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しおりを挟む「奏多さん、もうそのペースは危険ですって!」
店に駆けつけるなり、セナは度肝を抜かれた。カウンターには既に空のグラスが三つ並び、奏多は四杯目の琥珀色の液体を煽っていた。普段のストイックな彼からは想像もできない光景に、セナの背中に冷や汗が流れる。
「……セナくん、遅いよぉ。はい、飲んで」
「いや、飲みますけど! ……というか、リオさんに連絡しました? さっきからスマホがずっと震えてますけど」
セナが奏多の傍らに置かれたスマホを指差すと、画面には『リオ』の名前と着信の山。
セナが気を利かせて自分のスマホを取り出し、「一応、僕と一緒だって伝えておきますね」と操作しようとした、その時だった。
「……だーめ。やだ」
奏多が、セナの腕をふにゃふにゃとした動きで掴んだ。指先に力は入っていないのに、その瞳に宿った強い拒絶にセナの手が止まる。
「でも、リオさん心配して……」
「連絡、しちゃダメ……。今日は、リオくんのこと忘れるの……っ」
奏多の声が微かに震えたかと思うと、大きな瞳からポロポロと涙が溢れ出した。頬を伝う雫がカウンターに落ちる。嫉妬と自己嫌悪でぐちゃぐちゃになった心が、アルコールの勢いで完全に決壊してしまったのだ。
「えっ、ええっ!? 奏多さん、泣かないでください! 僕が悪かったです、連絡しませんから!」
慌てふためくセナ。憧れの先輩の涙という国宝級の緊急事態を前に、もはやリオへの義理立てなど吹き飛んだ。
セナがスマホをポケットに深くしまい込み、「もう出しません!」と宣言した途端。
「……ほんと? やくそく?」
奏多は涙を溜めたまま、パッと顔を輝かせた。泣き顔から一転、いたずらが成功した子供のような、無垢で破壊的な笑顔。
「……約束です。絶対しません」
「えへへ、よかったぁ。……ねえセナくん、明日、お仕事は?」
「え、あ、明日はたまたまオフですけど……」
「じゃあ……たくさん飲めるね~! 嬉しいなぁ、セナくんと宴会だぁ!」
奏多は子どものようにニコニコと笑いながら、セナのグラスに勝手にお酒を注ぎ始めた。酔った勢いで距離感がバグっているのか、肩を寄せて「ね? ね?」と顔を覗き込んでくる。
(……っ、うわ……っっっ!!)
至近距離で浴びせられる全開の無自覚スマイル。
セナの心臓は、ライブの激しいダンスでも経験したことがないほどの爆速で鼓動を打ち鳴らした。あまりの「尊さ」と「可愛さ」の暴力に、セナの脳内ではリオへの申し訳なさが一瞬で霧散し、『この人を今すぐ守らなければならない』という使命感と煩悩に塗り替えられていく。
「……そうですね。飲みましょう。僕、奏多さんのためなら底なしで付き合いますよ」
もはや、自分の心臓を撃ち抜いた犯人が隣で「わーい!」と拳を上げている現実を、セナは受け入れるしかなかった。
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