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第16話 賢者の戦慄、運命の番(ツガイ)
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「……信じられん。まさか、伝説が真実だったとは」
城内の魔法研究所。
怪しげな薬瓶や古文書に囲まれた部屋で、帝国の筆頭魔導師・ギデオンが、わなわなと震えていた。
白髪の狂人めいた老人が、私をまるで「未知の生物」を見るような目で見つめている。
「おい、ギデオン。さっさと結論を言え」
ディルク様は不機嫌そうに私を膝に乗せ、ギデオンを睨みつけた。
検査の間、ギデオンが私に少しでも近づこうとするたびに、ディルク様が殺気を放つため、検査は難航していたのだ。
「は、はい! 結論から申し上げますと……リリアナ様は『無能』などではありません。魔力がないのではなく、魔力の『底』がないのです」
ギデオンは興奮気味に、水晶玉を指差した。
「通常の人間は、体内に魔力の器を持っています。しかしリリアナ様の体は、例えるなら『穴の空いた器』……いえ、『ブラックホール』そのもの。周囲の魔力や呪いを無限に吸い込み、別のエネルギー――おそらくは生命力へと変換して循環させているのです」
「……循環?」
「はい。陛下が放つ強大すぎる『死の呪い』を、リリアナ様が吸い込み、浄化し、陛下に『生』としてお返ししている。……言わば、お二人は二人で一つの生命維持装置になっているのです」
ギデオンは古びた石版を取り出し、震える手でそれを撫でた。
「古き予言にあります。『破壊をもたらす死の王が現れる時、それを中和する虚無の聖女もまた生まれる』と。……お二人は、魂のレベルで対(つい)になる存在。まさに、運命の番(ツガイ)なのです!」
「運命の……番……」
ディルク様が、その言葉をゆっくりと反芻する。
その瞳孔が、カッと開かれた。
「そうか。……やはり、そうか」
彼は私を抱きしめる腕に、ギリギリと力を込めた。
痛いほどだが、そこから伝わる歓喜の震えが、私の背筋をゾクゾクさせる。
「偶然相性が良かったんじゃない。俺とお前は、生まれる前から一つになるよう定めで結ばれていたんだ」
彼は恍惚とした表情で、私の首筋に熱い息を吐きかけた。
その瞳は、今まで見たどの瞬間よりも、ドロドロとした暗い情熱に満ちていた。
「神に感謝しよう。……お前を俺のために創ってくれたことを」
「ディルク様……」
「これでもう、誰にも文句は言わせない。お前がいないと俺は生きていけないし、俺の呪いを受け止められるのはお前だけだ。……俺たちは、死ぬまで離れられない運命なんだよ」
それは愛の告白であり、逃げ場のない「終身刑」の宣告でもあった。
でも、不思議と怖くはない。
「無能」と蔑まれ、社会の欠陥品だと言われてきた私が、彼の欠けた半身として「完全」になれるのだから。
「……素晴らしい! 学術的にも奇跡です!」
ギデオンが空気を読まずに叫んだ。
「陛下! ぜひリリアナ様のご協力をお願いしたい! 彼女の『吸魔』の力を研究すれば、新たな魔導具が……」
「却下だ」
ディルク様は冷酷に切り捨てた。
「リリアナは俺の精神安定剤であり、抱き枕であり、妻だ。実験動物ではない」
「そ、そこをなんとか! 指先から血を数滴いただく程度で構いませんので!」
「……殺すぞ?」
ディルク様の周囲から、どす黒い瘴気が噴き出した。
実験器具のガラスが一斉にピシピシと音を立ててヒビ割れる。
「リリアナの血の一滴は、俺の血の一リットルより尊い。……彼女に針一本でも刺してみろ。この研究所ごと貴様を消滅させる」
「ヒィッ! し、失礼しましたァッ!!」
ギデオンは床に額を擦り付けて謝罪した。
ディルク様はフンと鼻を鳴らすと、私を抱き上げて立ち上がった。
「行くぞ、リリアナ。……『運命』という言葉を聞いたら、また昂ってきた」
「えっ、さっきしたばかりじゃ……」
「運命の相手と愛し合うのに、回数制限などあるものか」
彼はニヤリと笑い、私の耳元で囁いた。
「今日は、お前の中に俺の『種』が宿るまで、離してやれそうにないな」
その言葉の意味を理解した瞬間、私は顔から火が出るかと思った。
