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第12話 体温で溶かす不安と、魔王からの呼び出し
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最上階のペントハウスに戻るやいなや、私は玄関で蓮に抱き上げられた。
「きゃっ……! 蓮、靴くらい脱がせて……」
「待てない」
彼は私の抗議を無視して、そのまま寝室へと直行した。
キングサイズのベッドに放り出され、沈み込んだ身体の上に、すぐに彼が覆いかぶさってくる。
眼鏡を外した彼の瞳は、獲物を前にした獣のように熱っぽく潤んでいた。
「……まだ、あんな女の言葉を気にしているのか?」
私の強張った表情を見て、彼は不機嫌そうに眉を寄せた。
「だって……鷹司さんの言う通りだもの。私には品格も、家柄もない。蓮の隣にいると、あなたが笑われるんじゃないかって……」
「馬鹿げている」
彼は私の言葉を遮り、首筋に深く噛み付いた。
「っ……痛い……!」
「笑わせておけばいい。俺の価値は、俺が決める。そして、俺の女の価値も、俺が決める」
彼の舌が、噛んだ痕を優しく慰めるように這う。
痛さと甘さが同時に襲ってきて、思考がまとまらない。
「お前は余計なことを考えるな。……俺に愛されることだけ考えていればいい」
「でも……んっ!」
反論しようとした唇は、彼の熱い口づけによって塞がれた。
ロビーでの毅然とした態度とは違う、とろけるように甘く、執拗なキス。
彼の大きな手が、ブラウスの中に滑り込み、直接肌に触れる。
その掌の熱さが、冷え切っていた私の心の芯まで届くようだった。
「蓮、だめ、そんな激しく……」
「嫌か?」
耳元で低く囁かれ、私は首を横に振ることしかできなかった。
嫌なはずがない。
不安で押しつぶされそうな時ほど、彼に強く求められることで、自分の存在価値を確かめたくなってしまう。
そんな弱さを、彼は全部見透かしているのだ。
「……素直でいい子だ」
彼は満足げに笑い、私の身体を慈しむように、けれど容赦なく愛し始めた。
「見てろ、美月。お前の身体中の細胞すべてに、俺の記憶を刻んでやる。……『家柄』なんて下らない言葉が入り込む隙間なんてないくらいにな」
その夜、彼は有言実行した。
何度も絶頂に達し、意識が飛びそうになっても、彼は決して私を離さなかった。
不安も、劣等感も、すべて快楽で塗り潰されるまで。
私はただ、彼の名前を呼び、彼にしがみつくことしか許されなかった。
翌朝。
私は鳥のさえずりではなく、不穏な着信音で目を覚ました。
「……ん」
重い身体を起こそうとすると、サイドテーブルに置かれた蓮のスマートフォンが震えていた。
蓮はまだ、私の腰に腕を回したまま深く眠っている。
昨夜、あれだけ暴れ回ったのだから当然だ。
画面を見ると、表示された名前は『母上』。
「……っ!」
一瞬で眠気が吹き飛んだ。
昨日の彩華さんの言葉が蘇る。
『お母様も、わたくしとの縁談を望んでおいでですわ』
(どうしよう、起こすべき?)
迷っているうちに留守番電話に切り替わり、着信音は止んだ。
ホッと息をついた瞬間、蓮がのっそりと目を開けた。
「……なんだ、うるさいな」
「ご、ごめんなさい。電話……お母様から」
「母上?」
蓮は不愉快そうに顔をしかめ、スマートフォンを手に取った。
履歴を確認し、ため息をつく。
「……チッ。朝から縁起でもない」
「かけ直さないの?」
「どうせ彩華からあることないこと吹き込まれたんだろう。『すぐに別れさせなさい』という小言だ。聞く価値もない」
彼はスマートフォンを放り投げ、再び私を抱き寄せようとした。
けれど、スマートフォンが再び震え出した。
今度は着信ではない。メッセージの通知だ。
画面にポップアップされた短い文章を見て、蓮の動きが止まった。
『来週の日曜日、一条家の本邸にて食事会を開きます。例の彼女を連れてきなさい。逃げれば、彼女の身の破滅よ』
「……ッ」
蓮の腕に力がこもる。
私も画面を覗き込み、血の気が引いた。
これは招待ではない。呼び出しだ。
それも、断れば私に危害を加えるという、明確な脅迫を含んだ。
「……美月」
蓮は私を見つめ、真剣な表情で言った。
「行かなくていい。俺だけで行く」
「でも……『彼女の身の破滅』って」
「ハッタリだ。俺が守る」
「ううん、行くわ」
私は震える手を握りしめ、彼の目を見返した。
昨夜、彼に愛されて、少しだけ強くなれた気がするから。
「私、蓮の婚約者なんでしょう? ……契約だとしても、あなたが守ってくれるなら、私は逃げない」
逃げてばかりじゃ、いつまで経っても「泥足の女」のままだ。
彼が選んでくれた私を、私自身が信じなきゃいけない。
蓮は少し驚いたように目を見開き、それから愛おしそうに目を細めた。
彼は私の手を取り、指輪に口付けた。
「……分かった。覚悟を決めろ」
彼はニヤリと、不敵な笑みを浮かべた。
「魔王の城に乗り込むぞ。……俺が選んだ女がどれほど素晴らしいか、あの頭の固いババアに分からせてやる」
