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第9話 甘い支配と、逃げられない朝
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翌朝。
カーテンの隙間から差し込む日差しで、私は重いまぶたを持ち上げた。
「……っ」
身体を動かそうとした瞬間、全身に走る鈍い痛みと倦怠感に、思わず声が漏れる。
腰が痛い。足がだるい。
そして何より、肌のあちこちに刻まれた赤い痕跡が、昨夜の出来事が夢ではなかったことを容赦なく突きつけてくる。
「……うそ、でしょ」
シーツを握りしめ、私は顔を覆った。
されてしまった。
「手を出さない」という当初の契約はどこへやら。
タガが外れた一条蓮という男は、文字通り一晩中、私を離さなかったのだ。
何度も名前を呼ばされ、恥ずかしい言葉を言わされ、気絶しそうになるまで愛された記憶が、鮮明に蘇ってきて顔から火が出そうになる。
「……起きたか」
頭上から、満足げな低い声が降ってきた。
ビクリと肩を震わせて見上げると、隣で頬杖をついた一条が、面白がるように私を見下ろしていた。
寝起きで乱れた前髪。はだけたパジャマの胸元。
その無防備な色気は凶器に近い。
「お、おはよう……ございます」
「敬語」
「……おはよう、蓮」
恐る恐る名前を呼ぶと、彼は目を細め、私の額に優しくキスを落とした。
「いい子だ」
まるで躾(しつけ)の行き届いたペットを褒めるような手つきで、彼は私の髪を撫でた。
「身体はどうだ? ……昨夜は少々、張り切りすぎたかもしれん」
「……自覚があるなら、反省してください」
「反省? するわけがないだろう。10年分の食欲が、一晩で満たされると思ったか?」
彼は悪びれる様子もなく言い放ち、私の鎖骨にあるキスマークを指先でなぞった。
「むしろ、これからが本番だ。……覚悟しておけと言ったはずだぞ」
ゾクリと背筋が震える。
その言葉の意味を理解し、私は暗い気持ちになった。
(やっぱり、そういうことなんだ……)
昨夜、彼は「逃がさない」と言った。
けれど、「愛している」とは一度も言わなかった。
彼は、私が優斗に捨てられたタイミングで、私を「拾った」。
それは、かつて自分から学年一位の座を奪った私を、自分の支配下に置いて屈服させるための、彼なりの復讐というか……歪んだ征服欲なのかもしれない。
「……契約、ですもんね」
私が小さく呟くと、蓮の手がピタリと止まった。
「……なんだ、その顔は」
「いえ。……これからは『俺の女としての義務を果たせ』と、そう仰いましたよね。昨夜のあれも、その義務の一環なんですよね」
私は自分に言い聞かせるように言った。
期待しちゃいけない。
彼は大企業の社長で、私はただの社員。
この関係は、彼が飽きるまでの「期間限定の情事」なのだと。
蓮は眉間の皺を深くし、不機嫌そうに私を睨んだ。
「……お前、相変わらず可愛げのない解釈をするな」
「事実です。……これからは、家政婦兼、夜のお相手としてお仕えします」
私がベッドから出ようとすると、強い力で腕を引かれ、再び彼の胸の中に閉じ込められた。
「離して……!」
「逃げるな。……いいか、よく聞け」
彼は私の顎を持ち上げ、逃げ場のない距離で見つめた。
「俺が求めているのは、そんなドライな関係じゃない。……お前の心も身体も、生活のすべても、俺一色に染めることだ」
「それが支配欲だって言ってるの」
「呼び方はどうでもいい。……とにかく、今日からルールを追加する」
彼は私の唇を親指で強くなぞり、新たな契約条件を提示した。
一、俺以外の男と目を合わせるな。業務連絡以外の私語も禁止だ。
二、帰宅時間は毎日報告しろ。寄り道は許さん。
三、毎晩、俺の腕の中で眠れ。拒否権はない。
「……横暴すぎます」
「嫌なら出て行くか? ……優斗たちがいなくなった今、お前を守る盾は俺しかいないぞ」
ズルい。
彼は私が逃げられないことを分かっていて、わざと外堀を埋めている。
でも、その強引な腕の温もりが、今の私にはどうしようもなく心地よくて……拒絶できない自分が悔しかった。
「……分かりました。従います」
「よろしい」
彼は満足げに笑うと、今度は深い、所有の印のようなキスを落とした。
「さあ、支度をしろ。今日も送っていく」
「えっ、一緒に行くの!? 社員に見られたら……」
「構わん。むしろ見せつけてやりたいくらいだ」
「絶対だめ! 私が先に出ますから!」
慌ててベッドから飛び起きる私を、彼は楽しそうに眺めていた。
こうして、私の「甘くて重い監禁生活」の第二章が幕を開けた。
私はまだ気づいていない。
彼が提示したルールが、単なる束縛ではなく、不安な私を他の悪い虫から守るための、彼なりの不器用すぎる愛情表現だということに。
そして、会社に行けば行ったで、今までとは違う「新たな敵」が待ち受けていることにも。
~あとがき~
ここまで読んでいただきありがとうございます。
