鬼畜皇子と建国の魔女

Adria

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第一部

17.ルドヴィカの墓

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 散々啼かされた翌日、私はルキウスと共に己の墓へと転移することにした。
 私がルキウスの隣で転移の魔法陣をえがくと、魔法陣が光り出したので、私はルキウスの手に己の手を乗せ、行き先を告げた。



destinazioneデスティナツィオーネ ルドヴィカ・カスティリオーネの墓」




 目の前がぐにゃりと揺れる……。その不快さに一瞬目を瞑ってしまうが、次に目を開くと私の墓の前だった。


 辺りを見渡すと、辺境伯家の所有の墓みたいだ。私の墓の隣にはヴェンツェルの墓があった。私はヴェンツェルの墓の前に立ち、跪いて、今までの礼を述べた。




「ほう、これはとても素晴らしいな。戦に使うと不意をつけて実に良いだろうな」



 私の墓の前で不穏な事を呟いているクズを放って、私は己の墓へと歩み寄った。
 とても豪華な墓だ。皇室に隠しているとは思えぬ程に豪華だ。派手好きなヴェンツェルの一族らしいと言えば、らしいが……。





「まさしく建国の魔女に相応しい墓ではないか」
「む? だが、このように豪華にしていて、今までよくバレなかったものだな」
「そこを見てみろ」



 ルキウスの指先にある墓標へと目を向けると、そこには弔われている者の名に私の名は書かれていなかった。





「ヴェンツェル・フォルトゥニーノの妻……」
「クッ、其方は初代皇帝しか見えていなかったようだが、初代辺境伯は其方に恋慕していたと見える」




 そこに刻まれている愛のメッセージと妻という表記に驚き、私は目を見張った。


 確かに……ヴェンツェルは正室を置いていなかった……。だが、跡取りのために側室はいたので、私は気にも留めていなかった。ヴェンツェルは正室など堅苦しいだけだと言っていたが……もしや私のために? 私を想ってくれていたからなのか?


 ルキウスがそんな私を鼻で笑ったので、私が睨み付けるとルキウスは私の唇を奪った。




「っ! やめろっ!」
「初代皇帝も初代辺境伯も私からすれば、ただの愚か者だ。見ているだけでは何も伝わらぬ。欲しいものは力づくでも手に入れなければ」




 そう言って、ルキウスは私の腰をグッと抱き、私の顎を掴んだ。私が暴れても、一切気に留めず、また私の唇を奪った。




「っ! んんっ、やめっ、んぅ」
「ルドヴィカ、其方は私のものだ。初代皇帝や初代辺境伯であろうと渡す気はない」
「ルキウス、やめっ」



 ルキウスは私をヴェンツェルの墓の前まで引きずって行き、そこで私を犯した。私が、どれ程此処ではやめてくれと泣き叫んでも、やめてはくれなかった。






「さて、そろそろ墓を暴くか。クッ、正真正銘のルドヴィカの体を手に入れれば、次は愛しの初代皇帝の墓の前で犯してやるから楽しみにしていろ」
「クズ……」
「はっ、何とでも言え。どれ程泣いて喚こうとも、其方が私の物である事は変わらぬ」



 昨夜、啼きながら何度も私の物だと言ったのは其方自身だと、耳元で嘲笑混じりに言われ、私は絶望した。



 よく覚えていないが……言わされた気もする……だが、あんな理性を失った正気ではない時に言ったものなのだから無効だ。無効に決まっている。




 私が絶望していると、ルキウスが早くしろと裸で座り込んでいる私の尻を蹴り上げたので、私は無様にもルキウスに尻を突き出す格好で転んでしまった。



「っ! 痛……」
「はっ、その格好は何だ? まだ犯され足りないとでも言うのか?」
「なっ、ち、違っ! やめろっ」



 ルキウスは私の秘所を足蹴にしながら、そう笑った。屈辱と羞恥と痛みで、眩暈がする。だが、こんな事で負けては駄目だ。己の体さえ、手に入れられれば、ルキウスとの従属も切れる筈だ。



「もうやめろ! 早く私の、ルドヴィカの墓を見たいのだ」
「クッ、其方があのような無様な格好を私に見せるからだろう?」
「見せていない! 其方が蹴ったからだ! 不可抗力だ!」




