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午後の授業のチャイムが鳴る少し前、私は自分のブレザーの袖を嗅いで、ぎょっとした。
――ソースの匂い。
換気はした。窓も開けた。ホットプレートも完全に冷まして、たこ焼き器はミサキのバッグに隠した。それなのに、教室の空気そのものが、ほんのり美味しいままだった。
「……残ってない?」
ヒナが小声で言う。
「残ってるね」
ユイが即答した。
私は何も言えず、ただ黒板の前に視線を泳がせた。
そこへ、ガラッ、と前の扉が開いた。
「……ん?」
数学の先生だった。いつもより少しだけ、鼻をひくつかせている気がする。私たちは同時に背筋を伸ばした。誰かが咳払いをして、別の誰かが無意味に教科書をめくる音を立てる。
先生は教壇に立つ前に、教室を一周、ゆっくり見渡した。
「なんだか……」
そこで言葉が切れる。
心臓が、ばくん、と音を立てた。
「今日は……給食みたいな匂いがするな」
一瞬、空気が凍った。ミサキの肩がぴくっと跳ねるのが、視界の端でわかった。誰かが笑ったら終わりだ、と思った。
「換気、ちゃんとしてますかー?」
先生はそう言いながら、窓際へ歩いていく。
「はいっ」
クラス全体の声が、妙に揃った。
先生は窓を少しだけ大きく開け、また教壇に戻った。
「気のせいか。じゃあ、続きからいきましょう」
その瞬間、私たちは同時に、息を吐いた。音にならないため息が、教室のあちこちでこぼれる。
ノートに視線を落とすと、余白に、ヒナが小さく書いた文字が目に入った。
――次は、匂い弱めメニューね。
私はこっそりうなずいた。でも、胸の奥では、スリルの余韻がまだ、じんわりと熱を持って残っていた。金曜日のお昼は、やっぱりやめられそうにない。
――ソースの匂い。
換気はした。窓も開けた。ホットプレートも完全に冷まして、たこ焼き器はミサキのバッグに隠した。それなのに、教室の空気そのものが、ほんのり美味しいままだった。
「……残ってない?」
ヒナが小声で言う。
「残ってるね」
ユイが即答した。
私は何も言えず、ただ黒板の前に視線を泳がせた。
そこへ、ガラッ、と前の扉が開いた。
「……ん?」
数学の先生だった。いつもより少しだけ、鼻をひくつかせている気がする。私たちは同時に背筋を伸ばした。誰かが咳払いをして、別の誰かが無意味に教科書をめくる音を立てる。
先生は教壇に立つ前に、教室を一周、ゆっくり見渡した。
「なんだか……」
そこで言葉が切れる。
心臓が、ばくん、と音を立てた。
「今日は……給食みたいな匂いがするな」
一瞬、空気が凍った。ミサキの肩がぴくっと跳ねるのが、視界の端でわかった。誰かが笑ったら終わりだ、と思った。
「換気、ちゃんとしてますかー?」
先生はそう言いながら、窓際へ歩いていく。
「はいっ」
クラス全体の声が、妙に揃った。
先生は窓を少しだけ大きく開け、また教壇に戻った。
「気のせいか。じゃあ、続きからいきましょう」
その瞬間、私たちは同時に、息を吐いた。音にならないため息が、教室のあちこちでこぼれる。
ノートに視線を落とすと、余白に、ヒナが小さく書いた文字が目に入った。
――次は、匂い弱めメニューね。
私はこっそりうなずいた。でも、胸の奥では、スリルの余韻がまだ、じんわりと熱を持って残っていた。金曜日のお昼は、やっぱりやめられそうにない。
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