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第35話 断絶
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「……弾かれただと?」
シオンが驚愕の声を上げた。
『アーク・ロイヤル』の主砲、ラグナロク・キャノンの直撃を受けたはずの人工惑星『ティル・ナ・ノーグ』。
硝煙が晴れたそこには、傷一つない、真珠色の輝きを放つバリアが展開されていた。
「完全なエネルギー反射……。こちらの攻撃を100%送り返しています。今の出力では、何度撃っても無駄です」
「チッ、硬い殻にこもってやがる。……なら、直接こじ開けるまでだ」
俺は玉座から立ち上がった。
砲撃が効かないなら、中に入って内側から破壊する。単純明快な理屈だ。
「イヴ、シオン、行くぞ。……セラフィム、お前は艦の指揮を執れ」
「はっ! ご武運を、ご主人様!」
俺たち3人は転送装置を使い、バリアの僅かな隙間――敵があえて誘い込むように開けていた「港」へと強行転送した。
転送された先は、息を呑むほど美しい場所だった。
透き通るようなクリスタルの塔が立ち並び、空には人工のオーロラが揺らめいている。
空気は清浄で、塵一つ落ちていない。
だが、そこには決定的に何かが欠けていた。
「……静かすぎる。生命の匂いがしない」
イヴが自身の体を抱きしめる。
住民の姿がない。いや、いるにはいるが、彼らはガラス張りのチューブの中を、無表情で移動しているだけだ。
会話も、笑い声も、喧嘩もない。ただシステムの一部として生きているだけの存在。
「ようこそ、野蛮な猿たちよ」
広場の中央に、ホログラム映像が現れた。
先ほどの創造主のリーダーだ。
「我々の聖域(ユートピア)はどうだ?
欲望も、争いも、生殖という不潔な行為も存在しない。
完全に管理され、最適化された、究極の秩序だ」
「……ヘドが出るな。まるで精巧な墓場だ」
俺が吐き捨てると、創造主は冷ややかな笑みを浮かべた。
「貴様らには理解できまい。……排除せよ、『守護者(ガーディアン)』」
その命令と共に、周囲のクリスタルの壁が砕け散った。
中から現れたのは、数百体の兵士たち。
以前戦ったセラフィムに似ているが、もっと無機質で、全身が銀色の金属質の肌に覆われている。
「……また人形か。俺のフェロモンで全員『雌』にしてやるよ!」
俺は不敵に笑い、突っ込んだ。
先頭の兵士の首を掴み、至近距離から俺の支配エネルギーを叩き込む。
いつものパターンだ。これでこいつも堕ちる――はずだった。
ガキンッ!!
「……あ?」
俺の手が弾かれた。
支配が……通じない?
兵士の瞳には何の変化もなく、無感情なまま、その腕が鋭利なブレードに変形し、俺の腹部を貫いた。
ドスッ!!
「が、はッ……!?」
「俊弘ッ!!」
「父上!!」
イヴとシオンの悲鳴。
俺はバックステップで距離を取り、傷口を押さえた。
血が出る。痛い。
再生能力が働いているが、傷の治りが遅い。
「……なぜだ。なぜ俺の『毒』が効かねえ!?」
ホログラムの創造主が、嘲笑うように答えた。
「学習しない猿だ。
我々は一万年前、イヴのような『性別を持つ生体兵器』の欠点に気づいた。
発情、生殖、感情……それらは兵器としての性能を不安定にさせるバグだとな」
創造主が両手を広げる。
「ゆえに、この『守護者』たちからは、生殖機能(セックス)という概念そのものを削除した。
性別も、子宮も、快楽回路もない。
ただ敵を滅ぼすためだけに存在する、純粋な暴力装置だ」
俺は戦慄した。
性別がない。
つまり、俺の「種馬」としての能力が、根本から否定されている。
挿れる穴もなければ、種を植え付ける土壌もない相手。
それは、俺にとって「どうしようもない天敵」だった。
「さあ、処刑の時間だ。
その汚らわしい生殖器ごと、消滅させてやる」
数百体の守護者が、一斉にブレードを構える。
シオンが障壁を展開するが、敵の攻撃はそれを易々と貫通してくる。
文明レベルが違いすぎる。
そして何より、俺の最大の武器である「支配」が封じられた今、俺たちはただの「少し強い生物」でしかない。
「くそっ……! 詰んだか……!?」
俺は初めて、背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
確変が終わる?
