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39. 寂しいときは
しおりを挟むあれから、リオとセナの「奏多さん研究会」は日々熱を帯びていた。
楽屋裏で二人が熱心にスマホを覗き込み、「この角度の奏多さんの伏せ目が――」「いや、この時の指先の表情が――」と語り合っている姿は、もはや現場の風物詩。
リオにとってセナは、唯一自分の「重すぎる愛」を共有できる、話のわかる後輩になっていた。
だが、その様子を少し離れた場所から見つめる奏多の心境は、複雑だった。
(……最近、リオくん、セナくんとばっかり話してる)
自分という共通の話題で盛り上がっているとは露知らず、奏多の目には、仲睦まじく談笑する「若くてキラキラした二人」が眩しく、そして少し遠く映っていた。
その日の夜。新居のリビングで、リオは上機嫌でスマホを叩いていた。
「(セナくんに、今日の奏多さんのベストショット送ってあげよう……)」
ソファで隣に座っている奏多のことなど忘れたかのように、画面に没頭するリオ。
すると、隣でずっと黙っていた奏多が、もぞもぞと動き出した。
「……リオくん」
「はい? ああ、ちょっと待ってくださいね。今、セナくんと新曲の演出について……」
言いかけたリオの言葉は、右手に伝わった柔らかな感触で止まった。
奏多が、俯いたまま、リオの右手の指先を「ギュッ」と握りしめてきたのだ。
「……かなた、さん?」
リオが驚いて顔を向けると、奏多は視線を合わせようとせず、今度はリオのシャツの袖を、反対の手で所在なさげに小さく掴んだ。
「……あの、……これ、お茶。……淹れた、から……」
全く脈絡のない言葉。しかも、お茶はまだキッチンにある。
不器用で、ひどく遠回しな誘い。けれど、その指先からは「どこにも行かないで」という、言葉にできない寂しさがひしひしと伝わってきた。
リオの脳内から、セナとのチャットも「奏多さん研究」も一瞬で吹き飛んだ。
「……奏多さん、もしかして。寂しかったですか?」
「……別に。……ただ、二人で話してた方が、……楽しいかなって、思っただけ」
奏多は唇を噛み、さらに袖を握る力を強めた。自分から「構って」と言えない彼なりの、精一杯のSOS。
サラサラの髪から覗く耳たぶが、真っ赤に染まっている。
「(……あああああ可愛い!! セナくんと話してる場合じゃなかった!!)」
リオは即座にスマホを放り出し、そのまま奏多を横から抱きしめるようにして、ソファに引き寄せた。
「ごめんなさい! 奏多さんのことを考えてたはずが、奏多さんを放っておくなんて、僕、一生の不覚です!」
「……っ、……リオくん、……苦しい……」
「離しません。今日はもう、セナくんも颯真さんもシャットアウトです。僕が奏多さんの『寂しい』を全部溶かしてあげますから」
奏多は「……大げさだよ」と呆れたように呟きながらも、リオの胸にすとんと頭を預けた。
不器用な甘えが通じた安心感からか、握っていた袖を離し、今度はリオの背中にそっと腕を回す。
翌日、セナから届いた『昨日の続きなんですけど……』というメッセージは、リオによって「今、奏多さんと至福の時間中なので無理です」という一言と共に、既読スルーされることになった。
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