6 / 28
浪速区封鎖事件
竹下士長の憂鬱 後編
しおりを挟む
対した休みではないが、少しばかりの休息から上がると、このコミュニティの話を木山3曹から聞いた。
コミュニティの規模として100人を超える程度。他の場所にも、転々と生存者たちがいるようだが、時間を追うごとに数を減らしているようだ。
込み入った事情と現段階までの情報を得ながら、建物から外に出た。月明かりを浴びるのは久しぶりな気がするけど、3時間程度しか経っていないんだから恐ろしい。
建物の周りは少し広い庭になっていて、背の高い灰色のブロックが壁となり、天面にはイガイガの鉄線が3本線で防御していた。
入り口はゲートとなっている。重苦しいキャスター付き金属製ゲートを私服を着た男が2人、槍を構えて両脇に立っていた。
「俺達は男衆が過半数を超えていたからな、武装させ、仮称ゾンビに対抗させている。」
「仮称…ゾンビが攻め込んでくるんですか?」
「そうだ。基本的には夜が多いがな。アイツラも頭がいいのか、まず斥候を放ち、その後群れで攻め入ってくる。」
昨日襲いかかってきたサラリーマンもその一部と考えると、群れ自体はここから近い所にいそうではある。
「組織的な動きだ。きっとオフィサー(幹部)が居るんだろう。」
映画の印象とは随分掛け離れるのに、木山3曹はよく対応をしている。
彼の横顔を見ながら誇らしく思った。不測事態をこんなにも柔軟に対応しているとは…同じ部隊員としてなんと誉れ高い
「…そんな目でみるな。取り仕切ったのは俺だが、元となるアイデアを吐き出したのは俺じゃない。」
なんか損した気分だ。
「どなたなんですか?」
「身体が頑丈な映画オタクの一般人、金属加工の仕事をしていると言っていた。今は哨戒任務に付き添って、安全化された地域に罠を仕掛けてる。」
「すごい気概というか、アイデアマンですね。」
「あいつめ、俺たちに映画はアイデアの宝庫だって言って、この防御構築の基盤を吐き出したんだ。」
確かに、想定とは簡潔に言えば想像ともいえる。映画という仮状況の上でキャラクターが吐き出すアイデアは、ケースが似かよれば使えるということだ。
思いがけない人材だ。是非うちの部隊に欲しいと考えていると、高校生くらいの男の子が木山3曹に慌てて駆け寄ってきた。
「どうした草野。」
「アキラさんが随伴してる哨戒部隊から連絡です。ハイブから出てきたグループがコチラに向かってるそうです。」
「ハイブ?」
「上本町の駅地下に形成されている、ゾンビ達のねぐらだ。」
木山3曹は腰に差し込んでいた大きな無線機を取り出して、スマホでマップを表示しながら呼びかけを始める。
「哨戒部隊エコー。聞こえるか、応答せり。エコー。」
{こちらエコー。}
「えー敵の座標示せ。」
{そちらに送る。敵については現状、片山アキラの罠により進行が止まってる模様。}
「了解。エコーについては敵の警戒、アキラに無線機を渡せ。」
{_______木山さん。前話したバスに食いついて敵が止まってる。許可をくれ。}
アキラの質問を受けて吟味する木山さん。なんだ、バスに何か仕掛けがあるのか。
「いいだろう。5分後に実施。」
{了解}
「竹下、島田と連絡がつくか?アイツの居場所を知っておきたい。ここには居ないからな」
「_____」
その質問に対してはすぐに返答できなかった。というのも彼との接触は控えるように言われていたからだ。
「どうした。何か問題でもあるのか?」
怪訝な表情が僕の胸を刺してくる。まぁいい。今更だな。
「充電あるかなって思いまして。すぐに連絡を取ります。」
