元アイドルは現役アイドルに愛される

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46. 嫉妬

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ツアーが終わり、少しずつ日常が戻ってきた頃。リオに、ドラマで共演したキャストたちとの打ち上げの誘いが入った。

​「奏多さん、どうしましょう。皆さんに誘われたんですけど……やっぱり僕は、家で奏多さんとちくわぶと過ごす方が……」

​渋るリオに、奏多は穏やかな笑みを浮かべて首を振った。

​「いいんだよ、リオくん。ツアーも頑張ったんだし、たまには息抜きしてきなよ。共演者の皆さんと仲を深めるのも、仕事のうちでしょ?」
​「……奏多さんがそう言うなら。でも、日付が変わる前には必ず帰りますから!」

​そう言って、何度も後ろ髪を引かれるように振り返りながら出かけていくリオを、奏多は玄関で見送った。

(……僕も、少しは大人にならないとね)

少し前までの自分なら、リオがいない夜に寂しさを募らせていたかもしれない。けれど、今の自分には帰ってくる場所としての自信が少しだけあった。
​翌日。KSRとしての新曲の打ち合わせのため、奏多は少し早めにテレビ局のスタジオに入っていた。
​廊下を歩いていると、前方から賑やかな声が聞こえてくる。そこには、昨夜の飲み会に参加していたであろうリオと、数人のスタッフ、そして今回のドラマでヒロインを務めた人気若手女優の姿があった。

​「昨日は本当にお疲れ様でした! リオくん、あんなに面白い人だと思わなかった。二次会のカラオケも最高だったよ!」

​女優が弾んだ声でリオの肩を軽く叩く。リオはいつもの「営業用」の爽やかな笑顔で応えていた。

​「いや、僕の方こそ楽しかったです。皆さんの意外な一面が見られて、本当に有意義な夜でした。またぜひ集まりましょう」
​「本当? 約諾だよ! 次はもっとゆっくり話そうね」

​二人の間に流れる、部外者が入り込めないような、昨夜を共有した者同士の親密な空気。
それは、奏多が知らない「リオの夜」だった。

​(……あ、……)

​奏多は咄嗟に角に隠れた。
胸の奥を、冷たいナイフで薄く撫でられたような、形容しがたい感情が通り過ぎる。
​こころよく送り出したのは自分だ。仕事の付き合いだと理解しているのも自分だ。
けれど、自分の前で見せる「子犬のようなリオ」でもなく、「ステージ上のカリスマなリオ」でもない。同年代の女性と対等に笑い合い、社交をこなす「一人の魅力的な男性」としてのリオを突きつけられた瞬間、奏多の中にあった自信が、音を立てて脆く崩れ始めた。

​「……おはよう、リオくん」

​数分後、何事もなかったかのようにスタジオに入った奏多の声は、自分でも驚くほど低く、硬かった。

​「奏多さん! おはようございます!」

​いつものように駆け寄ってくるリオ。けれど、その体から微かに漂う、自分のものではない華やかな香水の残り香と、楽しげな昨夜の記憶の残滓が、今の奏多には耐え難かった。

​「……。打ち合わせ、始めようか。颯真も待ってるし」
​「え……? 奏多さん?」

​リオの伸ばしかけた手が、宙で止まる。
奏多は一度もリオと目を合わせないまま、資料に視線を落とした。不器用な甘え方しか知らない奏多にとって、「嫉妬」という感情の処理の仕方は、まだ教わっていない難解な譜面のようだった。
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