「魔力ゼロのゴミ」と処刑された聖女は、触れるもの全てを殺す死神皇帝の唯一の解毒剤でした。「君がいないと狂う」と毎晩離してくれません

ひふみ黒

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第8話 玉座の裏の密室、甘い解毒実験

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「はぁ……っ、リリアナ……」

玉座の裏に隠された、王族専用の休憩室。
豪奢なベルベットの長椅子の上で、私はディルク様に押し倒されていた。
いや、押し倒されているというよりは、全身で覆い被さられている状態だ。

先ほどまで宰相を威圧していた「死神皇帝」の覇気はどこへやら。
今の彼は、熱に浮かされたように私の首筋に唇を這わせ、貪欲に「解毒」を行っていた。

「あ、あの……ディルク様、くすぐったいです」
「動くな。まだ毒が抜けきっていない」

彼は私の鎖骨あたりに額を擦り付けると、深く、長く息を吸い込んだ。
私の肌に触れている彼の体から、チリチリとした熱さが伝わってくる。
彼の中に溜まっていた「死の呪い」が、私というフィルターを通して浄化されていく感覚。
それは不思議と、私にとっても不快ではなかった。
むしろ、私の空っぽだった体が、彼の熱で満たされていくような……。

「……お前は、本当に『無』なんだな」

ふいに、ディルク様が顔を上げ、私の瞳を覗き込んだ。
その赤い瞳は、熱情と、冷静な分析の色を帯びていた。

「無、ですか?」
「ああ。俺の呪いは、膨大な魔力の暴走だ。常人なら触れた瞬間に許容量を超えて崩壊する。だが、お前は違う」

彼は私の頬を、親指で愛おしそうに撫でた。
腐らない。ただ、柔らかく凹むだけ。

「お前は魔力がないんじゃない。……あらゆる魔力を飲み込み、無効化する『虚無』の器なんだ」
「きょ、む……?」

初めて聞く言葉だった。
私は魔力がない「欠陥品」だと言われて育った。
聖女の家系に生まれながら、治癒魔法一つ使えない落ちこぼれ。

「おそらく、お前の体はブラックホールのようなものだ。自分の魔力さえも飲み込んでしまうから、魔法が使えなかったんだろう」
「そんな……」
「だが、だからこそ」

彼は嬉しそうに目を細め、再び私を強く抱きしめた。

「俺の溢れ出る死の魔力を、お前は全て受け止めてくれる。……俺という猛毒を飲み干せる器は、この広い世界でリリアナ、お前だけだ」

「私が……ディルク様を受け止める……」

「そうだ。お前はゴミなんかじゃない。俺にとっての『特効薬』であり、俺を包み込む『鞘』だ」

その言葉は、どんな甘い愛の言葉よりも、私の胸に深く突き刺さった。
無能だと蔑まれ、存在価値がないと否定され続けてきた私。
その私の「欠落」こそが、彼を救う唯一の鍵だったなんて。

「……嬉しいです」

自然と涙が溢れた。
私は恐る恐る手を伸ばし、彼の背中に腕を回した。

「私でいいなら……いくらでも、貴方の毒を受け止めます」
「リリアナ……ッ」

私の言葉に、理性の糸が切れた音がした。
ディルク様は私の唇を塞ぐ勢いで、深く、激しい口づけを落とした。

「んっ……!?」

初めてのキス。
それは甘いなんてものじゃなかった。
飢えた獣が水を貪るような、必死で、重く、情熱的な口づけ。
息ができない。頭がクラクラする。
彼の舌が私の口内を蹂躙し、彼の味が私の中に流れ込んでくる。

(あ、だめ……溶けちゃう……)

どれくらいの時間が経っただろうか。
彼がようやく唇を離した時、私は酸欠でぐったりと長椅子に沈み込んでいた。

「……はぁ。すまない、止まらなくなった」

ディルク様は満足げに唇を舐めると、トロトロになった私を抱き起こした。
その表情は、先ほどまでの苛立ちが嘘のように晴れやかで、艶めかしい色気を漂わせていた。

「解毒完了だ。……すごいな、キスだと効率が段違いだ」
「も、もう……勘弁してください……」
「何を言う。これから毎日するぞ」

彼は悪戯っぽく笑うと、私の乱れたドレスや髪を丁寧に直してくれた。

「さあ、戻ろうか。そろそろ夕食の時間だ」
「えっ、まだ食べるんですか? もうお腹いっぱいのような……」
「俺はともかく、お前は食べて栄養をつけてもらわないと困る。……夜のお勤め(抱き枕)も控えているからな」

彼は意味深にウインクすると、再び私を抱き上げて立ち上がった。
玉座の裏での秘密の実験。
それは、私たちが「離れられない運命」であることを、互いの体で理解し合う儀式となったのだった。

扉を開けると、心配そうに待っていた執事たちが、艶々した顔の皇帝と、真っ赤な顔の私を見て、一斉に天を仰いだ。
「陛下、お早いお仕事で……」「さすがです……」という誤解に満ちた囁きは、聞かなかったことにした。
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