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21.ポッキーゲーム(2)
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収録が終わり、楽屋に戻った途端、リオの我慢は限界を迎えた。
「奏多さん、ずるいですよあんなの! 公共の電波で、あんな……あんな後輩のスイ君なんかと。僕だってまだしてないのに…」
「リオくん、落ち着いて……。あれはただの罰ゲームだし、事故だったんだよ」
奏多がなだめるが、リオは床に転がらんばかりの勢いで駄々をこね始める。
「嫌だ! 上書きしてください! 今ここで、僕とポッキーゲームしてください! さあ、ポッキー! 誰かポッキー持ってきて!!」
「いや、持ってきてもやらないから。ね? 収録終わったんだし、もう忘れよう?」
困り果てた奏多の視線が、部屋の隅でオロオロしている颯真に助けを求める。しかし、今の颯真に助けを出す余裕はなかった。
(奏多がキスを……。いやいや、そんなことよりリオくんがあんなに必死に迫って、奏多が引いてる……。このままじゃ二人の仲に亀裂が入って、ユニットの空気が最悪に……。)
不憫なことに、過保護すぎる兄貴分は、二人の「痴話喧嘩」をグループ崩壊の危機として捉え、一人でパニックに陥っていた。
「リオくん、もう……。そういうのは本当に困るよ」
奏多は一歩、スッと身を引いた。いつもの柔らかな微笑みは消え、そこにははっきりとした「拒絶」の意志があった。
「いくらリオくんでも、できないよ…。……今日はもう先に帰るね」
「……え」
優しくも冷徹な奏多の拒絶。
リオの動きがピタリと止まり、その瞳にみるみるうちに涙が溜まっていく。
「……う、うわぁぁぁん! 嫌われたぁぁ! 奏多さんに嫌われたぁぁ!!」
「ちょ、リオくん、泣かないでよ……。あーもう、颯真、リオくんのことお願い!」
逃げるように楽屋を後にする奏多。残されたのは、抜け殻のようにメソメソと泣きじゃくる哀れなリオと、それを複雑な表情で見守る颯真だけだった。
「……リオくん。……辛いよね。分かるよ、俺も奏多にあんな顔で『困る』って言われたら、三日は寝込むと思う」
颯真はリオの隣に座り、その背中を静かに、共感の意を込めてトントンと叩いた。
かつてのライバル同士。しかし今、この瞬間だけは「奏多に拒絶された者」という深い悲しみで心が一つになっていた。
その頃、一人で事務所を抜けた奏多は、駅前のコンビニの棚をじっと見つめていた。
(……あんなにきつく言うことなかったかな)
少しだけ後悔しながら、カゴの中に赤い箱を一つ、滑り込ませる。
(……一箱だけ買っていってあげよう……。)
ポッキーの箱を握りしめ、奏多は少しだけ赤くなった顔をマフラーに埋めた。
あの時、本当はスイとの事故よりも、リオの必死な顔に心臓が跳ねてしまったこと。そして、そんな自分に驚いて、思わず突き放してしまったこと。
そんな奏多の小さな秘密を、楽屋で慰め合う二人が知る由はなかった。
夜の静寂が包むリビング。
ソファの端で、リオは魂が抜けたような顔でクッションを抱きしめ、颯真はその隣で「……どんまい。明日はきっと優しくしてくれる」
と、力なく励まし続けていた。通夜のような重苦しい空気が漂う中、お風呂から上がった奏多が、タオルで髪を拭きながら戻ってきた。
「二人とも、まだそんな顔してるの?」
「「かなた(さん)……っ」」
二人が同時に顔を上げる。その悲壮感漂う瞳に、奏多は小さくため息をつきながら、パジャマのポケットからガサゴソと何かを取り出した。
「…これ、あげる」
差し出されたのは、コンビニで買ってきたあの赤い箱。
驚きで目を丸くする二人の前に、奏多は箱を開けて、中からポッキーを二本取り出した。
「……さっきは、きつく言ってごめん。リオくんが嫌いなわけじゃないんだよ。ただ、びっくりしちゃっただけで」
奏多はそう言うと、少し照れくさそうに視線を逸らし、二人の口元に一本ずつポッキーを差し出した。
「仲直りの印。……はい、あーん」
「……っ!!」
一瞬でリビングの気圧が変わった。
さっきまで死にそうな顔をしていたリオの瞳に、眩いほどの生命力が宿り、颯真の顔には後光が差し込む。二人は拝むような姿勢で、奏多の手から差し出されたポッキーを、宝物を受け取るようにして口に含んだ。
「お、おいひい……奏多さんの味がする……」
「……生きててよかった。奏多、一生ついていくよ……」
「大げさだなぁ。……でも、ゲームはもう無しだよ? 普通に食べて」
奏多がふっと柔らかく笑う。その笑顔だけで、二人のこれまでの苦労も、あの番組での嫉妬も、すべてが浄化されていくようだった。
結局、その後は三人で一箱のポッキーを分け合いながら、今日撮った番組の反省会という名のだんらんが深夜まで続いた。
「ねえ、奏多さん。あと一本しかないです。これ、最後の一本、誰が……」
リオが期待に満ちた目で奏多を見る。その横で颯真も「……奏多、半分こする?」とさりげなくアピールするが、奏多はいたずらっぽく笑って、最後の一本を自分でパクりと咥えた。
