元アイドルは現役アイドルに愛される

文字の大きさ
37 / 71

37. ライバル…?

しおりを挟む

奏多の本格的なパフォーマンス復帰はまだ先だが、まずは足に負担の少ないバラエティ番組から仕事が再開された。

​復帰一発目の仕事は、今勢いのある後輩グループのセンター・セナとの食べ歩きロケ。セナはかつて有名なアイドルだった奏多の噂は聞いていたものの、実際に会うのはこれが初めて。

収録前、セナは番組スタッフにこっそりと呼び止められた。

​「セナくん、奏多さんはまだ足が完治してないんだ。カメラに映らないところでも、段差や階段ではさりげなく手を貸してあげてほしい。頼んだよ」
​「……あ、はい。わかりました!」

​そう指示を受けたセナは、少し緊張気味に奏多の前に現れた。


※※※※※※※※


​ロケ:古民家カフェが並ぶ下町にて

​「あ、これ美味しそう。セナくん、食べてみる?」
​奏多はいつものように少しぼんやりとした、けれど柔らかな空気を纏って微笑む。セナはその透明感に圧倒されつつも、「ミッション」を遂行すべく神経を研ぎ澄ませていた。

​少し高い段差のある店に入ろうとした瞬間、セナは自然な動作で奏多の肘を支えた。


​「奏多さん、足元気をつけてください。……はい、どうぞ」
​「……! ああ、ありがとう。優しいね、セナくん」


​奏多は純粋に「気の利く可愛い後輩だな」と思い、ふわりと目を細める。
ロケが進むにつれ、セナは奏多の魅力に完全に毒されていた。ただ「綺麗」なだけじゃない。時折見せる年上らしい落ち着きと、スイーツを前にした時の無防備な顔。


​(なんだこの人……。優しくて、儚くて、でもオーラが凄い……)


​気づけば、スタッフに言われた以上の熱量で奏多をケアしていた。

歩道側に奏多をやらないようにさりげなく位置を替えたり、食べ歩きの串で奏多の手が汚れないよう、自分のハンカチをさっと差し出したり。

​その様子が放送されるやいなや、SNSは爆発した。


『セナ様が奏多さんにガチ恋してる件』
『この二人、美しすぎてカップルにしか見えない』
『エスコートが手慣れすぎてる。奏多さんの姫感がすごい』


​トレンドには二人の名前が並び、仲睦まじい切り抜き動画が瞬く間に拡散されていった。




※※※※※※※



​リビングのテレビでその番組をリアルタイムで見ていたリオの周りには、どす黒いオーラが漂っていた。

​「……何ですか、この後輩。僕だってまだそんなに公共の電波でベタベタ触れたことないのに」

​「落ち着いてリオくん。君の目が、獲物を狙う鷹みたいになってる……(と言いつつ、自分もスマホで『セナ 事務所 移籍阻止』と検索しかけている)」

​なぜか自分の家のようにソファに陣取り、お徳用のアイスを抱えている颯真が、リオの横で渋い顔をしていた。

​「……ところで颯真さん」

リオが氷のような視線をテレビから颯真へと向けた。

「さっきから思ってたんですけど、なんで当たり前のようにここにいるんですか。ここ、僕と奏多さんの愛の巣ですよ」

​「うるさいな。一人で広い家にいると、テレビの音が反響して寂しいんだよ。……ほら、次の店でセナが奏多の口元の汚れを拭こうとしてる! 止めろ! 物理的にテレビを止めろ!」
​「言われなくても今すぐロケ現場に乗り込みたいですよ!!」


​二人が阿鼻叫喚の声を上げている中、玄関のチャイムが鳴った。
帰宅した奏多は、リビングで頭を抱えるリオと、なぜかそこにいる颯真を見て、きょとんとした。

​「……あれ、颯真? また来てるの?」
​「奏多ぁ……!! お前、あんなチャラついた後輩に絆されて……!」
「奏多さん、僕以外の男にエスコートされて楽しかったですか!?」

​二人に詰め寄られ、奏多は「えっ、えっ?」と戸惑いながら、買ってきたお土産の紙袋を掲げた。

​「……セナくん? すごくいい子だったよ。僕、あんなに親切にされたの久しぶりで……。あ、これセナくんが『二人で食べてください』って勧めてくれたわらび餅。三等分しようか?」

​後輩からの「二人で」という配慮に、リオは少しだけ毒気を抜かれたが、奏多の「いい子だったよ」という言葉が心に深く突き刺さる。

​「……明日から、僕が奏多さんを背負って現場まで行きます」
​「えっ、それはちょっと目立ちすぎるから、やめてほしいかな……」

​奏多の「可愛い後輩」枠にセナが滑り込んだことで、リオと颯真の「過保護同盟」はさらに結束を固めることになるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

俺の親友がモテ過ぎて困る

くるむ
BL
☆完結済みです☆ 番外編として短い話を追加しました。 男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ) 中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。 一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ) ……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。 て、お前何考えてんの? 何しようとしてんの? ……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。 美形策士×純情平凡♪

処理中です...