もし面白いと感じていただけたら、お気に入りや応援をいただけると嬉しいです。
執筆の励みにしています。
カーテンの隙間から差し込む日差しで、私は重いまぶたを持ち上げた。
「……っ」
身体を動かそうとした瞬間、全身に走る鈍い痛みと倦怠感に、思わず声が漏れる。
腰が痛い。足がだるい。
そして何より、肌のあちこちに刻まれた赤い痕跡が、昨夜の出来事が夢ではなかったことを容赦なく突きつけてくる。
「……うそ、でしょ」
シーツを握りしめ、私は顔を覆った。
されてしまった。
「手を出さない」という当初の契約はどこへやら。
タガが外れた一条蓮という男は、文字通り一晩中、私を離さなかったのだ。
何度も名前を呼ばされ、恥ずかしい言葉を言わされ、気絶しそうになるまで愛された記憶が、鮮明に蘇ってきて顔から火が出そうになる。
「……起きたか」
頭上から、満足げな低い声が降ってきた。
ビクリと肩を震わせて見上げると、隣で頬杖をついた一条が、面白がるように私を見下ろしていた。
寝起きで乱れた前髪。はだけたパジャマの胸元。
その無防備な色気は凶器に近い。
「お、おはよう……ございます」
「敬語」
「……おはよう、蓮」
恐る恐る名前を呼ぶと、彼は目を細め、私の額に優しくキスを落とした。
「いい子だ」
まるで躾(しつけ)の行き届いたペットを褒めるような手つきで、彼は私の髪を撫でた。
「身体はどうだ? ……昨夜は少々、張り切りすぎたかもしれん」
「……自覚があるなら、反省してください」
「反省? するわけがないだろう。10年分の食欲が、一晩で満たされると思ったか?」
彼は悪びれる様子もなく言い放ち、私の鎖骨にあるキスマークを指先でなぞった。
「むしろ、これからが本番だ。……覚悟しておけと言ったはずだぞ」
ゾクリと背筋が震える。
その言葉の意味を理解し、私は暗い気持ちになった。
(やっぱり、そういうことなんだ……)
昨夜、彼は「逃がさない」と言った。
けれど、「愛している」とは一度も言わなかった。
彼は、私が優斗に捨てられたタイミングで、私を「拾った」。
それは、かつて自分から学年一位の座を奪った私を、自分の支配下に置いて屈服させるための、彼なりの復讐というか……歪んだ征服欲なのかもしれない。
「……契約、ですもんね」
私が小さく呟くと、蓮の手がピタリと止まった。
「……なんだ、その顔は」
「いえ。……これからは『俺の女としての義務を果たせ』と、そう仰いましたよね。昨夜のあれも、その義務の一環なんですよね」
私は自分に言い聞かせるように言った。
期待しちゃいけない。
彼は大企業の社長で、私はただの社員。
この関係は、彼が飽きるまでの「期間限定の情事」なのだと。
蓮は眉間の皺を深くし、不機嫌そうに私を睨んだ。
「……お前、相変わらず可愛げのない解釈をするな」
「事実です。……これからは、家政婦兼、夜のお相手としてお仕えします」
私がベッドから出ようとすると、強い力で腕を引かれ、再び彼の胸の中に閉じ込められた。
「離して……!」
「逃げるな。……いいか、よく聞け」
彼は私の顎を持ち上げ、逃げ場のない距離で見つめた。
「俺が求めているのは、そんなドライな関係じゃない。……お前の心も身体も、生活のすべても、俺一色に染めることだ」
「それが支配欲だって言ってるの」
「呼び方はどうでもいい。……とにかく、今日からルールを追加する」
彼は私の唇を親指で強くなぞり、新たな契約条件を提示した。
一、俺以外の男と目を合わせるな。業務連絡以外の私語も禁止だ。
二、帰宅時間は毎日報告しろ。寄り道は許さん。
三、毎晩、俺の腕の中で眠れ。拒否権はない。
「……横暴すぎます」
「嫌なら出て行くか? ……優斗たちがいなくなった今、お前を守る盾は俺しかいないぞ」
ズルい。
彼は私が逃げられないことを分かっていて、わざと外堀を埋めている。
でも、その強引な腕の温もりが、今の私にはどうしようもなく心地よくて……拒絶できない自分が悔しかった。
「……分かりました。従います」
「よろしい」
彼は満足げに笑うと、今度は深い、所有の印のようなキスを落とした。
「さあ、支度をしろ。今日も送っていく」
「えっ、一緒に行くの!? 社員に見られたら……」
「構わん。むしろ見せつけてやりたいくらいだ」
「絶対だめ! 私が先に出ますから!」
慌ててベッドから飛び起きる私を、彼は楽しそうに眺めていた。
こうして、私の「甘くて重い監禁生活」の第二章が幕を開けた。
私はまだ気づいていない。
彼が提示したルールが、単なる束縛ではなく、不安な私を他の悪い虫から守るための、彼なりの不器用すぎる愛情表現だということに。
そして、会社に行けば行ったで、今までとは違う「新たな敵」が待ち受けていることにも。
~あとがき~
ここまで読んでいただきありがとうございます。
もし面白いと感じていただけたら、お気に入りや応援をいただけると嬉しいです。
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