鬼畜皇子と建国の魔女

Adria

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第二部

54.故郷

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「は? 生まれ故郷?」


 あれから数ヶ月経ち、安定期に差し掛かった頃、突然ルキウスが妙な事を言い出した。



「其方の生まれた場所は、皆が魔力を使えるのだろう? 一度見てみたいのだ」



 だが、私の生まれた国はお世辞にも良い国とは言えぬ。実力主義で、好戦的な国だ。男尊女卑だし……正直良い思い出はない。
 1200年経って、どう変わってるかは分からぬが……あまり行かぬ方が良いだろうな。


 行くならイストリアだろう。あそこの国の方が平和だし……友好的だ。貴族街と下町が分けられているので、貴族街にさえ近寄らせなければ問題はないだろう。



「ただ、私の知っている情報は1200年前のものだ。こちらにはあちらの大陸の情報は入って来ぬし……安全は保証出来ぬぞ」
「クッ、問題はない。己の身くらい己で守れる」


 まあ、ルキウスはそうだろうな……。
 強いから問題はないが……万が一、他国で問題を起こし拘束された場合、色々と面倒だという事は念頭に置いて貰わないと困る。


 当たり前のように魔力を使える人間がいるという事は、当然ながら魔力を封じ込める策だとてあるのだ。拘束されてしまった場合、私でもルキウスを連れて逃げる事が困難になる可能性だってあるのだ。



 私が懸念点をルキウスに説明しても、ルキウスはだからどうしたという姿勢を崩さないので、問題だけは起こすなという事を十二分に伝え、行くこととなった。




「……近衛隊長を1人だけ連れてくのですか? 護衛としては少なくありませんか?」
「だが、あまり大勢ではない方が良いだろう? 其方も問題を起こすなと言っていたではないか……」
「ま、まあ……そうですが……」




 ふむ、人数が多ければ、それだけ目が行き届かなくなる……その点で言えば、少ない方が良いのか? それにしても少な過ぎだが……。



 まあ、良いか。




「では、行きましょう。2人とも私から離れないで下さいね」



 私は久しぶりのイストリアに内心ドキドキだった。1200年も経っていれば、師匠は生きていないだろうし……現在の首座司教は別の者だろう。
 分かってはいるが……久しぶりにイストリア神殿を見れると思うと胸が高鳴るのだ。




 そして、私はイストリアの下町へと転移した。



「良いですか? この国はあそこに見える神殿が中心となっているのです。あの神殿を起点に王宮のある貴族街と下町が分けられています。なので、絶対に神殿より向こうには行ってはいけませんよ。この国において、魔力の使えない者は平民ですからね」



 私が、うるさいくらいに説明すると、ルキウスは面倒臭そうにしているので、取り敢えず自由行動でも取ろうと思う。


 ルキウスは流通している物の違いなどが見たいので、市場へ視察に行くらしい。



「あの……わたくし、少し行きたい場所があるのです……」
「では行ってこい。許可してやろう」
「良いのですか?」
「ああ、但し1時間だ。1時間で戻って来い」




 私は大きく頷きながら、高鳴る胸をおさえ、神殿へと走って行った。だが、私はこの時、この行動が失敗だったと、後になって悔やむことになる。



 何があってもルキウスの側を離れては行けなかったのだ……。











 イストリア神殿……。
 この神殿で私は色々なものを学んだ。


 
 本格的な魔法の使い方、剣術、槍術、体術、外で生き抜く術……此処での学びがあったからこそ、私は大陸を渡った後も、生き延び、マルクス達と国を作ることが出来たのだ。



 そして、私は神殿が見渡せる高台の木の上で、ぼんやりと神殿を見つめていた。



 師匠……いえ、首座司教様。一人前になるように育てて頂いたのに……跡を継ぐことを厭い、逃げて申し訳ありませんでした。



 だけれど、感謝しています。
 此処で学び、過ごした時間は、私にとってかけがえのないものでした。




 師匠……私は良い弟子ではありませんでした……けれど、今でも私は貴方の弟子でいたいのです……。



 それだけは私のワガママです。どうか許してください。



 私はその木の上で一礼し、この国や生まれ故郷である隣国エトルリアについて、情報収集する事にした。



 その結果、驚くことを知ることが出来た。
 エトルリアは、今となっては平和で友好的な国となっているそうだ。現在、王と女王が並び立ち、仲睦まじく国を治めていると聞いて、私はとても驚いた。


