借金返済の為、ヤンデレ彼女とデスゲームに参加してみた【彼女が強すぎて運営が涙目】

ひふみ黒

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第18話 血染めのドレスコード

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洋館の大広間は、異様な熱気に包まれていた。

シャンデリアが煌々と輝き、クラシック音楽が優雅に流れている。

だが、そこに集められたプレイヤーたちの姿は、貴族の舞踏会とは程遠いものだった。

薄汚れたシャツ、疲労困憊の顔、そして瞳に宿る殺気。

『ようこそ、マスカレードへ』

キルケゴールの声が響く。

『今夜のパーティには、ドレスコードがあります。それは「仮面」です』

ホールの長テーブルに、様々なデザインの仮面が並べられていた。

ペスト医師のマスク、道化師、狐、骸骨。

『この館の中では、仮面を着用している限り、ID(個体識別)が無効化されます。つまり、誰が何をしたか、システムは記録しません』

ざわめきが走る。

システムが記録しない。

それはつまり、「完全犯罪」が可能だということだ。

監視カメラに映っても、「仮面の男がやった」ことしか分からない。

『さあ、お好きな仮面をお選びください。そして、ダンスと……狩りをお楽しみください』

早い者勝ちだ。

参加者たちがテーブルに殺到する。

僕たちも波に飲まれまいと走った。

タクヤくん、これ!

アイリが素早く二つの仮面を確保した。

一つは、涙を流しているようなデザインの「悲劇の仮面(トラジディ)」。

もう一つは、口元が裂けたように笑う「喜劇の仮面(コメディ)」。

どっちがいい?

アイリは楽しそうに選んでいる。

僕は迷わず「喜劇」を選んだ。

今の僕には、泣き顔よりも、狂った笑顔の方が似合っている。

仮面をつけると、視界が狭まり、世界が少し遠のいた気がした。

同時に、奇妙な安心感が生まれる。

この仮面の下なら、どんな酷い顔をしていてもバレない。

人を殺そうとする時の、醜い表情さえも。

ねえ、タクヤくん。

「悲劇」の仮面をつけたアイリが、僕の耳元で囁く。

あそこにいるよ。獲物が。

視線の先。

ホールの隅で、ワイングラスを傾けている一組のペアがいた。

狼の仮面をつけた男と、羊の仮面をつけた女。

体格と服装からして、間違いなくケンジとユミだ。

ケンジは周囲を威圧するようにふんぞり返り、ユミは怯えたように縮こまっている。

どうする? 今すぐ襲いかかるか?

僕はポケットの中で、庭園で拾った鋭利な石を握りしめた。

ナイフはないが、これで後頭部を殴れば……。

だめだよ、タクヤくん。

アイリが僕の手を抑える。

あんな野蛮なやり方じゃ、返り討ちに遭うだけ。ケンジはナイフを持ってるし、腕っぷしも強い。正面突破は勝率ゼロに近いよ。

じゃあ、どうするんだ。

絡め手でいくの。

アイリは仮面の奥で、冷徹な計算式を弾き出した。

ターゲットはケンジじゃない。ユミちゃんだよ。

ユミ?

そう。あの二人の関係は「支配と服従」で成り立ってる。でも、その鎖はもう錆びついてボロボロなの。

アイリはワイングラス(もちろん空っぽだ)を揺らすふりをした。

私たちが、その鎖をほんの少し引っ張って、断ち切ってあげる。そうすれば、ケンジという巨獣は自滅するわ。

どうやって?

アイリは僕に、信じられない作戦を耳打ちした。

それは、彼女が「聖女」であり「悪女」であるからこそ思いつく、残酷で美しい心理トリックだった。

……本気か?

うん。タクヤくんの演技力が鍵だよ。できる?

やるしかない。

僕は仮面の下で唇を噛んだ。

作戦開始。

僕は一人で、ケンジたちのテーブルへと近づいていく。

アイリは別の場所へ身を隠した。

よお。

僕が声をかけると、狼の仮面(ケンジ)が振り返った。

誰だ、テメェ。

仮面をつけているから、僕だと気づいていない。

僕は声を低く変えて言った。

通りすがりの商売人さ。あんた、いいナイフを持ってるな。

ケンジが警戒の色を見せる。

なんだ、欲しがってるのか? やらねえぞ。

いや、逆だ。俺はもっといい「情報」を持ってる。それを、あんたのチップと交換しないか?

情報?

