元アイドルは現役アイドルに愛される

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62. 安堵

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手術室の扉が静かに開き、マスクを外した医師が姿を現した。

​「……先生!」

​床に崩れていたリオが、弾かれたように立ち上がる。膝が笑ってうまく力が入らず、壁を掴んでようやく体を支えた。
颯真もまた、肺に溜まっていた空気をすべて吐き出すようにして医師の元へ歩み寄った。

​「――命に別条はありません。傷は幸いにもそこまで深くなく、内臓への致命的な損傷も免れました。今は麻酔で眠っていますが、出血量もコントロールの範囲内です。数日安静にしていれば、意識もはっきりするでしょう」

​医師の言葉が、張り詰めていた廊下の空気を一瞬で溶かした。

​「……よかった……。あぁ、よかった……っ!!」

​リオはその場に再び泣き崩れた。
今度は絶望の涙ではなく、安堵の涙だった。自分の両手にこびりついた赤黒い血が、もう「取り返しのつかないもの」ではないのだと分かり、喉の奥から嗚咽が漏れる。奏多が生きていてくれる。その事実だけで、リオの世界には再び色が戻り始めていた。
​一方で、颯真は力なく壁に後頭部を打ちつけた。

​「……そっか。……よかった」

​絞り出した声は、ひどく掠れていた。
奏多が助かった。
その報告を聞いて、心から安堵している自分もいる。けれど、胸の奥にある重苦しい「複雑な塊」は消えてくれなかった。

​内臓に達していなかったのは、ただの幸運に過ぎない。
もし、刃先が数ミリずれていたら。もし、救急車の到着が数分遅れていたら。

​(俺のファンが、奏多を……。俺を好きだと言っていた人間が、あいつを殺そうとした)

​奏多が無事だったからといって、自分の過去が引き起こした「悪意」が消えるわけではない。奏多が目覚めたとき、自分はどんな顔で彼に会えばいいのか。自分を刺した女が「颯真のためにやった」と言っていたことを、奏多が知ったら。

​「……颯真さん」

​泣き止んだリオが、真っ赤な目で颯真を見上げた。
リオには、颯真が感じている地獄のような自責の念が痛いほど伝わっていた。

​「……奏多さんが起きたら、一番に叱ってもらいましょう。颯真さんがそんな顔してたら、奏多さん、また自分のせいだって言い出しますよ」
​「……わかってる。わかってるけど」

​颯真は震える手で顔を覆った。

「俺……奏多が目覚めたら、なんて謝ればいいのか、………」

​静まり返った夜の病院。

安堵に震える末っ子と、逃れられない罪悪感に苛まれるリーダー。

二人は、奏多が眠る病室へと運ばれていくストレッチャーの音を、ただ黙って聞き続けていた。
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