8 / 81
第8話 演技だと思っていたのは私だけ
しおりを挟む
「ざまぁ」劇から一夜明けた、週末の夜。
私は一条のマンションのリビングで、正座をしていた。
目の前のローテーブルには、あの巨大なダイヤモンドの指輪が置かれている。
ソファに座り、優雅にブランデーを傾けている一条に対し、私は深々と頭を下げた。
「一条社長。……この度は、本当にありがとうございました」
「……何がだ?」
「優斗たちの件です。私のために、あんな完璧な『演技』までしてくださって……。おかげで、彼らは二度と私の前に現れないと思います」
そう、演技だ。
「俺の婚約者だ」というあの宣言も、指輪も、すべては私を救うために彼が演じてくれたパフォーマンス。
そう思っていた。
優斗たちという害虫は排除された。私の汚名も晴らされた。
ならば、これ以上彼の厚意に甘えるわけにはいかない。
「この指輪、お返しします。見合い除けの契約とはいえ、こんな高価なものを持ち続けるわけにはいきませんし……」
私は指輪を彼の方へ押しやった。
「これで契約の目的は果たされたと思います。私は明日、荷物をまとめて出て行きます。短い間でしたが、本当に……」
これでいい。
夢のような時間だったけれど、私は元の「ただの社員」に戻り、彼は「雲の上の社長」に戻る。
胸の奥がズキリと痛むけれど、私は唇を噛んで耐えた。
その時だった。
ガチャン!
硬質な音が響き、私は肩を震わせた。
一条が、グラスをテーブルに叩きつけたのだ。
「い、一条……?」
「……契約終了、だと?」
低い声。
室内の温度が一気に氷点下まで下がった気がした。
彼はゆっくりと立ち上がり、私に近づいてくる。その瞳は、怒っているようでもあり、それ以上に……飢えた肉食獣のように昏く光っていた。
「誰が許可した?」
「え? で、でも、もう優斗たちは……」
「目的? 俺の目的はまだ何も達成されていない」
彼は私の腕を掴むと、強引に立たせた。
そのままバランスを崩した私は、背後の広いソファに押し倒された。
「きゃっ……!」
「……いい加減に気づけ、鈍感女」
視界が彼に覆われる。
逃げ場はない。彼の両腕が私の顔の横に突き立てられ、完全にロックオンされている。
眼鏡の奥の瞳が、青い炎のように揺らめいている。
「演技で、あんな面倒な裁判沙汰を起こすか。演技で、数百万の指輪を贈るか。……演技で、こんなに勃つかよ」
「は……?」
彼の身体が、私の下腹部にぐりと押し付けられる。
スーツ越しでも分かる、硬くて熱い「証拠」。
頭が真っ白になった。
「い、一条、だって、手を出さないって……!」
「言ったな。……だが、お前が指輪を返そうとした時点で、その契約は破棄だ」
彼は私の耳元に顔を寄せ、低い声で囁いた。
「お前は勘違いしているようだが……あの指輪を受け取った時点で、お前は俺の『共犯者』になったんだ。優斗たちを地獄に落とした代償は、高くつくぞ」
「そんな……っ」
「逃がさないと言ったはずだ。……今夜からは、契約内容を変更する」
「へ、変更……?」
「『婚約者のフリ』じゃない。……『俺の女』としての義務を果たせ」
「んっ……!」
唇が塞がれた。
社長室でのキスとは比較にならない、濃厚で、容赦のない口づけ。
彼の舌が口内を蹂躙し、私の理性をごっそりと削り取っていく。
甘い。苦しい。熱い。
「ん、ぁ……まっ、て……!」
「待たない。10年待ったんだ。……もう限界だ」
彼の指が、私のブラウスのボタンに掛かる。
ブチ、と一つ弾け飛ぶ音がしたけれど、彼は気にした様子もない。
露わになった鎖骨に、彼が熱い唇を落とす。
「ひっ……!」
「いい声だ。……もっと聞かせろ」
抵抗しようとする私の腕は、あっさりと彼の片手で制圧された。
力の差は歴然。
それに、身体の奥底では、彼の強引な愛撫に期待してしまっている自分がいた。
(だめ、流されちゃだめ……!)
彼は私のことを「愛している」とは言っていない。
ただ「逃がさない」と言っただけ。
これは独占欲? それとも、ただの気まぐれ?