スマホを起動させて番号を打ち込む。するとすぐに通話は繋がった。なぜなら向こうから通話が飛び込んできたからだ。
「もしもし…」
{おっ竹下電話でるの早いな。}
こっちの気も知らずに簡単に話してくれる。
「ええ…でも今取り込んでるもので。それでどうひたんですか?」
{いや~ちょっと頼まれごとを}
その言葉を遮るように轟音が轟いた。視線を回すと、音源ははるか向こう。ビル群の陰に隠れた場所で爆煙が空に上がっていくのが見えた。夜に浮かんだ汚らしい爆煙は、月夜に向かって伸びていく。
(バスの仕掛けって爆弾の事だったのか…いやそんなことより…)
驚いたのは爆発音にではない。その爆発音がスピーカーからも聞こえたということだ。つまりゾンビ達の群れが島田さんの近くにいるということだ。
「島田さん…」
{竹下…お前、こっちに居るのか。}
その声音で彼が何かしらの怒りを孕んだのは明白だった。
「ええ。任務でこちらに。」
{なんでそんな危険なこと____}
偽善の言葉が言いかけて止まった。言いたくないことは蓋をする大人の特権だが、それはあからさまで。僕にはなにかのアピールにしか聞こえない
僕よ、それは言うな。言った所で解決なんてしない。
「本当なら多分、島田さんがやるはずだったんでしょう。今いませんから。」
{…どこにいる。}
「避難民のコロニーに居ます。」
{逃げろ竹下!!}
「え?」
急なムーブに驚いてしまった。
{敵は人間が持つたま…………熱に寄ってくるんだ!そんな人だかりにいると襲われるぞ!}
「いやそんなまさか…たかだか人間にそんな習性あるわけが……あれ?」
スマホの画面を見ると、通話が切れていた。特段電波が弱いというわけでもないが、切れたものは仕方ない。
通話の終わりを見て、木山3曹は話しかけてきた。
「どうだ?どこにいるって?」
「あっ…すみません。聞く前に通話が切れてしまいました。でも爆発音がスピーカーから聞こえたので近くには居るようです。」
「そうか…できることなら今すぐにでも合流したかったが____」
悔やましそうに話す訳が、僕にはわかった。島田さんは施設科らしからぬ戦闘能力の高さがあった。体力、格闘、射撃。最前線で使えるスキルは軒並み総ナメしていた。
「また連絡しましょうか?」
「いや、時間がない。ついてこい。」
そう言うと木山3曹は踵を返して、屋内である会館に急ぎ足で戻っていく。僕はそれについていった。
慌ただしくなる人波を逆巻いて前に進む。木山3曹は無線を手持ちして号令を出した。
「各員、第一警戒網をゾンビが突破した。これよりは攻撃態勢に移行。明後日の0800まで維持せよ。」
緊縛が波のように厚く押し寄せてくる。いい終えると木山3曹は無線機を腰に戻し、緊張感のある声で話を続けた。
「いいか島田。今さっき引っかかったのは斥候だ。」
「え?!でも通信では!」
「数こそ多いのは、敵の習性が群生生物に近いからだ。斥候だろうがなんだろうが群れを持つ。」
廊下を曲がり、とある部屋に入っていく。するとそこは暗く、モニターが幾つも並んでいた。座席は2つあり、警備員の服装をした女性が2人モニターを見つめていた。
「ここは…」
「ここは監視室。街中のカメラに不正アクセスし、大通りの警戒をしている。ルート13を映してくれ。」
木山3曹にすぐさま反応して画面は大通りに切り替わる。色んな画角で写されたのは横転した様子で道路に寝ているバスが噴煙を上げているところだ。
「………来たぞ。」
すると煙の中から、1人、また1人と、よろめきながらもまっすぐに歩く何者かがいた。