運命の番。
その響きは甘美だが、どうやら私の腰にとっては、過酷な運命になりそうだ。
城内の魔法研究所。
怪しげな薬瓶や古文書に囲まれた部屋で、帝国の筆頭魔導師・ギデオンが、わなわなと震えていた。
白髪の狂人めいた老人が、私をまるで「未知の生物」を見るような目で見つめている。
「おい、ギデオン。さっさと結論を言え」
ディルク様は不機嫌そうに私を膝に乗せ、ギデオンを睨みつけた。
検査の間、ギデオンが私に少しでも近づこうとするたびに、ディルク様が殺気を放つため、検査は難航していたのだ。
「は、はい! 結論から申し上げますと……リリアナ様は『無能』などではありません。魔力がないのではなく、魔力の『底』がないのです」
ギデオンは興奮気味に、水晶玉を指差した。
「通常の人間は、体内に魔力の器を持っています。しかしリリアナ様の体は、例えるなら『穴の空いた器』……いえ、『ブラックホール』そのもの。周囲の魔力や呪いを無限に吸い込み、別のエネルギー――おそらくは生命力へと変換して循環させているのです」
「……循環?」
「はい。陛下が放つ強大すぎる『死の呪い』を、リリアナ様が吸い込み、浄化し、陛下に『生』としてお返ししている。……言わば、お二人は二人で一つの生命維持装置になっているのです」
ギデオンは古びた石版を取り出し、震える手でそれを撫でた。
「古き予言にあります。『破壊をもたらす死の王が現れる時、それを中和する虚無の聖女もまた生まれる』と。……お二人は、魂のレベルで対(つい)になる存在。まさに、運命の番(ツガイ)なのです!」
「運命の……番……」
ディルク様が、その言葉をゆっくりと反芻する。
その瞳孔が、カッと開かれた。
「そうか。……やはり、そうか」
彼は私を抱きしめる腕に、ギリギリと力を込めた。
痛いほどだが、そこから伝わる歓喜の震えが、私の背筋をゾクゾクさせる。
「偶然相性が良かったんじゃない。俺とお前は、生まれる前から一つになるよう定めで結ばれていたんだ」
彼は恍惚とした表情で、私の首筋に熱い息を吐きかけた。
その瞳は、今まで見たどの瞬間よりも、ドロドロとした暗い情熱に満ちていた。
「神に感謝しよう。……お前を俺のために創ってくれたことを」
「ディルク様……」
「これでもう、誰にも文句は言わせない。お前がいないと俺は生きていけないし、俺の呪いを受け止められるのはお前だけだ。……俺たちは、死ぬまで離れられない運命なんだよ」
それは愛の告白であり、逃げ場のない「終身刑」の宣告でもあった。
でも、不思議と怖くはない。
「無能」と蔑まれ、社会の欠陥品だと言われてきた私が、彼の欠けた半身として「完全」になれるのだから。
「……素晴らしい! 学術的にも奇跡です!」
ギデオンが空気を読まずに叫んだ。
「陛下! ぜひリリアナ様のご協力をお願いしたい! 彼女の『吸魔』の力を研究すれば、新たな魔導具が……」
「却下だ」
ディルク様は冷酷に切り捨てた。
「リリアナは俺の精神安定剤であり、抱き枕であり、妻だ。実験動物ではない」
「そ、そこをなんとか! 指先から血を数滴いただく程度で構いませんので!」
「……殺すぞ?」
ディルク様の周囲から、どす黒い瘴気が噴き出した。
実験器具のガラスが一斉にピシピシと音を立ててヒビ割れる。
「リリアナの血の一滴は、俺の血の一リットルより尊い。……彼女に針一本でも刺してみろ。この研究所ごと貴様を消滅させる」
「ヒィッ! し、失礼しましたァッ!!」
ギデオンは床に額を擦り付けて謝罪した。
ディルク様はフンと鼻を鳴らすと、私を抱き上げて立ち上がった。
「行くぞ、リリアナ。……『運命』という言葉を聞いたら、また昂ってきた」
「えっ、さっきしたばかりじゃ……」
「運命の相手と愛し合うのに、回数制限などあるものか」
彼はニヤリと笑い、私の耳元で囁いた。
「今日は、お前の中に俺の『種』が宿るまで、離してやれそうにないな」
その言葉の意味を理解した瞬間、私は顔から火が出るかと思った。
運命の番。
その響きは甘美だが、どうやら私の腰にとっては、過酷な運命になりそうだ。
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