訳アリおっさんが自衛隊を辞めてハンターになる話。

佐藤さん

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浪速区封鎖事件

リターンマッチの前口上

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 瓦礫に埋もれる体を起こす。それから受け止めた槍を放り投げ、体を触ってチェックする。

「よし。ケガはしていないな。」

 加護を受けたこの身体は超回復と言うスキルが守ってくれていた。普通ならば即死の攻撃を受けて尚、このように体を守ってくれるとは、神がかり的に優遇されているな。
 体を割くような痛みはもう感じていない。自分の手が人間のように動く筈なのに、今となってはもはや怪物みたいに感じている。それでも勝てなかった。

「……やっぱり武器がいるなッ_____」

 突然、心臓のリズムが狂った。激しい動悸に襲われて、速い更年期障害を疑ったが今の身体でそれは無いだろう。
 あの槍だ。瓦礫の上で寝転がる赤い刃部の槍が転がっているのを見て、コレが原因だと確信できた。

「身体が____熱いッ____」

 心臓が飛び出るのかと勘違いするほどに跳ねている。それに合わせて、身体に流れる血が沸騰でもしてるのかと思う程熱く滾って治まらない。
 ぼやけだす視界。焦った俺は、ガイドさんに念じた。

____右肩の切り傷から「ゾンビの毒」侵入。魂汚染が発動中
(スキル汚染…なんだそれ)
____緊急バイパス構築。アビリティ 宿り木の身体がスキル汚染により変化
____Error
____再構築
____Error
____再構築
____Error
____再構築解消まで繰り返す。
____Error…Error……Error…………………Error

 視界を埋めていくErrorの文字。超回復も間に合っていないのか、立ってるのもやっとで、油断すれば意識が消えそうだ。

____Error
「頼む……間に合ってくれ…」
____Error
____Error
____Error
____Error
____Error
____Error
____再構築プログラム実行成功
____宿り木の身体が変化。
・魂汚染
・憑依
上記2項目のアビリティは特定条件下で自動発動。加えて、このアビリティが消える事はない。

 禍々しい言葉が羅列した途端、身体の異常が嘘のように消えてしまった。

「超回復が作用し始めたのか…。それになんだ魂汚染って…」

 その答えを知るにはまだまだ情報不足だったが、そんな事を調べてる暇はない。レイさんを追いかけないと。




















 竹下士長は自身の目を疑った。目の前に立っている魔法使いの格好をした男は、自分を魔法使いと名乗っていて、なにやらアドバイザー的立ち位置を有している。こんなトンチンカンな奴のアドバイスを信じる人はまともではない。そんな事を考えながらも、他の事を思考する余裕は奪われてしまっていた。
 呆気にとられ固まっていると、木山3曹はこっそり耳打ちをする。

「わかる。お前の気持ちもよ~~~~くわかるが、この男のアドバイスなしでは我々は生きていない。嘘だと思って信じてみろ。」

 心絵を拾われて同じ事を考えたんだなと理解するも、なぜこの男の言葉を信じようと思ったのかかなり懐疑的だ。だが歩み寄らねば分からないこともあると、竹下士長は知っていた。

「あのー…アーデルキャロラインキャラバンさん。僕たちはこれからどうすればいい?」
「待つのみだよ少年。」

 スパッと言い放つ魔法使いと、少年と呼ばれ不快に固まる若き自衛官。彼の心情を拾いきれないキャラバンは話を続けた。

「木山が言った通り、奴等は斥候。【ゾンビの毒】によって使い捨ての駒とされる者達だ。この後から来るのは…見た方が早いな。」

 彼の言葉に続いて画面を見てみる。すると爆煙を突き進み、煙の領域から槍を持った兵士が現れた。
 ゾンビの服装から、ここ大阪で毒に侵された者達だと分かる。だがなにより注目したのは持っている槍だった。長い突っ張り棒の先端には赤い刃部、というよりは生物的な棘を括り付けた即席の槍に見える。

「槍…あの爺さんが持っていたのと同じだ。」

 竹下士長はホームレスが持ち合わせていたものと同一だと察した。

「槍兵だ。主である狼のロアに支配された軍勢の第一線戦闘部隊。狼のロアに生える赤い棘にはゾンビの毒が含まれていて、それを武器に変え、配下に与えている。」

 彼の言葉が進むと同時に煙から1人、また1人、今度は3人と、槍を持った千鳥足のゾンビたちが途切れることなく、寧ろ数を増やして前に進んで行く。
 ここで竹下士長は考えた。大元であるその狼のロアと呼ばれる存在を倒せばいいのではと。

「ゾンビ達が消えることはない。ただ主君が消えれば増えることもなくなるだろう。毒に侵されたものから毒は移らないようだし。」
「そう言えば狼のロアってのはなんだ?」
「………なんといえばいいのか。」

 口籠る魔法使いに何が言い辛いのかと腹を立てる竹下士長は声を荒げた。

「なんといえばいいのかって?事実全部話せよ。じゃねぇと死人が浮かばれねぇだろうが。」
「怒るな。私も正直よくわからないんだよ。」

 ここでやっと魔法使いは口をゆっくり動かしていく。

「彼女がいた世界では安寧はない。死臭漂う荒廃した土地に死人を従える彼女…狼のロアが世界を掌握していた。だが始まりを誰も知らない。」

 魔法使いが小刻みに肩を揺らしている所を竹下士長は見逃さない。

「まぁそれはこの際どうでもいい。一先ず奴等を食い止めねばならないのは君も私も同じ事だ。」
「そうだぞ竹下。やるかやらないかってだけの話だ。細かい事は気にすんな。」
「………了解。」

