αの愛し子の黙示録(完結)

ビスケット

文字の大きさ
29 / 82

会長…!!交流会出たいです…

しおりを挟む
なぜ、桜花の特権がなくなったのか。
それは、慎吾が城田に、ラットの際に出るフェロモンを抑える対策を考えてくれると言われた、少し前のこと―――。

その日生徒会では交流会について話し合いが行われていた。
会議室にはずらりと役員が座って朝倉会長を見ていた。
それを受けて会長が厳かに会議の開始を告げる。
「みな、今日の議題は恒例の桜花学園との交流会の開催についてだ。
そろそろ動く前に、一通り確認しておきたい。」

俺は会長に命じられた肩もみという補助業務を 会長の背後霊となって こなしながら会議に参加していた。
大切なことなのでもう一度言おう。俺は会議に参加していた!

「もうわかっているとは思うが、ドレスコードはいつものとおり・・・」
「ドレスコード?」
聞きなれない言葉に、俺は肩をもみながらポロリとこぼしてしまった。

「なんだ小山田。ドレスコードをしらないのか?」
会議の途中なのに中断して振りかえる会長。
会議に集中しなさい。とはいえ聞かれたのでおれも答えた。

「男なのにドレス・・・パーティーで女装の出し物でもするんすか?」
「馬鹿だな、小山田。ドレスコードというのは…まあ実物を見るのが早い。ほらこれだ。」
そういって、資料ファイルの中から写真を出してきた。

おれは絶句した。
そこに、映画でしか見たことが無いような社交界が映っていた。
ドレスアップした美しい女性と線の細い美少年が、王子様のような美貌の青年と並んで映っている。
よく見たら、髪の毛をセットして、蝶ネクタイとタキシード姿の朝倉会長の姿だった。
次の写真も、次の写真も。
みんなすべからくタキシード。

「会長、この服・・・」

「これがドレスコードに沿った服装だ。略式の、準正装だな。小山田もそうしろよ。」

「おれ、こんな服持ってませんよ。」

「なに。そうか。なら制服でもいいだろう。」

「ちょ、みんな黒いタキシードに俺だけ白い制服でネクタイじゃ浮くじゃないですか・・・」

「じゃあ蝶ネクタイをするか?」

ふと、写真の端っこに写った給仕係の制服が目に入った。
白いスーツに蝶ネクタイ・・・あ。これ絶対おれもスタッフだと思われてカラになった飲み物とか渡されるパターンの奴だ。
Ωの子から、俺のこと出席者だと認識してもらえなくて、スルーされる自分の姿が目に浮かぶ。
おれは・・・おれは・・・

「おれ、交流会には出れません。白い制服じゃ・・・出れません!」

「小山田…心配するな、制服ならドレスコードにかなっているはずだ。」

「いや、そういうんじゃなくて!ドレスコードとかじゃなくて!」

「なんだ、制服じゃ嫌なのか。」

「嫌です!制服じゃいやです!」

「・・・、そうか、泣くほどか。仕方がない、俺が行っているテーラーに・・・」

そこに、冷たく響く声が差し込まれた。
「会長。いいかげん話が進まないのは困ります。」
そしてさらに言い募る。
「小山田の服については後ほど皆で話し合いましょう。俺がいつも仕立てているところもお勧めなので。」
2年会計の先輩の発言で、会長の話の軌道は修正された。…ような、されてないような。

「ああ、そうだな。まったく。小山田は困った奴だ。」

いや、会長が勝手に話を膨らませたんでしょうが。

「では、会費についてだが、これも例年通りと・・・」

おれは肩もみを再開しながら後ろから会長が手にしている資料を見ていた。

思わず手が止まった。

「小山田、手が止まってるぞ。」

「ごっ、ごっ、ごごごごまんえん・・・」

「なんだ小山田。会費がどうかしたか?」

「だって、五万円!え、ほんとうに!?」

「ここ毎年、この金額だが。どうかしたのか?」

「高い・・・」

「高い?」

「あの、交流会って合コンですよね。高校生の!なんで五万もするんすか!!」

「それは、パーティーの食事、ケータリング、給仕係、楽団・・・いろいろあるからな。」

「・・・無理です!絶対無理!高すぎる!こんなの払えっこない!!」

「そうか、じゃあそれも俺が出してやるから心配するな。」

「会長、小山田が泣いてます。」

「どうした小山田。」

「どうもこうもないっすよ。
交流会出られると思ったのに・・・
Ωと番えなくたって、会えるだけでいいって思ってたのに…
そんなささやかな夢もかなわないなんて・・うう・・・
交流会に・・・出たい・・・出たいです・・・!」

「小山田泣くな。お前も出ればいいじゃないか。・・・タキシードは後で皆でどこで買うか決めればいい。会費も俺がはらってやるから。」

「いえ、小山田の分なので、それはすべて俺が面倒見ます。」
「桐生。いや、しかし・・・」

「・・・いっす。」

「なんだ。小山田聞こえない。はっきり言え。」

「やめてくださいよ。もういいっす…。
なんなんすか、簡単に代わりに払うとか。
脛かじりなのは俺と一緒じゃないっすか…。
親の金を粗末にしちゃだめっすよ。」

「小山田…そんなことが気になるのか。まあ親の金じゃないんだが。
俺たちの金が嫌なら、生徒会活動費で買ってやるから。これなら正当な…」

「施しを受けるくらいなら潔く俺あきらめるっす。
可愛いΩとか俺全然興味ないっすから。ないっすからぁ!!」

俺は生徒会室から走って逃げだした。
うしろから仕事に厳しいインテリ眼鏡の庄司が「あっ、こら小山田!もどれ!仕事を途中でほったらかしにする奴があるか!!」
っていう声が聞こえたけど、俺はとんずらした。

それから わりとすぐにクソ医者のところで定期検査を受けたときに交流会の話をして。

次の生徒会役員会議に参加したら、いつの間にか議題が「桜花学園との茶会の開催について」になっていたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

αが離してくれない

雪兎
BL
運命の番じゃないのに、αの彼は僕を離さない――。 Ωとして生まれた僕は、発情期を抑える薬を使いながら、普通の生活を目指していた。 でもある日、隣の席の無口なαが、僕の香りに気づいてしまって……。 これは、番じゃないふたりの、近すぎる距離で始まる、運命から少しはずれた恋の話。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

処理中です...