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第17話 裸の王様と、試される愛
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「……なんだ、これは」
オフィスに戻った蓮は、デスクの上に置かれた一枚の封書を手に取り、低く唸った。
差出人は、一条百合子。
封を切ると、中から出てきたのは「解任通知」と「資産凍結命令書」だった。
『本日付で、一条蓮を一条グループ代表取締役社長から解任する。及び、一条家名義の全ての銀行口座、クレジットカード、不動産の使用を凍結する』
紙きれ一枚で、蓮の社会的地位と財産をすべて奪う。
それが、女帝・百合子のやり方だった。
「……本気か、あのババア」
蓮は舌打ちをし、自身のゴールドカードを財布から取り出した。
試しに秘書に命じて決済端末に通させるが、無情なエラー音が響く。
使えない。
マンションも、車も、今着ているスーツさえも、すべて一条家の資産だ。
明日から、彼は文字通り「無一文」になる。
「蓮……ごめんなさい。私のせいで……」
私は血の気が引くのを感じた。
私の存在が、彼をここまで追い詰めてしまった。
社長の座を追われ、家も金も失い、ただの人になってしまうなんて。
「……謝るな」
蓮は書類をデスクに投げ捨て、ふっと笑った。
「むしろ好都合だ。これで俺は、一条家の呪縛から完全に解放された」
「でも、これからどうするの? 住む場所も、生活費だって……」
「美月」
彼は私の肩を掴み、真剣な瞳で見つめた。
「俺は今、無一文の『ただの男』になった。……地位も名誉もない、裸の王様だ」
彼の指が、私の頬を撫でる。
「それでも、お前は俺と一緒にいてくれるか? ……金のない俺には、価値がないか?」
試されている。
いや、彼自身が怖がっているのかもしれない。
「一条蓮」というブランドがなくなった自分を、私が愛してくれるかどうか。
私は迷わず、彼の手を握り返した。
「当たり前じゃない。……私は、蓮が誰であろうと関係ない」
高校時代、彼が学年一位だったから意識していたわけじゃない。
再会した時、彼が社長だったから惹かれたわけじゃない。
私を救い、守り、不器用なほど愛してくれた「彼自身」が好きなのだ。
「蓮が裸の王様なら、私が養ってあげる。……私、プランナーのお給料入ったばかりだし、安いアパートならすぐに借りられるから」
私が力説すると、蓮は一瞬ぽかんとし、それからお腹を抱えて笑い出した。
「くくっ……! お前、最高だよ。……俺を養う? 俺をヒモにする気か?」
「だ、だって! 仕方ないじゃない!」
「ははは! ……ああ、愛してるよ、美月」
彼は私を抱きしめ、今までで一番優しいキスをした。
不安も焦りもない、穏やかな愛の口づけ。
「安心しろ。ヒモになるつもりはない」
彼は上着のポケットから、古びたUSBメモリを取り出した。
「母上は知らなかったようだな。……俺が高校時代から、個人名義で『別の事業』を育てていたことを」
「え?」
「ITベンチャーへの投資、暗号資産、海外不動産。……一条家の監視が届かないところで、コツコツと貯めてきた『へそくり』がある」
彼はニヤリと笑った。
「その額、ざっと50億。……一条グループの資産には及ばないが、お前一人を一生贅沢させるくらいは余裕だ」
「ご、50億……!?」
桁が違いすぎてめまいがした。
この男、転んでもただでは起きないどころか、最初から独自の城を築いていたのだ。
「さあ、反撃の時間だ。……裸の王様が、どれだけ凶暴か教えてやる」
蓮はスマホを取り出し、どこかへ電話をかけた。
「……ああ、俺だ。計画通り、新会社を立ち上げる。……ああ、主要な技術者と取引先は、すべてこちらへ引き抜け。一条グループを空っぽにしてやれ」
電話越しの声は、冷徹な経営者のものだった。
百合子会長は、虎の尾を踏んだのだ。
眠れる獅子を檻から解き放ち、自由を与えてしまったことに、彼女はまだ気づいていない。
翌日。
業界を揺るがすニュースが駆け巡った。
『一条蓮、電撃辞任。新会社設立へ』
そして、一条グループの株価は大暴落を始めた。
私の「魔王討伐」の物語は、ここから蓮との「国盗り物語」へと変わっていく。
けれどその前に、私にはどうしても確かめなければならないことがあった。
10年前。
高校時代の彼が、本当に私を見ていたのかどうか。
そして、なぜそこまで私に執着するのか。
