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第32話 遺跡
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漆黒の宇宙空間を、全長3キロメートルに及ぶ超ド級戦艦『アーク・ロイヤル』が音もなく滑走する。
シオンが設計し、地球の全資源をつぎ込んで建造されたこの鉄の塊は、わずか数時間で地球の重力圏を離脱し、静寂の海――月へと到達していた。
「……何もないな。死んだ星だ」
艦橋(ブリッジ)で、俺はモニターに映る灰色の地平を見下ろした。
酒も女も揃っている豪華な船内だが、窓の外に広がる虚無は、俺のギャンブラーとしての勘をざわつかせていた。
『当たり』の気配がしない。むしろ、絶対に手を出してはいけない『回収台』に座ったような、嫌な予感だ。
「父上、目標地点に到達しました。……月の裏側、通称『ダークサイド』です」
シオンの指先が動くと、メインスクリーンが拡大される。
クレーターの深淵。そこに、異様な建造物が鎮座していた。
金属ではない。まるで巨大な生物の骨と内臓が石化して絡み合ったような、有機的な醜悪さを放つ遺跡だ。
「趣味の悪いデザインね。……本当にこれが私の故郷?」
隣に立つイヴが、不安げに自身の手を抱いた。彼女の肌が粟立っている。
遺伝子レベルでの拒絶反応か、あるいは恐怖か。
「降りてみれば分かる。……行くぞ」
上陸艇で遺跡の入り口へと降り立つ。
空気はないが、シオンが展開したエネルギーフィールドのおかげで、俺たちは生身のまま呼吸ができた。
遺跡のゲートは、イヴが近づくとまるで生き物のように脈打ち、ヌルリと開いた。
「……歓迎されてるみたいだな」
俺を先頭に、内部へと足を踏み入れる。
通路の壁は血管のように明滅し、奥へ進むにつれて、腐った果実のような甘ったるい異臭が漂い始めた。
そして、最深部のホールに出た瞬間。俺たちは言葉を失った。
「……なんだ、これは」
そこは、巨大な培養施設だった。
ただし、美しい『エデン』のそれとは違う。
壁一面に埋め込まれた数千、数万のカプセル。その中に浮かんでいるのは、肉塊のような失敗作たちだった。
目が3つある奇形、四肢が欠損した胎児、そして――イヴに酷似した顔を持ちながら、全身が腫瘍に覆われた『成れの果て』。
「ひッ……!?」
イヴが口元を押さえ、その場に崩れ落ちた。
「これ……全部、私? 私の姉妹たちなの……?」
シオンが冷徹にカプセルの一つをスキャンする。
「……炭素年代測定、約一万年前。どうやらここは『工場』ではなく『廃棄場』のようです。
父上、推測ですが……彼ら(創造主)は、イヴのような『完全な生体兵器』を作るために、この月で何万回も実験を繰り返し、失敗作を捨てていた」
「俺の女を、実験動物扱いしてたってことか……」
俺の中で怒りの炎が燃え上がると同時に、背筋に冷たいものが走った。
これだけの数を「廃棄」できるほどの文明。そいつらは今、どこにいる?
その時。
ホールの中央にある祭壇のような端末が、突如として起動した。
赤いホログラムが空間に投影される。
映し出されたのは、人間とは似ても似つかない、触手と脳髄が肥大化した醜悪なエイリアン――『創造主』の姿だった。
『……警告。廃棄プラント・ナンバー3に生体反応あり』
機械的な翻訳音声が脳に響く。
『個体識別コード・E-001(イヴ)を確認。……おや、逃げ出したサンプルが、自ら戻ってくるとは』
「てめえがここの責任者か? ……随分と悪趣味なインテリアだな」
俺が睨みつけると、ホログラムの怪物は、感情のない目で俺とシオンを一瞥した。
『その隣にいるのは……現地生物(地球人)か。
汚染されている。E-001、貴様、下等生物と交配したのか? 高貴なる我々の遺伝子を、猿の体液で汚したというのか』
怪物の声に、明らかな侮蔑と殺意が混じる。
『失敗作め。……回収班を派遣するまでもない。
これより、プラントの自浄システムを起動する。汚染されたサンプルごと、まとめて焼却処分だ』
ズゴゴゴゴゴ……ッ!!
