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浪速区封鎖事件
隠し機能とハーフゾンビ
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部屋は荒れ放題だった。暴れる筋肉の塊となっているゾンビ二匹。応戦する俺は手練手管を使い、家具や家電で攻撃した。
「はぁ…はぁ…やれば…できるじゃん。」
左に居る筋肉ゾンビの頭には窓ガラスの破片を突き刺してやった。だが頭蓋骨が邪魔で差しきれなかった。右にいる筋肉ゾンビは両足を関節技で折ってやったが、痛みを感じない以上効果はない。機動力を少し削っただけだ。
そしてハーフゾンビは無論無傷。俺と筋肉ゾンビ共と戦っている様子を眺めていただけ。今は不適に笑みを浮かべて、俺を見ている。
「必死だな人間。」
「…あたりまえ。」
反して俺は立っているのもやっとだった。強烈な攻撃に右肩の骨が折れている。齧られた脹脛は痛みが熱に変わっていた。額から流れた血で左目を開くことはできない。その他もろもろ。身体はボロボロだ。
この瀕死の中でも両足が立っていられる事が。自分でも信じられない。
「あと…一押し。それがズットだ。だがそれも、もう終わりだな。」
ハーフゾンビは右手でゆっくり上げて、俺を指し示した。するとガラスが刺さった筋肉ゾンビは、最初の勢いと変わらず、俺に飛びかかった。
(死線をくぐれ。)
身体を少し屈めて、左手に隠し持っていた包丁を突き出した。包丁は筋肉ゾンビに刺さったガラスのすぐ隣に入り込んだ。肉を断ち切り、頭蓋骨を割る感触が伝わる。
「やっ_____」
「オァアアア!!!」
ゾンビは変わらずに襲いかかってくる。そして暴れ狂うゾンビの後ろから、もう一匹のゾンビが床を飛んでいるのが見えた。ゾンビを押し返して二匹ともども押し倒そうと力みを入れようとするが、まるで電撃を受けたような痛みが走る。
「グッ…」
「オおおおおおお」
痛みでうまく体を制御できない。覆いかぶさる二匹のゾンビに押し倒されて、地面に打ち付けられた。
「クッソッ!!どうすりゃいい…」
急所だと思っていた頭も効果なし。身動きだってできやしない。このままだと押しつぶされ、貪り食われて終わりだ。どうにかしないと。
まばたきする度に蘇る、後ろ指を刺された日の記憶。救えなかった命。偶に見える視界から、レイさんの不安そうな顔がクローゼットのすき間から見えた。
まただ。俺は口だけ達者などこにでもいる男、中途半端で……。
(いや、まだだ。)
手を使ってゾンビどもの頭を掴む。
「ほぅ…」
(教えてくれ。アイツラの弱点を…)
____Error。既存のプログラムにありません。
(クッ!何かあるはずだ。)
頭の中で声が否定してくるが、関係ない。繰り返す。起死回生のチャンスが巡ってくるまで。
____Error。既存のプログラムにありません。
(頼むッあんたしかいないんだ!!!答えてくれ、スタチュー!!!!!)
____Error
____Error
____Error
____Error
____Error
____Error。reprogram。
(なんだ!よくわからない何かがおきた…のか?)
____現状掌握。隠しコマンド1実行、状況に合わせプログラム再構築。
____Error。プログラムさらに構築。
____コードError。プロセスルート再構築
____Loading
____Loading
____Loading
____Loading
____再構築プログラム実行します。
____準備中
____…………再構築プログラムを実行するには、貴方の大事な物を一つだけランダムで削除する必要があります。実行しますか?
(な、え?削除?)
突然の選択肢に戸惑った。今までは詳細を語ってくれたのに、今回に至っては謎に曖昧だった。俺の大事な物ってなんだ?そんなものあるのか?貯金だって五百円しか無い。
「ぐぅぅぅぅあああ!!」
「うわ!ち、悩む暇もないぞ…!」
思考の合間で大きく開いた口が近づいて、それをまた押して距離を開ける。
目の前で迫るゾンビ。後ろのクローゼットに隠れているレイさん。敵を抑え続ける筋肉と骨は今にも張り裂けそうで、選択の余地なんてものはなかった。
(いいぞ。くれてやるよ。この窮地を脱せられるなら!!)