 イストリアとも婚姻を結び、とても良い関係を築いているみたいだ……1200年も経てば、変わるものだな……。



 ふむ、この調子なら、エトルリアを見に行っても悪くはなかったかもな……。
 私はそう思いながら、待ち合わせ場所へと戻るとルキウスはいなかった。



「あれ?」
「殿下は、宿のほうに先に向かわれています」
「宿?」


 は? 泊まるつもりなのか?
 そんな事は聞いていないが……。



「そんな事は聞いていませんが? 長居をすると、それだけ危険性も増すのに、殿下は何を考えておられるのですか?」


 それに宿って……視察はどうした? 視察は?



「それが……」



 近衛隊長によると、ルキウスは市場で視察していた時に、買い物に来ている神子と出会ったそうだ。



 神子……という事は……。


 イストリアにおける神殿は、神子も神官も平民、貴族が入り混じっている。簡単な話、誰でも望めばなれるのだ。



 故に、当然ながら魔力を使える者もいる訳だ。



「…………そして、殿下からご命令を承っております」
「命令?」



 その神子を召している間、代わりに市場の流通状況について調べろとの事らしい。可能であれば貴族街も調べて来いと……。




「まさか……その神子は魔力が使える神子ですか?」
「私では、そこまでの事は分かりかねます」



 嗚呼、何だ? この胸騒ぎは……。
 嫌な予感しかせぬ……。



 あの大陸において魔力を使える者は私だけだった。だからこそ、価値があったのだ……。
 だが、此処は魔力を使える者が普通に溢れている……魔力のある子が欲しいなら、此処にいる者を連れ帰り、産ませれば早いかもしれぬ。



 まあ、中々来てくれる者はいないかもしれぬが……神殿は本気で神に仕えたいと思っている者もいるが、妾の子で、家に居場所もない、家を継ぐ事も出来ぬ貴族の受け入れ先でもあったりする……そういった者からすれば……魔力のない国で、皇太子の側室として持て囃されるのは、悪い話ではない……筈だ。



 元々、ルキウスは私以外を抱く事を気に留める奴ではない。私も、ルキウスが側室を持つ事を咎める気もない……。



 だが、その側室が万が一、己の居場所を脅かす者であれば……私はどうするのだろうか……。
 魔力があり、従順で私よりも賢い……正妃に相応しい者が現れれば……私などいらなくなるだろう……。



 所詮、ルキウスが愛しているのは魔力が使える私なのだから……。
 そして建国の魔女だからか……。はっ、情けない事だな……。




「ルイーザ様? 大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です。殿下のご命令通り、流通について調べましょう」



 そして、私はルキウスの望み通り、近衛隊長と下町と貴族街の流通について調べた。
 やはり隣国エトルリアとの交易が盛んで、両国の物が豊富であった。勿論、私が好きな酒もあったので、この機会に仕入れさせて貰った。



「ルイーザ様、懐妊中の飲酒は……」
「勿論、分かっております。これは産んだ後に……」
「ならば、良いのですが……」



 私が転移の魔法陣で、どんどん買った酒や、つまみを城に送っているのを見て、近衛隊長がジトッとした目で見てきて苦言を呈してきた。



 だが、この機会を逃せば、酒が手に入らなくなるではないか。



「あと、魔石も手に入れたいのです。良いですか?」
「魔石?」
「我が国のお城や神殿にも使われているのですよ。建国の魔女様が魔法を施されてから、かなりの時が経っています。万が一、壊れた場合、直すには新しい魔石が必要なので、それを取りに行きましょう!」



 まあ、取りに行くとは言ったが、貴族街に行けば普通に売っているので、今回は買おうと思う。素材採取している時間などないしな。




 私が色々と仕入れて、ルキウスがいる宿へと行くと、案の定見知らぬ女がルキウスの腕に絡み付いていた……。
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