借金返済の為、ヤンデレ彼女とデスゲームに参加してみた【彼女が強すぎて運営が涙目】

ひふみ黒

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第17話 貧者の晩餐と、捕食者の微笑

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人工の風が、頬を撫でる。

地下とは思えないほど広大な庭園には、色とりどりの花が咲き乱れていた。

だが、甘い花の香りに混じって、どこか「腐臭」のようなものが漂っているのは気のせいだろうか。

綺麗だね、タクヤくん。

アイリが花壇を覗き込み、微笑む。

その横顔は無邪気そのものだが、彼女の腹の虫が、ぐう、と小さく鳴った。

ごめん……。

僕は胸が締め付けられる思いだった。

チップ残高ゼロ。

それは、この空間において「人権」がないに等しい。

自販機の水一本すら買えない。

このままでは、ゲームで殺される前に、飢えと渇きで死ぬ。

向こうに建物がある。行こう。

僕は空腹を紛らわせるように、庭園の中央にそびえる洋館を目指して歩き出した。

洋館の入り口には、またしてもあの悪趣味な女神像のレプリカが置かれていた。

その台座に、新しいプレートが嵌め込まれている。

『滞在ルール:シェアハウス・オブ・マリス(悪意の館)』

1. 館内の個室は無料ですが、光熱費として1時間につき1チップを徴収します。
2. 食事はダイニングで購入してください。持ち込みは自由です。
3. 暴力行為は推奨しませんが、監視の目は届きにくいでしょう。
4. **他人の所有物を盗むことは禁止ですが、所有権を失った物体(遺体など)からの回収は合法とします。**

4番目のルールを読んだ瞬間、背筋が凍った。

所有権を失った物体。

つまり、「殺して奪え」と明言しているようなものだ。

おいおい、マジかよ。

背後から、聞き覚えのある嘲笑が聞こえた。

振り返ると、そこにはケンジとユミのペアが立っていた。

ケンジの手には、かじりかけの真っ赤なリンゴが握られている。

シャクッ、といい音を立ててリンゴを噛み砕くケンジ。

果汁が溢れ、甘酸っぱい香りが僕たちの鼻孔を刺激する。

喉が鳴るのを止められなかった。

チップゼロの貧乏人が、これからどうやって生きていくつもりだ?

ケンジは口元を拭いながら、僕たちを見下ろした。

水も飲めねえ、風呂も入れねえ。野垂れ死に確定だな。

……放っておいてくれ。

強がって見せるが、声に力が入らない。

なあ、タクヤ。

ケンジがニヤリと笑い、一歩近づいてきた。

商談といこうぜ。

商談?

俺たちはチップを持て余してるんだ。昨日のゲームで、ユミを脅して……いや、協力してガッポリ稼いだからな。

横にいるユミは、うつむいて震えている。彼女の頬には、赤い痣のようなものが見えた。

DVだ。こいつは暴力を支配の道具にしている。

で、恵んでやってもいいぜ? チップ50枚くらい。

50枚。

それがあれば、水と食料を確保し、とりあえずの命は繋げる。

条件は?

僕は警戒しながら尋ねる。

簡単さ。

ケンジの視線が、僕の隣にいるアイリへと移動した。

ねっとりと、品定めをするような視線。

その女を、一晩貸せよ。

は?

俺の部屋に来させろ。ユミだけじゃ飽きてたんだよ。その綺麗な顔で泣き叫ぶところ、見てみたいもんなぁ。

血管が切れそうだった。

こいつは今、僕の恋人を、僕の「聖女」を、チップ50枚の娼婦として扱った。

ふざけるな……!

僕が拳を振り上げた瞬間、ケンジが懐からサバイバルナイフを取り出した。

おっと。丸腰の雑魚が、武器持ちに勝てると思ってんのか?

切っ先が僕の喉元に向けられる。

悔しさで視界が滲む。

論理もへったくれもない。ただの暴力と資本の差。

チップがないということは、尊厳を守る力すらないということなのか。

いい加減にしろよ、ケンジ!