____了解。削除実行。
ガイド音声が削除実行を始める。体感的な変化はまるで無い。と思っていると視界がブラックアウトを起こした。
____空きストレージにプログラム入力
____ファイル名 島田尚弥
実行プログラム
自動回復 身体強化Lv1 弱点検索Lv1
貢物の裁量、隠しコマンド、スタチューの加護
上記によりボーナス発生
アビリティ確保
これによりスキルが進化並びにスキル追加
宿り木の身体
???
神兵の境地
・超自動回復(一度だけ蘇り可能)
・身体強化Lv3(上限解放)
獣の嗅覚
・獣勘(敵の弱点の視覚化)
・縄張り意識(索敵範囲20キロ)
神への信仰
・祭壇
強い願いにより、祭壇が開かれる。供物を捧げる事によりアビリティ並びにスキルを再構築。捧げた供物が戻る事はない。
・与えられた無限の進化
経験は消えない。与えられたスキルは永遠に進化を続ける。
意識が戻った途端、目の前の光景に何も感じはしなかった。やるべき事が手に取るように分かる。目の前で咆哮を上げる怪物の始末だ。
「オォオオオオオ!」
「ふんっ!!!」
奥歯を噛み締め押し返す。筋肉ゾンビ2人分の重みがなんだ。だが彼等も抵抗し、押し返してきた。
「それが____どうしたぁッ!!!!!!」
大きな声とともに押し返し切った。ゾンビどもは人形みたいにひっくり返る。その隙をついて身体を起こし久しぶりに両足で立ち上がると、今まで以上に自分の身体が軽い事に驚いた。
「……すご…できるじゃん俺。ていうか痛みがない。アビリティってやつのおかげか。」
怪我の痛みも、額から流ていた血すら止まっている。傷跡を指でなぞろうとしたが、まるで無傷で、生まれ変わったみたいにツルツルだった。
____敵対ゾンビ確認。ヒットポイントは頭
(ガイドさんが流れた。これが獣勘ってやつか。)
視界に見えている仰向けになって虫みたいにもがくゾンビの頭、その中心に赤い点が点滅して現れた。俺はそれを躊躇いなく踏みつけた。
(えっ…)
まるで風船みたいに軽く潰れた。もっと手応えのようなものがあると思っていたけど、積み木を横から崩すみたいに簡単だった。
(これがスキルか…だったら代償はなんだったんだ。)
「魂の色がまた変わッタ…」
呆気にとられて立ち尽くしていた俺を見て、ハーフゾンビは呟いていた。忘れていた…危ない危ない。
「俺と…オナジ存在になっタな…」
「なんだそれ。カタコトな日本語なんて俺は話さないぞ化け物。」
拙い日本語から伝わってくる畏怖の匂い。コイツはビビっている。
(魂の色が変わったって事は、本当に進化したんだな。俺は。)
俺は両手で拳を作り、見様見真似のボクサースタイルで構える。そして目一杯の力を持って握り込む。硬く。岩をも砕くように硬く握る。
(一撃でおわらせて_____)
「お前の、その後ろに」
決意と闘争心を燃やした途端に、目の前で立っていたはずのハーフゾンビが消えた。彼が纏っていた死臭と声は、左脇から現れた。
奴は身のこなし軽く、身体を屈めて床を這うように低く走り、俺の脇を抜けてレイさんに向かったのだ。
「何かが居るのがミえたぞぉおおお!!」
「それが____」
光り方が変わったのか、レイさんの魂の色が見えてしまった。奴はそれに即座に反応して獲物を狩りに走ったのだ。そんな事は、奴が反応する前から分かっていた。
「それがどうしたってんだぁあああ!!!!!」
硬く握った拳を振るい、まるで鉄球のように奴の顔に撃ち込んだ。振り抜く速さは想像を超え、空気抵抗すら感覚にあった。
「ゴッ____」
以前のパンチのおかげが鼻の骨は砕けていて柔らかく、頬骨の硬さを確かめて振り抜くと、奴はまるで野球ボールみたいに窓ガラスへと吹き飛んで、ビルから落ちていった。
「……もう、俺の手からはなにも奪わせたりしない。」
人も岩をも砕く程に固くなった拳は、今の俺の気持ちと同じだった。
落下している。何が起きたのか分からない上に、身体を形成していたホネも砕かれている。とは言えはオレはゾンビだ。死にはしない。
