秘密のランチパーティー

何か面白いこと

　二学期の文化祭が終わった次の週、教室は急に季節外れの空き地みたいになった。黒板の隅に残ったチョークの粉と、誰も見ない掲示物。三学期の球技大会まで、これといった行事はないらしい。楽しみがない、という事実が、私たち四人を少しだけ不機嫌にさせていた。

　「ねえ、金曜日のお昼さ……」
　最初に言い出したのはミサキだった。声は小さかったけど、目だけがやけに真剣だった。
　「何かやらない？」

　そこから話は早かった。毎週金曜日、昼休み。先生が職員室に行くタイミングを見計らって、カーテンを少し閉める。ロッカーの奥から小さなホットプレートを出す。音が出ないように、電源を入れるときは全員が息を止める。

　具材は全部カット済み。キャベツ、もやし、ひき肉、チーズ。最初はお好み焼きだった。ソースの匂いが立った瞬間、四人で顔を見合わせて笑った。次の週はビビンパ。さらにその次は、バターとコーンと牛肉でペッパーランチもどき。チーズフォンデュの回は、パンを落としたのが誰かで小さな言い争いになった。

　たこ焼き器を持ってきた週は、さすがに緊張した。くるくる回すたびに、失敗しても成功しても、笑い声を噛み殺すのが大変だった。

　火を使わない週もあった。「ドリトス」を砕いてチーズをかけ、即席ナチョス。輪切りのバゲットに、生ハムやクリームチーズやトマトを乗せてカナッペ。教室の机が、一瞬だけパーティー会場になる。

　最初は私たちだけの秘密だった。でも、匂いとか、金曜日の私たちの機嫌の良さとか、そういうので、すぐにばれた。気がつけば、他の子たちも何かしら持ち寄るようになっていた。クラス全体が、見えない共犯関係になったみたいだった。

　チャイムが鳴る前に、全部片付ける。何事もなかった顔で席に戻る。その瞬間だけ、心臓が早くなる。

　行事のない季節は、案外悪くない。私たちには、金曜日のお昼と、クラスみんなの共通の秘密があるのだから。