「この街の八割の人工は敵になってしまった。尽きることのない潤沢な兵力と、群生生物、そして組織的な動きをもって生存者達に襲いかかる。それが今の敵だ。」
「敵…敵ってなんなんですか…」
「敵については私が説明しましょう。」
呆気にとられ、混乱する僕に声をかけたのは、この部屋にいなかった人物。部屋の入り口に立っているのは、黒色のトンガリ帽子に黒いローブを羽織った男だ。
あまりにふざけた格好で現れるものだから、木山3曹を見ると、彼は溜息を零しながらも彼の入室を許していた。
「あの…木山さん。彼は?」
「あーなんというか。アドバイザーだ。」
アドバイザーという単語にかなり難色を示して、表情を顰めている。
「私はアーデル・キャロライン・キャリバン。異世界人にして魔法使いだ。」
「行くか。」
「……私はどうしたらいい?」
「ここにいて。逃げるべき時は一緒に脱出しよう。最初に助けたよしみもあるしね。」
そう言って俺は玄関に足を向けていき、彼女の視線に後ろ指をさされながら、玄関のドアノブを回そうとした。
「!!!!」
とてつもない匂い、そして知らず知らずに感じていた恐怖心に気づいて、手の動きが止まった。それはとても表現し難い匂いだ。まるでチーズを腐らせたような匂いに、頭の中でヒントが現れた。
(ゾンビ…違う。ゾンビにしては何か雰囲気が違う)
まるでこっちを見ているような、覗かれているような感覚。向けているのは冷たい殺気だ。この臓物すら覗き見、舌なめずりをしているよう。
「おじさん?」
こっちに来ようとしたレイさんを見ず、左手をかざして、動きを静止した。
それからゆっくりと、物音を立てないように身体を動かし、ドアの小さな覗き窓から外を伺った。
「______!!!!」
心臓が止まるかと思うくらいに驚いた。外の景観は人の瞳によって潰されていたのだ。向こう側にいる何者かがコチラを見ようと覗き窓から見ていたのだ。
白目の部分は外側から黄ばんでいて、毛細血管が赤く、虹彩に向かって伸びている。直感でわかった。アーケード下で殴り飛ばしたハーフゾンビが、ドアの前にいるのだ。
【見ているな。お前。】
「ンンッ!!」
喋れないんじゃないのか!あまりに驚いて声を出してしまった。だが彼等に音は聞こえない事を思い出して、俺は安心した。
【どういうわけか…おれは人間の五感を備えている…お前が出しているその、煩い心臓も聞こえているぞ。】
マジか。流暢な日本語とは行かないものの、知性体としての会話は可能としているようだ。
【ここまでオイカケテきて正解だった。今から我々が行うことの邪魔立てをされてかなわない…あそこにいるアイツを喰わなくてはいけないのだ。】
ハーフゾンビと言う名前が与えられているはずのコイツは、どうやら特殊な存在のようだ。
【だがなぜだ?お前の魂は…この世界の人間とも…アイツとも違う。】
「悪いが特別性でね。」
【眩しすぎる。その色は周りを消し、配下どもが怯えるほど。早急に喰わなくては。】
瞳が覗き窓から退くと、ハーフゾンビの両脇にボディビルダーのような体躯のゾンビが立っていた。
【やれ。】
号令とともに、ゾンビは2人がかりでドアを殴り始めた。非日常が殺意を持って音を鳴らし、襲いかかってきた。
「なになに?!なんなの?!」
「くそ…どうすりゃ…」
状況を知らないレイさんはパニックになっている。逃げ道を使おうにもこのままではどうしようもない。
(正面から逃げられない。ベランダから逃げ果せたとして、時間稼ぎにしかならないのか…。竹下のところまでいく?場所も分からないのに逃げ切れる訳が____)
弱気な自分が思考を鈍らせていた。
(____なんで逃げる事しか俺は考えていない?)