猫のように身体を翻して地面に着地する。この体になる前なら、道路に臓物をまき散らしてグシャグシャになっていただろう。だが今の俺はゾンビだ。衝撃をリミットレスとなった筋肉が受け止める。
「……何者なんだアノ男は____」
自分らしからぬ発言だ。でもそんな事を言いたくなるほどに理不尽だ。
魂とも呼べるものを視覚的に感じられるようになってからは人間共を食い散らかしてきた。そこに一際目立って光るあの男が現れた。どこに言っても見えてしまうその光を配下を連れて追いかけてみれば、突然豹変し、襲いかかってきた。
「何がオキタんだ…!!」
殺気が降ってきた。そう思った途端に身体は動いて、2、3回ステップを踏むと頭上から何かが降りてきた。目にも留まらない速度で落下し、砂塵を巻き上げて視界を潰す。
だがオレはゾンビだ。魂の光が見える。周りの光景を消し飛ばすほどの眩しさ。間違いなく奴だ。
「まだ居てくれてよかったよ化け物___」
光はそう言って、反応できないほどに素早く動いた。左脇腹、右肩、額。デタラメに速く、硬い拳が身体を抉り取ろうと襲いかかってきた。
「負けるモノかッ!!」
「お前は負けてる最中なんだよッ!!」
殺気に反応し、相手の拳を拳で撃ち落とす。
「くッ…」
「負けるモノかぁあッ!!!!」
骨と骨がぶつかりあい、音は街に木霊している。だがこの場面ではオレが優位にある。なにせ痛みを感じないのだから、なんど打たれようが打ち返すのみだ。
「お前に痛みを堪える度胸ガあるか_____」
そんな事を考えているとオレの左拳は弾けてしまった。耐久値を超え、肉から骨が突き出てきた。
「しま____」
骨の関節がずれ込んで上手く拳を握れない。その煩わしさに気をやってしまって、いつの間にか懐に入り込んでいた男に気づかなかった。
「隙ぃ_____」
視線で分かる。コイツはオレの胸に狙いをつけ、あの固くなった拳を打ち出そうてしている。まずい。何がまずいのかわからないが、あれを胸に受け止めると死んでしまうと感じる。
「ありぃいいいいいいいいいいいいぁああ!!!!」
「さセルかァァァアアア!!!!!」
もう使えない左腕を拳の前に出して、クッション代わりにした。功を奏して胸を貫かれる事はなかった。だが衝撃はそのまま体にぶつかり、オレは空を飛んでいった。
(なんという力ダ…もはやこんなものは_____)
周りの光景がとてつもない速さで通り過ぎていく。そんな光景から飛び出してきたみたいに、後を追って男は追い掛けてきた。
「なんト____」
「ここで必ず…お前を倒してやるッ!!!」
奴の魂はより白く光って、身体を型取り、収縮して拳に移っていく。聖なる光とでもいうのか
(光____浄化の力とでもいうのか___)
身体を焦がすような、それでいて温かく心地よい熱は、きっと俺をころすのだろう。
たがオレだってやってやる。ただで死ぬ訳には
「消え____」
男は拳を打ち出そうとしたその瞬間、俺の後ろから長く赤い槍が飛び込んできた。避けるモーションなどできようもなく、男は槍に連れ去られ、明後日の方向へ飛んていった。
「ハッハぁッ!人間はヨク飛んでいくからオモシロイ!!!」
視界に入ったのは巨大の動物と、その足元には大きな剣を持った老人と巨大で細い槍を持つ身体の大きな裸の男、そして少年だった。
速度が下がり、地面に着陸すると、丁度我が母君のフカフカで大きな足元に降り立っていた。
____危ない所だったねぇ。
背中に赤いトゲが生えている、見上げるほどの巨大な白狼が座っていた。彼女のその美しい姿にオレは膝をついて頭を垂れる。
「坊主。危ないトコロだったなぁ。」
「ワカイとはそんなものヨ」
「…」
顔見知りとは行かない兄弟達に反応する必要はない。オレは母に頭を垂れたままにした。
「申し訳ありませン…母上。」
____無事なら言う事はないよ。寧ろあのスタチューから加護を受けた男と戦って、私のもとに帰ってこれたんだから優秀と言っていい。
「スタチューとは何モノなのでしょう…」
____異世界の異物を排除しようとする防人さ。あの男はその受け皿…と言ったところだねぇ。ま。私の毒に侵されたら終わりだけど。
「左様でごザイますか。」
