秘密のランチパーティー

Rocochannel

文字の大きさ
2 / 2

ピンチ

しおりを挟む
 午後の授業のチャイムが鳴る少し前、私は自分のブレザーの袖を嗅いで、ぎょっとした。

 ――ソースの匂い。

 換気はした。窓も開けた。ホットプレートも完全に冷まして、たこ焼き器はミサキのバッグに隠した。それなのに、教室の空気そのものが、ほんのり美味しいままだった。

 「……残ってない?」
 ヒナが小声で言う。
 「残ってるね」
 ユイが即答した。
 私は何も言えず、ただ黒板の前に視線を泳がせた。

 そこへ、ガラッ、と前の扉が開いた。

 「……ん?」

 数学の先生だった。いつもより少しだけ、鼻をひくつかせている気がする。私たちは同時に背筋を伸ばした。誰かが咳払いをして、別の誰かが無意味に教科書をめくる音を立てる。

 先生は教壇に立つ前に、教室を一周、ゆっくり見渡した。
 「なんだか……」
 そこで言葉が切れる。

 心臓が、ばくん、と音を立てた。

 「今日は……給食みたいな匂いがするな」

 一瞬、空気が凍った。ミサキの肩がぴくっと跳ねるのが、視界の端でわかった。誰かが笑ったら終わりだ、と思った。

 「換気、ちゃんとしてますかー?」
 先生はそう言いながら、窓際へ歩いていく。

 「はいっ」
 クラス全体の声が、妙に揃った。

 先生は窓を少しだけ大きく開け、また教壇に戻った。
 「気のせいか。じゃあ、続きからいきましょう」

 その瞬間、私たちは同時に、息を吐いた。音にならないため息が、教室のあちこちでこぼれる。

 ノートに視線を落とすと、余白に、ヒナが小さく書いた文字が目に入った。

 ――次は、匂い弱めメニューね。

 私はこっそりうなずいた。でも、胸の奥では、スリルの余韻がまだ、じんわりと熱を持って残っていた。金曜日のお昼は、やっぱりやめられそうにない。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

筆下ろし

wawabubu
青春
私は京町家(きょうまちや)で書道塾の師範をしております。小学生から高校生までの塾生がいますが、たいてい男の子は大学受験を控えて塾を辞めていきます。そんなとき、男の子には私から、記念の作品を仕上げることと、筆下ろしの儀式をしてあげて、思い出を作って差し上げるのよ。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

処理中です...