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第3話 家畜
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目が覚めた時、最初に感じたのは強烈な薬品の臭いだった。
消毒液と、どこか甘ったるい芳香剤が混ざったような、病院の待合室を濃縮したような不快な空気。
「……っ、あ?」
身じろぎしようとして、体が動かないことに気づく。
手首、足首、そして腰。冷たい革製のベルトが食い込んでいる。
俺は、歯科医の診療台のような、無機質な白い椅子に固定されていた。
天井には手術室のような無影灯。眩しさに目を細めながら、俺は必死に首を巡らせた。
「どこだ、ここ……おい! 誰か!」
声が反響する。壁は防音素材なのか、俺の叫びを吸い込んでいく。
服装は、あの時のままだ。パーカーにサンダル。だが、そのみすぼらしい格好が、この清潔すぎる空間では酷く異質に感じられた。
ウィーン……。
重厚なモーター音と共に、正面の自動ドアが開いた。
現れたのは、白衣を羽織った小鳩だった。
手にはタブレット端末を持ち、髪を後ろで一つに束ねている。パチンコ店での愛想笑いは消え失せ、冷徹な研究者の顔をしていた。
「目が覚めましたか、検体番号408」
「よんひゃく……は? おい小鳩! これなんの冗談だ! 警察呼ぶぞ!」
「警察?」
小鳩は可笑しくもないジョークを聞いたように、口の端を歪めた。
「貴方の捜索願なんて出ませんよ。お母様には『パチンコで借金を作ったから、遠くへ行って働く』という置き手紙を残しておきましたから。……むしろ感謝されてるんじゃないですか? 穀潰しがいなくなって」
「ふざけんな! ここから出せ!」
俺は椅子の上で暴れたが、ガチャガチャと金具が鳴るだけだった。
「無駄ですよ。そこは貴方たち『資源』を効率よく管理するための特注品ですから」
彼女はカツカツとヒールを鳴らして近づくと、俺の顔を覗き込んだ。
その瞳には、人間に対する感情がない。実験動物を見る目だ。
「俊弘さん。貴方は不思議に思いませんでしたか? なぜ私たちが、貴方のような社会の底辺を必要とするのか」
小鳩はタブレットを操作し、壁面のモニターに複雑な数値を映し出した。
「貴方の精液には、特殊なホルモンが含まれています。強いストレス、自己嫌悪、将来への不安、そして叶わない欲望……それらが煮詰まって変質した、負のエネルギーの結晶」
「な、なに言ってんだ……」
「普通の人間じゃダメなんです。幸せな男や、成功者の種じゃ意味がない。貴方のように、人生に行き詰まり、誰かを妬み、それでも性欲だけは人一倍強い……そんな『クズ』の種だけが、ある特殊な細胞を活性化させる」
彼女は俺の股間に視線を落とした。
「市場価格にして、一回分でおよそ200万円。貴方の生涯年収より高い価値が、この中にあるんですよ」
200万……? 俺の、あれが?
桁外れな数字に、思考が追いつかない。
「さあ、仕事の時間です。今日は初日ですから、耐久テストも兼ねて限界まで搾り取らせてもらいます」
小鳩が合図を送ると、椅子の下から機械的なアームが伸びてきた。
先端には、透明なシリコン製のカップがついている。
まるで牛の乳搾り機だ。だが、その形状は明らかに男性用だった。
「ひっ、や、やめろ……!」
「暴れないで。感度が良くなる薬も投与済みですから、すぐに楽になれますよ」
シリコンのカップが、俺の局部に吸い付いた。
生身の女とは違う、無機質で完璧な吸着感。
同時に、全身の血管が沸騰するような熱さが駆け巡る。
「う、うあぁぁッ!?」
「いい声。その『拒絶』と『快楽』の矛盾が、質を高めるんです」
小鳩は冷ややかに観察しながら、タブレットにデータを打ち込んでいく。
俺の意思とは無関係に、機械が作動し始めた。
「頑張って、408番。貴方の代わりはいくらでもいるけど……壊れるまでは使い潰してあげますから」
機械の駆動音と、自分の情けない喘ぎ声が部屋に響く。
俺は理解した。
ここは地獄だ。そして俺はもう、人間ではなくなったのだと。
モニターの向こう側で、複数の男たちが同じように椅子に縛り付けられている映像が見えた気がした。