分からない。でも、彼に触れられるたびに、思考が溶けていく。
「優斗なんかじゃ満足できない身体にしてやる。……俺以外、何も考えられないように」
彼の瞳が、ギラリと光った。
その目に映っているのは、乱れ、頬を染めた私の情けない顔。
「覚悟しろ、美月。……これは罰であり、新しい契約の始まりだ」
宣言と共に、彼の手が私のスカートの中へと侵入する。
私はまだ知らない。
この夜が、本当の意味での「監禁愛」の始まりであり、ここから長く続く、甘くて苦しい「すれ違い生活」の幕開けに過ぎないことを。
私は一条のマンションのリビングで、正座をしていた。
目の前のローテーブルには、あの巨大なダイヤモンドの指輪が置かれている。
ソファに座り、優雅にブランデーを傾けている一条に対し、私は深々と頭を下げた。
「一条社長。……この度は、本当にありがとうございました」
「……何がだ?」
「優斗たちの件です。私のために、あんな完璧な『演技』までしてくださって……。おかげで、彼らは二度と私の前に現れないと思います」
そう、演技だ。
「俺の婚約者だ」というあの宣言も、指輪も、すべては私を救うために彼が演じてくれたパフォーマンス。
そう思っていた。
優斗たちという害虫は排除された。私の汚名も晴らされた。
ならば、これ以上彼の厚意に甘えるわけにはいかない。
「この指輪、お返しします。見合い除けの契約とはいえ、こんな高価なものを持ち続けるわけにはいきませんし……」
私は指輪を彼の方へ押しやった。
「これで契約の目的は果たされたと思います。私は明日、荷物をまとめて出て行きます。短い間でしたが、本当に……」
これでいい。
夢のような時間だったけれど、私は元の「ただの社員」に戻り、彼は「雲の上の社長」に戻る。
胸の奥がズキリと痛むけれど、私は唇を噛んで耐えた。
その時だった。
ガチャン!
硬質な音が響き、私は肩を震わせた。
一条が、グラスをテーブルに叩きつけたのだ。
「い、一条……?」
「……契約終了、だと?」
低い声。
室内の温度が一気に氷点下まで下がった気がした。
彼はゆっくりと立ち上がり、私に近づいてくる。その瞳は、怒っているようでもあり、それ以上に……飢えた肉食獣のように昏く光っていた。
「誰が許可した?」
「え? で、でも、もう優斗たちは……」
「目的? 俺の目的はまだ何も達成されていない」
彼は私の腕を掴むと、強引に立たせた。
そのままバランスを崩した私は、背後の広いソファに押し倒された。
「きゃっ……!」
「……いい加減に気づけ、鈍感女」
視界が彼に覆われる。
逃げ場はない。彼の両腕が私の顔の横に突き立てられ、完全にロックオンされている。
眼鏡の奥の瞳が、青い炎のように揺らめいている。
「演技で、あんな面倒な裁判沙汰を起こすか。演技で、数百万の指輪を贈るか。……演技で、こんなに勃つかよ」
「は……?」
彼の身体が、私の下腹部にぐりと押し付けられる。
スーツ越しでも分かる、硬くて熱い「証拠」。
頭が真っ白になった。
「い、一条、だって、手を出さないって……!」
「言ったな。……だが、お前が指輪を返そうとした時点で、その契約は破棄だ」
彼は私の耳元に顔を寄せ、低い声で囁いた。
「お前は勘違いしているようだが……あの指輪を受け取った時点で、お前は俺の『共犯者』になったんだ。優斗たちを地獄に落とした代償は、高くつくぞ」
「そんな……っ」
「逃がさないと言ったはずだ。……今夜からは、契約内容を変更する」
「へ、変更……?」
「『婚約者のフリ』じゃない。……『俺の女』としての義務を果たせ」
「んっ……!」
唇が塞がれた。
社長室でのキスとは比較にならない、濃厚で、容赦のない口づけ。
彼の舌が口内を蹂躙し、私の理性をごっそりと削り取っていく。
甘い。苦しい。熱い。
「ん、ぁ……まっ、て……!」
「待たない。10年待ったんだ。……もう限界だ」
彼の指が、私のブラウスのボタンに掛かる。
ブチ、と一つ弾け飛ぶ音がしたけれど、彼は気にした様子もない。
露わになった鎖骨に、彼が熱い唇を落とす。
「ひっ……!」
「いい声だ。……もっと聞かせろ」
抵抗しようとする私の腕は、あっさりと彼の片手で制圧された。
力の差は歴然。
それに、身体の奥底では、彼の強引な愛撫に期待してしまっている自分がいた。
(だめ、流されちゃだめ……!)
