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45. 多忙なリオに
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リオの所属グループ「ルミナス」の全国ツアーが発表され、彼はかつてないほど多忙な日々を送っていた。
朝は奏多が起きる前に家を出て、夜は日付が変わる頃にフラフラで帰宅する。それでもリオは、奏多の前では「あぁ、奏多さんに会えたからHP全回復です!」と無理に笑顔を作っていた。
けれど、奏多はその笑顔の裏にある濃い隈と、少し痩せた肩を見逃さない。
(……リオくん、いつも僕のことばかり優先して。僕だって、何かしてあげたいのに)
自分の「袖掴み」をいつも優しく受け入れてくれるリオ。今度は自分が彼を支える番だと、奏多は静かに、けれど熱く決意した。
※※※※※※※※
その日の夜、リオが重い足取りで玄関のドアを開けると、家中がふんわりと出汁の優しい香りに包まれていた。
「……ただいま、戻りました……」
リビングへ向かうと、そこには部屋の明かりを少し落とし、ソファの横に「ちくわぶ」を抱えて座って待っている奏多の姿があった。
「おかえり、リオくん。お疲れ様」
「奏多さん!? 起きてたんですか? 明日も早いのに……」
「いいの。……これ、リオくんのために作ったんだ。食べてくれる?」
テーブルの上には、胃に優しいお粥と、奏多が一生懸命に皮を剥いたことがわかる不揃いなリンゴ、そして温かいハーブティーが並んでいた。
以前のような「ささみとブロッコリー」のストイックなメニューではなく、今のリオに一番必要な、温かくて消化の良い「愛情」の形。
「……奏多さんが、僕のために……」
「あと、これ」
奏多は、リオが椅子に座るのを待たずに立ち上がると、そっと彼の背後に回った。そして、少し緊張した様子で、リオの広い背中に向かって自分の腕を回す。
後ろからの、不器用な抱擁。
「……充電、して。……リオくんが毎日やってくれるみたいに、上手くできないけど……」
奏多の顔が背中に密着し、少し震える声が伝わる。リオの疲れ切った心に、奏多の体温がじわじわと染み込んでいった。
「かなた、さん……。それ、反則です……」
「反則じゃないよ。……リオくんが頑張ってるの、僕が一番知ってるから。……」
奏多は、以前の自分なら恥ずかしくて口にできなかった言葉を、耳元でぽつりと呟いた。
その瞬間、リオの目から一粒の涙が零れ、お粥の湯気の中に消えた。
「……ふふ、ちくわぶも応援してるよ」
奏多が腕を解くと、足元で少しダイエットに成功したちくわぶが、リオの足首に「すりっ」と体を寄せていた。
「ありがとうございます。……僕、明日の宮城公演、世界一かっこいいパフォーマンスしてきます。……でも、帰ってきたらまた、これ……やってくれますか?」
「うん。……毎日でもいいよ」
奏多の穏やかな微笑み。それは、どんな高価な栄養ドリンクやマッサージよりも、リオにとっての「最強の特効薬」だった。
翌朝、颯真の元にリオから『奏多さんが天使すぎます。ツアーを完走したら結婚します(決定事項)』という怪文書のようなメッセージが届いたが、颯真は「はいはい、お疲れさん」と優しくスルーしたのだった。
リオの所属グループ「ルミナス」のツアー最終日。
会場は、割れんばかりの歓声に包まれていた。
客席の隅、関係者席のさらに奥で、奏多は深く帽子を被り、静かにステージを見つめていた。そこには、家で「奏多さーん!」と甘えてくる年下男子の姿はない。スポットライトを浴び、何万人の視線を一身に集めて踊る、一人の「プロの表現者」としてのリオがいた。
(……かっこいいな、リオくん)
胸の奥が熱くなるのを感じながら、奏多はライブの終了を待たず、一足先にスタッフに案内されて楽屋へと向かった。
「ありがとうございました! お疲れ様でした!!」
