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第11話 潜伏
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重いマンホールの蓋を肩で押し上げると、そこはネオンが瞬く歓楽街の路地裏だった。
「……はぁ、はぁ、臭せぇ……」
俺はアスファルトの上に転がり出た。全身汚水まみれ。ドブの臭いと、自分自身から立ち昇る甘ったるいムスクのような体臭が混ざり合い、強烈な異臭を放っている。
だが、通行人たちは眉をひそめるどころか、不思議そうに鼻を鳴らして通り過ぎていく。
まるで、極上の香水に惹きつけられる昆虫のように。
「……おい、兄ちゃん」
不意に声をかけられた。
ビクリとして振り返ると、派手なメイクをした女が立っていた。安っぽいファーコートに、露出度の高いミニスカート。客引きの娼婦だ。
「酷い格好だね。ホームレス? ……にしては、なんかイイ匂いがするけど」
女は警戒心よりも好奇心が勝ったように、俺の首元に顔を近づけてくんくんと鼻を鳴らした。
「……なによこれ。すっごいドキドキする匂い……。ねえ、あんた、お金持ってる?」
「一文無しだ。……あっち行け」
俺は小鳩のIDカードとUSBが入ったポケットを庇いながら、よろよろと立ち上がった。
早くどこかに隠れないと。この街には防犯カメラが無数にある。組織の手がどこまで伸びているか分からない。
「金がないなら、アタシが奢ってあげるよ」
女が俺の腕に絡みついてきた。その瞳は、少し潤んでいる。
「なんか、あんたの匂い嗅いでたら、身体が熱くなってきちゃった。……ねえ、休憩しようよ。近くに安いホテルがあるの」
俺は振り払おうとしたが、体が言うことを聞かなかった。
ミサとの行為からまだ数時間。だが、俺の改造された肉体は、既に次の「宿主」を求めて疼き始めていたのだ。この女の安っぽい香水の匂いが、理性を麻痺させるトリガーになる。
「……シャワー、浴びさせろよ」
「いいよ。……その代わり、たっぷりと可愛がってね」
連れ込まれたのは、カビ臭いラブホテルの狭い一室だった。
俺はシャワーで汚水を洗い流すと、濡れた体のままベッドに倒れ込んだ。
女――名乗るほどの仲でもない――は、俺を見るなりコートを脱ぎ捨てた。
「凄い……。あんな汚い格好してたのに、中身はこんなに立派なのね」
彼女は俺の股間に釘付けになり、喉を鳴らした。
俺のモノは、彼女の視線を感じただけで、どす黒く脈打ち、屹立していた。
「我慢できない……。いただきまーす」
彼女は飢えた獣のように俺に飛びかかり、俺のモノを口いっぱいに頬張った。
プロの技術か、それとも本能か。舌の動きが尋常ではない。
「んむッ、ちゅぷ、じゅるるッ……!」
「くっ、あ……ッ!」
俺は天井を仰いだ。
小鳩のような支配欲も、ミサのような頽廃感もない。ただ純粋な、底なしの食欲。
一般人の彼女でさえ、俺のフェロモンに当てられるとこうなるのか。
俺は、自分が歩くフェロモン兵器になったことを自覚させられた。
「入れるよ……」
「うん、来て、早く……ッ! 奥までぶち込んで!」
彼女は自らゴムをつけようともせず、俺の上に跨がった。
結合の瞬間、彼女の細い体がビクンと跳ね、白目を剥くほどの快感に震える。
「あぎゃあああッ! なにこれ、凄い、熱いッ……!!」
俺たちは軋むベッドの上で、獣のように貪り合った。
俺の中に溜まった「組織への憎悪」や「逃亡の不安」といった負の感情が、精液という名のエネルギーに変換され、彼女の子宮へと注ぎ込まれていく。
数度の絶頂の後、女は気絶したように眠りに落ちた。
俺は賢者タイムの冷徹な頭で、彼女のバッグからスマートフォンを抜き取った。
「……さて、本題だ」
俺はUSBメモリをスマホに接続しようとしたが、端子が合わない。
舌打ちをして部屋を見渡すと、有料放送用の古ぼけたデスクトップPCがあった。
俺は裏側の配線をいじり、USBポートに「ユダ」を差し込んだ。
画面にノイズが走り、パスワード入力画面が現れる。
だが、小鳩が残したメモにはパスワードなんて書いていなかった。
万事休すか?
