43 / 71
43.
しおりを挟む
奏多の「アイドルとしてのプライド」には、凄まじいものがあった。
あの日、ちくわぶに「ぷよっ」とつつかれた衝撃は、奏多の中で完全に火をつけたらしい。
翌日から、奏多は徹底した食事制限とトレーニングを開始した。
「リオくん、ごめん。今日のご飯は、ささみとブロッコリーだけでいい。あと、そのケーキは颯真に届けてあげて」
「そんな……! 奏多さんのために、脂質を限界まで抑えた特製ヘルシーハンバーグを作ったのに……!」
リオは泣きそうになりながら、キッチンでエプロン姿のまま立ち尽くした。大好きな人のために腕を振るうのが日課であり、最大の喜びだったリオにとって、自分が作った料理を「いらない」と拒絶されるのは、心臓を直接掴まれるよりも辛い仕打ちだった。
ストイックに自分を追い込む奏多は、リビングの片隅で黙々とストレッチをこなし、以前のしなやかで鋭いボディラインを驚異的なスピードで取り戻していく。その姿は神々しく、プロの鑑ではあるのだが、リオの心は比例して寂しさに蝕まれていった。
「……奏多さん。一口、一口だけでいいから……」
「ダメ。今食べたら、明日の撮影で顔が浮腫んじゃうから。我慢するね」
奏多の強い眼差しに気圧され、リオはすごすごと引き下がる。
行き場を失った愛情と、たっぷり作ってしまった栄養満点のご飯。リオはキッチンカウンターの下で、自分を見上げている「もう一人の家族」に目を向けた。
「……ちくわぶ。奏多さんは食べてくれないけど、君は僕の味方だよね?」
「……にゃあ(当然だろ)」
リオは悲しみのあまり、本来なら奏多の口に入るはずだった「特製ハンバーグ(猫用アレンジ)」や「高級かつお節のトッピング」を、ちくわぶの皿に山盛りに盛り付けた。
「いいよ、ちくわぶ。君がいっぱい食べて、僕を癒して。奏多さんが細くなる分、君が僕の愛を全部引き受けて……!」
「にゃ、にゃーん!(最高だぜ!)」
ちくわぶは歓喜の声を上げ、猛烈な勢いで飯を食らった。
数週間後。
奏多は見事に以前よりもさらに引き締まった究極のアイドルボディへと進化した。雑誌の撮影でもスタッフから絶賛され、SNSでは「奏多の美しさが神の領域に達した」と大騒ぎ。
しかし、その一方で。
「……ねえ、リオくん。ちくわぶ、なんだか……歩く時に、お腹が床に擦れてない?」
奏多が不思議そうに、リビングを「ズリ……ズリ……」と這うように移動する、巨大な毛玉を指差した。
かつての愛らしかった「ちくわぶ」は、今や「特大の大根」どころか「巨大なクッション」のようなサイズに変貌を遂げていた。
「えっ? あ、あはは……。幸せの重み、ですよ……きっと」
リオは引きつった笑顔で目を逸らす。
奏多に食べてもらえない寂しさをすべて「餌」という形に変えてちくわぶに注ぎ込んだ結果、究極に太った猫を誕生させてしまった。
そこへ、様子を見に来た颯真がドアを開けるなり絶叫した。
「奏多!! 絞りすぎて消えそうで心配だ ……って、え!! そこのラグの下に隠れてる『動くクッション』は何!? ちくわぶ!? 業者呼んで膨らませたのか!?」
「……にゃあ(うるせえな)」
ちくわぶは、重たい腹を揺らしながら、満足げに欠伸をした。
あの日、ちくわぶに「ぷよっ」とつつかれた衝撃は、奏多の中で完全に火をつけたらしい。
翌日から、奏多は徹底した食事制限とトレーニングを開始した。
「リオくん、ごめん。今日のご飯は、ささみとブロッコリーだけでいい。あと、そのケーキは颯真に届けてあげて」
「そんな……! 奏多さんのために、脂質を限界まで抑えた特製ヘルシーハンバーグを作ったのに……!」
リオは泣きそうになりながら、キッチンでエプロン姿のまま立ち尽くした。大好きな人のために腕を振るうのが日課であり、最大の喜びだったリオにとって、自分が作った料理を「いらない」と拒絶されるのは、心臓を直接掴まれるよりも辛い仕打ちだった。
ストイックに自分を追い込む奏多は、リビングの片隅で黙々とストレッチをこなし、以前のしなやかで鋭いボディラインを驚異的なスピードで取り戻していく。その姿は神々しく、プロの鑑ではあるのだが、リオの心は比例して寂しさに蝕まれていった。
「……奏多さん。一口、一口だけでいいから……」
「ダメ。今食べたら、明日の撮影で顔が浮腫んじゃうから。我慢するね」
奏多の強い眼差しに気圧され、リオはすごすごと引き下がる。
行き場を失った愛情と、たっぷり作ってしまった栄養満点のご飯。リオはキッチンカウンターの下で、自分を見上げている「もう一人の家族」に目を向けた。
「……ちくわぶ。奏多さんは食べてくれないけど、君は僕の味方だよね?」
「……にゃあ(当然だろ)」
リオは悲しみのあまり、本来なら奏多の口に入るはずだった「特製ハンバーグ(猫用アレンジ)」や「高級かつお節のトッピング」を、ちくわぶの皿に山盛りに盛り付けた。
「いいよ、ちくわぶ。君がいっぱい食べて、僕を癒して。奏多さんが細くなる分、君が僕の愛を全部引き受けて……!」
「にゃ、にゃーん!(最高だぜ!)」
ちくわぶは歓喜の声を上げ、猛烈な勢いで飯を食らった。
数週間後。
奏多は見事に以前よりもさらに引き締まった究極のアイドルボディへと進化した。雑誌の撮影でもスタッフから絶賛され、SNSでは「奏多の美しさが神の領域に達した」と大騒ぎ。
しかし、その一方で。
「……ねえ、リオくん。ちくわぶ、なんだか……歩く時に、お腹が床に擦れてない?」
奏多が不思議そうに、リビングを「ズリ……ズリ……」と這うように移動する、巨大な毛玉を指差した。
かつての愛らしかった「ちくわぶ」は、今や「特大の大根」どころか「巨大なクッション」のようなサイズに変貌を遂げていた。
「えっ? あ、あはは……。幸せの重み、ですよ……きっと」
リオは引きつった笑顔で目を逸らす。
奏多に食べてもらえない寂しさをすべて「餌」という形に変えてちくわぶに注ぎ込んだ結果、究極に太った猫を誕生させてしまった。
そこへ、様子を見に来た颯真がドアを開けるなり絶叫した。
「奏多!! 絞りすぎて消えそうで心配だ ……って、え!! そこのラグの下に隠れてる『動くクッション』は何!? ちくわぶ!? 業者呼んで膨らませたのか!?」
「……にゃあ(うるせえな)」
ちくわぶは、重たい腹を揺らしながら、満足げに欠伸をした。
14
あなたにおすすめの小説
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです
一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお)
同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。
時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。
僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。
本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。
だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。
なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。
「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」
ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。
僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。
その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。
悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。
え?葛城くんが目の前に!?
どうしよう、人生最大のピンチだ!!
✤✤
「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。
全年齢向けの作品となっています。
一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。
✤✤
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
俺の親友がモテ過ぎて困る
くるむ
BL
☆完結済みです☆
番外編として短い話を追加しました。
男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ)
中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。
一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ)
……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。
て、お前何考えてんの?
何しようとしてんの?
……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。
美形策士×純情平凡♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる