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第四章 ダンジョンを観光地化させる俺
77、好きな物は?
しおりを挟むダンジョンを出て町へと繰り出した俺とセシノは、当初の目的である『暁の宴』のアジトへと辿り着いていた。
昔と違う場所にあるとは聞いていたが、見上げたその家の大きさに俺は驚いてしまう。
「エリア4位にもなるとこんなにも大きなアジトになるのか……」
「バンさんがいた頃はどれぐらいの大きさだったのですか?」
「んー、そうだなぁ……セシノが所属してた『黒翼の誓い』のアジトよりも少し小さかったと思う。所属人数も30人ぐらいだったからな。それが今や100人越えの大規模ファミリーとはな」
俺も置き去りにされていなければ、もしかしたらここで暮らしていたのかもしれないと思うと、少し感慨深いものがある。
「それでどうやって入りますか?」
「まずはセーラ、ミラ、シガンの3人がいるかどうか確認をとってみるか……」
そう思って俺はドアをノックしようとした。
しかしその前にドアの方が勝手に開いたのだ。
「あら……バン?」
「っえ!?」
「昨日ぶりですわね?」
そこから出てきたのは、俺たちが会いに行こうとしていたイアさん本人だった。
その偶然に俺たちは驚いてしまう。
「誰かに会いに来たのなら、呼びますわよ?」
「いえ、俺たち丁度イアさんに用事があってここまで来たんですよ」
「私に……? もしかして昨日聞き忘れた事でもあったんですの?」
これが聞き忘れに入るかわからないが、俺はとりあえず頷いておく。
「えーっと、その通りです」
「それは困りましたわね……私は今から買い物に向かう所ですわよ?」
「そ、それなら俺たちが荷物持ちぐらいしますよ!」
「まあ、それは助かりますわ! でしたらすぐに行きますから、ついて来てもらえると嬉しいですわ」
こうして、俺とセシノはイアさんの買い物に付き合う事になった。
道中でセシノを紹介したり、イアさんが一人で進んでしまうのを追いかけたりして、気がつけば俺たちは両手が塞がるほど荷物を持っていた。
そんな俺たちを見てイアさんは申し訳なさそうに言ったのだ。
「こんなにも荷物を持たせてしまって悪いですわね。とりあえず買い物もひと段落つきましたし少し休憩しますわ。それで、休憩しながらでよければバンの話を聞きますわよ?」
「俺はそれでいいですけど、もしかして休憩がおわったら……」
「もちろん、まだまだ買い物はありますわ。とりあえず今ある分は、丁度そこにいるうちのメンバーにでも渡しておきますわね」
そう言うとイアさんは、偶然近くにいた四人組に荷物を全て渡したのだ。
どうやらいつもこうして荷物を渡しているのか、その人たちも慣れた手つきで受け取ると「今日のご飯も楽しみです」と、笑顔で帰って行ったのだった。
その事に反応したのはセシノだ。
「イアさん、料理上手なんですか?」
「どうでしょうか、毎日作ってるうちにマシになっただけだと思いますわよ……?」
「そうなのですか? それでも得意な料理の話とか詳しく聞きたいです。あ、だけどそれはまた今度でいいですから……今は早く喫茶店に行きましょう」
そう言いながら俺たちの先を楽しそうに歩き始めたセシノを見て、俺は微笑ましく思ってしまう。
そんな俺を見たイアさんがニコリと笑った。
「バンがこんなにも優しい顔をするなんて思いませんでしたわ。でも、手を出したら犯罪みたいなものですわよ?」
「何言ってるんですか!? 俺はセシノをそんな目で見てないですからね?」
「ふふふっ、そうやってすぐ反応するから揶揄われるのですわよ?」
クスクス笑いながらイアさんはセシノの横に並ぶと、あそこの喫茶店はどうかと指を差していた。
その様子が更に微笑ましくて、まあ多少揶揄われるぐらいなら別にいいかと俺は二人を追いかけたのだった。
そして俺たちは今、先程イアさんが指を差していた喫茶店に入っていた。俺の向かいにはイアさん、横にはセシノが座っている。
「それで、私に聞きたい事ってなんですの?」
「それがアンナの件で……」
「アンナさん? もし復讐の事でしたら私は復讐自体反対ですわよ?」
とても優しいイアさんが復讐に反対するのはわかっていた。
だからすでに少し怒り気味なイアさんに、どう聞き出すべきかと俺は考えながら話し始めたのだ。
「それはわかっていますよ。それに昨日話を聞いた後、俺も少し考えてみたんです。いきなり復讐するとかではなくて、まずアンナと会うところから始めてみようかなと……」
「そうですわね、まずは話し合いが大事だと思いますわね」
「それはわかるんですけど、話し合いをするにしてもアンナが何処にいるかわからないですから、それならダンジョンにアンナの方から来て欲しいと思ったんですよ。その為にアンナの好きな物をダンジョンに作りたくてですね……あの、イアさんはアンナの好きな物って知りません?」
何とか誤魔化しながら言ったが、別に俺は復讐しないとも言ってない。この半分嘘みたいな話を、イアさんに変に思われないといいのだけど……。
そう思っていたのに、予想とは違いイアさんは突然感動しはじめたのだ。
「まさか仲直りの印にアンナさんを喜ばせようと、好きな物を作ってあげるのですわね?」
全く違うのだけど俺はとりあえず頷いておく。
「でしたら喜んで教えて差し上げますわ。それでもこれは当時の好きな物であって、今も好きかはわかりませんわよ?」
「それは大丈夫ですよ、間違ってても別に文句はいいませんから」
きっと昔好きだった物なら、少し話題になれば気になって来てくれるかもしれないからな。
「それで、アンナが好きな物は?」
「アンナさんは可愛いものが大好きですわ」
「……あのアンナが!?」
俺が知っているアンナは傍若無人で特に可愛いものをつけていた記憶なんて無いのだけど……。
「あの、だなんて流石に失礼ですわ! アンナさんはあれでもコッソリ猫やウサギの置物を集めるぐらい可愛い物好きですわよ」
「そ、そうなんですか……俺は全く知りませんでしたけど、もかして他にも何かあったりします?」
「そうですわねぇ、女の子ですものやっぱりお花は好きでしたわ。それと可愛らしい刺繍の入った服を買っていたのを見た事がありますわ……でも最後までその可愛い私服姿は見せてくれませんでしたわね」
可愛い服を着ているアンナ……?
混乱する俺の横では、セシノのがせっせとノートに何かメモっていた。
そこには『動物のトピアリー』『お花畑』『お土産とかで服や置物を売るのもいいかも』と書かれており、早速インスピレーションが沸いているようだった。
「私が知っているのはこれぐらいですわね。また何か思いついたらお伝えしますわ。これでアンナさんと仲直り出来るといいですわね!」
なんだろう、イアさんは俺を博愛主義者とでも思っているのだろうか……?
だけど流石に俺はそこまで優しくなんてない。
だからイアさんには少し申し訳ないが、これでアンナを誘き寄せる事が出来るかもしれないと、俺はソッと拳を握っていたのだった。
その後、休憩を終えた俺たちは喫茶店を出ようと立ち上がっていた。しかし何かを考えていたセシノだけはそこから立ち上がらず俺に言ったのだ。
「あの私、買いたい物が出来たので少し別行動してもいいですか?」
きっと先程セシノが書いていた案の事で何か必要な物でもあったのだろうと、とくに何も考えずに俺は快く承諾したのだった。
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