訳アリおっさんが自衛隊を辞めてハンターになる話。

佐藤さん

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浪速区封鎖事件

取り敢えず生で。

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「クソぉーーーーーーー!!」

 人気が消え失せた難波の夜、道真ん中で叫びながら理不尽さに喘いでいた。身元も分からない少女を肩に担ぎ上げ、謎の集団に追いかけ回されている。その集団も詳細は分からない。
 なぜならアーケードを抜けて、一気に駆け出してから彼らも追い掛けてきたからだ。

「おい!まだ来てるか!!」
「よく見えないけど…沢山いると思う!」

 気配すら感じない彼らの姿を捉えるのは肩に担いだこの子に頼るしかない。

「くそ…ジリ貧だ。」

 体力的にも時間の問題だ。このでんでんタウンと呼ばれる場所は開けすぎており、索敵されやすく、隠れるには逃げ道が少ない場所ばかりなのだ。
 頭の中も状況も時間に追い立てられ焦ってしまう。すると肩から天啓が下りる。

「ピコーン!」
「なんだピコーンって。」
「隠れるのに丁度いいとこ知ってるよおじさん!」
「いいね!渡りに船ってやつ!」
「おっけーってことよね?その左に行って!」

 目の前に大きなT字路が現れて、俺は減速せず曲がる。勢いを殺さず車みたいにカーブを描いて走りきる。

「元自なめんな!」
「すごいすごい!車みたい!!」

 だが思っているよりも揺れた気がした。体に響いた衝撃のせいか、言葉が切れた。

「大丈夫か?!」
「…あっ!そこ右!!」
「はいよ!!」

 疑念は残しながら少女の道案内に従って進んでいく。



















 辿り着いたのはコンカフェ、所謂メイド喫茶だった。
 だれもが逃げ出したこの状況でお客がいるわけでもなく、バーカウンターには放置された私物やお酒がまちまちと残っていた。
 もっと事務所みたいな場所を想像していたが、飲食物も残ってるし壁自体も防音性能に優れて強固、テナントの三階に位置しているため警戒もしやすい。逃げ道が少ないこと以外は籠城戦にもってこいの立地だ。

 少女を部屋の奥にある4人がけのソファに下ろしてやり、お互い息を整える。
 閉鎖的な場所は苦手だったがそんな場所で心落ち着けるとは。人生何があるかわからないな。

「……ふぅ。やっと落ち着いたよ。ここはバイト先?」
「うん。」
「そっか。教えてくれてありがとう。」

 元気がない様子だが、これは仕方がない。よく分からないまま襲われ、よく分からないオッサンに誘拐みたいに連れ去られたのだから怖くない筈がない。

「俺は島田直哉って名前なんだ。そっちは?」
「…佐渡冷です。」
「れいさんね。どう?足とかは。」
「…なんとか歩けるって感じです。」 

 心の距離があからさまだ。パーソナルスペースならともかく言葉の距離感をあけられては話しづらい。警戒されてるよな。これは早急に解消しなくては。 
 そう思ってれいさんに話しかけようとすると、彼女はじーっと俺を見ている。

「…」
「何かされるって思ってる?」
「……ちょっと。」

 悲しいぞ。かなり悲しい。かと言って言葉にした所で解消はされないだろうな。あまりにショッキングな感想に打ちのめされていると、れいさんは恐る恐る口を動かした。

「…おじさんは何者なんですか?」

 きっかけが生まれた。

「丁度仕事を辞めた所だったんだ。人生を再スタートさせようと思って大阪に帰ってきたけど、まぁどうしょうもない感じで悲しい。」
「そっか…でも巻き込まれたにしては落ち着いてますね。」
「おじさんだからかな?なんかこういう時の心構えができてたんだと思うよ。」
「それは…多分違いますよ。」

 受けを狙ったつもりだが、視線を落として声音が低くなった。

「私、ここで仕事をしてたんです。深夜の4時くらいにJアラートがなって、みんなパニックになって、わがままになって…。大人だからってみんながみんな落ち着いて行動出来るわけじゃないと思います。」

 そのタイミングでは俺はまだ駐屯地にいた。場所も京都だった。だが彼女は惰眠をむさぼっていた俺とは反対に、彼女は暗い闇の中で恐怖に逃げまどっていたようだ。

「大変だったんだな。Jアラートはなんて書いてあったんだ?」
「詳細は書かれてなかったんです。避難場所とこれは訓練じゃありませんってそれだけ。」
「そうか…」
「みんなそりゃあ大パニック。わけも分からず逃げろって言われれば、みんな不安を爆発させてた。休暇中だった自衛官のお客さんも居たんですけど、その人すら我先に逃げてました。」