彼は私のことを「愛している」とは言っていない。
ただ「逃がさない」と言っただけ。
これは独占欲? それとも、ただの気まぐれ?
分からない。でも、彼に触れられるたびに、思考が溶けていく。
「優斗なんかじゃ満足できない身体にしてやる。……俺以外、何も考えられないように」
彼の瞳が、ギラリと光った。
その目に映っているのは、乱れ、頬を染めた私の情けない顔。
「覚悟しろ、美月。……これは罰であり、新しい契約の始まりだ」
宣言と共に、彼の手が私のスカートの中へと侵入する。
私はまだ知らない。
この夜が、本当の意味での「監禁愛」の始まりであり、ここから長く続く、甘くて苦しい「すれ違い生活」の幕開けに過ぎないことを。
42
あなたにおすすめの小説
愛人と暮らすために私と結婚した伯爵子息、皇帝宮の夜会で本音を喋る魔道具を使ったらすべて暴露されました
あきくん☆ひろくん
恋愛
愛人と暮らすために私と結婚した伯爵子息。その本性を知ったのは、結婚した後でした。
私は子供を産むためだけの妻。生まれた子は愛人が育て、私は屋敷に閉じ込められる運命だという。
絶望する私が思い出したのは、大魔導士から渡された魔道具。「心に思ったことを言葉にしてしまう」もの。
そして皇帝宮の夜会で――伯爵子息は皇太子の前で、自分の本音をすべて喋ってしまいました。
この作品は、「僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です」シリーズの外伝です。
リリアーナは、第1作目の第3部のおまけ、のお話にでてくる子爵令嬢です。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
公爵家の次女ですが、静かに学園生活を送るつもりでした
佐伯かなた
恋愛
王国でも屈指の名門、公爵アルヴィス家。
その家には、誰もが称賛する完璧な令嬢がいた。
長女ソフィア。
美貌、知性、礼儀、すべてを備えた理想の公爵令嬢。
そして──もう一人。
妹、レーネ・アルヴィス。
社交界ではほとんど名前も出ない、影の薄い次女。
姉ほど目立つわけでもなく、社交の中心にいるわけでもない。
だが彼女は知っている。
貴族社会では、
誰が本当に優れているのかは、静かな場面でこそ分かるということを。
王立学園に入学したレーネは、
礼儀作法、社交、そして人間関係の中で、静かに周囲を観察していく。
やがて──
軽んじていた者たちは気づく。
「公爵家の妹」が、本当はどんな令嬢だったのかを。
これは、
静かな公爵令嬢が学園と貴族社会で評価を覆していく物語。
うちの幼馴染がデレすぎてて俺の理性はもう限界。でも毎日が最高に甘いからもうどうでもいいや
静内燕
恋愛
相沢悠太の日常は、規格外の美少女である幼馴染、白石葵によって完全に支配されている。
朝のモーニングコール(ベッドへのダイブ付き)から始まり、登校中の腕組み、そして「あーん」が義務付けられた手作り弁当。誰もが羨むラブラブっぷりだが、悠太はこれを「家族愛」だと頑なに誤解(無視)している。
「ゆーたは私の運命の相手なんだもん!」と、葵のデレデレは今日も過剰の一途。周囲の冷やかしや、葵を狙う男子生徒のプレッシャーが高まる中、悠太の**「幼馴染フィルター」**はついに限界を迎える。
この溺愛っぷり、いつまで「家族」で通せるのか?
甘すぎる日常が、悠太の鈍感な理性を溶かし尽くす――最初からクライマックスの、超高濃度イチャイチャ・ラブコメ、開幕!
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。
甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。
だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。
それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。
後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース…
身体から始まる恋愛模様◎
※タイトル一部変更しました。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
完璧な政略結婚のはずでしたが、宰相閣下の“私の妻”扱いが甘すぎます
星乃和花
恋愛
政略結婚のはずでした。
家同士の利も、立場の釣り合いも、全部きちんと整った、完璧に合理的な結婚。
……なのに、夫となった冷徹宰相は、なぜか人前で私を「最高の妻」と紹介し、暮らしを完璧に整え、他人に近づかれると不機嫌になってしまいます。
“天使”と噂される穏やかな令嬢フィオナもまた、
そんな不器用な優しさに少しずつ心をほどかれて――。
これは、条件で選ばれたはずの夫婦が、
いつの間にかお互いを“ただ一人”として欲しくなるまでの、甘くてやさしい政略結婚物語。
(毎日21:50更新ー全8話)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる