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37. ライバル…?
しおりを挟む奏多の本格的なパフォーマンス復帰はまだ先だが、まずは足に負担の少ないバラエティ番組から仕事が再開された。
復帰一発目の仕事は、今勢いのある後輩グループのセンター・セナとの食べ歩きロケ。セナはかつて有名なアイドルだった奏多の噂は聞いていたものの、実際に会うのはこれが初めて。
収録前、セナは番組スタッフにこっそりと呼び止められた。
「セナくん、奏多さんはまだ足が完治してないんだ。カメラに映らないところでも、段差や階段ではさりげなく手を貸してあげてほしい。頼んだよ」
「……あ、はい。わかりました!」
そう指示を受けたセナは、少し緊張気味に奏多の前に現れた。
※※※※※※※※
ロケ:古民家カフェが並ぶ下町にて
「あ、これ美味しそう。セナくん、食べてみる?」
奏多はいつものように少しぼんやりとした、けれど柔らかな空気を纏って微笑む。セナはその透明感に圧倒されつつも、「ミッション」を遂行すべく神経を研ぎ澄ませていた。
少し高い段差のある店に入ろうとした瞬間、セナは自然な動作で奏多の肘を支えた。
「奏多さん、足元気をつけてください。……はい、どうぞ」
「……! ああ、ありがとう。優しいね、セナくん」
奏多は純粋に「気の利く可愛い後輩だな」と思い、ふわりと目を細める。
ロケが進むにつれ、セナは奏多の魅力に完全に毒されていた。ただ「綺麗」なだけじゃない。時折見せる年上らしい落ち着きと、スイーツを前にした時の無防備な顔。
(なんだこの人……。優しくて、儚くて、でもオーラが凄い……)
気づけば、スタッフに言われた以上の熱量で奏多をケアしていた。
歩道側に奏多をやらないようにさりげなく位置を替えたり、食べ歩きの串で奏多の手が汚れないよう、自分のハンカチをさっと差し出したり。
その様子が放送されるやいなや、SNSは爆発した。
『セナ様が奏多さんにガチ恋してる件』
『この二人、美しすぎてカップルにしか見えない』
『エスコートが手慣れすぎてる。奏多さんの姫感がすごい』
トレンドには二人の名前が並び、仲睦まじい切り抜き動画が瞬く間に拡散されていった。
※※※※※※※
リビングのテレビでその番組をリアルタイムで見ていたリオの周りには、どす黒いオーラが漂っていた。
「……何ですか、この後輩。僕だってまだそんなに公共の電波でベタベタ触れたことないのに」
「落ち着いてリオくん。君の目が、獲物を狙う鷹みたいになってる……(と言いつつ、自分もスマホで『セナ 事務所 移籍阻止』と検索しかけている)」
なぜか自分の家のようにソファに陣取り、お徳用のアイスを抱えている颯真が、リオの横で渋い顔をしていた。
「……ところで颯真さん」
リオが氷のような視線をテレビから颯真へと向けた。
「さっきから思ってたんですけど、なんで当たり前のようにここにいるんですか。ここ、僕と奏多さんの愛の巣ですよ」
「うるさいな。一人で広い家にいると、テレビの音が反響して寂しいんだよ。……ほら、次の店でセナが奏多の口元の汚れを拭こうとしてる! 止めろ! 物理的にテレビを止めろ!」
「言われなくても今すぐロケ現場に乗り込みたいですよ!!」
二人が阿鼻叫喚の声を上げている中、玄関のチャイムが鳴った。
帰宅した奏多は、リビングで頭を抱えるリオと、なぜかそこにいる颯真を見て、きょとんとした。
「……あれ、颯真? また来てるの?」
「奏多ぁ……!! お前、あんなチャラついた後輩に絆されて……!」
「奏多さん、僕以外の男にエスコートされて楽しかったですか!?」
二人に詰め寄られ、奏多は「えっ、えっ?」と戸惑いながら、買ってきたお土産の紙袋を掲げた。
「……セナくん? すごくいい子だったよ。僕、あんなに親切にされたの久しぶりで……。あ、これセナくんが『二人で食べてください』って勧めてくれたわらび餅。三等分しようか?」
後輩からの「二人で」という配慮に、リオは少しだけ毒気を抜かれたが、奏多の「いい子だったよ」という言葉が心に深く突き刺さる。
「……明日から、僕が奏多さんを背負って現場まで行きます」
「えっ、それはちょっと目立ちすぎるから、やめてほしいかな……」
奏多の「可愛い後輩」枠にセナが滑り込んだことで、リオと颯真の「過保護同盟」はさらに結束を固めることになるのだった。
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