21 / 81
第21話 金と暴力、そして解析班
しおりを挟む
目が覚めた時、そこは高級ホテルのような一室だった。
キングサイズのベッド、アンティークの家具、そして足元のふかふかの絨毯。
けれど、窓には鉄格子がはめられ、重厚なドアには外から鍵がかけられていた。
「……監禁、か」
私はズキズキと痛む頭を押さえながら、ベッドから起き上がった。
一条家の隠れ家。
百合子会長は本気だ。私が蓮を諦めると言うまで、ここから一歩も出さないつもりだろう。
ガチャリ、とドアが開いた。
入ってきたのは、無表情な家政婦と、背広を着た屈強な男たちだった。
彼らはワゴンに乗った豪華な食事をテーブルに置いた。
「相沢様。お食事です」
「いりません」
私は即答した。
「ここから出して。……蓮が黙っていないわよ」
「……蓮様はもう、何もできませんよ」
背後から、冷ややかな声が響いた。
百合子会長だ。彼女は扇子を揺らしながら、勝ち誇ったように現れた。
「あの子は無一文。警察も、我が一条家の圧力の前には無力です。……今頃、絶望して泣いているころでしょうね」
「泣いてなんかいない」
私は会長を睨みつけた。
「あなたは蓮のことを何も分かっていない。……彼は、あなたが思うような弱い人じゃない」
「ふん。親の庇護がなければ何もできない子供よ。……まあいいわ。餓死する前に根を上げることね」
会長は興味なさそうに部屋を出て行き、再び重い鍵の音が響いた。
残された私は、冷めていく豪華なディナーを見つめた。
怖い。手足が震える。
でも、不思議と絶望はしていなかった。
だって知っているから。
私の「王様」が、どれほど用意周到で、怒らせたら怖い男なのかを。
同時刻。株式会社RENのオフィス。
「社長! 無茶です! こんなことをしたら……!」
「黙って手を動かせ。金なら払う」
蓮はパイプ椅子に座り、三台のモニターを同時に操作していた。
画面に映し出されているのは、都内のNシステム(自動車ナンバー自動読取装置)のハッキングデータと、防犯カメラの映像解析ツール。
そして、スピーカーからは変声機を通した男の声が流れている。
『……おいおい、一条のボンボン。Nシステムのログ解析なんて、バレたらタダじゃ済まねえぞ?』
「構わん。いくらだ」
『リスクが高い。500万……いや、1000万は貰わないとな』
「2000万払う。その代わり、5分以内に特定しろ」
蓮は躊躇なくキーボードを叩いた。
その瞬間、相手の口座に2000万円が送金される。
50億の「へそくり」は、老後の資金ではない。
いざという時、法律や倫理を飛び越えて美月を救うための「弾薬」だ。
『ひゅーっ! 話が早くて助かるぜ!』
電話の相手は裏社会の情報屋だ。
蓮はさらに、別の回線で海外の民間軍事会社(PMC)の日本支部に連絡を入れていた。
「……ああ、俺だ。急な依頼ですまない。……場所が割れ次第、突入する。精鋭を10人よこせ」
オフィスにいた元一条グループの社員たちは、呆気にとられていた。
彼らが知っていた「エリート社長」の姿はそこにはない。
あるのは、目的のためなら手段を選ばず、湯水のように金を使い、暴力さえも手なずける「修羅」の姿だった。
「しゃ、社長……。これは一体……」
「お前たちは表の仕事をしろ」
蓮は視線も上げずに言った。
「新会社のサーバーを守れ。……俺は今夜、法を犯すかもしれん。だが、お前たちには火の粉はかけさせない」
その背中は、あまりにも孤独で、けれど圧倒的に頼もしかった。
『ビンゴだ、ボンボン』
スピーカーから声が上がった。
『黒のワンボックス。ナンバー確認。……首都高を降りて、奥多摩方面へ向かってる。現在地は青梅街道だ』
「奥多摩……」
蓮の脳裏に、一条家が所有するリストにはない、古びた別荘の記憶が蘇る。
祖父の代に使われていた、山奥の狩猟用ロッジ。
地図にも載っていない、完全な密室。
「そこか」
蓮は立ち上がり、ジャケットを羽織った。
「特定した。……行くぞ」
「社長! 俺たちも行きます!」
若い男性社員が立ち上がったが、蓮は首を横に振った。
「素人は足手まといだ。……ここからは、プロの領域だ」
オフィスのドアを開けると、そこにはすでに、黒い服を着た屈強な男たち――PMCの傭兵たちが整列して待っていた。
彼らからは、一般人とは違う硝煙の匂いが漂っている。
「道を開けろ」
蓮が先頭を切って歩き出す。
その目は、完全に据わっていた。
「待ってろ、美月。……今すぐ、そのふざけた鳥籠をぶっ壊してやる」
金と暴力、そしてテクノロジー。
全てを総動員した、前代未聞の奪還作戦が幕を開けた。