ああ。このゲームの「必勝法」に近いネタだ。

ハッ、胡散臭せえ。

ケンジは鼻で笑うが、その目は興味を示している。

チップ長者特有の、「もっと勝ちたい」という強欲さが隙を作る。

まあ聞くだけ聞いてくれよ。あっちで話そうぜ。女連れじゃ話しにくい内容だ。

僕はユミの方をチラリと見る。

ケンジは少し考え、ユミに命令した。

おい、お前はここで待ってろ。酒のおかわり持ってこい。

……はい。

ユミが小さく頷く。

ケンジが席を立ち、僕についてくる。

よし、分断成功だ。

僕はケンジをホールの反対側、人目につきにくいバルコニーへと誘導する。

その隙に。

反対側から、「悲劇」の仮面をつけたアイリが、一人残されたユミへと接近していた。

ここからは、僕の視界には入らない。

だが、アイリが何をするかは分かっている。

彼女はユミに「共感」し、「救い」を提示し、そして「殺意」を植え付けるのだ。

バルコニーに出ると、夜風が冷たかった。

で? 必勝法ってなんだよ。

ケンジが苛立ちながら聞く。

僕は時間を稼ぐために、適当な出まかせを並べる。

実は、この館の地下に隠し通路があって……。

嘘つけ。そんな話、聞いたことねえぞ。

ケンジがナイフの柄に手をかける。

バレるか?

冷や汗が背中を伝う。

その時だった。

キャアアアアアッ!!

ホールから、女性の悲鳴が聞こえた。

ユミの声だ。

なんだ!?

ケンジが色めき立つ。

おい、今の声!

俺の女だ! クソッ、誰かが手を出しやがったか!

ケンジは僕を突き飛ばし、ホールへと駆け戻っていく。

僕もその後を追う。

計画通りだ。

ホールに戻ると、人だかりができていた。

その中心で、ユミが床に座り込み、ガタガタと震えていた。

その目の前には、割れたワイングラスと、赤い液体が散乱している。

そして、その液体は、彼女の白いドレスを毒々しい赤色に染めていた。

おい! 何があった!

ケンジが怒鳴り込み、人混みを掻き分ける。

ユミ! 誰にやられた!

ユミは蒼白な顔で、震える指を突き出した。

あ、あの人が……!

彼女が指差した先。

そこには、「悲劇」の仮面をつけた女――アイリが立っていた。

アイリの手には、ナイフが握られている。

(え?)

僕は混乱した。

ナイフ?

僕たちは武器なんて持っていないはずだ。

アイリはどこでそれを手に入れた?

まさか、盗んだのか?

いや、違う。

よく見ると、それはディナー用のシルバーナイフ(切れ味の悪い食事用)だ。

だが、切っ先にはべっとりと「血」のようなものが付いている。

てめえ……俺の女を刺しやがったな!

ケンジが激昂し、本物のサバイバルナイフを抜く。

待て! ケンジ!

僕は叫んだが、遅かった。

ケンジは獣のような咆哮を上げ、アイリに向かって突進した。

殺してやる!!

アイリは動かない。

仮面の下の表情は見えない。

だが、僕は知っていた。

彼女は今、笑っている。

これは罠だ。

ユミのドレスを染めているのは血ではない。ただの赤ワインだ。

アイリはユミに襲いかかったふりをして、わざと騒ぎを起こしたのだ。

何のために?

ケンジに「先制攻撃」をさせるために。

ケンジのナイフが、アイリの胸元に迫る。

その瞬間。

『警告!』

館内にアラームが鳴り響いた。

『戦闘行為を確認。ルール3に抵触……しませんが、ルール5を発動します』

ルール5?

そんなもの、あったか?

その時、天井のシャンデリアから、数本のレーザー光線が照射された。

狙いは、アイリではない。

殺意を持って武器を振るった、ケンジだ。

『館内での「過剰な破壊活動」及び「調度品の破損」に対し、防衛システムが作動します』

バシュッ!

乾いた発射音と共に、ケンジの右肩が弾けた。

ギャアアアアッ!

ケンジがナイフを取り落とし、床に転げ回る。

麻酔弾か? あるいはゴム弾か?

どちらにせよ、強烈な一撃だ。

ケンジが無力化した。

その隙を見逃すアイリではなかった。

彼女は床に落ちたサバイバルナイフを拾い上げると、苦痛にのたうち回るケンジを見下ろした。

そして、ゆっくりと仮面を外した。

その素顔は、女神のように美しく、そして悪魔のように冷酷だった。

ねえ、ケンジくん。

彼女はナイフを、ケンジの喉元に突きつける。

正当防衛、成立だよね?

周囲のプレイヤーたちは、息を呑んで見守っている。

誰も止めない。

誰もが、勝者が敗者を喰らう瞬間を、固唾を飲んで待っている。

僕は、その光景を見ながら理解した。

アイリの本当の狙い。

それは、ユミを襲うことでも、ケンジを罠にかけることでもなかった。

この衆人環視の中で、「ルールを逆手に取って、堂々と殺人を犯す権利」を得ることだったのだ。

殺れ、アイリ。

僕の心の中の怪物が囁く。

そいつを殺せば、チップも食料も全部手に入る。

僕たちは、生き残れる。

アイリの手が動く。

銀色の軌跡が、虚空を走った。

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