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61. 緊迫の
しおりを挟む病院の長い廊下には、不自然なほど白い無機質な光が満ちていた。
その突き当たり、「手術中」の赤いサインだけが、残酷に奏多の命の灯火を告げている。
リオは廊下の椅子に座ることすらできず、床に崩れ落ちたまま、自分の両手を見つめていた。
乾き始めた奏多の血が、指の隙間に赤黒くこびりついている。
「……僕が、もっと近くにいれば……」
リオの声は、喉の奥でひび割れていた。
涙が後から後から溢れ出し、血のついた掌を伝って床に落ちる。
「……あんなに笑って、終わったのに……。打ち上げ、行くはずだったのに。……奏多さん、あんなに冷たくなって……。僕、何もできなかった……。助けてって言われたのに、名前を呼ぶことしか……っ!」
パニックの余韻で震えが止まらないリオは、自分の髪を掻きむしりながら、子供のように声を上げて泣きじゃくった。
彼にとって、奏多はただのメンバーではなく、唯一無二のパートナーであり、光そのものだった。その光が、自分の目の前で他人の悪意によって塗りつぶされたことが、どうしても受け入れられなかった。
一方、颯真は手術室の扉から少し離れた壁に背を預け、石像のように立ち尽くしていた。
拳を固く握りしめ、爪が手のひらに食い込んで血が滲んでいるが、その痛みすら感じない。
「…………俺だ」
地を這うような、低い声だった。
「俺のせいだ。……あの時、あいつが辞めた時に、もっと徹底的に……。いや、そもそも、俺が……」
まとまらない言葉。
颯真の脳裏には、先ほどの女の狂った笑顔が焼き付いて離れない。彼女が奏多を刺したのは、奏多が憎かったからではない。奏多を排除することで、颯真を自分のものにできると信じ込んでいたからだ。
奏多が流したあの大量の血は、本来、自分が受けるべき憎悪の身代わりだったのではないか。
リーダーとして、年上として、誰よりも奏多を守らなければならなかった自分が、結果として一番の「凶器」を奏多の元へ引き寄せてしまった。
「……奏多……。頼む、……死ぬな。戻ってきてくれ」
颯真の目から、一筋の涙が頬を伝い、床に落ちた。
いつもならリオを励まし、リーダーとして前を向くはずの彼が、今はこの世の終わりを見たような顔で、ただ祈ることしかできなかった。
「俺に、謝らせて……。生きて、……奏多……っ」
二人の慟哭が響く深夜の廊下。
重い扉の向こう側では、奏多の命を繋ぎ止めるための、孤独な戦いが続いていた。
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