「君はいらない」と捨てられた夜、天敵の冷徹社長に「なら、俺が貰う」と拾われました。――手を出さない約束でしたが、彼の理性が限界のようです

葉山 乃愛

文字の大きさ
9 / 81

第9話 甘い支配と、逃げられない朝

しおりを挟む
翌朝。
カーテンの隙間から差し込む日差しで、私は重いまぶたを持ち上げた。

「……っ」

身体を動かそうとした瞬間、全身に走る鈍い痛みと倦怠感に、思わず声が漏れる。
腰が痛い。足がだるい。
そして何より、肌のあちこちに刻まれた赤い痕跡が、昨夜の出来事が夢ではなかったことを容赦なく突きつけてくる。

「……うそ、でしょ」

シーツを握りしめ、私は顔を覆った。
されてしまった。
「手を出さない」という当初の契約はどこへやら。
タガが外れた一条蓮という男は、文字通り一晩中、私を離さなかったのだ。
何度も名前を呼ばされ、恥ずかしい言葉を言わされ、気絶しそうになるまで愛された記憶が、鮮明に蘇ってきて顔から火が出そうになる。

「……起きたか」

頭上から、満足げな低い声が降ってきた。
ビクリと肩を震わせて見上げると、隣で頬杖をついた一条が、面白がるように私を見下ろしていた。
寝起きで乱れた前髪。はだけたパジャマの胸元。
その無防備な色気は凶器に近い。

「お、おはよう……ございます」

「敬語」

「……おはよう、蓮」

恐る恐る名前を呼ぶと、彼は目を細め、私の額に優しくキスを落とした。

「いい子だ」

まるで躾(しつけ)の行き届いたペットを褒めるような手つきで、彼は私の髪を撫でた。

「身体はどうだ? ……昨夜は少々、張り切りすぎたかもしれん」

「……自覚があるなら、反省してください」

「反省? するわけがないだろう。10年分の食欲が、一晩で満たされると思ったか?」

彼は悪びれる様子もなく言い放ち、私の鎖骨にあるキスマークを指先でなぞった。

「むしろ、これからが本番だ。……覚悟しておけと言ったはずだぞ」

ゾクリと背筋が震える。
その言葉の意味を理解し、私は暗い気持ちになった。

(やっぱり、そういうことなんだ……)

昨夜、彼は「逃がさない」と言った。
けれど、「愛している」とは一度も言わなかった。
彼は、私が優斗に捨てられたタイミングで、私を「拾った」。
それは、かつて自分から学年一位の座を奪った私を、自分の支配下に置いて屈服させるための、彼なりの復讐というか……歪んだ征服欲なのかもしれない。

「……契約、ですもんね」

私が小さく呟くと、蓮の手がピタリと止まった。

「……なんだ、その顔は」

「いえ。……これからは『俺の女としての義務を果たせ』と、そう仰いましたよね。昨夜のあれも、その義務の一環なんですよね」

私は自分に言い聞かせるように言った。
期待しちゃいけない。
彼は大企業の社長で、私はただの社員。
この関係は、彼が飽きるまでの「期間限定の情事」なのだと。

蓮は眉間の皺を深くし、不機嫌そうに私を睨んだ。

「……お前、相変わらず可愛げのない解釈をするな」

「事実です。……これからは、家政婦兼、夜のお相手としてお仕えします」

私がベッドから出ようとすると、強い力で腕を引かれ、再び彼の胸の中に閉じ込められた。

「離して……!」

「逃げるな。……いいか、よく聞け」

彼は私の顎を持ち上げ、逃げ場のない距離で見つめた。

「俺が求めているのは、そんなドライな関係じゃない。……お前の心も身体も、生活のすべても、俺一色に染めることだ」

「それが支配欲だって言ってるの」

「呼び方はどうでもいい。……とにかく、今日からルールを追加する」

彼は私の唇を親指で強くなぞり、新たな契約条件を提示した。

一、俺以外の男と目を合わせるな。業務連絡以外の私語も禁止だ。
二、帰宅時間は毎日報告しろ。寄り道は許さん。
三、毎晩、俺の腕の中で眠れ。拒否権はない。

「……横暴すぎます」

「嫌なら出て行くか? ……優斗たちがいなくなった今、お前を守る盾は俺しかいないぞ」

ズルい。
彼は私が逃げられないことを分かっていて、わざと外堀を埋めている。
でも、その強引な腕の温もりが、今の私にはどうしようもなく心地よくて……拒絶できない自分が悔しかった。

