元アイドルは現役アイドルに愛される

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63. 目覚め

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翌朝、病室を包む朝日は、昨夜の惨劇がまるで嘘だったかのように穏やかで優しかった。
​微かな消毒液の匂いと、規則的なモニターの音。その中で、奏多はゆっくりと重い瞼を持ち上げた。

​「……ん、……」
​「奏多さん……!?」

​視界がひらけた瞬間、真っ先に飛び込んできたのは、ひどく顔色の悪い、けれど必死な表情をしたリオだった。

​「奏多さん、わかりますか!? 僕です、リオです……っ」
​「……リオ、くん。……あ、そっか……僕……」

​お腹のあたりに鈍い痛みを感じ、奏多は昨夜のことをぼんやりと思い出した。ライブの後、裏口で……。

言葉を続けようとする奏多を遮るように、リオはたまらず、壊れ物を扱うような手つきで奏多の肩に顔を埋め、ぎゅっと抱きしめた。

​「よかった……。本当に、本当によかった……っ。目を開けなかったらどうしようって、僕……」

​リオの体はまだ小刻みに震えていた。その震えが、彼がどれほどの夜を過ごしたかを物語っている。奏多は、自由の利く左手でリオの背中をそっと撫でた。

​「……ごめんね、怖がらせちゃって。……僕は大丈夫だよ。ほら、生きてる」

​しばらくの間、リオは奏多のぬくもりを確かめるように離れなかった。
やがてリオが少し落ち着き、顔を上げた時、奏多はふと、部屋の中に「もう一人」の姿がないことに気づいた。

​「……ねぇ、リオくん。……颯真は? どこにいるの?」

​問いかけられたリオは、一瞬だけ視線を泳がせ、困ったように眉を下げた。

​「……颯真さんは、さっき……。奏多さんが手術室を出た後もずっと廊下にいたんですけど、朝方、マネージャーに促されて一度病院を出たきり、戻ってこないんです。連絡も……つかなくて。どこにいるか、僕も知らないんです」

​「……連絡がつかない?」

​「はい。……すごく、元気がないというか、抜け殻みたいになってて……。あんな颯真さん、僕、初めて見ました」

​その言葉を聞いて、奏多は薄暗い病室の天井を見上げた。
昨夜、自分を刺した女が吐き捨てた言葉を、奏多は微かに覚えていた。彼女が颯真のファンであったこと、そして「颯真のために」という狂った大義名分を掲げていたこと。

​(やっぱり……気に病んでるんだな。颯真は優しいから、全部自分のせいだって思ってる……)

​奏多は、自分の傷の痛みよりも、今この瞬間のどこかで一人、深い自責の念に押しつぶされているであろうリーダーの心が心配でたまらなかった。

​「……リオくん。僕のスマホ、どこにある? 颯真に、伝えなきゃいけないことがあるんだ」

​奏多の瞳には、弱々しさはあっても、はっきりとした決意が宿っていた。
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