「最後は僕の。おやすみ、二人とも」
そう言って寝室へ向かう奏多の背中を、二人は「……やっぱり、一生勝てないな」と顔を見合わせ、幸せな敗北感に浸りながら見送るのだった。
「奏多さん、ずるいですよあんなの! 公共の電波で、あんな……あんな後輩のスイ君なんかと。僕だってまだしてないのに…」
「リオくん、落ち着いて……。あれはただの罰ゲームだし、事故だったんだよ」
奏多がなだめるが、リオは床に転がらんばかりの勢いで駄々をこね始める。
「嫌だ! 上書きしてください! 今ここで、僕とポッキーゲームしてください! さあ、ポッキー! 誰かポッキー持ってきて!!」
「いや、持ってきてもやらないから。ね? 収録終わったんだし、もう忘れよう?」
困り果てた奏多の視線が、部屋の隅でオロオロしている颯真に助けを求める。しかし、今の颯真に助けを出す余裕はなかった。
(奏多がキスを……。いやいや、そんなことよりリオくんがあんなに必死に迫って、奏多が引いてる……。このままじゃ二人の仲に亀裂が入って、ユニットの空気が最悪に……。)
不憫なことに、過保護すぎる兄貴分は、二人の「痴話喧嘩」をグループ崩壊の危機として捉え、一人でパニックに陥っていた。
「リオくん、もう……。そういうのは本当に困るよ」
奏多は一歩、スッと身を引いた。いつもの柔らかな微笑みは消え、そこにははっきりとした「拒絶」の意志があった。
「いくらリオくんでも、できないよ…。……今日はもう先に帰るね」
「……え」
優しくも冷徹な奏多の拒絶。
リオの動きがピタリと止まり、その瞳にみるみるうちに涙が溜まっていく。
「……う、うわぁぁぁん! 嫌われたぁぁ! 奏多さんに嫌われたぁぁ!!」
「ちょ、リオくん、泣かないでよ……。あーもう、颯真、リオくんのことお願い!」
逃げるように楽屋を後にする奏多。残されたのは、抜け殻のようにメソメソと泣きじゃくる哀れなリオと、それを複雑な表情で見守る颯真だけだった。
「……リオくん。……辛いよね。分かるよ、俺も奏多にあんな顔で『困る』って言われたら、三日は寝込むと思う」
颯真はリオの隣に座り、その背中を静かに、共感の意を込めてトントンと叩いた。
かつてのライバル同士。しかし今、この瞬間だけは「奏多に拒絶された者」という深い悲しみで心が一つになっていた。
その頃、一人で事務所を抜けた奏多は、駅前のコンビニの棚をじっと見つめていた。
(……あんなにきつく言うことなかったかな)
少しだけ後悔しながら、カゴの中に赤い箱を一つ、滑り込ませる。
(……一箱だけ買っていってあげよう……。)
ポッキーの箱を握りしめ、奏多は少しだけ赤くなった顔をマフラーに埋めた。
あの時、本当はスイとの事故よりも、リオの必死な顔に心臓が跳ねてしまったこと。そして、そんな自分に驚いて、思わず突き放してしまったこと。
そんな奏多の小さな秘密を、楽屋で慰め合う二人が知る由はなかった。
夜の静寂が包むリビング。
ソファの端で、リオは魂が抜けたような顔でクッションを抱きしめ、颯真はその隣で「……どんまい。明日はきっと優しくしてくれる」
と、力なく励まし続けていた。通夜のような重苦しい空気が漂う中、お風呂から上がった奏多が、タオルで髪を拭きながら戻ってきた。
「二人とも、まだそんな顔してるの?」
「「かなた(さん)……っ」」
二人が同時に顔を上げる。その悲壮感漂う瞳に、奏多は小さくため息をつきながら、パジャマのポケットからガサゴソと何かを取り出した。
「…これ、あげる」
差し出されたのは、コンビニで買ってきたあの赤い箱。
驚きで目を丸くする二人の前に、奏多は箱を開けて、中からポッキーを二本取り出した。
「……さっきは、きつく言ってごめん。リオくんが嫌いなわけじゃないんだよ。ただ、びっくりしちゃっただけで」
奏多はそう言うと、少し照れくさそうに視線を逸らし、二人の口元に一本ずつポッキーを差し出した。
「仲直りの印。……はい、あーん」
「……っ!!」
一瞬でリビングの気圧が変わった。
さっきまで死にそうな顔をしていたリオの瞳に、眩いほどの生命力が宿り、颯真の顔には後光が差し込む。二人は拝むような姿勢で、奏多の手から差し出されたポッキーを、宝物を受け取るようにして口に含んだ。
「お、おいひい……奏多さんの味がする……」
「……生きててよかった。奏多、一生ついていくよ……」
「大げさだなぁ。……でも、ゲームはもう無しだよ? 普通に食べて」
奏多がふっと柔らかく笑う。その笑顔だけで、二人のこれまでの苦労も、あの番組での嫉妬も、すべてが浄化されていくようだった。
結局、その後は三人で一箱のポッキーを分け合いながら、今日撮った番組の反省会という名のだんらんが深夜まで続いた。
「ねえ、奏多さん。あと一本しかないです。これ、最後の一本、誰が……」
リオが期待に満ちた目で奏多を見る。その横で颯真も「……奏多、半分こする?」とさりげなくアピールするが、奏多はいたずらっぽく笑って、最後の一本を自分でパクりと咥えた。
「最後は僕の。おやすみ、二人とも」
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