 私が喚いてもルキウスは私を馬鹿にするように笑うだけだ。何か言う度に己が惨めになっていくのは何故なのだろうか……。



 私は脱がされたものを着直してから、ルドヴィカの墓の前に立った。魔法であたりの土を掘り、棺の蓋を開け、ルドヴィカの死体を取り出すと、私はその様にとても驚いた。



「白骨化していない……」
「ほう、まるで眠っているみたいだな。何故だ? これも魔女の力か?」
「そんな訳がない。私は魔法を使えるからと言っても、ただの人間だ。このような事は知らぬ」




 私が己の死体を、私のところまで引き寄せ、震える手で触れると、突然強い光が私と私の死体を包んだ。




 己の魂が有無を言わさず、ルイーザの体から引き剥がされ、己自身の死体へと吸い込まれる。不快感はなく、寧ろ高揚感が私を包む。




 己の死体と一体化すると、力がみなぎってくるのが分かった。私は、ニヤリと笑いながら、ルキウスの前に立ち、ふんぞり返り、笑ってやった。




「ふはははは! これで私のターンだ」
「そんな事より、ルイーザが死んだぞ」
「え?」



 ルキウスの言葉に目を剥き、私がルイーザへと目をやると、そこには焼けただれたルイーザの死体があった。




「な、何故だ!? 何故、こんな事に!?」
「ルイーザが雷に打たれたと報告を受けて駆け付けた時は、この状態だった。言ったであろう? 雷に打たれて瀕死だったと」
「そんな……」



 ルキウスの話によると、ルイーザはあの時、もう死んだと思ったが、もの凄く早いスピードで傷が癒えていき、雷に打たれたとは思えぬ綺麗な体へと戻ったと……。そして後は其方の知っている通りだと言った。




「では、あの時にはルイーザは既に死んでいたと言うのか?」
「まあ、今の状況を見れば、そうなるのだろうな」
「何と言う事だ……」



 私はルイーザの死体を抱き締め、何度もすまぬと謝った。私が己の体を求めたりしなければ、ルイーザを二度も殺す事はなかったのに……。



 私は甘かった。何処かで、私が抜ければ、ルイーザは帰ってくるのではないかと思い込んでいたのだ。



 それが何と言う愚かな失態だ……取り返しがつかぬ。




 私は己の涙を拭いながら、私がいた棺の中にルイーザの死体をそっと眠らせ、魔法の力で、暴く前の元の状態へと戻した。




「良いのか? あれでは、初代辺境伯の想い人はルイーザになってしまうぞ」
「ルイーザも私だ。どういう訳か……ルイーザが死んだ時に、私が蘇ってしまったが……不思議な事だが……」




 何の為に……? 一体、どのような不思議な力が働いているというのだ……。何故永き眠りから揺り起こされ、生まれ変わった体で意識を覚醒させてしまったのだろうか……。



 何やら、計り知れぬ力が働いているとでも言うのか……。もしも、私がルイーザとしての生を全うするのが、 "宿命さだめ" と云うのならば、私はルキウスから逃げる事が出来るだろうか?



 もしかすると、私はとんでもないものに巻き込まれてしまったのではないだろうな……。





 私が冷や汗を垂らしながら、ルキウスを見ると、ルキウスは何やら愉快そうにしている。私と目があった瞬間、ルキウスは私の腰を抱いた。




「次は初代皇帝の墓へと転移しろ。そこで、己の立場というものを嫌という程、教えてやる」
「い、嫌だ! ふざけた事をぬかすな!」
「別に転移したくないのなら、せずとも良い。馬車で無理矢理連れて行くまでだ」




 私はその言葉に絶望し、腰を抱いているルキウスから飛び退くように離れ、そして向かいあった。




fiammaフィアンマ!!」




 私が炎の攻撃魔法をぶっ放すと、青い炎がとぐろを巻いてルキウスへと襲いかかった。ルキウスは動じる事なく、涼しい笑みを浮かべている。



 この体には従属魔法はかかっておらぬ。そのように高を括り、涼しい顔をしても無駄だ。今までの行いを悔いる時だ!



 ルキウス・セヴェルス、覚悟しろ!
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