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第一章 First love
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景色は見慣れたものへと変わっていき、自宅が近くなった。
「先生、」
「そういえばさ」
同時に声が出た。
周防が「ん?」というように目元を緩め、先を促した。
「何?」
「もうすぐ家のそばです」
「やっぱ、そうか。だよな、実はおれの好きなお菓子屋さんがこの辺にあってさ。蜜の住所が近いなって思ってたんだよな。知らない? ゆめのやって和菓子屋さん」
その響きに蜜は息をのんだ。
「ゆめのや」
「そう。住所を見てて、近いな~って思ってたんだよな。ご近所じゃない?」
ご近所も何も。
「それ、ウチです」
「ん?」
「それ、父のお店です」
正確にはゆめのやの隣にあるのが自宅だ。
母が仕事とプライベートは切り離したいと言い張り、店舗と廊下でつなげる形におさまった。
「え?! マジで?! え、ほんと?」
周防はこれ以上ないくらいに驚き、何度も「マジで?」と繰り返した。
「おれ、めっちゃ通ってるよ、ゆめのや。蜜に会ったことあったのかな」
「や、ぼくはほとんど店舗に行くことはないですね」
母が願ったのはそれもあった。
店と一緒になったら子供たちの生活もぐちゃぐちゃになるんじゃないかと危惧したのだ。
そのおかげで蜜とゆめのやは別に存在できている。
もちろん忙しい繁忙期には手伝ったりもするけど、生活と店が一緒になることはなかった。
「そっか。だから会ってないんだな」
周防は納得したようにうなずいた。
「え、じゃあ、お店に立ってる若くて綺麗な女の人が蜜のおかあさん?」
現金な質問に蜜は、冷たい視線を送った。
「母をよこしまな目で見ないでください」
「そんなつもりじゃねーし」
「まあ、それは社員の女の人だと思いますけど」
蜜は母にとても似ている。
整ってると褒められる容貌は母譲りだ。だから、昔からお母さん美人でいいねとうらやましがられてきた。
それを見初めた父は面食いと言っていい。従業員はみんな美形だった。
「うっわ、いろんな新事実が」
「先生がウチのお得意様だってことも知りませんでした」
ありがとうございます、と頭を下げると周防は、こちらこそ、とそれに返した。
「まじでびっくりだわ。でも道案内がなくても送り届けれるな」
言葉通り周防は迷うことなくゆめのやに到着し、その隣にある自宅の前で蜜は車から降りた。
「ありがとうございました。お店に寄っていきますか?」
「ん~、なんとなくやめとこうかな。それはプライベートで来るよ」
「わかりました。もし来たら声をかけてください」
周防はまもなく車を動かし、遠く離れていく。後姿を見送っていたらちょうど母が店から出てきた。
「あれ、蜜帰ってたの?」
「うん、ただいま」
目の前にある母の顔はやはり自分によく似ている。母を見た周防は「美味しそう」とか「可愛い」とかいうんだろうか。
「先生、」
「そういえばさ」
同時に声が出た。
周防が「ん?」というように目元を緩め、先を促した。
「何?」
「もうすぐ家のそばです」
「やっぱ、そうか。だよな、実はおれの好きなお菓子屋さんがこの辺にあってさ。蜜の住所が近いなって思ってたんだよな。知らない? ゆめのやって和菓子屋さん」
その響きに蜜は息をのんだ。
「ゆめのや」
「そう。住所を見てて、近いな~って思ってたんだよな。ご近所じゃない?」
ご近所も何も。
「それ、ウチです」
「ん?」
「それ、父のお店です」
正確にはゆめのやの隣にあるのが自宅だ。
母が仕事とプライベートは切り離したいと言い張り、店舗と廊下でつなげる形におさまった。
「え?! マジで?! え、ほんと?」
周防はこれ以上ないくらいに驚き、何度も「マジで?」と繰り返した。
「おれ、めっちゃ通ってるよ、ゆめのや。蜜に会ったことあったのかな」
「や、ぼくはほとんど店舗に行くことはないですね」
母が願ったのはそれもあった。
店と一緒になったら子供たちの生活もぐちゃぐちゃになるんじゃないかと危惧したのだ。
そのおかげで蜜とゆめのやは別に存在できている。
もちろん忙しい繁忙期には手伝ったりもするけど、生活と店が一緒になることはなかった。
「そっか。だから会ってないんだな」
周防は納得したようにうなずいた。
「え、じゃあ、お店に立ってる若くて綺麗な女の人が蜜のおかあさん?」
現金な質問に蜜は、冷たい視線を送った。
「母をよこしまな目で見ないでください」
「そんなつもりじゃねーし」
「まあ、それは社員の女の人だと思いますけど」
蜜は母にとても似ている。
整ってると褒められる容貌は母譲りだ。だから、昔からお母さん美人でいいねとうらやましがられてきた。
それを見初めた父は面食いと言っていい。従業員はみんな美形だった。
「うっわ、いろんな新事実が」
「先生がウチのお得意様だってことも知りませんでした」
ありがとうございます、と頭を下げると周防は、こちらこそ、とそれに返した。
「まじでびっくりだわ。でも道案内がなくても送り届けれるな」
言葉通り周防は迷うことなくゆめのやに到着し、その隣にある自宅の前で蜜は車から降りた。
「ありがとうございました。お店に寄っていきますか?」
「ん~、なんとなくやめとこうかな。それはプライベートで来るよ」
「わかりました。もし来たら声をかけてください」
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「うん、ただいま」
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