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第7話 陶酔
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荒い呼吸音だけが、白く無機質な防音室に反響していた。
あれほど冷静で、機械的だった小鳩が、今は糸が切れた人形のように俺の下でぐったりと横たわっている。
乱れた白衣、はだけた胸元、そして太ももを伝う白濁した液体。その全てが、俺という「底辺」がこのエリート女に刻み込んだ痕跡だった。
「はぁ……はぁ……、凄……」
小鳩がうわごとのように呟き、焦点の定まらない瞳で天井を見上げている。
俺もまた、全身の筋肉が溶け出したような脱力感に襲われていた。昨夜の強制的な搾取とはまるで違う。脳髄の芯まで痺れるような、暴力的な快感の余韻。
逃げなきゃいけない。ここは敵地だ。
頭では分かっているのに、指一本動かすのが億劫だった。このままこの甘い腐臭のする地獄で、泥のように眠ってしまいたいとさえ思う。
「……おい、生きてるかよ」
俺は重い体を起こし、彼女の頬を軽く叩いた。
掌に残る肌の熱さが、妙に生々しい。
小鳩はゆっくりと視線を俺に向けた。
その瞳に、以前のような冷徹な侮蔑の色はなかった。あるのは、麻薬中毒者が禁断症状から解放された時のような、とろけるような恍惚と、底知れない執着だった。
「……俊弘、さん」
彼女が震える手を伸ばし、俺の汗ばんだ首筋に触れる。
「貴方、やっぱり化け物ね。……私の身体、おかしくなっちゃったみたい」
「あ? 何言ってんだ」
「分からない? ……普通、こんな乱暴なことをされたら、女は恐怖で萎縮するか、痛みに耐えかねて拒絶するわ。でも……」
彼女は自身の腹部を、愛おしそうにさすった。
「熱いの。貴方が注ぎ込んだその汚い種が、私の内側で暴れ回って……脳が溶けそうなほど気持ちいいのよ。……これ、毒ね」
小鳩は妖艶に微笑むと、自身の中から溢れ出る俺の分身を指ですくい取り、それを舐め上げた。
「ん……濃い。昨日のサンプルより、ずっと強力な成分が出てる。……貴方、私を犯しながら、本当は殺してやりたいって思ってたでしょ?」
図星だった。
俺はこの女を憎んでいた。見下され、家畜扱いされた恨み。それを晴らすために、性器という凶器を使って彼女を突き上げた。
「その『殺意』と『性欲』の配合が絶妙なのよ。……ああ、たまらない。研究者として、このまま解剖して中身を確かめたいくらい」
「……イカれてやがる」
俺は背筋に寒気を感じて、彼女から離れようとした。
だが、小鳩の細い腕が、蛇のように俺の腰に絡みついた。
「行かないで」
「離せ! 俺はここから出るんだ」
「出られないわよ。……ねえ、気づいてないの?」
小鳩が俺の耳元で、悪魔のような声を囁く。
「貴方の身体、もう立つのもやっとでしょう? ……私の身体に『出した』ことで、貴方は私の一部になっちゃったの」
「な……ッ!?」
立ち上がろうとした瞬間、強烈な目眩が俺を襲った。膝から力が抜け、無様に床に崩れ落ちる。
視界が歪む。手足の先が冷たい。まるで、生命力を根こそぎ持っていかれたような感覚だ。
「貴方の種は高エネルギーの塊。それを一度にあれだけ放出したんだもの。急激な欠乏状態……いわば『ガス欠』ね。今、貴方の脳は私のフェロモンと、この部屋の匂いなしでは正常に機能しないはずよ」
小鳩はよろめきながら立ち上がると、白衣を羽織り直した。だが、ボタンを留める手つきは緩慢で、隙間から見える肌には俺がつけたキスマークが赤黒く浮き上がっている。
彼女は支配者としての威厳を取り戻そうとしていたが、その表情には隠しきれない情欲が滲んでいた。
「私の勝ちね、俊弘さん。……貴方はもう、私という『鞘』なしでは生きられない剣になっちゃったのよ」
「ふざ……けんな……っ」
俺は床を這い、出口の扉へと手を伸ばした。
だが、その時だった。
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
部屋中の警告灯が赤く明滅し、耳をつんざくようなアラームが鳴り響いた。
同時に、ロックされていたはずの重厚な扉が、外側からの制御で強制的に開放される。
「確保ォォッ!!」
怒号と共に、黒い装備に身を包んだ武装部隊が雪崩れ込んできた。
数人の男たちが俺に飛びかかり、抵抗する間もなく床にねじ伏せる。冷たい床の感触。背中に乗るブーツの重み。突きつけられる銃口の冷たさ。