いや、メモにあった『ユダ』の文字。それがヒントか?
俺はキーボードを叩いた。
『J・U・D・A・S』――エラー。
『U・R・A・G・I・R・I』――エラー。
「クソッ、なんだよ……!」
焦りで手汗が滲む。
その時、ふと小鳩が最後に言っていた言葉を思い出した。
『私は貴方を、世界で一番幸せな家畜にしてあげる』
あいつにとって、俺は何だった? 検体? 恋人? いや……。
俺は震える指で、俺自身の識別番号を入力した。
『408』
カチッ。
画面が切り替わり、膨大なフォルダが表示された。
正解かよ。とんだ愛のメッセージだ。
俺は『顧客リスト』というフォルダを開いた。
そこには、政財界の大物、海外の富豪、そして――。
「……は?」
俺は画面に表示されたある名前に、息を呑んだ。
『第3期 優先供給先:飯塚市議会議員 高田義男』
見覚えがある名前だ。
俺の母親がパートをしているスーパーのオーナーであり、地元の名士。
そして、俺がパチンコで借金を作ったサラ金業者の、裏のオーナーとも噂される男。
「……全部、繋がってやがったのか」
俺が選ばれたのは偶然じゃない。
俺の借金も、転落人生も、全てはこの「牧場」に俺を送り込むために仕組まれたシナリオだったとしたら?
その時、PCの画面に赤い警告ウィンドウがポップアップした。
『データアクセスを検知。位置情報を送信しました』
「なッ!?」
罠だ。このUSB自体が、開封した瞬間に居場所を知らせる発信機だったんだ。
遠くで、サイレンの音が聞こえ始めた。
「……やってくれるじゃねえか、小鳩」
俺は眠っている女の財布から現金を抜き取り、PCを椅子で叩き壊した。
逃げなきゃならない。
だが、行く当てはできた。
俺をハメた元凶の一人、高田。奴の元へ向かう。
俺はまだ、パチンコの玉を一発も打ち込んでいねえんだ。
確変(カクヘン)は、これからだ。
「……はぁ、はぁ、臭せぇ……」
俺はアスファルトの上に転がり出た。全身汚水まみれ。ドブの臭いと、自分自身から立ち昇る甘ったるいムスクのような体臭が混ざり合い、強烈な異臭を放っている。
だが、通行人たちは眉をひそめるどころか、不思議そうに鼻を鳴らして通り過ぎていく。
まるで、極上の香水に惹きつけられる昆虫のように。
「……おい、兄ちゃん」
不意に声をかけられた。
ビクリとして振り返ると、派手なメイクをした女が立っていた。安っぽいファーコートに、露出度の高いミニスカート。客引きの娼婦だ。
「酷い格好だね。ホームレス? ……にしては、なんかイイ匂いがするけど」
女は警戒心よりも好奇心が勝ったように、俺の首元に顔を近づけてくんくんと鼻を鳴らした。
「……なによこれ。すっごいドキドキする匂い……。ねえ、あんた、お金持ってる?」
「一文無しだ。……あっち行け」
俺は小鳩のIDカードとUSBが入ったポケットを庇いながら、よろよろと立ち上がった。
早くどこかに隠れないと。この街には防犯カメラが無数にある。組織の手がどこまで伸びているか分からない。
「金がないなら、アタシが奢ってあげるよ」
女が俺の腕に絡みついてきた。その瞳は、少し潤んでいる。
「なんか、あんたの匂い嗅いでたら、身体が熱くなってきちゃった。……ねえ、休憩しようよ。近くに安いホテルがあるの」
俺は振り払おうとしたが、体が言うことを聞かなかった。
ミサとの行為からまだ数時間。だが、俺の改造された肉体は、既に次の「宿主」を求めて疼き始めていたのだ。この女の安っぽい香水の匂いが、理性を麻痺させるトリガーになる。
「……シャワー、浴びさせろよ」
「いいよ。……その代わり、たっぷりと可愛がってね」
連れ込まれたのは、カビ臭いラブホテルの狭い一室だった。
俺はシャワーで汚水を洗い流すと、濡れた体のままベッドに倒れ込んだ。