 タイミングは深夜帯。状況が始まったのは2200以降と考えていいだろう。
 突発的な対応でJアラートはならせないしな。国を揺るがす程の事態、それはきっと鼻を潰してやったあの男みたいな奴のせいなんだろう。

「れいさんは何が起きてるのか知ってる?」
「見たことくらいしか…あの男の人。まるで野獣みたいに人を齧ってて、叫んだらついてきたんです。映画のゾンビみたいで」

 れいさんの言葉ではっとした。俺が見たものは夢でも個人的な感想でもなかった。まぎれもない怪物だったのだ。そう考えると、俺が殴った行為は間違っていない。
 だがしかしゾンビなんて単語を本気で考える日が来ようとは。あの殴った男も、俺たちについてきたのもゾンビだと考えれば、あのバカでかいコンクリートの壁が建設され、封鎖した事も納得がいく。
 納得いかないのは人間を変異させたのはなんなのか。現実的に考えるとウィルス性なんてありそうだが、スタチューの言う所を考えれば別世界からきた。そういう事になるんだろうか。

「おじさんは何か知らないんですか?」
「…わからない。Jアラートが鳴ってたことすら知らなかったよ。」
「そうですか。」

 自衛官という期待ワードを裏切る言葉を吐き出すと、れいさんの視線はいたたまれない程に冷たくなった。話さなければ。

「ま、まぁ一先ずここで休むのは悪い案じゃない。地上から離れた3階のテナント、両サイドの脱出ルートに加えてベランダの非常階段ですぐに逃げられる。下の階は施錠できたし、今日一日くらいは安全に眠れるよ。」

 安心させようと思って口にする言い訳を、彼女は黙って頷いた。

「ありがとう、れいさん。君のおかげで生き延びれるよ。」
「わたしのほうこそ…ありがとうございました。」




















 こんな事態の中、2人で揃って眠るわけも行かず、彼女には先に寝てもらった。深夜のコンカフェでロウソクだけを灯し、淡い光の下で食材類をあたり、何日持つかを把握した。

「やっぱり飲食店は強いな。食いつなげば2カ月は大丈夫だ。」

 目の前に並ぶのはカップ麺など日持ちするものと、手早く食べないと無駄になるものを分けて考えていた。2カ月という大台はかなり安心できる。セキュリティ的にも、敵対勢力から守れそうな立地だし、拠点確保という意味なら大成功だ。

「2カ月ってのはなぁ…」

 月日とともに悪くなるのがトラブルというものだ、このゾンビショックとも言うべき事態に流石に参ってくる。そこで何故かスタチューを思い出した。

(そう言えばアイツ、知識も与えると言っていたな。)

 怪物狩りを命じたあの銅像はおれに力と知識を与えたという。ならあのゾンビの事もわかるんじゃないのか、と閃いた。

(まずは…そうだな。あの男の顔を思い出そう。)

 狂気に駆られたというには虚無過ぎるあの表情は鮮明に焼き付いていた。獲物を前にして瞳を輝かせながらも、生気が一切なかったあの顔立ちは恐怖を誘き寄せる。




  ワールドログサーチ、モンスターを照合したため起動します。


「うわっ!!」

 唐突に女性の音声が流れて驚いた。思わず物音を立てたが、れいさんを起こしてはいないようだ。

(まさかのガイダンス音声か。現代人にあわせてくれたんだろうけど、せめて教えてほしかったな…)

 予想外だったが、一先ず心を落ち着かせ。ガイダンスをまた再生した。


  ワールドナンバー114514.個体名称ハーフゾンビ
クラス   オフィサー
アビリティ ライフサーモ(有効範囲 半径20キロ) 
      ゾンビ指揮者
 ゾンビの毒に対し抵抗力を持つ者が毒に侵されたことで生まれる稀有な種族。人間の知性を持つが、常にゾンビとしての性に襲われている個体。掌握したゾンビピープルを兵として運用可。ライフサーモにより、生きた人間を認知し捕食する。
 

 情報がズラズラと現れたが、これは便利だなと思った。これなら身を持って調べる必要はない。記憶がある限り一目見れば相手の情報を得られる訳だ。

(ゾンビについて情報をくれ。)
  モンスターの照合を要求。

 問いかけに答えてくれるのはありがたいが、変な所で不便だ。これはつまり、俺にも情報がなければ知ることはできないと言う意味なのだろう。
 兎に角さっきと容量同一。記憶を遡り、あの街灯にいたゾンビを思い出す。