叫んだのは僕ではなかった。

ユミだった。

彼女は涙目でケンジの袖を引いた。

もう行こうよ……あんな人たち、相手にするだけ時間の無駄だよ。

チッ、つまんねえ女だ。

ケンジはナイフを収めると、最後に食べかけのリンゴを僕たちの足元に投げ捨てた。

ほらよ、餌だ。拾って食えよ、ハイエナども。

高笑いと共に、二人は洋館の中へと消えていった。

残されたのは、僕たちの足元に転がる、泥のついたリンゴの残骸だけ。

僕は、惨めさで立ち尽くしていた。

アイリを守ると誓った直後に、この様だ。

ごめん、アイリ。僕が不甲斐ないばかりに……。

謝ろうとして、彼女の方を見た。

僕は息を呑んだ。

アイリは、泣いていなかった。

怒ってもいなかった。

彼女は、足元のリンゴを拾い上げ、泥を手で払い落とすと……。

シャクッ。

何事もないような顔で、そのリンゴをかじったのだ。

ア、アイリ!?

何? タクヤくん。

彼女は咀嚼し、飲み込むと、僕に向かってにっこりと微笑んだ。

もったいないよ。これ、1個チップ5枚分だもん。栄養は摂らなきゃ。

その笑顔は、あまりにも透明で、そして異常だった。

プライドとか、羞恥心とか、そういうものが欠落しているのか?

それとも、生きるためには泥水さえも啜る覚悟なのか?

タクヤくんも食べる?

いや……僕は。

そっか。

アイリは残りのリンゴを懐にしまうと、ケンジたちが消えた扉の方をじっと見つめた。

ねえ、タクヤくん。

鈴が転がるような、可愛らしい声。

さっきのルール、覚えてる?

ルール?

『所有権を失った物体からの回収は合法』ってやつ。

……ああ。

ケンジくんたち、チップたくさん持ってるって言ってたね。

アイリは首を傾げ、まるで「今日の夕飯なににする?」と聞くようなトーンで言った。

もし、ケンジくんが「物体」になったら。

え?

あのチップ、全部私たちのものだよね?

背筋に冷たいものが走る。

彼女が何を言おうとしているのか、瞬時に理解してしまったからだ。

やめろ、アイリ。それは……。

殺人は禁止されてないよ。「推奨しません」って書いてあるだけ。

彼女の瞳の奥に、昏い炎が揺らめいている。

それに、彼らは武器を持ってる。正当防衛を装うチャンスはいくらでもあるよ。

彼女は僕の手を取り、自分の頬に押し当てた。

タクヤくん。私、悔しかったな。

タクヤくんがバカにされたこと。あんな奴に、見下されたこと。

彼女の声の温度が、急激に下がる。

許せない。あいつ、絶対に許さない。私のタクヤくんを侮辱した罪、命で償わせなきゃ。

彼女は怒っている。

自分を「貸せ」と言われたことに対してではない。

僕が侮辱されたことに対して、修羅のような怒りを抱いているのだ。

狩ろうよ、タクヤくん。

聖女の皮を被った怪物が、僕に甘く囁く。

あいつらを殺して、チップも、食料も、武器も、全部奪おう。

それが、この楽園での正しい「稼ぎ方」だよ。

僕は、彼女の瞳から目が離せなかった。

本来なら止めるべきだ。

だが、僕の心の一部が、彼女の提案に激しく同意していた。

あの屈辱。

あの無力感。

それを晴らすには、もう「奪う」しかないのではないか?

僕は無言で頷いた。

アイリが嬉しそうに笑い、僕に抱きつく。

その瞬間、僕たちの「背徳のアルゴリズム」は完成した。

被害者であることをやめ、加害者になること。

それが、僕たちが選んだ生存戦略だった。

洋館の影が長く伸びる。

僕たちは手を繋ぎ、捕食者の顔をして、その暗闇へと足を踏み入れた。

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