「……分かりました。従います」

「よろしい」

彼は満足げに笑うと、今度は深い、所有の印のようなキスを落とした。

「さあ、支度をしろ。今日も送っていく」

「えっ、一緒に行くの!? 社員に見られたら……」

「構わん。むしろ見せつけてやりたいくらいだ」

「絶対だめ! 私が先に出ますから!」

慌ててベッドから飛び起きる私を、彼は楽しそうに眺めていた。

こうして、私の「甘くて重い監禁生活」の第二章が幕を開けた。
私はまだ気づいていない。
彼が提示したルールが、単なる束縛ではなく、不安な私を他の悪い虫から守るための、彼なりの不器用すぎる愛情表現だということに。

そして、会社に行けば行ったで、今までとは違う「新たな敵」が待ち受けていることにも。



~あとがき~
ここまで読んでいただきありがとうございます。
もし面白いと感じていただけたら、お気に入りや応援をいただけると嬉しいです。
執筆の励みにしています。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛人と暮らすために私と結婚した伯爵子息、皇帝宮の夜会で本音を喋る魔道具を使ったらすべて暴露されました

あきくん☆ひろくん
恋愛
愛人と暮らすために私と結婚した伯爵子息。その本性を知ったのは、結婚した後でした。 私は子供を産むためだけの妻。生まれた子は愛人が育て、私は屋敷に閉じ込められる運命だという。 絶望する私が思い出したのは、大魔導士から渡された魔道具。「心に思ったことを言葉にしてしまう」もの。 そして皇帝宮の夜会で――伯爵子息は皇太子の前で、自分の本音をすべて喋ってしまいました。 この作品は、「僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です」シリーズの外伝です。 リリアーナは、第1作目の第3部のおまけ、のお話にでてくる子爵令嬢です。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

公爵家の次女ですが、静かに学園生活を送るつもりでした

佐伯かなた
恋愛
王国でも屈指の名門、公爵アルヴィス家。 その家には、誰もが称賛する完璧な令嬢がいた。 長女ソフィア。 美貌、知性、礼儀、すべてを備えた理想の公爵令嬢。 そして──もう一人。 妹、レーネ・アルヴィス。 社交界ではほとんど名前も出ない、影の薄い次女。 姉ほど目立つわけでもなく、社交の中心にいるわけでもない。 だが彼女は知っている。 貴族社会では、 誰が本当に優れているのかは、静かな場面でこそ分かるということを。 王立学園に入学したレーネは、 礼儀作法、社交、そして人間関係の中で、静かに周囲を観察していく。 やがて── 軽んじていた者たちは気づく。 「公爵家の妹」が、本当はどんな令嬢だったのかを。 これは、 静かな公爵令嬢が学園と貴族社会で評価を覆していく物語。

うちの幼馴染がデレすぎてて俺の理性はもう限界。でも毎日が最高に甘いからもうどうでもいいや

静内燕
恋愛
相沢悠太の日常は、規格外の美少女である幼馴染、白石葵によって完全に支配されている。 朝のモーニングコール(ベッドへのダイブ付き)から始まり、登校中の腕組み、そして「あーん」が義務付けられた手作り弁当。誰もが羨むラブラブっぷりだが、悠太はこれを「家族愛」だと頑なに誤解(無視)している。 「ゆーたは私の運命の相手なんだもん!」と、葵のデレデレは今日も過剰の一途。周囲の冷やかしや、葵を狙う男子生徒のプレッシャーが高まる中、悠太の**「幼馴染フィルター」**はついに限界を迎える。 この溺愛っぷり、いつまで「家族」で通せるのか? 甘すぎる日常が、悠太の鈍感な理性を溶かし尽くす――最初からクライマックスの、超高濃度イチャイチャ・ラブコメ、開幕!

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。

甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。 だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。 それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。 後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース… 身体から始まる恋愛模様◎ ※タイトル一部変更しました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

完璧な政略結婚のはずでしたが、宰相閣下の“私の妻”扱いが甘すぎます

星乃和花
恋愛
政略結婚のはずでした。 家同士の利も、立場の釣り合いも、全部きちんと整った、完璧に合理的な結婚。 ……なのに、夫となった冷徹宰相は、なぜか人前で私を「最高の妻」と紹介し、暮らしを完璧に整え、他人に近づかれると不機嫌になってしまいます。 “天使”と噂される穏やかな令嬢フィオナもまた、 そんな不器用な優しさに少しずつ心をほどかれて――。 これは、条件で選ばれたはずの夫婦が、 いつの間にかお互いを“ただ一人”として欲しくなるまでの、甘くてやさしい政略結婚物語。 (毎日21:50更新ー全8話)

処理中です...