俺の物語は、こんな無機質な墓場で終わっちまうのか?
その時。
絶望的な包囲網の中で、俺の腕にしがみついていたイヴが、震える声で呟いた。
「……違う」
「イヴ?」
「あいつらに……性別がないなんて嘘よ」
イヴが顔を上げた。その瞳は、恐怖ではなく、創造主への強烈な憎悪と、ある種の「確信」に燃えていた。
「感じるわ。……あいつらの奥底に封印された、悲鳴のような渇きを。
無理やり去勢されて、押し殺されているだけの……『本能』を!」
イヴが俺の胸ぐらを掴み、叫んだ。
「俊弘! 諦めないで!
穴がないなら、こじ開ければいい!
回路がないなら、繋げばいい!
貴方の『毒』は、そんなヤワなものじゃないはずでしょうッ!?」
妻の檄が、俺の魂を殴りつけた。
そうだ。
俺はパチンコ台の設定なんざ知ったこっちゃねえ。
出ない台なら、出るまでハンドルを捻じ切る。それが俺のやり方だ。
「……へっ。いい女だ、お前は」
俺は口元の血を拭い、立ち上がった。
傷はまだ痛む。敵は無敵の去勢兵団。
だが、俺の股間のエンジンは、逆境を感じて逆に唸りを上げ始めた。
「上等だ、神様よ。
お前らが捨てた『無駄な機能(セックス)』の恐ろしさ……骨の髄まで教えてやる!」
絶体絶命の危機。
だが、魔王の目はまだ死んでいない。
シオンが驚愕の声を上げた。
『アーク・ロイヤル』の主砲、ラグナロク・キャノンの直撃を受けたはずの人工惑星『ティル・ナ・ノーグ』。
硝煙が晴れたそこには、傷一つない、真珠色の輝きを放つバリアが展開されていた。
「完全なエネルギー反射……。こちらの攻撃を100%送り返しています。今の出力では、何度撃っても無駄です」
「チッ、硬い殻にこもってやがる。……なら、直接こじ開けるまでだ」
俺は玉座から立ち上がった。
砲撃が効かないなら、中に入って内側から破壊する。単純明快な理屈だ。
「イヴ、シオン、行くぞ。……セラフィム、お前は艦の指揮を執れ」
「はっ! ご武運を、ご主人様!」
俺たち3人は転送装置を使い、バリアの僅かな隙間――敵があえて誘い込むように開けていた「港」へと強行転送した。
転送された先は、息を呑むほど美しい場所だった。
透き通るようなクリスタルの塔が立ち並び、空には人工のオーロラが揺らめいている。
空気は清浄で、塵一つ落ちていない。
だが、そこには決定的に何かが欠けていた。
「……静かすぎる。生命の匂いがしない」
イヴが自身の体を抱きしめる。
住民の姿がない。いや、いるにはいるが、彼らはガラス張りのチューブの中を、無表情で移動しているだけだ。
会話も、笑い声も、喧嘩もない。ただシステムの一部として生きているだけの存在。
「ようこそ、野蛮な猿たちよ」
広場の中央に、ホログラム映像が現れた。
先ほどの創造主のリーダーだ。
「我々の聖域(ユートピア)はどうだ?
