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第9話 聖女様は壁ドンに弱い
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放課後。
俺は人気の少ない旧校舎の廊下で、絶体絶命のピンチに陥っていた。
「逃げられると思いましたか? 相川カズト」
目の前には、白銀の聖剣を構えたアリシア。
背後は行き止まり。
横には、今にもブレスを吐きそうなルナ。
「ダーリン、この女しつこい。やっぱり燃やしましょう? 骨も残さないわよ?」
「待て待て、早まるなルナ!」
俺は必死にルナを制止した。
ここでアリシアを殺せば、俺は「人類の敵」確定だ。
「問答無用! 貴方のその『得体の知れない強さ』、この剣で暴いてみせます!」
アリシアが踏み込んでくる。
速い。
S級探索者の身体能力は、Fランクの俺の動体視力では捉えきれない。
剣先が俺の喉元に迫る。
スキル発動!
この状況を、戦闘なしで制圧するルートは!?
【A:土下座して靴を舐める】
→ 生存確率:0.00%(ルナがブチ切れて学園崩壊)
【B:ルナに防御させる】
→ 生存確率:5.00%(衝撃波で旧校舎が倒壊し、俺も瓦礫の下敷きに)
【C:カウンターのタイミングで一歩踏み込み、彼女を壁に押し付け(壁ドン)、耳元で『無理するなよ、震えてるぞ』と囁く】
→ 生存確率:100.00%
……マジか。
相手はS級だぞ? カウンターなんて合わせられるわけがない。
いや、選択肢が「行け」と言っている。
俺の体は、選択肢を選んだ瞬間にオートで動く仕様(補正)がかかるはずだ。
「――はあっ!!」
アリシアの鋭い突きが放たれる。
死ぬ!
俺の本能が警鐘を鳴らすが、体は勝手に前へ出た。
スッ。
紙一重。
剣先が俺の頬をかすめる軌道を、俺は最小限の動きで回避し、彼女の懐(ふところ)に飛び込んだ。
「えっ……!?」
アリシアが驚愕に目を見開く。
その隙を逃さず、俺は彼女の手首を軽く払い、背後の壁へと押し込んだ。
ドンッ!!
廊下に鈍い音が響く。
俺の右手が壁を叩き、アリシアの逃げ場を塞ぐ。
いわゆる『壁ドン』だ。
至近距離。
アリシアのサファイアのような瞳が、目の前で揺れている。
「な、ななな、何を……!?」
顔を真っ赤にしてパニックになる聖女。
俺は心臓バックバクだが、顔だけはクールに決めて、指定されたセリフを囁いた。
「……無理するなよ。震えてるぞ?」
「っ……!!」
アリシアの体がビクリと跳ねた。
実際、彼女の手は震えていた。
だがそれは恐怖ではなく、極度の緊張とプレッシャー、そして「負けられない」という過労による疲労だ。
完璧主義者の彼女は、常に気を張り詰めていて、限界寸前だったのだ。
俺の「選択肢」は、その精神的な脆さを見抜いていた。
「わ、私……私は……」
アリシアの瞳から、戦意が消えていく。
代わりに浮かんだのは、戸惑いと、熱っぽい潤み。
(……見抜かれていた? 私の強がりも、弱さも、全て? 剣を交えるまでもなく、ただの一瞬で……?)
彼女の中で、俺への評価が「得体の知れない詐欺師」から「全てを包み込む包容力のある強者」へと書き換わっていく音がした。
「……ず、狡いです……」
アリシアは力なく剣を取り落とした。
カラン、と乾いた音が響く。
「こんな……こんな風にされたら……私、戦えないじゃないですか……」
彼女はへなへなと座り込み、両手で顔を覆った。
耳まで真っ赤だ。
【アリシアを無力化(攻略)しました】
【称号獲得:聖女の理解者】
「……ふぅ」
俺は壁から手を離し、冷や汗を拭った。
助かった。
奇跡的なタイミングが生んだまぐれだ。
しかし、安心したのも束の間。
背後から、氷点下の殺気が放たれていることに気づいた。
「……へぇ。ダーリン?」
ギギギ……と首を回すと、そこには般若のような笑顔のルナが立っていた。
背中から黒いオーラが噴き出している。
「あのチワワに『壁ドン』? しかも耳元で囁く? ……私にはしてくれたことないのに?」
「い、いや待てルナ! これは戦闘の一環で……!」
「お仕置きよ」
ルナが俺の襟首を掴み、ズルズルと引きずり始めた。
「今日は家に帰ったら、壁ドン100回してもらうから。……もちろん、『愛の言葉』付きでね?」
「ちょ、100回!? 死ぬ! 社会的に死ぬ!」
「問答無用♡」
俺の悲鳴が旧校舎にこだまする。
腰を抜かしたままのアリシアは、連れ去られる俺の背中を、どこか夢見るような瞳で見つめていた。
「……相川くん。貴方のこと、もっと知りたくなっちゃいました……」
こうして俺は、学園最強の聖女に「ロックオン」されるという、新たな死亡フラグを立ててしまったのだった。
俺は人気の少ない旧校舎の廊下で、絶体絶命のピンチに陥っていた。
「逃げられると思いましたか? 相川カズト」
目の前には、白銀の聖剣を構えたアリシア。
背後は行き止まり。
横には、今にもブレスを吐きそうなルナ。
「ダーリン、この女しつこい。やっぱり燃やしましょう? 骨も残さないわよ?」
「待て待て、早まるなルナ!」
俺は必死にルナを制止した。
ここでアリシアを殺せば、俺は「人類の敵」確定だ。
「問答無用! 貴方のその『得体の知れない強さ』、この剣で暴いてみせます!」
アリシアが踏み込んでくる。
速い。
S級探索者の身体能力は、Fランクの俺の動体視力では捉えきれない。
剣先が俺の喉元に迫る。
スキル発動!