遺跡全体が激しく振動し始めた。
壁面のカプセルが一斉に割れ、中から腐りかけた『失敗作』たちが這い出してくる。
ゾンビのように呻き声を上げながら、しかしその目は、明確な殺意を持って俺たちを捉えていた。
「父上、数が多すぎます! それに、こいつらの体液は強酸性です!」
シオンが障壁を展開するが、失敗作たちは溶解液を吐き散らしながら、波のように押し寄せてくる。
「……へっ、焼却処分だと?」
俺は震えるイヴを抱き起こし、ニヤリと笑った。
久しぶりだ。この圧倒的なアウェイ感。
相手は俺たちを「脅威」とも思っていない。ただの「ゴミ」として処理しようとしている。
「上等じゃねえか、エイリアン野郎。……その余裕、いつまで保つか見ものだな」
俺は拳を握りしめた。
地球では無敵だった俺の力。だが、ここは宇宙。
未知のルールが支配するこの場所で、俺の「確変」は通用するのか。
「シオン! 道を開けろ! ……この薄気味悪いお化け屋敷を、更地にしてやる!」
絶望的な数の異形を前に、俺たちの本当のサバイバルが幕を開けた。
シオンが設計し、地球の全資源をつぎ込んで建造されたこの鉄の塊は、わずか数時間で地球の重力圏を離脱し、静寂の海――月へと到達していた。
「……何もないな。死んだ星だ」
艦橋(ブリッジ)で、俺はモニターに映る灰色の地平を見下ろした。
酒も女も揃っている豪華な船内だが、窓の外に広がる虚無は、俺のギャンブラーとしての勘をざわつかせていた。
『当たり』の気配がしない。むしろ、絶対に手を出してはいけない『回収台』に座ったような、嫌な予感だ。
「父上、目標地点に到達しました。……月の裏側、通称『ダークサイド』です」
シオンの指先が動くと、メインスクリーンが拡大される。
クレーターの深淵。そこに、異様な建造物が鎮座していた。
金属ではない。まるで巨大な生物の骨と内臓が石化して絡み合ったような、有機的な醜悪さを放つ遺跡だ。
「趣味の悪いデザインね。……本当にこれが私の故郷?」
隣に立つイヴが、不安げに自身の手を抱いた。彼女の肌が粟立っている。
遺伝子レベルでの拒絶反応か、あるいは恐怖か。
「降りてみれば分かる。……行くぞ」
上陸艇で遺跡の入り口へと降り立つ。
空気はないが、シオンが展開したエネルギーフィールドのおかげで、俺たちは生身のまま呼吸ができた。
遺跡のゲートは、イヴが近づくとまるで生き物のように脈打ち、ヌルリと開いた。
「……歓迎されてるみたいだな」
俺を先頭に、内部へと足を踏み入れる。
通路の壁は血管のように明滅し、奥へ進むにつれて、腐った果実のような甘ったるい異臭が漂い始めた。
そして、最深部のホールに出た瞬間。俺たちは言葉を失った。
「……なんだ、これは」
そこは、巨大な培養施設だった。
ただし、美しい『エデン』のそれとは違う。
壁一面に埋め込まれた数千、数万のカプセル。その中に浮かんでいるのは、肉塊のような失敗作たちだった。
目が3つある奇形、四肢が欠損した胎児、そして――イヴに酷似した顔を持ちながら、全身が腫瘍に覆われた『成れの果て』。
「ひッ……!?」
イヴが口元を押さえ、その場に崩れ落ちた。
「これ……全部、私? 私の姉妹たちなの……?」
シオンが冷徹にカプセルの一つをスキャンする。
「……炭素年代測定、約一万年前。どうやらここは『工場』ではなく『廃棄場』のようです。
父上、推測ですが……彼ら(創造主)は、イヴのような『完全な生体兵器』を作るために、この月で何万回も実験を繰り返し、失敗作を捨てていた」
「俺の女を、実験動物扱いしてたってことか……」
俺の中で怒りの炎が燃え上がると同時に、背筋に冷たいものが走った。
これだけの数を「廃棄」できるほどの文明。そいつらは今、どこにいる?
その時。
ホールの中央にある祭壇のような端末が、突如として起動した。
赤いホログラムが空間に投影される。
映し出されたのは、人間とは似ても似つかない、触手と脳髄が肥大化した醜悪なエイリアン――『創造主』の姿だった。
『……警告。廃棄プラント・ナンバー3に生体反応あり』
機械的な翻訳音声が脳に響く。
『個体識別コード・E-001(イヴ)を確認。……おや、逃げ出したサンプルが、自ら戻ってくるとは』
「てめえがここの責任者か? ……随分と悪趣味なインテリアだな」
俺が睨みつけると、ホログラムの怪物は、感情のない目で俺とシオンを一瞥した。
『その隣にいるのは……現地生物(地球人)か。
汚染されている。E-001、貴様、下等生物と交配したのか? 高貴なる我々の遺伝子を、猿の体液で汚したというのか』
怪物の声に、明らかな侮蔑と殺意が混じる。
『失敗作め。……回収班を派遣するまでもない。
これより、プラントの自浄システムを起動する。汚染されたサンプルごと、まとめて焼却処分だ』
ズゴゴゴゴゴ……ッ!!
遺跡全体が激しく振動し始めた。
壁面のカプセルが一斉に割れ、中から腐りかけた『失敗作』たちが這い出してくる。
ゾンビのように呻き声を上げながら、しかしその目は、明確な殺意を持って俺たちを捉えていた。
「父上、数が多すぎます! それに、こいつらの体液は強酸性です!」
シオンが障壁を展開するが、失敗作たちは溶解液を吐き散らしながら、波のように押し寄せてくる。
「……へっ、焼却処分だと?」
俺は震えるイヴを抱き起こし、ニヤリと笑った。
久しぶりだ。この圧倒的なアウェイ感。
相手は俺たちを「脅威」とも思っていない。ただの「ゴミ」として処理しようとしている。
「上等じゃねえか、エイリアン野郎。……その余裕、いつまで保つか見ものだな」
俺は拳を握りしめた。
地球では無敵だった俺の力。だが、ここは宇宙。
未知のルールが支配するこの場所で、俺の「確変」は通用するのか。
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