「君はいらない」と捨てられた夜、天敵の冷徹社長に「なら、俺が貰う」と拾われました。――手を出さない約束でしたが、彼の理性が限界のようです

葉山 乃愛

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第8話 演技だと思っていたのは私だけ

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「ざまぁ」劇から一夜明けた、週末の夜。
私は一条のマンションのリビングで、正座をしていた。

目の前のローテーブルには、あの巨大なダイヤモンドの指輪が置かれている。
ソファに座り、優雅にブランデーを傾けている一条に対し、私は深々と頭を下げた。

「一条社長。……この度は、本当にありがとうございました」

「……何がだ?」

「優斗たちの件です。私のために、あんな完璧な『演技』までしてくださって……。おかげで、彼らは二度と私の前に現れないと思います」

そう、演技だ。
「俺の婚約者だ」というあの宣言も、指輪も、すべては私を救うために彼が演じてくれたパフォーマンス。
そう思っていた。
優斗たちという害虫は排除された。私の汚名も晴らされた。
ならば、これ以上彼の厚意に甘えるわけにはいかない。

「この指輪、お返しします。見合い除けの契約とはいえ、こんな高価なものを持ち続けるわけにはいきませんし……」

私は指輪を彼の方へ押しやった。

「これで契約の目的は果たされたと思います。私は明日、荷物をまとめて出て行きます。短い間でしたが、本当に……」

これでいい。
夢のような時間だったけれど、私は元の「ただの社員」に戻り、彼は「雲の上の社長」に戻る。
胸の奥がズキリと痛むけれど、私は唇を噛んで耐えた。

その時だった。

ガチャン!

硬質な音が響き、私は肩を震わせた。
一条が、グラスをテーブルに叩きつけたのだ。

「い、一条……?」

「……契約終了、だと?」

低い声。
室内の温度が一気に氷点下まで下がった気がした。
彼はゆっくりと立ち上がり、私に近づいてくる。その瞳は、怒っているようでもあり、それ以上に……飢えた肉食獣のように昏く光っていた。

「誰が許可した?」

「え? で、でも、もう優斗たちは……」

「目的? 俺の目的はまだ何も達成されていない」

彼は私の腕を掴むと、強引に立たせた。
そのままバランスを崩した私は、背後の広いソファに押し倒された。

「きゃっ……!」

「……いい加減に気づけ、鈍感女」

視界が彼に覆われる。
逃げ場はない。彼の両腕が私の顔の横に突き立てられ、完全にロックオンされている。
眼鏡の奥の瞳が、青い炎のように揺らめいている。

「演技で、あんな面倒な裁判沙汰を起こすか。演技で、数百万の指輪を贈るか。……演技で、こんなに勃つかよ」

「は……?」

彼の身体が、私の下腹部にぐりと押し付けられる。
スーツ越しでも分かる、硬くて熱い「証拠」。
頭が真っ白になった。

「い、一条、だって、手を出さないって……!」

「言ったな。……だが、お前が指輪を返そうとした時点で、その契約は破棄だ」

彼は私の耳元に顔を寄せ、低い声で囁いた。

「お前は勘違いしているようだが……あの指輪を受け取った時点で、お前は俺の『共犯者』になったんだ。優斗たちを地獄に落とした代償は、高くつくぞ」

「そんな……っ」

「逃がさないと言ったはずだ。……今夜からは、契約内容を変更する」

「へ、変更……?」

「『婚約者のフリ』じゃない。……『俺の女』としての義務を果たせ」

「んっ……!」

唇が塞がれた。
社長室でのキスとは比較にならない、濃厚で、容赦のない口づけ。
彼の舌が口内を蹂躙し、私の理性をごっそりと削り取っていく。
甘い。苦しい。熱い。

「ん、ぁ……まっ、て……!」

「待たない。10年待ったんだ。……もう限界だ」

彼の指が、私のブラウスのボタンに掛かる。
ブチ、と一つ弾け飛ぶ音がしたけれど、彼は気にした様子もない。
露わになった鎖骨に、彼が熱い唇を落とす。

「ひっ……!」

「いい声だ。……もっと聞かせろ」

抵抗しようとする私の腕は、あっさりと彼の片手で制圧された。
力の差は歴然。
それに、身体の奥底では、彼の強引な愛撫に期待してしまっている自分がいた。

(だめ、流されちゃだめ……!)

彼は私のことを「愛している」とは言っていない。
ただ「逃がさない」と言っただけ。
これは独占欲? それとも、ただの気まぐれ?
分からない。でも、彼に触れられるたびに、思考が溶けていく。

「優斗なんかじゃ満足できない身体にしてやる。……俺以外、何も考えられないように」

彼の瞳が、ギラリと光った。
その目に映っているのは、乱れ、頬を染めた私の情けない顔。

「覚悟しろ、美月。……これは罰であり、新しい契約の始まりだ」

宣言と共に、彼の手が私のスカートの中へと侵入する。
私はまだ知らない。
この夜が、本当の意味での「監禁愛」の始まりであり、ここから長く続く、甘くて苦しい「すれ違い生活」の幕開けに過ぎないことを。
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