 魔法使いが何を隠しているのか、それはわからないが言うとおりであることも分かっていた。竹下は苦虫を噛みつぶしたような歯痒さを飲み込んで話を続ける。

「それで作戦はどうするんですか」
「まずはこちらも応戦だ。ゾンビどもの数を考えると防御戦闘は悪手_____」
「き、木山さん!」

 魔法使いの後ろから、ボウガンを持った青年が飛び込んできた。

「どうしたあかり!!なにがあった!!!」
「それが………」


















 木山3曹掌握下にあるコミュニティは、籠城戦を取っていた。大きな公民館という施設の周辺にある壁と資材を使い、庭半径200メートルというめちゃくちゃの広さを保ちながら最後の防御陣地を守っている。
 セキュリテイ面も万全。鉄線には1時間おきに電気を流し、前哨施設として小屋を東西南北4箇所に設置、警戒員を並べ即応待機戦闘員が小屋に5人程待機を徹底している。防御陣地として盤石だ。

 だがそれは中の話で外は関係がない。

 前哨小屋のプレハブをよじ登り、木山3曹は外の景観を覗き見て驚いていた。

「なんなんだ…」

 施設周辺に建てられた家々の隙間は、朝焼けを背に乗せて槍を持ったゾンビ達で埋めていた。アスファルトの色は見えず、人間の頭が揺れながらひしめき合い、死臭を漂わせている。
 なにより今までと違うのは、人間の肉を求めて彷徨い歩くのではなく、施設周辺を完全に埋めて動かない。道を塞いでここから逃げる事を阻止しているのだ。
 
「なんなんだお前らはぁあ!!」

 木山3曹の嘆きを、下から伺ったていた竹下士長は隣に立っていたキャラバンの言葉に耳を傾けていた。

「これは籠城戦などではなかった。敵の作戦。包囲網。いや、追い込み漁だった。」
「なるほど。見事に集められたってことか…」

 だがそれだけではないだろう。もし全員食べる気ならばもう襲われているはずだが、まだ僕たちは壁の内側で息をしている。竹下士長は心のなかで感じる違和感を吟味していると、隣にいるキャラバンも同様に思考を巡らせていた。

「竹下くんも感じてる通りだ。これは妙だ。」
「逃げろぉおおおお!!!」

 木山3曹は大声を張り上げながら、プレハブから飛び降りてきた。
 竹下士長もキャラバンも驚いて動けない所に降りかかる巨体。3人とも地面に伏せるような形担ったかと思えば、今度はプレハブごと壁が崩れ落ちた。

「失礼スるよ」

 粉塵が風に乗って何処かへ飛んでいくと、姿を現したのは10歳にもなってなさそうな少年が瓦礫の上に立っていた。
 小さな体に似つかわしくないボロボロの服。血の気の引いた肌、それから赤い棘を加工した短剣を携えている。

「お前も…ゾンビ。」
「ゾンビか。マァ種族的にはソウなるんだろうけど、僕はホカト違うんだ。」

 喋れるところもそうだが、あのホームレスと同じで少年も力の愉悦に踊らされてるような口ぶり。他の奴等とは違う特別性なのだろう。

(なにより、普通のやつとは違う雰囲気がある。これは勝てないぞ。)

 力量の差をかみしめていると、少年は魔法使いに切っ先を向けた。

「僕が何なのか、なぁ。キャラバンならわかるよね?」
「領域に踏み入れし者を弾け。聖なる庭の安寧を保たせるために、どうか土地神よ。」
「まず____」

 キャラバンの呪文が終わる頃には、少年は壁の外側に逃げ延びていた。その動き派目にも留まらない。
 少年ゾンビは瞬間移動並みのスピードで動いたというのに、平然な顔をして笑っている

「呪文を噛まずに言えるようになったじゃないかキャラバン。」
「いつの話だ。」
「だが今のは口頭審問の一つ。お前が認識し命令しないと発動しない簡素な魔法だろ?それ以上に動きさえすれば_____」
「ふん!!!」

 いつの間にか木山3曹は少年の背後から現れて、工事用の柄の長いハンマーを振り下ろした。勢いは止まることなく地面を穿って削る。だが少年にあたることはない。

「くッ____お前ら速く後ろに____」
「タンなる人間が僕をツブそうなんて…」

 果敢にハンマーを振り下ろし、横薙ぎにし、繰り返すが、少年は身軽に飛んで屈んで避けていく。
 あからさまな時間稼ぎ。それを察して竹下とキャラバンは立ち上がって彼等から距離を取った。

「……鬱陶しい…鬱陶しいってノ!!!」

 瞬きする瞬間もない。まるで漫画のコマを飛ばしたように、次の瞬間には木山3曹が血を流して膝が地面についていた。
 あまりにあっさりと負けた先輩を見て、竹下士長は言葉もない。あんな筋骨隆々が小さな体に負けるという、現実味の遠い結果に言葉が詰まっていた。
 
「ジョナサン…なんだその魂の色は…」

 魔法使いのキャラバンは眉間に皺を寄せて少年を見ている。

「黒く赤い色…淀み深い。怒りの色だ。」
「大人達に腹を立ててるのさ。」
「それだけじゃない。ロアの混血で魂までも犯されている。これでは死後の魂すら…」

 少年は言葉に迷わず、赤いナイフを手に持った。

「…覗き見てんじゃねぇよ。コロスぞ」

 怒りと血で赤く染まる眼は、竹下士長達を捕らえている。
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