この状況を、戦闘なしで制圧するルートは!?
【A:土下座して靴を舐める】
→ 生存確率:0.00%(ルナがブチ切れて学園崩壊)
【B:ルナに防御させる】
→ 生存確率:5.00%(衝撃波で旧校舎が倒壊し、俺も瓦礫の下敷きに)
【C:カウンターのタイミングで一歩踏み込み、彼女を壁に押し付け(壁ドン)、耳元で『無理するなよ、震えてるぞ』と囁く】
→ 生存確率:100.00%
……マジか。
相手はS級だぞ? カウンターなんて合わせられるわけがない。
いや、選択肢が「行け」と言っている。
俺の体は、選択肢を選んだ瞬間にオートで動く仕様(補正)がかかるはずだ。
「――はあっ!!」
アリシアの鋭い突きが放たれる。
死ぬ!
俺の本能が警鐘を鳴らすが、体は勝手に前へ出た。
スッ。
紙一重。
剣先が俺の頬をかすめる軌道を、俺は最小限の動きで回避し、彼女の懐(ふところ)に飛び込んだ。
「えっ……!?」
アリシアが驚愕に目を見開く。
その隙を逃さず、俺は彼女の手首を軽く払い、背後の壁へと押し込んだ。
ドンッ!!
廊下に鈍い音が響く。
俺の右手が壁を叩き、アリシアの逃げ場を塞ぐ。
いわゆる『壁ドン』だ。
至近距離。
アリシアのサファイアのような瞳が、目の前で揺れている。
「な、ななな、何を……!?」
顔を真っ赤にしてパニックになる聖女。
俺は心臓バックバクだが、顔だけはクールに決めて、指定されたセリフを囁いた。
「……無理するなよ。震えてるぞ?」
「っ……!!」
アリシアの体がビクリと跳ねた。
実際、彼女の手は震えていた。
だがそれは恐怖ではなく、極度の緊張とプレッシャー、そして「負けられない」という過労による疲労だ。
完璧主義者の彼女は、常に気を張り詰めていて、限界寸前だったのだ。
俺の「選択肢」は、その精神的な脆さを見抜いていた。
「わ、私……私は……」
アリシアの瞳から、戦意が消えていく。
代わりに浮かんだのは、戸惑いと、熱っぽい潤み。
(……見抜かれていた? 私の強がりも、弱さも、全て? 剣を交えるまでもなく、ただの一瞬で……?)
彼女の中で、俺への評価が「得体の知れない詐欺師」から「全てを包み込む包容力のある強者」へと書き換わっていく音がした。
「……ず、狡いです……」
アリシアは力なく剣を取り落とした。
カラン、と乾いた音が響く。
「こんな……こんな風にされたら……私、戦えないじゃないですか……」
彼女はへなへなと座り込み、両手で顔を覆った。
耳まで真っ赤だ。
【アリシアを無力化(攻略)しました】
【称号獲得:聖女の理解者】
「……ふぅ」
俺は壁から手を離し、冷や汗を拭った。
助かった。
奇跡的なタイミングが生んだまぐれだ。
しかし、安心したのも束の間。
背後から、氷点下の殺気が放たれていることに気づいた。
「……へぇ。ダーリン?」
ギギギ……と首を回すと、そこには般若のような笑顔のルナが立っていた。
背中から黒いオーラが噴き出している。
「あのチワワに『壁ドン』? しかも耳元で囁く? ……私にはしてくれたことないのに?」
「い、いや待てルナ! これは戦闘の一環で……!」
「お仕置きよ」
ルナが俺の襟首を掴み、ズルズルと引きずり始めた。
「今日は家に帰ったら、壁ドン100回してもらうから。……もちろん、『愛の言葉』付きでね?」
「ちょ、100回!? 死ぬ! 社会的に死ぬ!」
「問答無用♡」
俺の悲鳴が旧校舎にこだまする。
腰を抜かしたままのアリシアは、連れ去られる俺の背中を、どこか夢見るような瞳で見つめていた。
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