世界中に張り巡らされた、巨大な『牧場』の片隅で、俺の搾取される日々が幕を開けた。
消毒液と、どこか甘ったるい芳香剤が混ざったような、病院の待合室を濃縮したような不快な空気。
「……っ、あ?」
身じろぎしようとして、体が動かないことに気づく。
手首、足首、そして腰。冷たい革製のベルトが食い込んでいる。
俺は、歯科医の診療台のような、無機質な白い椅子に固定されていた。
天井には手術室のような無影灯。眩しさに目を細めながら、俺は必死に首を巡らせた。
「どこだ、ここ……おい! 誰か!」
声が反響する。壁は防音素材なのか、俺の叫びを吸い込んでいく。
服装は、あの時のままだ。パーカーにサンダル。だが、そのみすぼらしい格好が、この清潔すぎる空間では酷く異質に感じられた。
ウィーン……。
重厚なモーター音と共に、正面の自動ドアが開いた。
現れたのは、白衣を羽織った小鳩だった。
手にはタブレット端末を持ち、髪を後ろで一つに束ねている。パチンコ店での愛想笑いは消え失せ、冷徹な研究者の顔をしていた。
「目が覚めましたか、検体番号408」
「よんひゃく……は? おい小鳩! これなんの冗談だ! 警察呼ぶぞ!」
「警察?」
小鳩は可笑しくもないジョークを聞いたように、口の端を歪めた。
「貴方の捜索願なんて出ませんよ。お母様には『パチンコで借金を作ったから、遠くへ行って働く』という置き手紙を残しておきましたから。……むしろ感謝されてるんじゃないですか? 穀潰しがいなくなって」
「ふざけんな! ここから出せ!」
俺は椅子の上で暴れたが、ガチャガチャと金具が鳴るだけだった。
「無駄ですよ。そこは貴方たち『資源』を効率よく管理するための特注品ですから」
彼女はカツカツとヒールを鳴らして近づくと、俺の顔を覗き込んだ。
その瞳には、人間に対する感情がない。実験動物を見る目だ。
「俊弘さん。貴方は不思議に思いませんでしたか? なぜ私たちが、貴方のような社会の底辺を必要とするのか」
小鳩はタブレットを操作し、壁面のモニターに複雑な数値を映し出した。
「貴方の精液には、特殊なホルモンが含まれています。強いストレス、自己嫌悪、将来への不安、そして叶わない欲望……それらが煮詰まって変質した、負のエネルギーの結晶」
「な、なに言ってんだ……」
「普通の人間じゃダメなんです。幸せな男や、成功者の種じゃ意味がない。貴方のように、人生に行き詰まり、誰かを妬み、それでも性欲だけは人一倍強い……そんな『クズ』の種だけが、ある特殊な細胞を活性化させる」
彼女は俺の股間に視線を落とした。
「市場価格にして、一回分でおよそ200万円。貴方の生涯年収より高い価値が、この中にあるんですよ」
200万……? 俺の、あれが?
桁外れな数字に、思考が追いつかない。
「さあ、仕事の時間です。今日は初日ですから、耐久テストも兼ねて限界まで搾り取らせてもらいます」
小鳩が合図を送ると、椅子の下から機械的なアームが伸びてきた。
先端には、透明なシリコン製のカップがついている。
まるで牛の乳搾り機だ。だが、その形状は明らかに男性用だった。
「ひっ、や、やめろ……!」
「暴れないで。感度が良くなる薬も投与済みですから、すぐに楽になれますよ」
シリコンのカップが、俺の局部に吸い付いた。
生身の女とは違う、無機質で完璧な吸着感。
同時に、全身の血管が沸騰するような熱さが駆け巡る。
「う、うあぁぁッ!?」
「いい声。その『拒絶』と『快楽』の矛盾が、質を高めるんです」
小鳩は冷ややかに観察しながら、タブレットにデータを打ち込んでいく。
俺の意思とは無関係に、機械が作動し始めた。
「頑張って、408番。貴方の代わりはいくらでもいるけど……壊れるまでは使い潰してあげますから」
機械の駆動音と、自分の情けない喘ぎ声が部屋に響く。
俺は理解した。
ここは地獄だ。そして俺はもう、人間ではなくなったのだと。
モニターの向こう側で、複数の男たちが同じように椅子に縛り付けられている映像が見えた気がした。
世界中に張り巡らされた、巨大な『牧場』の片隅で、俺の搾取される日々が幕を開けた。
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