【生存確率0%】S級ダンジョンのボス部屋で、唯一表示された「生存ルート」が『ボス(美少女)にプロポーズすること』だった件。

ひふみ黒

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第10話 受付嬢は「裏の顔」を知られたくない

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「……それで? この大量の武器防具を、全て換金したいと?」

東京探索者ギルド、中央買取カウンター。
氷のような冷たい声が響いた。
声の主は、黒髪を後ろで束ねた眼鏡の美女。
ギルド随一の敏腕受付嬢であり、その冷徹な仕事ぶりから『氷の計算機』と恐れられるミレイさんだ。

カウンターの上には、山のような戦利品が積まれている。
これらは全て、先ほどの実習でオークたちが「命だけはお助けください!」と涙ながらに差し出してきた貢物(トリビュート)だ。
俺は何もしていないが、貰えるものは貰う主義だ。

「ええ、お願いします」

俺が答えると、ミレイさんは眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせた。

「相川カズト様。貴方のデータはFランク。……これほどの高品質なオーク装備、しかも『傷一つない』完品を、独力で入手できるとは到底思えません」

彼女は疑っている。
「窃盗」か「横流し」を。
ギルドの規約では、不正に入手した素材の買取は厳罰対象だ。

「入手ルートを明かしていただかないと、買取は不可能です。……場合によっては、憲兵を呼びますが?」

ミレイさんが手元の通報ボタンに指をかける。
やばい。
「オークが土下座して渡してきました」なんて言っても信じるわけがない。
かといって「魔王の威圧で奪いました」と言えば、ルナが危険生物認定されてしまう。

隣ではルナが「この女、私のダーリンを泥棒扱いしたわね? ギルドごと灰にする?」と物騒な独り言を呟いている。
待て、ステイだルナ。

俺はスキルを発動した。
この疑いを晴らし、かつ即金で買い取ってもらうルートは!?

【A:「俺の実力だ」と強弁する】
→ 生存確率:5.00%(実演を求められ、ボロが出て逮捕)

【B:ルナに脅してもらう】
→ 生存確率:0.00%(ミレイが実は「暗殺スキル」持ちで、反撃されて大騒ぎに)

【C:戦利品の中に混ざっていた『古びた黒いコイン』をカウンターに叩きつけ、無言でニヤリと笑う】
→ 生存確率:100.00%

……ん?
黒いコイン?
俺はオークの斧の隙間に、何やら薄汚いコインが挟まっているのを見つけた。
ただのゴミにしか見えない。
だが、選択肢は「これを出せ」と言っている。

(ええい、ままよ!)

俺はその黒いコインを掴み取ると、親指でピンッと弾き、カウンターの上に叩きつけた。

パァンッ!!

乾いた音が響く。
俺はミレイさんの目を真っ直ぐに見つめ、口の端を吊り上げて笑った。
何も言わずに。
「これでわかるだろ?」という雰囲気を醸し出して。

その瞬間。

「ッ……!?」

ミレイさんの表情が凍りついた。
彼女は震える手で、そのコインを手に取る。
そして、周囲に聞こえないような小声で呟いた。

「……『影の硬貨(シャドウ・コイン)』……!? まさか……貴方が……?」

彼女の顔色が蒼白になり、額に冷や汗が滲む。

(嘘でしょ……? これは裏社会のトップ、暗殺ギルドの『幹部』だけが持つ証……! しかもこの傷跡……3年前に先代リーダーが行方不明になった時の……!)

ミレイさんの脳内で、勝手なストーリーが爆速で構築されていく。

(この男、ただのFランクじゃない。……表向きは学生を演じているけれど、正体は『裏社会のフィクサー』!? 私(ミレイ)が、実は暗殺ギルドの構成員であることを知っていて、警告に来たの!?)

彼女にとって、俺の「ニヤリ」という笑みは、「俺は全て知っているぞ。騒ぎ立てれば、お前の『裏の顔』もバラすぞ」という無言の圧力に見えたらしい。

ガタッ!

ミレイさんは椅子を蹴って立ち上がった。
そして、先ほどまでの冷徹な態度をかなぐり捨て、深々と頭を下げた。

「……し、失礼いたしましたッ!! 本物(・・)であることを確認しました! 疑って申し訳ありません、相川様!」

「え?」

「こ、これらの品は、全て最高ランクの『S評価』で買い取らせていただきます! 手数料も結構です! い、今のレートで……総額、5000万円になります!」

「ご、ごせんまん!?」

俺は素っ頓狂な声を上げそうになった。
オークの装備だぞ? 相場ならせいぜい数百万だ。
なぜ10倍になった?

「そ、その代わり……!」

ミレイさんは身を乗り出し、上目遣いで、どこか艶っぽい声で囁いた。

「……今日のことは、ご内密にお願いします。……『ボス』♡」

「……は?」

ボス?
誰が? 俺が?

【ミレイの好感度が歪んだ形で爆上がりしました】
【称号獲得:裏社会のドン(誤解)】

「ふふっ、さすがダーリン。女を落とすのが上手ね」

ルナがジト目で俺の脇腹をつつく。
違う。俺はただゴミを出しただけだ。

「振込手続きをしますので、奥の応接室(VIPルーム)へどうぞ。……ふふ、特別に『裏オプション』もお付けしますから」

ミレイさんが眼鏡の位置を直し、妖艶に唇を舐める。
その目は、完全に「服従」と、強者への「依存」の色を帯びていた。

こうして俺は、魔王と聖女に続き、なぜかギルド(裏社会)の財布の紐まで握ることになってしまった。
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