____行くよ。あんたも手伝っておくれ。
母上はそう言うと、オレを背に乗せて歩き出した。
「はぁ…はぁ…やれば…できるじゃん。」
左に居る筋肉ゾンビの頭には窓ガラスの破片を突き刺してやった。だが頭蓋骨が邪魔で差しきれなかった。右にいる筋肉ゾンビは両足を関節技で折ってやったが、痛みを感じない以上効果はない。機動力を少し削っただけだ。
そしてハーフゾンビは無論無傷。俺と筋肉ゾンビ共と戦っている様子を眺めていただけ。今は不適に笑みを浮かべて、俺を見ている。
「必死だな人間。」
「…あたりまえ。」
反して俺は立っているのもやっとだった。強烈な攻撃に右肩の骨が折れている。齧られた脹脛は痛みが熱に変わっていた。額から流れた血で左目を開くことはできない。その他もろもろ。身体はボロボロだ。
この瀕死の中でも両足が立っていられる事が。自分でも信じられない。
「あと…一押し。それがズットだ。だがそれも、もう終わりだな。」
ハーフゾンビは右手でゆっくり上げて、俺を指し示した。するとガラスが刺さった筋肉ゾンビは、最初の勢いと変わらず、俺に飛びかかった。
(死線をくぐれ。)
身体を少し屈めて、左手に隠し持っていた包丁を突き出した。包丁は筋肉ゾンビに刺さったガラスのすぐ隣に入り込んだ。肉を断ち切り、頭蓋骨を割る感触が伝わる。
「やっ_____」
「オァアアア!!!」
ゾンビは変わらずに襲いかかってくる。そして暴れ狂うゾンビの後ろから、もう一匹のゾンビが床を飛んでいるのが見えた。ゾンビを押し返して二匹ともども押し倒そうと力みを入れようとするが、まるで電撃を受けたような痛みが走る。
「グッ…」
「オおおおおおお」
痛みでうまく体を制御できない。覆いかぶさる二匹のゾンビに押し倒されて、地面に打ち付けられた。
「クッソッ!!どうすりゃいい…」
急所だと思っていた頭も効果なし。身動きだってできやしない。このままだと押しつぶされ、貪り食われて終わりだ。どうにかしないと。
まばたきする度に蘇る、後ろ指を刺された日の記憶。救えなかった命。偶に見える視界から、レイさんの不安そうな顔がクローゼットのすき間から見えた。
まただ。俺は口だけ達者などこにでもいる男、中途半端で……。
(いや、まだだ。)
手を使ってゾンビどもの頭を掴む。
「ほぅ…」
(教えてくれ。アイツラの弱点を…)
____Error。既存のプログラムにありません。
(クッ!何かあるはずだ。)
頭の中で声が否定してくるが、関係ない。繰り返す。起死回生のチャンスが巡ってくるまで。
____Error。既存のプログラムにありません。
(頼むッあんたしかいないんだ!!!答えてくれ、スタチュー!!!!!)
____Error
____Error
____Error
____Error
____Error
____Error。reprogram。
(なんだ!よくわからない何かがおきた…のか?)
____現状掌握。隠しコマンド1実行、状況に合わせプログラム再構築。
____Error。プログラムさらに構築。
____コードError。プロセスルート再構築
____Loading
____Loading
____Loading
____Loading
____再構築プログラム実行します。
____準備中
____…………再構築プログラムを実行するには、貴方の大事な物を一つだけランダムで削除する必要があります。実行しますか?
(な、え?削除?)
突然の選択肢に戸惑った。今までは詳細を語ってくれたのに、今回に至っては謎に曖昧だった。俺の大事な物ってなんだ?そんなものあるのか?貯金だって五百円しか無い。
「ぐぅぅぅぅあああ!!」
「うわ!ち、悩む暇もないぞ…!」
思考の合間で大きく開いた口が近づいて、それをまた押して距離を開ける。
目の前で迫るゾンビ。後ろのクローゼットに隠れているレイさん。敵を抑え続ける筋肉と骨は今にも張り裂けそうで、選択の余地なんてものはなかった。
(いいぞ。くれてやるよ。この窮地を脱せられるなら!!)