ツアーを完走し、全力を出し切ったリオが、肩で息をしながら楽屋のドアを開けた。汗だくで、髪もボサボサ。心地よい疲労感の中で、彼は真っ先にスマホを手に取ろうとした。奏多に「終わりました」と報告するために。
だが、部屋の明かりがついた瞬間、リオの動きが止まった。
ソファの横に、見慣れたシルエットが立っていたからだ。
「……奏多……さん?」
幻覚を見ているのかと思った。忙しいはずの、そして人混みが苦手なはずの奏多が、どうしてここにいるのか。
「お疲れ様、リオくん。……最高のステージだったよ」
奏多の声を聞いた瞬間、リオの思考は真っ白になった。
奏多は迷うことなく歩み寄ると、汗で濡れたリオの体に、自分から腕を回してぎゅっと抱きしめた。
「……驚かせちゃって、ごめん。どうしても、一番に『お疲れ様』って言いたくて」
「…………っ」
奏多の細い腕が、自分の背中に回る。
その体温を感じた瞬間、リオの張り詰めていた糸が、ぷつりと切れた。
「……かなた、さん……っ、ほんとに、……ほんとに来てくれたんですか……」
リオは大きな体を丸めるようにして、奏多の肩に顔を埋めた。
震える呼吸が、次第に抑えきれない涙に変わっていく。
「……うわぁぁぁん……奏多さぁん……!!」
子供のように声を上げて泣き始めたリオを、奏多は少し困ったように、けれど愛おしくてたまらないという顔で、優しくトントンと背中を叩いた。
「よしよし。頑張ったね、リオくん。……さあ、一緒に帰ろう? ちくわぶも、お家で待ってるよ」
「……はい、……はいっ……。一生、離しません……っ」
数分後。
様子を見に来た颯真が、楽屋のドアを少しだけ開けて中を覗いた。
そこには、奏多の胸で「ひっ、ひっ」としゃくり上げているリオと、それを微笑ましく見守る奏多の姿があった。
颯真はそっとドアを閉め、隣にいたセナに告げた。
「……おい、セナ。今は入るな。あいつら、今『二人だけの世界』に再起動中だからな」
「……いいなぁ。僕も奏多さんに泣きつきたい……」
セナの羨ましそうな呟きを無視して、颯真は満足げに鼻を鳴らした。
こうして、リオの長いツアーは、世界で一番甘くて温かい幕引きを迎えたのだった。
朝は奏多が起きる前に家を出て、夜は日付が変わる頃にフラフラで帰宅する。それでもリオは、奏多の前では「あぁ、奏多さんに会えたからHP全回復です!」と無理に笑顔を作っていた。
けれど、奏多はその笑顔の裏にある濃い隈と、少し痩せた肩を見逃さない。
(……リオくん、いつも僕のことばかり優先して。僕だって、何かしてあげたいのに)
自分の「袖掴み」をいつも優しく受け入れてくれるリオ。今度は自分が彼を支える番だと、奏多は静かに、けれど熱く決意した。
※※※※※※※※
その日の夜、リオが重い足取りで玄関のドアを開けると、家中がふんわりと出汁の優しい香りに包まれていた。
「……ただいま、戻りました……」
リビングへ向かうと、そこには部屋の明かりを少し落とし、ソファの横に「ちくわぶ」を抱えて座って待っている奏多の姿があった。
「おかえり、リオくん。お疲れ様」
「奏多さん!? 起きてたんですか? 明日も早いのに……」
「いいの。……これ、リオくんのために作ったんだ。食べてくれる?」
テーブルの上には、胃に優しいお粥と、奏多が一生懸命に皮を剥いたことがわかる不揃いなリンゴ、そして温かいハーブティーが並んでいた。
以前のような「ささみとブロッコリー」のストイックなメニューではなく、今のリオに一番必要な、温かくて消化の良い「愛情」の形。
「……奏多さんが、僕のために……」
「あと、これ」
奏多は、リオが椅子に座るのを待たずに立ち上がると、そっと彼の背後に回った。そして、少し緊張した様子で、リオの広い背中に向かって自分の腕を回す。
後ろからの、不器用な抱擁。
「……充電、して。……リオくんが毎日やってくれるみたいに、上手くできないけど……」