  モンスター照合……………ヒット。
ワールドナンバー 616.感染性ゾンビ(現ワールド住人が感染したもの)
クラス   トルーパー
アビリティ 人間性の喪失 魂の追跡(有効範囲3メートル)
 ゾンビの毒に感染した人間であり、食欲という自己保守のみが働いている個体。生体活動は停止しているため活動限界あり。肉体が物理的に動くまで動物を食す。
 人間としての機能はないため、聴覚、視認による情報は得られていない。だが魂を感知する能力に優れており、索敵範囲に獲物がいれば追跡する。

 情報をまとめれば、ゾンビで間違いないようだ。ただ映画とは違い、かなりスピリチュアルな存在だな。忍び足で後ろから攻撃、というような奇襲には制約があるようだ。


  照合したモンスターにタグ付け可能。実行しますか?


(すご!そんなゲームみたいなことができんのか!)


_____※物理学的見地から時空連続体を固定しかねないため、現ワールドが崩壊する可能性あり。


 時空連続体と言う言葉を思い出した。コレを崩壊させてしまうと、自我を持ちながらあらゆる場所に途切れで存在してしまうと言う話だった。
 よくわからない概念だが、脅されている以上触れる必要はないだろう。

(なしなし!コスパ合ってないだろそんなの!)

 慌てて取り消して、今までもらった情報を総ざらいしてみる。

(索敵たって俺にもできないわけ無いしな、取り敢えずスタチューに言われた通りにあのゾンビ共を見つけて倒してみる…いや、何か見落としている気が…。)

 頭の引っかかりが気になって考えてみる。するとハーフゾンビのアビリティが気になった。

(ライフサーモ…半径20キロに渡り、生命活動を行う人や動物の所在を知ることができるって書いてる。……………20キロッ!!!20キロだとっ!!)

 この中央区から20キロというと、奈良、京都の端っこ、兵庫の伊丹をまるっと飲み込んでしまう。それを考えるとハーフゾンビが狙う物が見えてきた。
 あのゾンビはこの隔離区域全土に生きる人間が見えているはずだ。おそらく難波付近にいた人間は避難したか、ゾンビにされたと考えていいだろう。ゾンビという兵力を蓄えているのは戦争または狩りの準備。壁の向こう側へ侵攻するのが企みだとすると、次に狙うのはおおよその見当がつく。

「…外に助けを求めるべきかな。」

 スマホを取り出して竹下に電話を繋ぐ。すると思いの外、すぐに通話が繋がった。

{もしもし…}
「おっ竹下電話でるの早いな。」
{ええ…でも今取り込んでるもので。それでどうひたんですか?}
「いや~ちょっと頼まれごとを。」

 通話の途中で外から轟音が鳴り響いた。深く低く。地鳴りとも思える揺れを乗せて届いた音は、矢継ぎ早に赤い光を空へ放つ。
 あまりに突飛で聞き慣れない音に、ドタバタと慌ててれいさんが仮眠室から客間に飛び出した。

「なになに!いまのなんなの?!」

 寝ていたので着崩し、肩がはだけたセクシーな状態に目もくれず、俺は外の攻撃に釘付けになっている。
 窓ガラスの向こう側、自転車で行けば三十分も満たない時間でたどり着く距離で爆煙が空に舞い上がっていた。黒く重たい煙の中には炎を孕んで禍々しく夜をオレンジに染めていた。
 普段生活していれば見ることはない、現実じゃないような光景を見ても、俺はスマホが気になって仕方なかった。

{島田さん…}
「竹下…お前、こっちに居るのか。」

 聞き逃しようもない音がスピーカーから聞こえてきた。

{ええ。任務でこちらに。}
「なんでそんな…。」

 言いかけて止まった。言いたくないことは蓋をする大人の特権は若者によって外される。

{本当なら多分、島田さんがやるはずだったんでしょう。今いませんから。}
「…どこにいる。」
{避難民のコロニーに居まっ}
「逃げろ竹下!!」
{え?}
「敵は人間が持つたま…………熱に寄ってくるんだ!そんな人だかりにいると襲われるぞ。」
{いやそんなまさか…たかだか人間にそんな}

 会話の歯切れ悪く、通話は寸断された。伝えるべきものを伝えられずこうなったのは俺の責任ではない。だが…

「おじさん…?」

 だが救えるかもしれない人がいるのは間違いない。

「行くか。」
「……私はどうしたらいい?」
「ここにいて。逃げるべき時は一緒に脱出しよう。最初に助けたよしみもあるしね。」

 そう言って俺は玄関に足を向けていき、彼女の視線に後ろ指をさされながら、玄関のドアノブを回そうとした。

    
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