最強の盾と共に、最大の試練へ。
私たちの戦いは、まだ始まったばかりだった。
「きゃっ……! 蓮、靴くらい脱がせて……」
「待てない」
彼は私の抗議を無視して、そのまま寝室へと直行した。
キングサイズのベッドに放り出され、沈み込んだ身体の上に、すぐに彼が覆いかぶさってくる。
眼鏡を外した彼の瞳は、獲物を前にした獣のように熱っぽく潤んでいた。
「……まだ、あんな女の言葉を気にしているのか?」
私の強張った表情を見て、彼は不機嫌そうに眉を寄せた。
「だって……鷹司さんの言う通りだもの。私には品格も、家柄もない。蓮の隣にいると、あなたが笑われるんじゃないかって……」
「馬鹿げている」
彼は私の言葉を遮り、首筋に深く噛み付いた。
「っ……痛い……!」
「笑わせておけばいい。俺の価値は、俺が決める。そして、俺の女の価値も、俺が決める」
彼の舌が、噛んだ痕を優しく慰めるように這う。
痛さと甘さが同時に襲ってきて、思考がまとまらない。
「お前は余計なことを考えるな。……俺に愛されることだけ考えていればいい」
「でも……んっ!」
反論しようとした唇は、彼の熱い口づけによって塞がれた。
ロビーでの毅然とした態度とは違う、とろけるように甘く、執拗なキス。
彼の大きな手が、ブラウスの中に滑り込み、直接肌に触れる。
その掌の熱さが、冷え切っていた私の心の芯まで届くようだった。
「蓮、だめ、そんな激しく……」
「嫌か?」
耳元で低く囁かれ、私は首を横に振ることしかできなかった。
嫌なはずがない。
不安で押しつぶされそうな時ほど、彼に強く求められることで、自分の存在価値を確かめたくなってしまう。
そんな弱さを、彼は全部見透かしているのだ。
「……素直でいい子だ」
彼は満足げに笑い、私の身体を慈しむように、けれど容赦なく愛し始めた。
「見てろ、美月。お前の身体中の細胞すべてに、俺の記憶を刻んでやる。……『家柄』なんて下らない言葉が入り込む隙間なんてないくらいにな」
その夜、彼は有言実行した。
何度も絶頂に達し、意識が飛びそうになっても、彼は決して私を離さなかった。
不安も、劣等感も、すべて快楽で塗り潰されるまで。
私はただ、彼の名前を呼び、彼にしがみつくことしか許されなかった。
翌朝。
私は鳥のさえずりではなく、不穏な着信音で目を覚ました。
「……ん」
重い身体を起こそうとすると、サイドテーブルに置かれた蓮のスマートフォンが震えていた。
蓮はまだ、私の腰に腕を回したまま深く眠っている。
昨夜、あれだけ暴れ回ったのだから当然だ。
画面を見ると、表示された名前は『母上』。
「……っ!」
一瞬で眠気が吹き飛んだ。
昨日の彩華さんの言葉が蘇る。
『お母様も、わたくしとの縁談を望んでおいでですわ』
(どうしよう、起こすべき?)
迷っているうちに留守番電話に切り替わり、着信音は止んだ。
ホッと息をついた瞬間、蓮がのっそりと目を開けた。
「……なんだ、うるさいな」
「ご、ごめんなさい。電話……お母様から」
「母上?」
蓮は不愉快そうに顔をしかめ、スマートフォンを手に取った。
履歴を確認し、ため息をつく。
「……チッ。朝から縁起でもない」
「かけ直さないの?」
「どうせ彩華からあることないこと吹き込まれたんだろう。『すぐに別れさせなさい』という小言だ。聞く価値もない」
彼はスマートフォンを放り投げ、再び私を抱き寄せようとした。
けれど、スマートフォンが再び震え出した。
今度は着信ではない。メッセージの通知だ。
画面にポップアップされた短い文章を見て、蓮の動きが止まった。
『来週の日曜日、一条家の本邸にて食事会を開きます。例の彼女を連れてきなさい。逃げれば、彼女の身の破滅よ』
「……ッ」
蓮の腕に力がこもる。
私も画面を覗き込み、血の気が引いた。
これは招待ではない。呼び出しだ。
それも、断れば私に危害を加えるという、明確な脅迫を含んだ。
「……美月」
蓮は私を見つめ、真剣な表情で言った。
「行かなくていい。俺だけで行く」
「でも……『彼女の身の破滅』って」
「ハッタリだ。俺が守る」
「ううん、行くわ」
私は震える手を握りしめ、彼の目を見返した。
昨夜、彼に愛されて、少しだけ強くなれた気がするから。
「私、蓮の婚約者なんでしょう? ……契約だとしても、あなたが守ってくれるなら、私は逃げない」
逃げてばかりじゃ、いつまで経っても「泥足の女」のままだ。
彼が選んでくれた私を、私自身が信じなきゃいけない。
蓮は少し驚いたように目を見開き、それから愛おしそうに目を細めた。
彼は私の手を取り、指輪に口付けた。
「……分かった。覚悟を決めろ」
彼はニヤリと、不敵な笑みを浮かべた。
「魔王の城に乗り込むぞ。……俺が選んだ女がどれほど素晴らしいか、あの頭の固いババアに分からせてやる」
最強の盾と共に、最大の試練へ。
私たちの戦いは、まだ始まったばかりだった。
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