逃げ腰な身体は危機から避けようとしていた。違うぞ。俺は、守らないといけないんだ。
気付きに従って俺はレイさんに駆け寄って、肩を掴んだ。
「しっかりしてレイさん。」
「____で、でもどうするの?こんなこと…」
「俺が外にいる奴等をどうにかする。逃げ道を作るんだ。君は隠れて、隙をみて逃げるんだ。」
「それじゃあおじさんは?」
「平気だよ。一昨日まで自衛官だったんだ。信じて」
「やだ!!一緒にいて…お願いします…」
彼女は土下座までして俺を引き止めた。けれど、後ろから聞こえる轟音がドアの限界が近い事を示していた。もう一刻の猶予もない。
「……ごめんな。」
反応を見る間もなく、レイさんを引きづり、クローゼットの放り込んだ。そして戸を閉め切った。
「生きてくれ。君を守れたなら…俺も…」
「オォオオアア!!!」
時間は待ってくれない。ドアは限界を迎えて弾け飛び、まるで獣のような咆哮と共に筋肉ゾンビとハーフゾンビが侵入してきた。
廊下を歩いて客間に現れた悍ましい怪物が3匹。ハーフゾンビを挟んで筋肉ゾンビが立っているところを見ると、どうやら護衛として連れているようだ。
「やっと会えた。やっと会えたぞ。」
(…モンスターが見えたぞガイドさん。相手の弱点を教えてくれ)
ソファを挟んで筋肉ゾンビ、そしてハーフゾンビの視線は俺に向いている。だが好都合だ。こっちには神様の加護で解説役さんがいるんだから。
_____検知不可。弱点検索はプログラムにありません。
(何ッ…)
やはり不便だ。だがしかし、ゾンビといえば脳みそ破壊が定石、頭潰せばいけるだろうと自分に言い訳を唱えた。
(それに予想通り、れいさんには気づいていない。俺の魂が光りすぎているのは本当みたいだな。)
策なし。武器なし。信じられるものもないこの状況では、今握りしめた拳を振るう以外は出来ることがない。
あ。あとあった。オレにはまだ強がりが残っていた。
「来いよ____化け物ども!!!」
声に反応して筋肉ゾンビは2人がかりで飛び交ってきた。
「俺を、食いつくセルと、思うなぁあああ!!」
コミュニティの規模として100人を超える程度。他の場所にも、転々と生存者たちがいるようだが、時間を追うごとに数を減らしているようだ。
込み入った事情と現段階までの情報を得ながら、建物から外に出た。月明かりを浴びるのは久しぶりな気がするけど、3時間程度しか経っていないんだから恐ろしい。
建物の周りは少し広い庭になっていて、背の高い灰色のブロックが壁となり、天面にはイガイガの鉄線が3本線で防御していた。
入り口はゲートとなっている。重苦しいキャスター付き金属製ゲートを私服を着た男が2人、槍を構えて両脇に立っていた。
「俺達は男衆が過半数を超えていたからな、武装させ、仮称ゾンビに対抗させている。」
「仮称…ゾンビが攻め込んでくるんですか?」
「そうだ。基本的には夜が多いがな。アイツラも頭がいいのか、まず斥候を放ち、その後群れで攻め入ってくる。」
昨日襲いかかってきたサラリーマンもその一部と考えると、群れ自体はここから近い所にいそうではある。
「組織的な動きだ。きっとオフィサー(幹部)が居るんだろう。」
映画の印象とは随分掛け離れるのに、木山3曹はよく対応をしている。
彼の横顔を見ながら誇らしく思った。不測事態をこんなにも柔軟に対応しているとは…同じ部隊員としてなんと誉れ高い
「…そんな目でみるな。取り仕切ったのは俺だが、元となるアイデアを吐き出したのは俺じゃない。」
なんか損した気分だ。
「どなたなんですか?」
「身体が頑丈な映画オタクの一般人、金属加工の仕事をしていると言っていた。今は哨戒任務に付き添って、安全化された地域に罠を仕掛けてる。」
「すごい気概というか、アイデアマンですね。」
「あいつめ、俺たちに映画はアイデアの宝庫だって言って、この防御構築の基盤を吐き出したんだ。」
確かに、想定とは簡潔に言えば想像ともいえる。映画という仮状況の上でキャラクターが吐き出すアイデアは、ケースが似かよれば使えるということだ。
思いがけない人材だ。是非うちの部隊に欲しいと考えていると、高校生くらいの男の子が木山3曹に慌てて駆け寄ってきた。
「どうした草野。」
