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序
それぞれの思惑
しおりを挟む痛みを感じる間もなかった。青天の霹靂だ。人助けなんてするもんじゃない。要救助者が助かっても救助者が死んでしまっては何にもならない。
とにかく私は、コンクリートか鉄骨の塊に圧し潰されたらしい。高層建築の工事現場で、尋常じゃない量の資材が落ちる先にいた少年を助けようと飛び出したが、突き飛ばす事しかできなかった。あの子は無事助かったろうか。
それでここはどこなのだろうか。
ここが地面の中にある事を漠然と感じとる事ができた。付け加えるなら、ここは地中にありながら不自然に人工的なドーム状の空間だった。
だがそこは私がいる場所ではなく、私そのもののように感じられた。
そしてもうひとつ。
このドームの中で寝息をたてているこの少年は、一体誰なのだろう。
~
時折顔にぴちっとあたる水滴で目が覚めた。どうやら気を失っていたらしい。前世の北国にあるかまくらのような小さなドーム状の天井から、時々水滴が滴り落ちてくる。
体を起こして周囲を眺めると、壁は石壁のようにゴツゴツし、おまけにほんのり光っており、俺が立って歩ける位の綺麗な半球状で、いかにも人工的な空間だった。しかし、出入り口のようなものはどこにも見当たらない。
たしかダンジョンの崩壊に巻き込まれたはずだが、助かったらしい。
体の状態を確かめたが、怪我らしい怪我も痛みもなく、装備も持ち物も全て揃っており、安堵した。ただ、体力は回復していたが、魔力は底をついていた。
ダンジョン崩壊の際、パーティーリーダーの指示で、転移スクロールを使って脱出しようとした時、俺だけ誤って別のスクロールを使ってしまった。
苦笑しながら荷物を探ると、破れた転移スクロールが出てきた。こりゃ、誰かにはめられたかな…?
嫉妬と裏切りはラノベの定番だよね!
それにしても俺が使ったスクロールは、一体全体何のスクロールだったのだろう…?
~
「おい、アスカがいないぞ!」
ダンジョン崩壊後、転移スクロールで地上に脱出したパーティーメンバー達の安否を確認していたパーティーリーダーが叫んだ。
メンバー達は口々にアスカの名を呼び周囲を手分けして捜索したが、ついにアスカの姿を見つける事はできなかった。
「リーダー、あいつは逃げ遅れちまったんですよ、きっと。」
アスカはまだ少年だったが、実力は確かで、それゆえに多少向こう見ずな面もあった。だが、歳に似合わず慎重な面もあり、決して準備を怠ったり自ら命を粗末にするような冒険者ではなかったはずだ。
「俺はっ!あいつがまだ生きてると信じる…!」
きっとアクシデントで転移場所が狂っただけに違いない。自分の子供のようにアスカを可愛がっていたパーティーリーダーは、自分に言い聞かせるようにそう口にした。
~
そして、お約束のの裏切り者は、帰還した街の酒場で一人、手酌でエールを呑みながら、自問していた。
今回のダンジョン攻略で、パーティーリーダーが大事にしまっていた高価で珍しいマジックスクロールを盗みだし、こっそりアスカの持ち物に紛れ込ませた。ついでに転移スクロールを使えないように破いておいた。
ダンジョンコアの間で、アスカに盗みの罪を着せ、パーティーから追い出す計画だった。しかし、まさかアスカがいきなりダンジョンコアを破壊するとは思ってもいなかった。
まぁ結界オーライか。
~
「旦那、どうでしたい?」
「すまんな。部下の一人がダンジョンコアを破壊してしまってな、核属性魔法の検証はできなかったんだ。許せ。」
「やれやれ、仕方ないですね。ですが、スクロールと引き換えに預かった預託金から、違約金として一割いただきますからね。」
「それがな、肝心のスクロールもどこかに紛失してしまってな…。」
「な、なんですって旦那!ありゃ一日二日で描けるようなスクロールじゃないんですぜ!年単位の時間がかかってんですよ!」
「本当にすまない。預けた金は全部お前にやるから。…俺も可愛がってた部下を一人失ったんだ。察してくれ。」
「そ…、そりゃなんというか、御愁傷様で。どうして途中で引き返さなかったんで?旦那らしくもない。」
「いや、ダンジョンコアの間までは全員揃ってたんだ。」
「お?ほほぉ?それで、ダンジョンコアを破壊して?…一人逃げ遅れた、と?」
「おい、何を楽しそうにしゃべってやがる。アスカを侮辱するつもりなら許さねぇぞ!」
「まあまあ旦那、落ち着いて。こりゃ、ひょっとすると、そのアスカさんとやらは、多分まだ生きてますぜ。」
「ん?どういう事だ?」
なぜなら、あのマジックスクロールは、核属性魔力によって、死者をよみがえらせる事のできる、復活スクロールだったのだから。
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