元アイドルは現役アイドルに愛される

文字の大きさ
3 / 8

3. 償い

しおりを挟む
あれから数年、テレビの中では海里さんが笑っていた。グループが解散してすぐはネット上で大きく荒れ、メディアへの復帰は難しいと思われていたが、今の彼は、誰もが知る「実力派俳優」だ。数年前、僕がグループを去った後、解散という絶望の淵から彼は自力で這い上がった。
ほかのメンバーもそうだ。バラエティ番組で見せる彼らの軽妙な語り口は、今や茶の間の顔として定着し人気タレントとなった。
彼らはもう、僕がいなくても、僕が壊した「5人の居場所」がなくても、立派に自分の足で立っている。
しかし颯真さんだけは芸能界に姿を現さなくなった。それだけが気がかりだったが、自分にできることなんてないと分かっていた。
「……よかった。本当によかった」
乾いた唇から漏れた声は、自分でも驚くほど掠れていた。
けれど、彼らの成功を喜べば喜ぶほど、僕の心には冷たい鉛のような罪悪感が沈殿していく。彼らが今浴びている称賛の光が強ければ強いほど、その陰に隠された「解散」という痛みが、すべて僕という存在に集約されていく気がする。
僕さえ、あの時もっと強ければ。
僕さえ、あの日メンバーを信じて、誹謗中傷から目を逸らしていれば。
今頃、この画面に映る彼らの隣には、僕も、そしてあと二人の仲間も並んでいたはずだった。
ガタガタと震える手で、ミネラルウォーターのボトルを掴む。
鏡に映る自分の姿は、あまりにも無惨だった。
かつて「エース」と呼ばれ、最年少ながらにグループを牽引していた面影はどこにもない。数年の月日は、僕の頬を削り、鎖骨を浮き立たせ、手首を折れそうなほど細く変えてしまった。 
毎日、スマホを開くのが怖かった。
数年経った今でも、検索窓に自分の名前を入れれば、過去の亡霊たちが僕を刺し殺しにやってくる。
『奏多さえいなければ、あのグループは今頃……』
そんな言葉を見るたびに、胃の奥が焼けつくように痛む。
食事を摂ろうとしても、一口運ぶごとに「自分だけが栄養を摂って生き延びる資格があるのか」という問いが頭を離れず、結局は喉が拒絶反応を起こして吐き出してしまうのだ。
「……あ」
打ち合わせで書き上げた楽譜に、一滴、涙が落ちて滲んだ。
アイドルたちのキラキラした瞳に耐えられず、マスクとメガネで顔を隠し、呼吸を殺して生きている。 『奏多』という名前は捨て、今はKという名前で活動している。
彼らは俳優として、タレントとして新しい夢を叶えた。
けれど僕は、あの日、照明器具の下敷きになった瞬間に止まった時間の中から、今も抜け出せずにいる。 
この痩せ細った体も、消えない罪悪感も、僕が背負い続けなければならない罰なのだ。
彼らが美しく輝けば輝くほど、僕はより深い闇へと沈んでいく。
それが、仲間たちの夢を壊し、独りよがりに逃げ出した僕にできる、唯一の償いのような気がしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった

BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。 にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。

俺の体に無数の噛み跡。何度も言うが俺はαだからな?!いくら噛んでも、番にはなれないんだぜ?!

BL
背も小さくて、オメガのようにフェロモンを振りまいてしまうアルファの睟。そんな特異体質のせいで、馬鹿なアルファに体を噛まれまくるある日、クラス委員の落合が………!!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

過保護な義兄ふたりのお嫁さん

ユーリ
BL
念願だった三人での暮らしをスタートさせた板垣三兄弟。双子の義兄×義弟の歳の差ラブの日常は甘いのです。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

処理中です...