「アキラさんが随伴してる哨戒部隊から連絡です。ハイブから出てきたグループがコチラに向かってるそうです。」
「ハイブ?」
「上本町の駅地下に形成されている、ゾンビ達のねぐらだ。」
木山3曹は腰に差し込んでいた大きな無線機を取り出して、スマホでマップを表示しながら呼びかけを始める。
「哨戒部隊エコー。聞こえるか、応答せり。エコー。」
{こちらエコー。}
「えー敵の座標示せ。」
{そちらに送る。敵については現状、片山アキラの罠により進行が止まってる模様。}
「了解。エコーについては敵の警戒、アキラに無線機を渡せ。」
{_______木山さん。前話したバスに食いついて敵が止まってる。許可をくれ。}
アキラの質問を受けて吟味する木山さん。なんだ、バスに何か仕掛けがあるのか。
「いいだろう。5分後に実施。」
{了解}
「竹下、島田と連絡がつくか?アイツの居場所を知っておきたい。ここには居ないからな」
「_____」
その質問に対してはすぐに返答できなかった。というのも彼との接触は控えるように言われていたからだ。
「どうした。何か問題でもあるのか?」
怪訝な表情が僕の胸を刺してくる。まぁいい。今更だな。
「充電あるかなって思いまして。すぐに連絡を取ります。」
スマホを起動させて番号を打ち込む。するとすぐに通話は繋がった。なぜなら向こうから通話が飛び込んできたからだ。
「もしもし…」
{おっ竹下電話でるの早いな。}
こっちの気も知らずに簡単に話してくれる。
「ええ…でも今取り込んでるもので。それでどうひたんですか?」
{いや~ちょっと頼まれごとを}
その言葉を遮るように轟音が轟いた。視線を回すと、音源ははるか向こう。ビル群の陰に隠れた場所で爆煙が空に上がっていくのが見えた。夜に浮かんだ汚らしい爆煙は、月夜に向かって伸びていく。
(バスの仕掛けって爆弾の事だったのか…いやそんなことより…)
驚いたのは爆発音にではない。その爆発音がスピーカーからも聞こえたということだ。つまりゾンビ達の群れが島田さんの近くにいるということだ。
「島田さん…」
{竹下…お前、こっちに居るのか。}
その声音で彼が何かしらの怒りを孕んだのは明白だった。
「ええ。任務でこちらに。」
{なんでそんな危険なこと____}
偽善の言葉が言いかけて止まった。言いたくないことは蓋をする大人の特権だが、それはあからさまで。僕にはなにかのアピールにしか聞こえない
僕よ、それは言うな。言った所で解決なんてしない。
「本当なら多分、島田さんがやるはずだったんでしょう。今いませんから。」
{…どこにいる。}
「避難民のコロニーに居ます。」
{逃げろ竹下!!}
「え?」
急なムーブに驚いてしまった。
{敵は人間が持つたま…………熱に寄ってくるんだ!そんな人だかりにいると襲われるぞ!}
「いやそんなまさか…たかだか人間にそんな習性あるわけが……あれ?」
スマホの画面を見ると、通話が切れていた。特段電波が弱いというわけでもないが、切れたものは仕方ない。
通話の終わりを見て、木山3曹は話しかけてきた。
「どうだ?どこにいるって?」
「あっ…すみません。聞く前に通話が切れてしまいました。でも爆発音がスピーカーから聞こえたので近くには居るようです。」
「そうか…できることなら今すぐにでも合流したかったが____」
悔やましそうに話す訳が、僕にはわかった。島田さんは施設科らしからぬ戦闘能力の高さがあった。体力、格闘、射撃。最前線で使えるスキルは軒並み総ナメしていた。
「また連絡しましょうか?」
「いや、時間がない。ついてこい。」
そう言うと木山3曹は踵を返して、屋内である会館に急ぎ足で戻っていく。僕はそれについていった。
慌ただしくなる人波を逆巻いて前に進む。木山3曹は無線を手持ちして号令を出した。
「各員、第一警戒網をゾンビが突破した。これよりは攻撃態勢に移行。明後日の0800まで維持せよ。」
緊縛が波のように厚く押し寄せてくる。いい終えると木山3曹は無線機を腰に戻し、緊張感のある声で話を続けた。
「いいか島田。今さっき引っかかったのは斥候だ。」
「え?!でも通信では!」
「数こそ多いのは、敵の習性が群生生物に近いからだ。斥候だろうがなんだろうが群れを持つ。」