欲望も、争いも、生殖という不潔な行為も存在しない。
完全に管理され、最適化された、究極の秩序だ」
「……ヘドが出るな。まるで精巧な墓場だ」
俺が吐き捨てると、創造主は冷ややかな笑みを浮かべた。
「貴様らには理解できまい。……排除せよ、『守護者(ガーディアン)』」
その命令と共に、周囲のクリスタルの壁が砕け散った。
中から現れたのは、数百体の兵士たち。
以前戦ったセラフィムに似ているが、もっと無機質で、全身が銀色の金属質の肌に覆われている。
「……また人形か。俺のフェロモンで全員『雌』にしてやるよ!」
俺は不敵に笑い、突っ込んだ。
先頭の兵士の首を掴み、至近距離から俺の支配エネルギーを叩き込む。
いつものパターンだ。これでこいつも堕ちる――はずだった。
ガキンッ!!
「……あ?」
俺の手が弾かれた。
支配が……通じない?
兵士の瞳には何の変化もなく、無感情なまま、その腕が鋭利なブレードに変形し、俺の腹部を貫いた。
ドスッ!!
「が、はッ……!?」
「俊弘ッ!!」
「父上!!」
イヴとシオンの悲鳴。
俺はバックステップで距離を取り、傷口を押さえた。
血が出る。痛い。
再生能力が働いているが、傷の治りが遅い。
「……なぜだ。なぜ俺の『毒』が効かねえ!?」
ホログラムの創造主が、嘲笑うように答えた。
「学習しない猿だ。
我々は一万年前、イヴのような『性別を持つ生体兵器』の欠点に気づいた。
発情、生殖、感情……それらは兵器としての性能を不安定にさせるバグだとな」
創造主が両手を広げる。
「ゆえに、この『守護者』たちからは、生殖機能(セックス)という概念そのものを削除した。
性別も、子宮も、快楽回路もない。
ただ敵を滅ぼすためだけに存在する、純粋な暴力装置だ」
俺は戦慄した。
性別がない。
つまり、俺の「種馬」としての能力が、根本から否定されている。
挿れる穴もなければ、種を植え付ける土壌もない相手。
それは、俺にとって「どうしようもない天敵」だった。
「さあ、処刑の時間だ。
その汚らわしい生殖器ごと、消滅させてやる」
数百体の守護者が、一斉にブレードを構える。
シオンが障壁を展開するが、敵の攻撃はそれを易々と貫通してくる。
文明レベルが違いすぎる。
そして何より、俺の最大の武器である「支配」が封じられた今、俺たちはただの「少し強い生物」でしかない。
「くそっ……! 詰んだか……!?」
俺は初めて、背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
確変が終わる?
俺の物語は、こんな無機質な墓場で終わっちまうのか?
その時。
絶望的な包囲網の中で、俺の腕にしがみついていたイヴが、震える声で呟いた。
「……違う」
「イヴ?」
「あいつらに……性別がないなんて嘘よ」
イヴが顔を上げた。その瞳は、恐怖ではなく、創造主への強烈な憎悪と、ある種の「確信」に燃えていた。
「感じるわ。……あいつらの奥底に封印された、悲鳴のような渇きを。
無理やり去勢されて、押し殺されているだけの……『本能』を!」
イヴが俺の胸ぐらを掴み、叫んだ。
「俊弘! 諦めないで!
穴がないなら、こじ開ければいい!
回路がないなら、繋げばいい!
貴方の『毒』は、そんなヤワなものじゃないはずでしょうッ!?」
妻の檄が、俺の魂を殴りつけた。
そうだ。
俺はパチンコ台の設定なんざ知ったこっちゃねえ。
出ない台なら、出るまでハンドルを捻じ切る。それが俺のやり方だ。
「……へっ。いい女だ、お前は」
俺は口元の血を拭い、立ち上がった。
傷はまだ痛む。敵は無敵の去勢兵団。
だが、俺の股間のエンジンは、逆境を感じて逆に唸りを上げ始めた。
「上等だ、神様よ。
お前らが捨てた『無駄な機能(セックス)』の恐ろしさ……骨の髄まで教えてやる!」
絶体絶命の危機。
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