元アイドルは現役アイドルに愛される

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65. 許し

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奏多は、膝をついて震える颯真の頭に、点滴の針が刺さっていない方の手をそっと置いた。
その掌は少し冷たかったけれど、驚くほど穏やかで迷いがなかった。

​「……なんだ。そんなことだったの?」
​「……え?」

​颯真が顔を上げると、そこには怒りも、悲しみも、絶望もない。ただ、いたずらが見つかった子供を宥めるような、困ったような奏多の笑顔があった。

​「颯真。そんなの、何も颯真は悪くないじゃん」
​「……何、言って……っ! 俺のファンが、俺のためにって……!」
​「それはその人の勝手な言い分でしょ? 颯真が『奏多を刺してくれ』って頼んだわけじゃない。颯真は、誰よりも僕を大切にしてくれた。あの時、引退した僕をもう一度見つけて、KSRに誘ってくれたのも颯真だ。……僕が今、こんなに幸せなのは、颯真がいたからだよ」

​奏多はゆっくりと腰を落とし、痛みを堪えながら颯真と同じ目線に降りた。

​「あの事故が誰かの悪意だったとしても、今また刺されたとしても、僕は颯真に出会えたことを後悔したことなんて、一度だってないよ。……颯真が自分を責めるのは、僕の幸せを否定するのと同じだよ?」

​その言葉は、颯真が心の中で必死に築き上げてきた「罪の城」を、一瞬で崩れ去らせた。
張り詰めていた糸が、ぷつりと切れた。

​「……あ、……ぁ……」

​颯真の目から、大粒の涙が溢れ出した。
リーダーとして、年上として、強くあらねばと自分を律してきた颯真の喉から、押し殺していた嗚咽が漏れ出す。

​「……ごめん……っ、奏多……ごめん……!! 俺、怖かったんだ……っ。……俺のせいで、お前が笑えなくなるのが……本当に、怖かったんだ……っ!」

​颯真は奏多の肩に額を預け、子供のように声を上げて泣いた。奏多の病衣を涙で濡らしながら、これまでの数年間、一人で抱え込んできた重荷をすべて吐き出すように。
​奏多は、そんな颯真を優しく抱きしめた。

「……大丈夫だよ、颯真。僕はどこにも行かない。……だから、もう泣かないで。リーダーがそんな顔してたら、リオくんがまたパニックになっちゃうよ」

​夜の屋上。

遠くで街の灯りが瞬く中、二人の間を隔てていた「嘘」と「罪悪感」は、溢れる涙と共に消えていった。
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