その「答え」は、蓮が引っ越しのために持ち出した、一冊の古いアルバムの中に隠されていた。
オフィスに戻った蓮は、デスクの上に置かれた一枚の封書を手に取り、低く唸った。
差出人は、一条百合子。
封を切ると、中から出てきたのは「解任通知」と「資産凍結命令書」だった。
『本日付で、一条蓮を一条グループ代表取締役社長から解任する。及び、一条家名義の全ての銀行口座、クレジットカード、不動産の使用を凍結する』
紙きれ一枚で、蓮の社会的地位と財産をすべて奪う。
それが、女帝・百合子のやり方だった。
「……本気か、あのババア」
蓮は舌打ちをし、自身のゴールドカードを財布から取り出した。
試しに秘書に命じて決済端末に通させるが、無情なエラー音が響く。
使えない。
マンションも、車も、今着ているスーツさえも、すべて一条家の資産だ。
明日から、彼は文字通り「無一文」になる。
「蓮……ごめんなさい。私のせいで……」
私は血の気が引くのを感じた。
私の存在が、彼をここまで追い詰めてしまった。
社長の座を追われ、家も金も失い、ただの人になってしまうなんて。
「……謝るな」
蓮は書類をデスクに投げ捨て、ふっと笑った。
「むしろ好都合だ。これで俺は、一条家の呪縛から完全に解放された」
「でも、これからどうするの? 住む場所も、生活費だって……」
「美月」
彼は私の肩を掴み、真剣な瞳で見つめた。
「俺は今、無一文の『ただの男』になった。……地位も名誉もない、裸の王様だ」
彼の指が、私の頬を撫でる。
「それでも、お前は俺と一緒にいてくれるか? ……金のない俺には、価値がないか?」
試されている。
いや、彼自身が怖がっているのかもしれない。
「一条蓮」というブランドがなくなった自分を、私が愛してくれるかどうか。
私は迷わず、彼の手を握り返した。
「当たり前じゃない。……私は、蓮が誰であろうと関係ない」
高校時代、彼が学年一位だったから意識していたわけじゃない。
再会した時、彼が社長だったから惹かれたわけじゃない。
私を救い、守り、不器用なほど愛してくれた「彼自身」が好きなのだ。
「蓮が裸の王様なら、私が養ってあげる。……私、プランナーのお給料入ったばかりだし、安いアパートならすぐに借りられるから」
私が力説すると、蓮は一瞬ぽかんとし、それからお腹を抱えて笑い出した。
「くくっ……! お前、最高だよ。……俺を養う? 俺をヒモにする気か?」
「だ、だって! 仕方ないじゃない!」
「ははは! ……ああ、愛してるよ、美月」
彼は私を抱きしめ、今までで一番優しいキスをした。
不安も焦りもない、穏やかな愛の口づけ。
「安心しろ。ヒモになるつもりはない」
彼は上着のポケットから、古びたUSBメモリを取り出した。
「母上は知らなかったようだな。……俺が高校時代から、個人名義で『別の事業』を育てていたことを」
「え?」
「ITベンチャーへの投資、暗号資産、海外不動産。……一条家の監視が届かないところで、コツコツと貯めてきた『へそくり』がある」
彼はニヤリと笑った。
「その額、ざっと50億。……一条グループの資産には及ばないが、お前一人を一生贅沢させるくらいは余裕だ」
「ご、50億……!?」
桁が違いすぎてめまいがした。
この男、転んでもただでは起きないどころか、最初から独自の城を築いていたのだ。
「さあ、反撃の時間だ。……裸の王様が、どれだけ凶暴か教えてやる」
蓮はスマホを取り出し、どこかへ電話をかけた。
「……ああ、俺だ。計画通り、新会社を立ち上げる。……ああ、主要な技術者と取引先は、すべてこちらへ引き抜け。一条グループを空っぽにしてやれ」
電話越しの声は、冷徹な経営者のものだった。
百合子会長は、虎の尾を踏んだのだ。
眠れる獅子を檻から解き放ち、自由を与えてしまったことに、彼女はまだ気づいていない。
翌日。
業界を揺るがすニュースが駆け巡った。
『一条蓮、電撃辞任。新会社設立へ』
そして、一条グループの株価は大暴落を始めた。
私の「魔王討伐」の物語は、ここから蓮との「国盗り物語」へと変わっていく。
けれどその前に、私にはどうしても確かめなければならないことがあった。
10年前。
高校時代の彼が、本当に私を見ていたのかどうか。
そして、なぜそこまで私に執着するのか。
その「答え」は、蓮が引っ越しのために持ち出した、一冊の古いアルバムの中に隠されていた。
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