廊下を曲がり、とある部屋に入っていく。するとそこは暗く、モニターが幾つも並んでいた。座席は2つあり、警備員の服装をした女性が2人モニターを見つめていた。
「ここは…」
「ここは監視室。街中のカメラに不正アクセスし、大通りの警戒をしている。ルート13を映してくれ。」
木山3曹にすぐさま反応して画面は大通りに切り替わる。色んな画角で写されたのは横転した様子で道路に寝ているバスが噴煙を上げているところだ。
「………来たぞ。」
すると煙の中から、1人、また1人と、よろめきながらもまっすぐに歩く何者かがいた。
「この街の八割の人工は敵になってしまった。尽きることのない潤沢な兵力と、群生生物、そして組織的な動きをもって生存者達に襲いかかる。それが今の敵だ。」
「敵…敵ってなんなんですか…」
「敵については私が説明しましょう。」
呆気にとられ、混乱する僕に声をかけたのは、この部屋にいなかった人物。部屋の入り口に立っているのは、黒色のトンガリ帽子に黒いローブを羽織った男だ。
あまりにふざけた格好で現れるものだから、木山3曹を見ると、彼は溜息を零しながらも彼の入室を許していた。
「あの…木山さん。彼は?」
「あーなんというか。アドバイザーだ。」
アドバイザーという単語にかなり難色を示して、表情を顰めている。
「私はアーデル・キャロライン・キャリバン。異世界人にして魔法使いだ。」
「行くか。」
「……私はどうしたらいい?」
「ここにいて。逃げるべき時は一緒に脱出しよう。最初に助けたよしみもあるしね。」
そう言って俺は玄関に足を向けていき、彼女の視線に後ろ指をさされながら、玄関のドアノブを回そうとした。
「!!!!」
とてつもない匂い、そして知らず知らずに感じていた恐怖心に気づいて、手の動きが止まった。それはとても表現し難い匂いだ。まるでチーズを腐らせたような匂いに、頭の中でヒントが現れた。
(ゾンビ…違う。ゾンビにしては何か雰囲気が違う)
まるでこっちを見ているような、覗かれているような感覚。向けているのは冷たい殺気だ。この臓物すら覗き見、舌なめずりをしているよう。
「おじさん?」
こっちに来ようとしたレイさんを見ず、左手をかざして、動きを静止した。
それからゆっくりと、物音を立てないように身体を動かし、ドアの小さな覗き窓から外を伺った。
「______!!!!」
心臓が止まるかと思うくらいに驚いた。外の景観は人の瞳によって潰されていたのだ。向こう側にいる何者かがコチラを見ようと覗き窓から見ていたのだ。
白目の部分は外側から黄ばんでいて、毛細血管が赤く、虹彩に向かって伸びている。直感でわかった。アーケード下で殴り飛ばしたハーフゾンビが、ドアの前にいるのだ。
【見ているな。お前。】
「ンンッ!!」
喋れないんじゃないのか!あまりに驚いて声を出してしまった。だが彼等に音は聞こえない事を思い出して、俺は安心した。
【どういうわけか…おれは人間の五感を備えている…お前が出しているその、煩い心臓も聞こえているぞ。】
マジか。流暢な日本語とは行かないものの、知性体としての会話は可能としているようだ。
【ここまでオイカケテきて正解だった。今から我々が行うことの邪魔立てをされてかなわない…あそこにいるアイツを喰わなくてはいけないのだ。】
ハーフゾンビと言う名前が与えられているはずのコイツは、どうやら特殊な存在のようだ。
【だがなぜだ?お前の魂は…この世界の人間とも…アイツとも違う。】
「悪いが特別性でね。」
【眩しすぎる。その色は周りを消し、配下どもが怯えるほど。早急に喰わなくては。】
瞳が覗き窓から退くと、ハーフゾンビの両脇にボディビルダーのような体躯のゾンビが立っていた。
【やれ。】
号令とともに、ゾンビは2人がかりでドアを殴り始めた。非日常が殺意を持って音を鳴らし、襲いかかってきた。
「なになに?!なんなの?!」
「くそ…どうすりゃ…」
状況を知らないレイさんはパニックになっている。逃げ道を使おうにもこのままではどうしようもない。
(正面から逃げられない。ベランダから逃げ果せたとして、時間稼ぎにしかならないのか…。竹下のところまでいく?場所も分からないのに逃げ切れる訳が____)
弱気な自分が思考を鈍らせていた。
(____なんで逃げる事しか俺は考えていない?)