女――名乗るほどの仲でもない――は、俺を見るなりコートを脱ぎ捨てた。
「凄い……。あんな汚い格好してたのに、中身はこんなに立派なのね」
彼女は俺の股間に釘付けになり、喉を鳴らした。
俺のモノは、彼女の視線を感じただけで、どす黒く脈打ち、屹立していた。
「我慢できない……。いただきまーす」
彼女は飢えた獣のように俺に飛びかかり、俺のモノを口いっぱいに頬張った。
プロの技術か、それとも本能か。舌の動きが尋常ではない。
「んむッ、ちゅぷ、じゅるるッ……!」
「くっ、あ……ッ!」
俺は天井を仰いだ。
小鳩のような支配欲も、ミサのような頽廃感もない。ただ純粋な、底なしの食欲。
一般人の彼女でさえ、俺のフェロモンに当てられるとこうなるのか。
俺は、自分が歩くフェロモン兵器になったことを自覚させられた。
「入れるよ……」
「うん、来て、早く……ッ! 奥までぶち込んで!」
彼女は自らゴムをつけようともせず、俺の上に跨がった。
結合の瞬間、彼女の細い体がビクンと跳ね、白目を剥くほどの快感に震える。
「あぎゃあああッ! なにこれ、凄い、熱いッ……!!」
俺たちは軋むベッドの上で、獣のように貪り合った。
俺の中に溜まった「組織への憎悪」や「逃亡の不安」といった負の感情が、精液という名のエネルギーに変換され、彼女の子宮へと注ぎ込まれていく。
数度の絶頂の後、女は気絶したように眠りに落ちた。
俺は賢者タイムの冷徹な頭で、彼女のバッグからスマートフォンを抜き取った。
「……さて、本題だ」
俺はUSBメモリをスマホに接続しようとしたが、端子が合わない。
舌打ちをして部屋を見渡すと、有料放送用の古ぼけたデスクトップPCがあった。
俺は裏側の配線をいじり、USBポートに「ユダ」を差し込んだ。
画面にノイズが走り、パスワード入力画面が現れる。
だが、小鳩が残したメモにはパスワードなんて書いていなかった。
万事休すか?
いや、メモにあった『ユダ』の文字。それがヒントか?
俺はキーボードを叩いた。
『J・U・D・A・S』――エラー。
『U・R・A・G・I・R・I』――エラー。
「クソッ、なんだよ……!」
焦りで手汗が滲む。
その時、ふと小鳩が最後に言っていた言葉を思い出した。
『私は貴方を、世界で一番幸せな家畜にしてあげる』
あいつにとって、俺は何だった? 検体? 恋人? いや……。
俺は震える指で、俺自身の識別番号を入力した。
『408』
カチッ。
画面が切り替わり、膨大なフォルダが表示された。
正解かよ。とんだ愛のメッセージだ。
俺は『顧客リスト』というフォルダを開いた。
そこには、政財界の大物、海外の富豪、そして――。
「……は?」
俺は画面に表示されたある名前に、息を呑んだ。
『第3期 優先供給先:飯塚市議会議員 高田義男』
見覚えがある名前だ。
俺の母親がパートをしているスーパーのオーナーであり、地元の名士。
そして、俺がパチンコで借金を作ったサラ金業者の、裏のオーナーとも噂される男。
「……全部、繋がってやがったのか」
俺が選ばれたのは偶然じゃない。
俺の借金も、転落人生も、全てはこの「牧場」に俺を送り込むために仕組まれたシナリオだったとしたら?
その時、PCの画面に赤い警告ウィンドウがポップアップした。
『データアクセスを検知。位置情報を送信しました』
「なッ!?」
罠だ。このUSB自体が、開封した瞬間に居場所を知らせる発信機だったんだ。
遠くで、サイレンの音が聞こえ始めた。
「……やってくれるじゃねえか、小鳩」
俺は眠っている女の財布から現金を抜き取り、PCを椅子で叩き壊した。
逃げなきゃならない。
だが、行く当てはできた。
俺をハメた元凶の一人、高田。奴の元へ向かう。
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