山道の奥深く、閉ざされたロッジまで、車で一時間。
王様の怒りが到達するまで、あとわずか。
キングサイズのベッド、アンティークの家具、そして足元のふかふかの絨毯。
けれど、窓には鉄格子がはめられ、重厚なドアには外から鍵がかけられていた。
「……監禁、か」
私はズキズキと痛む頭を押さえながら、ベッドから起き上がった。
一条家の隠れ家。
百合子会長は本気だ。私が蓮を諦めると言うまで、ここから一歩も出さないつもりだろう。
ガチャリ、とドアが開いた。
入ってきたのは、無表情な家政婦と、背広を着た屈強な男たちだった。
彼らはワゴンに乗った豪華な食事をテーブルに置いた。
「相沢様。お食事です」
「いりません」
私は即答した。
「ここから出して。……蓮が黙っていないわよ」
「……蓮様はもう、何もできませんよ」
背後から、冷ややかな声が響いた。
百合子会長だ。彼女は扇子を揺らしながら、勝ち誇ったように現れた。
「あの子は無一文。警察も、我が一条家の圧力の前には無力です。……今頃、絶望して泣いているころでしょうね」
「泣いてなんかいない」
私は会長を睨みつけた。
「あなたは蓮のことを何も分かっていない。……彼は、あなたが思うような弱い人じゃない」
「ふん。親の庇護がなければ何もできない子供よ。……まあいいわ。餓死する前に根を上げることね」
会長は興味なさそうに部屋を出て行き、再び重い鍵の音が響いた。
残された私は、冷めていく豪華なディナーを見つめた。
怖い。手足が震える。
でも、不思議と絶望はしていなかった。
だって知っているから。
私の「王様」が、どれほど用意周到で、怒らせたら怖い男なのかを。
同時刻。株式会社RENのオフィス。
「社長! 無茶です! こんなことをしたら……!」
「黙って手を動かせ。金なら払う」
蓮はパイプ椅子に座り、三台のモニターを同時に操作していた。
画面に映し出されているのは、都内のNシステム(自動車ナンバー自動読取装置)のハッキングデータと、防犯カメラの映像解析ツール。
そして、スピーカーからは変声機を通した男の声が流れている。
『……おいおい、一条のボンボン。Nシステムのログ解析なんて、バレたらタダじゃ済まねえぞ?』
「構わん。いくらだ」
『リスクが高い。500万……いや、1000万は貰わないとな』
「2000万払う。その代わり、5分以内に特定しろ」
蓮は躊躇なくキーボードを叩いた。
その瞬間、相手の口座に2000万円が送金される。
50億の「へそくり」は、老後の資金ではない。
いざという時、法律や倫理を飛び越えて美月を救うための「弾薬」だ。
『ひゅーっ! 話が早くて助かるぜ!』
電話の相手は裏社会の情報屋だ。
蓮はさらに、別の回線で海外の民間軍事会社(PMC)の日本支部に連絡を入れていた。
「……ああ、俺だ。急な依頼ですまない。……場所が割れ次第、突入する。精鋭を10人よこせ」
オフィスにいた元一条グループの社員たちは、呆気にとられていた。
彼らが知っていた「エリート社長」の姿はそこにはない。
あるのは、目的のためなら手段を選ばず、湯水のように金を使い、暴力さえも手なずける「修羅」の姿だった。
「しゃ、社長……。これは一体……」
「お前たちは表の仕事をしろ」
蓮は視線も上げずに言った。
「新会社のサーバーを守れ。……俺は今夜、法を犯すかもしれん。だが、お前たちには火の粉はかけさせない」
その背中は、あまりにも孤独で、けれど圧倒的に頼もしかった。
『ビンゴだ、ボンボン』
スピーカーから声が上がった。
『黒のワンボックス。ナンバー確認。……首都高を降りて、奥多摩方面へ向かってる。現在地は青梅街道だ』
「奥多摩……」
蓮の脳裏に、一条家が所有するリストにはない、古びた別荘の記憶が蘇る。
祖父の代に使われていた、山奥の狩猟用ロッジ。
地図にも載っていない、完全な密室。
「そこか」
蓮は立ち上がり、ジャケットを羽織った。
「特定した。……行くぞ」
「社長! 俺たちも行きます!」
若い男性社員が立ち上がったが、蓮は首を横に振った。
「素人は足手まといだ。……ここからは、プロの領域だ」
オフィスのドアを開けると、そこにはすでに、黒い服を着た屈強な男たち――PMCの傭兵たちが整列して待っていた。
彼らからは、一般人とは違う硝煙の匂いが漂っている。
「道を開けろ」
蓮が先頭を切って歩き出す。
その目は、完全に据わっていた。
「待ってろ、美月。……今すぐ、そのふざけた鳥籠をぶっ壊してやる」
金と暴力、そしてテクノロジー。
全てを総動員した、前代未聞の奪還作戦が幕を開けた。