「ぐっ……あぁッ!」
「動くな! 検体408番、確保完了!」
俺は顔を床に押し付けられたまま、視線だけで小鳩を探した。
彼女もまた、別の隊員たちに取り囲まれていた。だが、銃口を向けられているわけではない。
「小鳩主任! ご無事ですか!?」
隊長らしき男が駆け寄り、彼女に肩を貸そうとする。
しかし、小鳩はその手を冷たく払い退けた。
「……触らないで」
「は?」
「その汚い手で私に触るなと言っているの。……私は今、非常に『デリケート』な状態なのよ」
小鳩の声は、低く、ドスの効いたものだった。
彼女は乱れた髪をかき上げ、床に這いつくばる俺を見下ろした。
その瞳は、先ほどの陶酔を奥底に隠し、氷のような冷徹さで武装していた。だが、俺にだけは分かった。彼女がまだ、俺との行為の余韻の中にいることが。
「主任、こいつは貴方を人質に取り、あまつさえ暴行を……! 即刻、廃棄処分にすべきです!」
隊長が俺に銃口を突きつける。
死ぬ。
そう思った瞬間、小鳩が叫んだ。
「待ちなさい!!」
彼女は俺と銃口の間に割って入った。
「こいつは……私のよ」
「は……?」
「この検体は、私の身体を使って『適合実験』を行ったの。……結果は極めて良好。これほどの適合値を出したサンプルは過去に例がないわ」
小鳩は頬を紅潮させながら、堂々と言い放った。
その姿は、研究成果を守る科学者というよりは、お気に入りの玩具を取り上げられまいとする子供のようであり、同時に、獲物を独占しようとする雌豹のようでもあった。
「廃棄なんて許さない。この408番は、今日から私の『専属管理下』に置くわ。……誰にも触らせない。一滴たりとも、他の誰かになんて渡さない」
「し、しかし主任……それは規則違反では……」
「規則? 私がルールよ。……文句があるなら上に報告しなさい。ただし、私が開発した『新薬』のレシピごと、他の組織に亡命することになるけど?」
隊長は言葉を詰まらせ、悔しそうに銃を下ろした。
この組織において、彼女の頭脳がどれほど重要視されているかが分かる一幕だった。
「……連れて行って。私の個室へ」
小鳩の命令で、俺は拘束具をつけられ、二人の男に引きずり起こされた。
すれ違いざま、小鳩と目が合った。
彼女はニヤリと笑い、音のない口パクでこう告げた。
『続き、しましょ?』
ゾクリと背筋が震えた。
それは恐怖か、それとも歓喜か。
俺は自分の意思で脱獄したつもりだった。だが結局、俺はもっと深く、もっと逃げ場のない「檻」へと、自ら飛び込んでしまったのだ。
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小鳩がうわごとのように呟き、焦点の定まらない瞳で天井を見上げている。
俺もまた、全身の筋肉が溶け出したような脱力感に襲われていた。昨夜の強制的な搾取とはまるで違う。脳髄の芯まで痺れるような、暴力的な快感の余韻。
逃げなきゃいけない。ここは敵地だ。
頭では分かっているのに、指一本動かすのが億劫だった。このままこの甘い腐臭のする地獄で、泥のように眠ってしまいたいとさえ思う。
「……おい、生きてるかよ」
俺は重い体を起こし、彼女の頬を軽く叩いた。
掌に残る肌の熱さが、妙に生々しい。
小鳩はゆっくりと視線を俺に向けた。
その瞳に、以前のような冷徹な侮蔑の色はなかった。あるのは、麻薬中毒者が禁断症状から解放された時のような、とろけるような恍惚と、底知れない執着だった。
「……俊弘、さん」
彼女が震える手を伸ばし、俺の汗ばんだ首筋に触れる。
「貴方、やっぱり化け物ね。……私の身体、おかしくなっちゃったみたい」
「あ? 何言ってんだ」
「分からない? ……普通、こんな乱暴なことをされたら、女は恐怖で萎縮するか、痛みに耐えかねて拒絶するわ。でも……」
彼女は自身の腹部を、愛おしそうにさすった。
「熱いの。貴方が注ぎ込んだその汚い種が、私の内側で暴れ回って……脳が溶けそうなほど気持ちいいのよ。……これ、毒ね」
小鳩は妖艶に微笑むと、自身の中から溢れ出る俺の分身を指ですくい取り、それを舐め上げた。
「ん……濃い。昨日のサンプルより、ずっと強力な成分が出てる。……貴方、私を犯しながら、本当は殺してやりたいって思ってたでしょ?」
図星だった。
俺はこの女を憎んでいた。見下され、家畜扱いされた恨み。それを晴らすために、性器という凶器を使って彼女を突き上げた。
「その『殺意』と『性欲』の配合が絶妙なのよ。……ああ、たまらない。研究者として、このまま解剖して中身を確かめたいくらい」
