元アイドルは現役アイドルに愛される

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奏多の「アイドルとしてのプライド」には、凄まじいものがあった。

​あの日、ちくわぶに「ぷよっ」とつつかれた衝撃は、奏多の中で完全に火をつけたらしい。

翌日から、奏多は徹底した食事制限とトレーニングを開始した。

​「リオくん、ごめん。今日のご飯は、ささみとブロッコリーだけでいい。あと、そのケーキは颯真に届けてあげて」
​「そんな……! 奏多さんのために、脂質を限界まで抑えた特製ヘルシーハンバーグを作ったのに……!」

​リオは泣きそうになりながら、キッチンでエプロン姿のまま立ち尽くした。大好きな人のために腕を振るうのが日課であり、最大の喜びだったリオにとって、自分が作った料理を「いらない」と拒絶されるのは、心臓を直接掴まれるよりも辛い仕打ちだった。

​ストイックに自分を追い込む奏多は、リビングの片隅で黙々とストレッチをこなし、以前のしなやかで鋭いボディラインを驚異的なスピードで取り戻していく。その姿は神々しく、プロの鑑ではあるのだが、リオの心は比例して寂しさに蝕まれていった。

​「……奏多さん。一口、一口だけでいいから……」
「ダメ。今食べたら、明日の撮影で顔が浮腫んじゃうから。我慢するね」

​奏多の強い眼差しに気圧され、リオはすごすごと引き下がる。
行き場を失った愛情と、たっぷり作ってしまった栄養満点のご飯。リオはキッチンカウンターの下で、自分を見上げている「もう一人の家族」に目を向けた。

​「……ちくわぶ。奏多さんは食べてくれないけど、君は僕の味方だよね?」
​「……にゃあ(当然だろ)」

​リオは悲しみのあまり、本来なら奏多の口に入るはずだった「特製ハンバーグ(猫用アレンジ)」や「高級かつお節のトッピング」を、ちくわぶの皿に山盛りに盛り付けた。

​「いいよ、ちくわぶ。君がいっぱい食べて、僕を癒して。奏多さんが細くなる分、君が僕の愛を全部引き受けて……!」

​「にゃ、にゃーん!(最高だぜ!)」

​ちくわぶは歓喜の声を上げ、猛烈な勢いで飯を食らった。



​数週間後。
奏多は見事に以前よりもさらに引き締まった究極のアイドルボディへと進化した。雑誌の撮影でもスタッフから絶賛され、SNSでは「奏多の美しさが神の領域に達した」と大騒ぎ。
​しかし、その一方で。

​「……ねえ、リオくん。ちくわぶ、なんだか……歩く時に、お腹が床に擦れてない?」

​奏多が不思議そうに、リビングを「ズリ……ズリ……」と這うように移動する、巨大な毛玉を指差した。
かつての愛らしかった「ちくわぶ」は、今や「特大の大根」どころか「巨大なクッション」のようなサイズに変貌を遂げていた。

​「えっ? あ、あはは……。幸せの重み、ですよ……きっと」

​リオは引きつった笑顔で目を逸らす。
奏多に食べてもらえない寂しさをすべて「餌」という形に変えてちくわぶに注ぎ込んだ結果、究極に太った猫を誕生させてしまった。


​そこへ、様子を見に来た颯真がドアを開けるなり絶叫した。

​「奏多!! 絞りすぎて消えそうで心配だ ……って、え!! そこのラグの下に隠れてる『動くクッション』は何!? ちくわぶ!? 業者呼んで膨らませたのか!?」

​「……にゃあ(うるせえな)」

​ちくわぶは、重たい腹を揺らしながら、満足げに欠伸をした。
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