「君はいらない」と捨てられた夜、天敵の冷徹社長に「なら、俺が貰う」と拾われました。――手を出さない約束でしたが、彼の理性が限界のようです

葉山 乃愛

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第27話 【逆転の采配】残された鍵と、花嫁の覚醒

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「一条蓮さんですね。……特別背任の容疑で同行を願います」

サイレンの音が鳴り響く中、数人の刑事が蓮を取り囲んだ。
テレビカメラのフラッシュが焚かれ、容赦ない罵声が飛ぶ。
私が足を踏み出そうとすると、蓮が視線だけでそれを制した。

「……騒ぐな、美月」

蓮は驚くほど冷静だった。
彼は刑事に向き直る前、私の耳元で早口に囁いた。

「想定内だ。……母上は必ず、俺の『資金源』を違法だと告発してくると読んでいた」

「え?」

「俺のパソコンの『Wedding』というフォルダを開け。……そこに、全ての証拠が入っている」

「蓮……」

「泣くな。……俺の留守は、お前に任せるぞ」

彼はニヤリと笑い、自ら手錠をかけられるために両手を差し出した。
連行されていく背中。
パトカーのドアが閉まる瞬間まで、彼は私を見て微笑んでいた。
「信じている」と語るように。


数時間後。株式会社RENのオフィス。
そこは阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。

「どうするんだよ! 社長が逮捕されたら、この会社も終わりだ!」
「警察がガサ入れに来るぞ! データ隠せ!」
「俺たちも共犯扱いされるんじゃないか!?」

優秀だったはずのエリートたちが、トップを失った恐怖でパニックに陥っている。
無理もない。彼らは蓮という「王様」がいたからこそ、安心して反乱に参加できたのだ。
王が捕らえられた今、彼らはただの「反逆者」として震えるしかない。

(……しっかりしなさい、相沢美月)

私は両頬をパン! と叩いた。
泣いている場合じゃない。
蓮は言った。「留守は任せる」と。
プランナー時代、トラブルは日常茶飯事だった。
新郎が遅刻しようが、ドレスが破れようが、ゲストが暴れようが、私たちは絶対に式を止めてはいけない。
今の状況は、人生で一番ハードな「トラブル発生」なだけだ。

私は近くにあったパイプ椅子の上に立ち上がった。

「――静粛に願います!!」

よく通る、腹から出した声。
オフィス中の視線が私に集まる。

「相沢さん……? 何を……」

「皆さん、落ち着いてください。……社長は、こうなることを予期していました」

私は震える足を隠し、毅然とした態度で告げた。
ハッタリでもいい。今は彼らに「指揮官」が必要なのだ。

「蓮さんは、無実です。その証拠も、全て用意してあります」

私は蓮のノートパソコンを開き、彼が言い残した『Wedding』というフォルダを開いた。
パスワードは……迷わず私たちの「記念日」を入れる。
開いた。

中に入っていたのは、膨大な量のPDFファイル。
『個人資産形成プロセス証明書』
『暗号資産取引履歴』
『新会社設立における法的適正性意見書』

「見てください。……蓮さんは、50億の資金が会社の横領ではなく、彼個人の正当な投資利益であることを証明するデータを、10年分すべて記録していました」

モニターに映し出された完璧な帳簿を見て、経理担当の社員が息を呑んだ。

「す、すげえ……! 1円単位まで、出所が明確だ……! これなら警察もぐうの音も出ないぞ!」

「人材引き抜きについてもです。……皆さんが提出した『退職願』と『再就職希望書』の日付、全て弁護士の公正証書になっています。……強引な引き抜きではなく、個人の意思による転職だと証明できます」

法務担当の社員が書類を食い入るように見つめ、顔を輝かせた。

「勝てる……! これなら、特別背任なんて成立しない! 完全に冤罪だ!」

オフィスの空気が変わった。
絶望から、希望へ。そして「怒り」へ。
無実の罪で社長を嵌めた一条家への怒りが、彼らの闘争心に火をつけた。

「ですが、警察の手続きには時間がかかります。蓮さんが戻ってくるまで、私たちが会社を守らなければなりません」

私は椅子から降り、社員一人一人の顔を見た。

「私は経営のことは分かりません。でも、トラブルを収拾し、最高のゴールへ導く『段取り』ならプロです」

私はデスクに広げた大きなホワイトボードに、マジックで力強く書き殴った。
『Operation Wedding ~魔王奪還作戦~』

「これより、緊急プロジェクトを開始します。……目的は二つ。一条蓮の即時釈放と、一条グループへの完全勝利です」

「おおっ……!!」

社員たちが拳を突き上げる。

「法務チームは、このデータを持って警察と検察へ! マスコミ対応は広報チーム、世論を味方につけてください! ……そして」

私はポケットから、神崎さんから託された「あの鍵」と、お祖父様の遺言書を取り出した。

「これが切り札です。……蓮さんが戻り次第、臨時株主総会を開きます。そこで、この『51%の株式譲渡書』を行使し、現経営陣(百合子会長)を解任します」

「51%……!?」
「マジかよ、過半数持ってたのか!」

どよめきが歓声に変わる。
最強の武器と、完璧な盾。
蓮は逮捕される直前まで、私たちが勝つための準備を整えてくれていたのだ。
あとは、私がそれを実行するだけ。

「皆さん、力を貸してください。……私たちの社長を、迎えに行きましょう」

「「「はいっ!!」」」

オフィスの電話が一斉に鳴り始めた。
それはもう悲鳴ではなく、反撃の砲火だった。
私は受話器を取りながら、窓の外の青空を見上げた。

(待ってて、蓮。……今度は私が、あなたを守るから)

泥足の令嬢なんて言わせない。
私は、魔王が選んだ「最強の伴侶」なのだから。


しかし、百合子会長の悪あがきは、法的な攻撃だけではなかった。
拘置所にいる蓮のもとに、彼女の代理人として、意外な人物が面会に訪れる。
それは、かつて私が愛し、私を捨てた男――高橋優斗だった。
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