____了解。削除実行。
ガイド音声が削除実行を始める。体感的な変化はまるで無い。と思っていると視界がブラックアウトを起こした。
____空きストレージにプログラム入力
____ファイル名 島田尚弥
実行プログラム
自動回復 身体強化Lv1 弱点検索Lv1
貢物の裁量、隠しコマンド、スタチューの加護
上記によりボーナス発生
アビリティ確保
これによりスキルが進化並びにスキル追加
宿り木の身体
???
神兵の境地
・超自動回復(一度だけ蘇り可能)
・身体強化Lv3(上限解放)
獣の嗅覚
・獣勘(敵の弱点の視覚化)
・縄張り意識(索敵範囲20キロ)
神への信仰
・祭壇
強い願いにより、祭壇が開かれる。供物を捧げる事によりアビリティ並びにスキルを再構築。捧げた供物が戻る事はない。
・与えられた無限の進化
経験は消えない。与えられたスキルは永遠に進化を続ける。
意識が戻った途端、目の前の光景に何も感じはしなかった。やるべき事が手に取るように分かる。目の前で咆哮を上げる怪物の始末だ。
「オォオオオオオ!」
「ふんっ!!!」
奥歯を噛み締め押し返す。筋肉ゾンビ2人分の重みがなんだ。だが彼等も抵抗し、押し返してきた。
「それが____どうしたぁッ!!!!!!」
大きな声とともに押し返し切った。ゾンビどもは人形みたいにひっくり返る。その隙をついて身体を起こし久しぶりに両足で立ち上がると、今まで以上に自分の身体が軽い事に驚いた。
「……すご…できるじゃん俺。ていうか痛みがない。アビリティってやつのおかげか。」
怪我の痛みも、額から流ていた血すら止まっている。傷跡を指でなぞろうとしたが、まるで無傷で、生まれ変わったみたいにツルツルだった。
____敵対ゾンビ確認。ヒットポイントは頭
(ガイドさんが流れた。これが獣勘ってやつか。)
視界に見えている仰向けになって虫みたいにもがくゾンビの頭、その中心に赤い点が点滅して現れた。俺はそれを躊躇いなく踏みつけた。
(えっ…)
まるで風船みたいに軽く潰れた。もっと手応えのようなものがあると思っていたけど、積み木を横から崩すみたいに簡単だった。
(これがスキルか…だったら代償はなんだったんだ。)
「魂の色がまた変わッタ…」
呆気にとられて立ち尽くしていた俺を見て、ハーフゾンビは呟いていた。忘れていた…危ない危ない。
「俺と…オナジ存在になっタな…」
「なんだそれ。カタコトな日本語なんて俺は話さないぞ化け物。」
拙い日本語から伝わってくる畏怖の匂い。コイツはビビっている。
(魂の色が変わったって事は、本当に進化したんだな。俺は。)
俺は両手で拳を作り、見様見真似のボクサースタイルで構える。そして目一杯の力を持って握り込む。硬く。岩をも砕くように硬く握る。
(一撃でおわらせて_____)
「お前の、その後ろに」
決意と闘争心を燃やした途端に、目の前で立っていたはずのハーフゾンビが消えた。彼が纏っていた死臭と声は、左脇から現れた。
奴は身のこなし軽く、身体を屈めて床を這うように低く走り、俺の脇を抜けてレイさんに向かったのだ。
「何かが居るのがミえたぞぉおおお!!」
「それが____」
光り方が変わったのか、レイさんの魂の色が見えてしまった。奴はそれに即座に反応して獲物を狩りに走ったのだ。そんな事は、奴が反応する前から分かっていた。
「それがどうしたってんだぁあああ!!!!!」
硬く握った拳を振るい、まるで鉄球のように奴の顔に撃ち込んだ。振り抜く速さは想像を超え、空気抵抗すら感覚にあった。
「ゴッ____」
以前のパンチのおかげが鼻の骨は砕けていて柔らかく、頬骨の硬さを確かめて振り抜くと、奴はまるで野球ボールみたいに窓ガラスへと吹き飛んで、ビルから落ちていった。
「……もう、俺の手からはなにも奪わせたりしない。」
人も岩をも砕く程に固くなった拳は、今の俺の気持ちと同じだった。
落下している。何が起きたのか分からない上に、身体を形成していたホネも砕かれている。とは言えはオレはゾンビだ。死にはしない。
猫のように身体を翻して地面に着地する。この体になる前なら、道路に臓物をまき散らしてグシャグシャになっていただろう。だが今の俺はゾンビだ。衝撃をリミットレスとなった筋肉が受け止める。