逃げ腰な身体は危機から避けようとしていた。違うぞ。俺は、守らないといけないんだ。
気付きに従って俺はレイさんに駆け寄って、肩を掴んだ。
「しっかりしてレイさん。」
「____で、でもどうするの?こんなこと…」
「俺が外にいる奴等をどうにかする。逃げ道を作るんだ。君は隠れて、隙をみて逃げるんだ。」
「それじゃあおじさんは?」
「平気だよ。一昨日まで自衛官だったんだ。信じて」
「やだ!!一緒にいて…お願いします…」
彼女は土下座までして俺を引き止めた。けれど、後ろから聞こえる轟音がドアの限界が近い事を示していた。もう一刻の猶予もない。
「……ごめんな。」
反応を見る間もなく、レイさんを引きづり、クローゼットの放り込んだ。そして戸を閉め切った。
「生きてくれ。君を守れたなら…俺も…」
「オォオオアア!!!」
時間は待ってくれない。ドアは限界を迎えて弾け飛び、まるで獣のような咆哮と共に筋肉ゾンビとハーフゾンビが侵入してきた。
廊下を歩いて客間に現れた悍ましい怪物が3匹。ハーフゾンビを挟んで筋肉ゾンビが立っているところを見ると、どうやら護衛として連れているようだ。
「やっと会えた。やっと会えたぞ。」
(…モンスターが見えたぞガイドさん。相手の弱点を教えてくれ)
ソファを挟んで筋肉ゾンビ、そしてハーフゾンビの視線は俺に向いている。だが好都合だ。こっちには神様の加護で解説役さんがいるんだから。
_____検知不可。弱点検索はプログラムにありません。
(何ッ…)
やはり不便だ。だがしかし、ゾンビといえば脳みそ破壊が定石、頭潰せばいけるだろうと自分に言い訳を唱えた。
(それに予想通り、れいさんには気づいていない。俺の魂が光りすぎているのは本当みたいだな。)
策なし。武器なし。信じられるものもないこの状況では、今握りしめた拳を振るう以外は出来ることがない。
あ。あとあった。オレにはまだ強がりが残っていた。
「来いよ____化け物ども!!!」
声に反応して筋肉ゾンビは2人がかりで飛び交ってきた。
「俺を、食いつくセルと、思うなぁあああ!!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
やさしいキスの見つけ方
神室さち
恋愛
諸々の事情から、天涯孤独の高校一年生、完璧な優等生である渡辺夏清(わたなべかすみ)は日々の糧を得るために年齢を偽って某所風俗店でバイトをしながら暮らしていた。
そこへ、現れたのは、天敵に近い存在の数学教師にしてクラス担任、井名里礼良(いなりあきら)。
辞めろ辞めないの押し問答の末に、井名里が持ち出した賭けとは?果たして夏清は平穏な日常を取り戻すことができるのか!?
何て言ってても、どこかにある幸せの結末を求めて突っ走ります。
こちらは2001年初出の自サイトに掲載していた小説です。完結済み。サイト閉鎖に伴い移行。若干の加筆修正は入りますがほぼそのままにしようと思っています。20年近く前に書いた作品なのでいろいろ文明の利器が古かったり常識が若干、今と異なったりしています。
20年くらい前の女子高生はこんな感じだったのかー くらいの視点で見ていただければ幸いです。今はこんなの通用しない! と思われる点も多々あるとは思いますが、大筋の変更はしない予定です。
フィクションなので。
多少不愉快な表現等ありますが、ネタバレになる事前の注意は行いません。この表現ついていけない…と思ったらそっとタグを閉じていただけると幸いです。
当時、だいぶ未来の話として書いていた部分がすでに現代なんで…そのあたりはもしかしたら現代に即した感じになるかもしれない。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる

