αの愛し子の黙示録(完結)

桜花学園

その日、名門のΩ専門学校である桜花学園にはピリピリした空気が流れていた。
なんてこと、何ということ―――



上位αが集い、名門の名をほしいままにする私立筑葉高校。
最上位αも多く在籍する、日本屈指の名門校である。
筑葉高校の殿方はαの中でも別格だった。
家格が高く、品格があり教養高く、おまけに財産も申し分ない。
けれどそんなことを頭に浮かべる暇いとまもなく、ただただ人々は彼らに目が釘付けになるのだ。

その端麗な顔かんばせ。
圧倒的な強者のオーラを放つ均整の取れた完璧な肉体。
まぶしく輝く白を基調にしたブレザーの制服を一分の隙もなくまとう、美神の寵児達の群れ。

彼らに見初められ、番つがいにと請こわれたい。
彼らに愛されて、子をなせたら・・・いえ、必ずそうしてみせる。
大抵のΩが、そんな思いを胸に桜花学園に入学してくるのだった。

それは桜花は特権があったからだった。
桜花学園では、いくつかの学校との交流会が持たれていた。
その中で、最も力がはいるのが、筑葉高校との交流会だった。

筑葉と桜花の交流会は長い歴史を誇り、その交流会は《葉桜の夜宴》と呼ばれた。
すべてのΩ専門学校が筑葉とそのような交流会を持てるわけではない。
桜花が長い歴史の末に手にした それは特権だったのだ。

それは盛装したαとΩによる盛大な夜会だった。
筑葉でサロン棟と呼ばれる、歴史ある洋館で行われる夜会は、心ときめくものだった。
桜花のΩたちの為だけに盛装した 筑葉の麗しき男たち。
桜花のΩにとって、彼らのエスコートを受ける優越感はなにものにも代えがたかった。

この日の為に、桜花生はドレスを誂あつらえ、最も自分の魅力をアピールできる装いや髪形を吟味し、マナーや所作や教養を磨き上げてくるのだ。

そこに激震がはしる。

その《葉桜の夜宴》が今年は行われないというのだ。
代わりに、お茶会を催すという。
しかもお互い制服着用とのこと。
憧れの舞台がなにもかも取り上げられた。
なぜ、どうして。

《葉桜の夜会》は、桜花学園の生徒だけが持つプラチナチケットだったのに―――

自分たちは他のΩとは違うのだ。
その驕りと紙一重の矜持が叩き潰された出来事だった。