山道の奥深く、閉ざされたロッジまで、車で一時間。
王様の怒りが到達するまで、あとわずか。
31
あなたにおすすめの小説
愛人と暮らすために私と結婚した伯爵子息、皇帝宮の夜会で本音を喋る魔道具を使ったらすべて暴露されました
あきくん☆ひろくん
恋愛
愛人と暮らすために私と結婚した伯爵子息。その本性を知ったのは、結婚した後でした。
私は子供を産むためだけの妻。生まれた子は愛人が育て、私は屋敷に閉じ込められる運命だという。
絶望する私が思い出したのは、大魔導士から渡された魔道具。「心に思ったことを言葉にしてしまう」もの。
そして皇帝宮の夜会で――伯爵子息は皇太子の前で、自分の本音をすべて喋ってしまいました。
この作品は、「僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です」シリーズの外伝です。
リリアーナは、第1作目の第3部のおまけ、のお話にでてくる子爵令嬢です。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
公爵家の次女ですが、静かに学園生活を送るつもりでした
佐伯かなた
恋愛
王国でも屈指の名門、公爵アルヴィス家。
その家には、誰もが称賛する完璧な令嬢がいた。
長女ソフィア。
美貌、知性、礼儀、すべてを備えた理想の公爵令嬢。
そして──もう一人。
妹、レーネ・アルヴィス。
社交界ではほとんど名前も出ない、影の薄い次女。
姉ほど目立つわけでもなく、社交の中心にいるわけでもない。
だが彼女は知っている。
貴族社会では、
誰が本当に優れているのかは、静かな場面でこそ分かるということを。
王立学園に入学したレーネは、
礼儀作法、社交、そして人間関係の中で、静かに周囲を観察していく。
やがて──
軽んじていた者たちは気づく。
「公爵家の妹」が、本当はどんな令嬢だったのかを。
これは、
静かな公爵令嬢が学園と貴族社会で評価を覆していく物語。
うちの幼馴染がデレすぎてて俺の理性はもう限界。でも毎日が最高に甘いからもうどうでもいいや
静内燕
恋愛
相沢悠太の日常は、規格外の美少女である幼馴染、白石葵によって完全に支配されている。
朝のモーニングコール(ベッドへのダイブ付き)から始まり、登校中の腕組み、そして「あーん」が義務付けられた手作り弁当。誰もが羨むラブラブっぷりだが、悠太はこれを「家族愛」だと頑なに誤解(無視)している。
「ゆーたは私の運命の相手なんだもん!」と、葵のデレデレは今日も過剰の一途。周囲の冷やかしや、葵を狙う男子生徒のプレッシャーが高まる中、悠太の**「幼馴染フィルター」**はついに限界を迎える。
この溺愛っぷり、いつまで「家族」で通せるのか?
甘すぎる日常が、悠太の鈍感な理性を溶かし尽くす――最初からクライマックスの、超高濃度イチャイチャ・ラブコメ、開幕!
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。
甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。
だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。
それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。
後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース…
身体から始まる恋愛模様◎
※タイトル一部変更しました。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
完璧な政略結婚のはずでしたが、宰相閣下の“私の妻”扱いが甘すぎます
星乃和花
恋愛
政略結婚のはずでした。
家同士の利も、立場の釣り合いも、全部きちんと整った、完璧に合理的な結婚。
……なのに、夫となった冷徹宰相は、なぜか人前で私を「最高の妻」と紹介し、暮らしを完璧に整え、他人に近づかれると不機嫌になってしまいます。
“天使”と噂される穏やかな令嬢フィオナもまた、
そんな不器用な優しさに少しずつ心をほどかれて――。
これは、条件で選ばれたはずの夫婦が、
いつの間にかお互いを“ただ一人”として欲しくなるまでの、甘くてやさしい政略結婚物語。
(毎日21:50更新ー全8話)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる