元アイドルは現役アイドルに愛される

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「颯真さん、聞いてくださいよ……!! もう、僕の知ってる温かい家庭は崩壊しました……!!」


​翌日の現場。リオは楽屋に入るなり、コーヒーを飲んでいた颯真の膝に縋り付くような勢いで泣きついた。

​「ちょ、落ち着けリオ! 膝に鼻水つけない! ……で、何があった」
​「ちくわぶまで……ちくわぶまで、奏多さんと一緒に『シャクッ』って……朝から仲良く皿を並べてコオロギをシェアしてたんです!! 僕はもう、この家で何を信じて生きていけばいいのか……っ!!」

​リオが必死に、昨夜の悪夢と深夜の衝撃、そして地獄の朝食風景を身振り手振りで説明すると、颯真は「うわぁ……」と顔を顰めながらも、同情深くその肩を叩いた。

​「……災難だったな、リオ。あんなに繊細だった奏多が、まさか『捕食者』として覚醒するとは俺も思わなかったよ。ちくわぶも……まあ、野生に戻ったんと思えば。強く生きろよ」

​「颯真さん……! ありがとうございます。分かってくれるのは、もう颯真さんだけです……」


​リオは颯真の見かけ倒しの優しさに救われた気持ちになり、少しだけ元気を取り戻して仕事へと向かった。




※※※※※※※※

​数日後
​その日はKSRの活動が休みで、リオはリビングで一人、颯真がゲスト出演しているバラエティ番組をチェックしていた。

​「あ、颯真さん出てる。……昨日はあんなに優しくしてくれたし、録画もしなきゃな」

​番組はトークテーマ『最近あった衝撃の事件』で盛り上がっていた。

MCが「颯真さんは何かありました?」と振った瞬間、颯真は待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑った。

​『いやー、聞いてくださいよ! うちのグループ、見た目はキラキラしてるんですけど、中身はもうカオスで。特に、センターのリオ!』
​「……え、僕?」

​テレビの前でリオが固まる。

​『最近家でノイローゼ気味らしくて。夜中に泣きながら電話してくるんですよ。「相方が虫を食べてる!」「猫まで虫をシェアしてる!」って大騒ぎして(笑)。挙句の果てには「僕の家庭は崩壊した」とか言って、楽屋で俺の膝に顔を埋めて号泣ですよ? どんだけメンタル弱いんだって話でしょ!』


​スタジオ内は大爆笑。「リオくん意外とヘタレ!」「猫と虫のシェアはパワーワードすぎる」とテロップが躍る。


​『しかもね、奏多の方は涼しい顔して「海老みたいでおいしいよ?」って。あの温度差、もはやホラーですよ!』

​「…………っ!!」

​リオは顔面を真っ赤に染め、リモコンを握りしめた。

あの時、あんなに親身になって話を聞いてくれた颯真が、全国放送で自分の醜態を、しかも面白おかしくネタにしている。

​「颯真さん……!! 同情するフリして、トークのネタを仕入れてただけじゃないですかあああ!!!」

​その時、背後から「ボリッ、ボリッ」と聞き慣れた快音とともに、奏多がひょっこり顔を出した。

​「あ、颯真くん、僕のこと話してる。……リオくん、そんなに赤くなってどうしたの? またコオロギ、一匹食べる?」

​「……食べないですよっ!!!」

​リオの絶叫が空虚に響き、ちくわぶが「うるさいな」と言いたげに、テレビの中の颯真に向かって欠伸をしてみせた。
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