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「奏多さん、それじゃあ僕は……ルミナスのレッスンに行ってきます。夜、必ず早く帰りますから」
スタジオの入り口で、リオが何度もこちらを振り返りながら去っていく。いつもなら「いってらっしゃい」と笑顔で手を振れるはずなのに、今の奏多にできたのは、短く「うん」と頷くことだけだった。
リオの姿が見えなくなった瞬間、奏多はスタジオの壁に背中を預け、ずるずるとその場に座り込んだ。
(……最低だ。僕が送り出したのに。仕事だってわかってるのに)
自分の心の狭さが、ひどく惨めで、恥ずかしかった。リオが女優さんと楽しそうにしていたのは、彼がプロとして、そして一人の人間として立派に立ち回っている証拠だ。それを喜んであげるべきなのに、胸の奥には黒い澱のような感情がべったりと張り付いて離れない。
「……飲みたい…」
不意にそんな言葉が口を突いて出た。普段、体調管理に厳しい奏多には珍しい衝動だった。けれど、今のこのドロドロした気持ちを、アルコールで無理やりにでも押し流してしまいたかった。
一人で飲むのは寂しすぎる。かといって、今の状態でリオを呼べるはずもない。奏多はおぼつかない足取りでスマホを取り出すと、まずは颯真に電話をかけた。
「……あ、颯真? 今夜、もし空いてたら飲みに……」
『悪い奏多! 今、新曲のプロモーションで地方に向かってるところで。明日の朝まで戻れそうにない。……何かあった?奏多のほうから誘うなんて珍しい』
「……ううん、なんでもない。仕事、頑張って」
期待が外れ、奏多はさらに落ち込んだ。
次に連絡したのは、あの日意気投合していた後輩、セナだった。
「……セナくん? 今夜、空いてるかな。……うん、一緒に飲みたいなって」
『えっ!! 奏多さん!? 行きます、今すぐ行きます! どこへでも馳せ参じます!!』
セナの爆速の快諾に少しだけ救われた気がして、奏多は都内の隠れ家風のバーの住所を送り、一足先に向かった。
店に入ると、まだ時間は早いせいか客はまばらだった。
カウンターの隅に座った奏多は、セナが来るのを待たず、メニューの一番上にあった強めのカクテルを注文した。
「……冷たい」
グラスを煽る。喉を焼く熱い感覚が、今の自分には心地よかった。
空腹に近い体にアルコールが回り、視界がわずかに熱を帯びる。
(リオくんは、今頃踊ってるのかな。……それとも、また誰かと楽しく笑ってるのかな……)
考えたくないことばかりが頭をよぎる。
「ちくわぶ、ごめん。今日はダメな人間だ」
誰もいない隣の席に向かって力なく呟きながら、奏多は二杯目のグラスに手を伸ばした。
セナが店に駆け込んできたとき、そこには既に、少し頬を赤く染め、虚空を見つめながらゆらゆらとグラスを揺らす、奏多の姿があった。
スタジオの入り口で、リオが何度もこちらを振り返りながら去っていく。いつもなら「いってらっしゃい」と笑顔で手を振れるはずなのに、今の奏多にできたのは、短く「うん」と頷くことだけだった。
リオの姿が見えなくなった瞬間、奏多はスタジオの壁に背中を預け、ずるずるとその場に座り込んだ。
(……最低だ。僕が送り出したのに。仕事だってわかってるのに)
自分の心の狭さが、ひどく惨めで、恥ずかしかった。リオが女優さんと楽しそうにしていたのは、彼がプロとして、そして一人の人間として立派に立ち回っている証拠だ。それを喜んであげるべきなのに、胸の奥には黒い澱のような感情がべったりと張り付いて離れない。
「……飲みたい…」
不意にそんな言葉が口を突いて出た。普段、体調管理に厳しい奏多には珍しい衝動だった。けれど、今のこのドロドロした気持ちを、アルコールで無理やりにでも押し流してしまいたかった。
一人で飲むのは寂しすぎる。かといって、今の状態でリオを呼べるはずもない。奏多はおぼつかない足取りでスマホを取り出すと、まずは颯真に電話をかけた。
「……あ、颯真? 今夜、もし空いてたら飲みに……」
『悪い奏多! 今、新曲のプロモーションで地方に向かってるところで。明日の朝まで戻れそうにない。……何かあった?奏多のほうから誘うなんて珍しい』
「……ううん、なんでもない。仕事、頑張って」
期待が外れ、奏多はさらに落ち込んだ。
次に連絡したのは、あの日意気投合していた後輩、セナだった。
「……セナくん? 今夜、空いてるかな。……うん、一緒に飲みたいなって」
『えっ!! 奏多さん!? 行きます、今すぐ行きます! どこへでも馳せ参じます!!』
セナの爆速の快諾に少しだけ救われた気がして、奏多は都内の隠れ家風のバーの住所を送り、一足先に向かった。
店に入ると、まだ時間は早いせいか客はまばらだった。
カウンターの隅に座った奏多は、セナが来るのを待たず、メニューの一番上にあった強めのカクテルを注文した。
「……冷たい」
グラスを煽る。喉を焼く熱い感覚が、今の自分には心地よかった。
空腹に近い体にアルコールが回り、視界がわずかに熱を帯びる。
(リオくんは、今頃踊ってるのかな。……それとも、また誰かと楽しく笑ってるのかな……)
考えたくないことばかりが頭をよぎる。
「ちくわぶ、ごめん。今日はダメな人間だ」
誰もいない隣の席に向かって力なく呟きながら、奏多は二杯目のグラスに手を伸ばした。
セナが店に駆け込んできたとき、そこには既に、少し頬を赤く染め、虚空を見つめながらゆらゆらとグラスを揺らす、奏多の姿があった。
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