「……イカれてやがる」
俺は背筋に寒気を感じて、彼女から離れようとした。
だが、小鳩の細い腕が、蛇のように俺の腰に絡みついた。
「行かないで」
「離せ! 俺はここから出るんだ」
「出られないわよ。……ねえ、気づいてないの?」
小鳩が俺の耳元で、悪魔のような声を囁く。
「貴方の身体、もう立つのもやっとでしょう? ……私の身体に『出した』ことで、貴方は私の一部になっちゃったの」
「な……ッ!?」
立ち上がろうとした瞬間、強烈な目眩が俺を襲った。膝から力が抜け、無様に床に崩れ落ちる。
視界が歪む。手足の先が冷たい。まるで、生命力を根こそぎ持っていかれたような感覚だ。
「貴方の種は高エネルギーの塊。それを一度にあれだけ放出したんだもの。急激な欠乏状態……いわば『ガス欠』ね。今、貴方の脳は私のフェロモンと、この部屋の匂いなしでは正常に機能しないはずよ」
小鳩はよろめきながら立ち上がると、白衣を羽織り直した。だが、ボタンを留める手つきは緩慢で、隙間から見える肌には俺がつけたキスマークが赤黒く浮き上がっている。
彼女は支配者としての威厳を取り戻そうとしていたが、その表情には隠しきれない情欲が滲んでいた。
「私の勝ちね、俊弘さん。……貴方はもう、私という『鞘』なしでは生きられない剣になっちゃったのよ」
「ふざ……けんな……っ」
俺は床を這い、出口の扉へと手を伸ばした。
だが、その時だった。
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
部屋中の警告灯が赤く明滅し、耳をつんざくようなアラームが鳴り響いた。
同時に、ロックされていたはずの重厚な扉が、外側からの制御で強制的に開放される。
「確保ォォッ!!」
怒号と共に、黒い装備に身を包んだ武装部隊が雪崩れ込んできた。
数人の男たちが俺に飛びかかり、抵抗する間もなく床にねじ伏せる。冷たい床の感触。背中に乗るブーツの重み。突きつけられる銃口の冷たさ。
「ぐっ……あぁッ!」
「動くな! 検体408番、確保完了!」
俺は顔を床に押し付けられたまま、視線だけで小鳩を探した。
彼女もまた、別の隊員たちに取り囲まれていた。だが、銃口を向けられているわけではない。
「小鳩主任! ご無事ですか!?」
隊長らしき男が駆け寄り、彼女に肩を貸そうとする。
しかし、小鳩はその手を冷たく払い退けた。
「……触らないで」
「は?」
「その汚い手で私に触るなと言っているの。……私は今、非常に『デリケート』な状態なのよ」
小鳩の声は、低く、ドスの効いたものだった。
彼女は乱れた髪をかき上げ、床に這いつくばる俺を見下ろした。
その瞳は、先ほどの陶酔を奥底に隠し、氷のような冷徹さで武装していた。だが、俺にだけは分かった。彼女がまだ、俺との行為の余韻の中にいることが。
「主任、こいつは貴方を人質に取り、あまつさえ暴行を……! 即刻、廃棄処分にすべきです!」
隊長が俺に銃口を突きつける。
死ぬ。
そう思った瞬間、小鳩が叫んだ。
「待ちなさい!!」
彼女は俺と銃口の間に割って入った。
「こいつは……私のよ」
「は……?」
「この検体は、私の身体を使って『適合実験』を行ったの。……結果は極めて良好。これほどの適合値を出したサンプルは過去に例がないわ」
小鳩は頬を紅潮させながら、堂々と言い放った。
その姿は、研究成果を守る科学者というよりは、お気に入りの玩具を取り上げられまいとする子供のようであり、同時に、獲物を独占しようとする雌豹のようでもあった。
「廃棄なんて許さない。この408番は、今日から私の『専属管理下』に置くわ。……誰にも触らせない。一滴たりとも、他の誰かになんて渡さない」
「し、しかし主任……それは規則違反では……」
「規則? 私がルールよ。……文句があるなら上に報告しなさい。ただし、私が開発した『新薬』のレシピごと、他の組織に亡命することになるけど?」
隊長は言葉を詰まらせ、悔しそうに銃を下ろした。
この組織において、彼女の頭脳がどれほど重要視されているかが分かる一幕だった。
「……連れて行って。私の個室へ」
小鳩の命令で、俺は拘束具をつけられ、二人の男に引きずり起こされた。
すれ違いざま、小鳩と目が合った。
彼女はニヤリと笑い、音のない口パクでこう告げた。
『続き、しましょ?』
ゾクリと背筋が震えた。
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