。驚いたり笑ったりと何だか楽しそうだ。やたらと「まじで」「やばい」ばかり使っているのを聞くと悠登はやっぱりまだまだ若いな、と思ったりする。

「うん、そうだな。おー、今度奥さん紹介するわ」

奥さん紹介する、か…何だか嬉しい響きだ。家族だけでしか結婚式をしていないせいか、あたしはまだ悠登の友達に会ったことがない。会う機会が無かったというのが正しいしその逆も然りだ。

「んじゃまたな」

電話を切った悠登がこちらに向かって「おいで」と言わんばかりに手を広げてきて、悠登の胸に飛び込んだあたしをぎゅっと抱きしめてキスをした。唇を離すと悠登がにこっと笑ってあたしの頭を撫でた。

「おかえり。残業お疲れ様」

「ただいま。悠登もお疲れ様。なんか盛り上がってたね」

「そうだった?」

「まじでとやばいばっかり言ってたから」

「あー。や、なんかさー今の友達の彼女がめぐと仲良いんだけど」

「そうなんだ」

「めぐ結婚したらしい。しかもデキ婚」

「えっ、そうなの?!」

「まーあいつ結婚願望強かったしな。超幸せそうなんだって」

***

「うー…お腹めっちゃ張るぅ…くるしー」

「ゆっくり休んで、俺洗濯とか洗い物するしベッドいこ」

「ありがとー、圭人くん。もー、重いし苦しいし早く生まれて欲しいよー!早く赤ちゃんの顔見たいし!」

「そうだね。俺も早く見たい」

「ねー!早く出といでっ、パパもママも超楽しみなんだから元気に生まれてきてねっ!」

めぐがベッドに寝転がり、布団に入る前に自分のお腹を撫でた。

お腹が張って苦しいこともあるけれど、めぐは一日に何度も自分のお腹を撫でる。まだ我が子の頭を撫でてあげることが出来ないから間接的に撫でている様な気分でずっと触れてしまう。

ほんとに苦しいけど、この子の顔もわかんないけど自分のお腹撫でてるだけで、この中に赤ちゃんいるんだって思ったらなんか超可愛くてずっとこうしちゃうな…

実家に帰って以来圭人くんに押されまくって、すぐに付き合う様になった。

まだ悠登のこと完全に吹っ切れてないよ、って言ったらそれでもいいから。無理だって思うならフッてくれていい。俺は誰よりもめぐちゃんを愛せる自信があるよ、試してみて欲しいって言われて付き合う様になったけど気が付いたら悠登への気持ちはすっかりなくなって、圭人くんを大好きになっちゃった。

めぐの気持ちに整理がつくまでは何もしないって言ってくれて、初めてのえっちは付き合って2ヶ月後だった。可愛いとか好きだよとかいっぱい言ってくれて幸せだった。

えっちしてる時以外も、好きだよ、愛してるよっていっぱい言ってくれるのがすごい嬉しくて。

それからすぐに赤ちゃんが出来た。予想外だったし戸惑ったけど…。妊娠したって圭人くんに言ったらすごい喜んでくれて、産んで欲しい、1日も早く結婚しよって言ってくれた。…嬉しくて泣いちゃったな。

「ね、圭人くん!めぐのお腹触って話しかけたげて!今この子お腹蹴った!早くでてきたいのかなぁ?」

「まじで?話す!」

圭人が嬉々としてめぐのお腹を撫でた。が、特に何も起こらず圭人は首を傾げている。

「…あれ、寝ちゃったのかな」

「まじかー…パパだよー、起きて」

「起こしちゃだめ!ゆっくり寝させてあげなきゃ」

「ごめん!…ていうか今のめぐめっちゃお母さんっぽかった」

「まじで?やったぁ」

嬉しそうに笑うめぐが可愛くて愛おしくて、圭人がめぐにキスをした。

「どーしたの、圭人くん」

「なんかすごいなって思ってさ…」

「すごいの?なんで?」

「…俺と同い年のめぐがお母さんになるってなんかすごいじゃん、いや俺もお父さんだけど」

「ほんとそれだよ、何言ってんの圭人くんっ」

「だって、お腹の中で人ひとり育ててるってすごいじゃん!すごい気ー使って生活してくれてさ、まじで大変だと思うし…」

背が低くて華奢で可愛らしいめぐの体の中で子供が育っているなんて、そう思うと圭人はものすごく不思議な気持ちと、感謝の気持ちと幸せな気持ちと…いろんな感情で頭がいっぱいになる。

「世のママは皆そうだもん、大丈夫だよ」

「俺に出来ることはなんでもするから。めぐは俺の大事な人だから」

「圭人くんーめぐもだよっ」

「好きだよ、おやすみ」

圭人がめぐの頬にキスをして寝室を出て行った。

…幸せ。圭人くんの気持ちがすごい伝わってくる。毎日好きって言ってくれるから、めぐも好きだよって素直に気持ちを伝えられるし…

子供が生まれたら、好きだよっていっぱい言おう。

「あ、また蹴った」

***

「未央、愛してるよ」

「んっ…あたしも…っ愛してる…」

「いきそ…っ」

「あっ…」

一緒にお風呂に入った後にベッドに入って、いつもの様に愛し合って、いつもの様に悠登はあたしの中に熱を放った。あの日からあたし達は避妊をしていない。

「っ、あー…」

「ゆうと…キス。キスして」

「はいはい。そんなにせがまなくてもするってば」

悠登があたしにキスをして、ぎゅっと抱きしめた。

めぐちゃんが幸せになっていて良かった。けれど、子供が出来たことを聞いて何だかショックな自分がいる。

いつもそうだ。おめでたいことなのに、心から祝福出来ない。自分には全く関係のない芸能人の妊娠のニュースにも敏感に反応してしまう。

そんな自分が嫌になる。…結婚している友達は皆子供がいて、望んで子供を作ったわけでもないのに妊娠して結婚をする人もいて…それが羨ましすぎてとても複雑な気持ちになる。

あたしの体に問題があるわけじゃない。だからこそどうしてあたしの元には赤ちゃんが来てくれないのかな…と寂しくなる。

考えすぎちゃいけない。そう思って諦めるぐらいの気持ちでいるのにどうしても誰かのおめでたの話を聞くと心がざわついてしまう。そんな自分の心が醜くて大嫌い。

「未央、どうしたの?」

「あ、ううん。明日はこれやらなきゃとか考えてたんだ、難しい顔してた?」

「うん。寝る時はちゃんと寝るんだよ、おやすみ」

「おやすみ」

悠登があたしにキスをして、あたし達は眠りについた。

…悠登の子供、欲しいな…

そんな風に思っていた矢先のことだった。

「…あれ?」

指折り数えたけれど、生理が来ていない。予定日から2週間…3週間は経っている。

もしかして、あたし…

「ただいまー」

「おかえり、今日はあたしの方が先だったね」

「そうだね、お疲れ様」

「あの…」

「ん?」

「…生理が来ないの」

「え?…あー、確かに…え、っていうかそれ」

「や、まだわかんないけど!調べてないしっ」

「まじか…昨日めっちゃ突いちゃったじゃん」

「そこ?」

「いやそこじゃないね。…妊娠したかもってこと?」

「わかんないんだけど…あたしあんまり遅れないから、あれって思って」

「病院いこ。早く知りたい!」

…もしかしてあたし…自分の子供を抱ける日が来るのかな?
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