「……何者なんだアノ男は____」
自分らしからぬ発言だ。でもそんな事を言いたくなるほどに理不尽だ。
魂とも呼べるものを視覚的に感じられるようになってからは人間共を食い散らかしてきた。そこに一際目立って光るあの男が現れた。どこに言っても見えてしまうその光を配下を連れて追いかけてみれば、突然豹変し、襲いかかってきた。
「何がオキタんだ…!!」
殺気が降ってきた。そう思った途端に身体は動いて、2、3回ステップを踏むと頭上から何かが降りてきた。目にも留まらない速度で落下し、砂塵を巻き上げて視界を潰す。
だがオレはゾンビだ。魂の光が見える。周りの光景を消し飛ばすほどの眩しさ。間違いなく奴だ。
「まだ居てくれてよかったよ化け物___」
光はそう言って、反応できないほどに素早く動いた。左脇腹、右肩、額。デタラメに速く、硬い拳が身体を抉り取ろうと襲いかかってきた。
「負けるモノかッ!!」
「お前は負けてる最中なんだよッ!!」
殺気に反応し、相手の拳を拳で撃ち落とす。
「くッ…」
「負けるモノかぁあッ!!!!」
骨と骨がぶつかりあい、音は街に木霊している。だがこの場面ではオレが優位にある。なにせ痛みを感じないのだから、なんど打たれようが打ち返すのみだ。
「お前に痛みを堪える度胸ガあるか_____」
そんな事を考えているとオレの左拳は弾けてしまった。耐久値を超え、肉から骨が突き出てきた。
「しま____」
骨の関節がずれ込んで上手く拳を握れない。その煩わしさに気をやってしまって、いつの間にか懐に入り込んでいた男に気づかなかった。
「隙ぃ_____」
視線で分かる。コイツはオレの胸に狙いをつけ、あの固くなった拳を打ち出そうてしている。まずい。何がまずいのかわからないが、あれを胸に受け止めると死んでしまうと感じる。
「ありぃいいいいいいいいいいいいぁああ!!!!」
「さセルかァァァアアア!!!!!」
もう使えない左腕を拳の前に出して、クッション代わりにした。功を奏して胸を貫かれる事はなかった。だが衝撃はそのまま体にぶつかり、オレは空を飛んでいった。
(なんという力ダ…もはやこんなものは_____)
周りの光景がとてつもない速さで通り過ぎていく。そんな光景から飛び出してきたみたいに、後を追って男は追い掛けてきた。
「なんト____」
「ここで必ず…お前を倒してやるッ!!!」
奴の魂はより白く光って、身体を型取り、収縮して拳に移っていく。聖なる光とでもいうのか
(光____浄化の力とでもいうのか___)
身体を焦がすような、それでいて温かく心地よい熱は、きっと俺をころすのだろう。
たがオレだってやってやる。ただで死ぬ訳には
「消え____」
男は拳を打ち出そうとしたその瞬間、俺の後ろから長く赤い槍が飛び込んできた。避けるモーションなどできようもなく、男は槍に連れ去られ、明後日の方向へ飛んていった。
「ハッハぁッ!人間はヨク飛んでいくからオモシロイ!!!」
視界に入ったのは巨大の動物と、その足元には大きな剣を持った老人と巨大で細い槍を持つ身体の大きな裸の男、そして少年だった。
速度が下がり、地面に着陸すると、丁度我が母君のフカフカで大きな足元に降り立っていた。
____危ない所だったねぇ。
背中に赤いトゲが生えている、見上げるほどの巨大な白狼が座っていた。彼女のその美しい姿にオレは膝をついて頭を垂れる。
「坊主。危ないトコロだったなぁ。」
「ワカイとはそんなものヨ」
「…」
顔見知りとは行かない兄弟達に反応する必要はない。オレは母に頭を垂れたままにした。
「申し訳ありませン…母上。」
____無事なら言う事はないよ。寧ろあのスタチューから加護を受けた男と戦って、私のもとに帰ってこれたんだから優秀と言っていい。
「スタチューとは何モノなのでしょう…」
____異世界の異物を排除しようとする防人さ。あの男はその受け皿…と言ったところだねぇ。ま。私の毒に侵されたら終わりだけど。
「左様でごザイますか。」
____行くよ。あんたも手伝っておくれ。
母上はそう言うと、オレを背に乗せて歩き出した。
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