奏多の顔が背中に密着し、少し震える声が伝わる。リオの疲れ切った心に、奏多の体温がじわじわと染み込んでいった。
「かなた、さん……。それ、反則です……」
「反則じゃないよ。……リオくんが頑張ってるの、僕が一番知ってるから。……」
奏多は、以前の自分なら恥ずかしくて口にできなかった言葉を、耳元でぽつりと呟いた。
その瞬間、リオの目から一粒の涙が零れ、お粥の湯気の中に消えた。
「……ふふ、ちくわぶも応援してるよ」
奏多が腕を解くと、足元で少しダイエットに成功したちくわぶが、リオの足首に「すりっ」と体を寄せていた。
「ありがとうございます。……僕、明日の宮城公演、世界一かっこいいパフォーマンスしてきます。……でも、帰ってきたらまた、これ……やってくれますか?」
「うん。……毎日でもいいよ」
奏多の穏やかな微笑み。それは、どんな高価な栄養ドリンクやマッサージよりも、リオにとっての「最強の特効薬」だった。
翌朝、颯真の元にリオから『奏多さんが天使すぎます。ツアーを完走したら結婚します(決定事項)』という怪文書のようなメッセージが届いたが、颯真は「はいはい、お疲れさん」と優しくスルーしたのだった。
リオの所属グループ「ルミナス」のツアー最終日。
会場は、割れんばかりの歓声に包まれていた。
客席の隅、関係者席のさらに奥で、奏多は深く帽子を被り、静かにステージを見つめていた。そこには、家で「奏多さーん!」と甘えてくる年下男子の姿はない。スポットライトを浴び、何万人の視線を一身に集めて踊る、一人の「プロの表現者」としてのリオがいた。
(……かっこいいな、リオくん)
胸の奥が熱くなるのを感じながら、奏多はライブの終了を待たず、一足先にスタッフに案内されて楽屋へと向かった。
「ありがとうございました! お疲れ様でした!!」
ツアーを完走し、全力を出し切ったリオが、肩で息をしながら楽屋のドアを開けた。汗だくで、髪もボサボサ。心地よい疲労感の中で、彼は真っ先にスマホを手に取ろうとした。奏多に「終わりました」と報告するために。
だが、部屋の明かりがついた瞬間、リオの動きが止まった。
ソファの横に、見慣れたシルエットが立っていたからだ。
「……奏多……さん?」
幻覚を見ているのかと思った。忙しいはずの、そして人混みが苦手なはずの奏多が、どうしてここにいるのか。
「お疲れ様、リオくん。……最高のステージだったよ」
奏多の声を聞いた瞬間、リオの思考は真っ白になった。
奏多は迷うことなく歩み寄ると、汗で濡れたリオの体に、自分から腕を回してぎゅっと抱きしめた。
「……驚かせちゃって、ごめん。どうしても、一番に『お疲れ様』って言いたくて」
「…………っ」
奏多の細い腕が、自分の背中に回る。
その体温を感じた瞬間、リオの張り詰めていた糸が、ぷつりと切れた。
「……かなた、さん……っ、ほんとに、……ほんとに来てくれたんですか……」
リオは大きな体を丸めるようにして、奏多の肩に顔を埋めた。
震える呼吸が、次第に抑えきれない涙に変わっていく。
「……うわぁぁぁん……奏多さぁん……!!」
子供のように声を上げて泣き始めたリオを、奏多は少し困ったように、けれど愛おしくてたまらないという顔で、優しくトントンと背中を叩いた。
「よしよし。頑張ったね、リオくん。……さあ、一緒に帰ろう? ちくわぶも、お家で待ってるよ」
「……はい、……はいっ……。一生、離しません……っ」
数分後。
様子を見に来た颯真が、楽屋のドアを少しだけ開けて中を覗いた。
そこには、奏多の胸で「ひっ、ひっ」としゃくり上げているリオと、それを微笑ましく見守る奏多の姿があった。
颯真はそっとドアを閉め、隣にいたセナに告げた。
「……おい、セナ。今は入るな。あいつら、今『二人だけの世界』に再起動中だからな」
「……いいなぁ。僕も奏多さんに泣きつきたい……」
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