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序章
過去に未来に不老不死
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そして、今日もまた僕は同じことを言いながら学校へ行く。
「今日も、学校か……」
でも、その日は何かがいつもと違っていた。
僕の足はまるでそこがお前の通うべき場所だと言わんばかりに、才集高校へと向かっていた。
そして、そこには当たり前のように、志桜里と難波がいた。昨日の夢の中で過去と違う路を選んだのは確かだが、まさか現実に過去が変わってしまうとは思いもしていなかった。
「もしかして、僕は夢の中で過去を変えてしまったんか……」
だとしたら志桜里との関係は……
僕は変化が起きた世界の中で、真っ先に志桜里のことが気になっていた。
過去が変わっているのだから、驚く必要はなかったはずなのに、僕は志桜里と恋人になっていること現実に目を丸くしてしまった。それはとても嬉しいことだったが、なぜ僕たちが付き合っているのか分からなかった。
僕のたった一つの会話、その一つの行為で過去が変わり未来までも変えてしまう。
でも、その時の僕は何一つ気にしていなかった。過去を変えれば未来を変えることになる。そんなことは初めから分かっていた。それでも僕は構わなかった。好きな人と一緒にいられるのなら……
その日の昼休み、僕は弁当を食べていた難波の隣の席に座り、志桜里とのことを聞いた。
「なあ、難波。僕はいつから志桜里と付き合ってるんだ?」
難波は何を言っているんだという目で見てきた。
「何だ。あんなに凄い告白をしとって、何も覚えてないんか。ほんま久遠は変わらんな。志桜里が可哀想だよ。何回あいつを待たせてると思ってるんだ」
難波は呆れていた。
難波から聞いた話では、三年前の中学卒業式の日に、僕は志桜里に教室のど真ん中で盛大に告白をしたらしい。
その話を聞き終えたとき、図ったかのようにチャイムが鳴った。掃除の時間だ。僕は自分の教室である二年一組の掃除をしている。この日から僕の毎日は楽しくなった。
僕が過去を変えてから二年が経過していた。
才集高校を卒業し社会人として働いていた。社会人といっても、町役場の新米として慌ただしい日々を送っていた。新米としては他の新卒よりも給料は貰えて、何不自由ない生活を送れていた。
元々家族みんなで楽しくやっていけるだけのお金があればいいと思っていたから、今の仕事は決して楽しくはないものの最後までやっていける気がした。
高校を卒業してすぐに僕は志桜里と結婚した。子供も授かり、一層働くことに一生懸命になっていた。
それでも僕はまだ過去に手を出して過去を変えていた。特にこれといって変えたい過去はなかったが、夢で見るたびに何か変えてしまいたいという衝動に駆られるのだ。
ただ、その過去を変えて世界に変化をもたらすこの力はむやみに使うものではなかった……
僕は夢から覚めるたびに、こんなことを言っているらしい……
「過去を変るのはいいけど、自分の行きたい過去に行くことができないな。いっそのことタイムマシンでも作ってみようかな」
この言葉を聞いているのは志桜里だけだ。
子供は天井を仰いで寝ることしかできない赤ん坊だった。耳は聞こえているだろうが、言葉までは理解できない幼さだった。
実はタイムマシンを作ろうという計画は、この頃にはすでに政府によって進められていた。それも完成に近いと言っても過言でないところまできていた。研究員の募集もあったが、僕の場合は夢であり、なおかつ科学的知識もなかったためこれには応募はしなかった。いや、出来なかった。
それにもう一つ理由があった。最近、夢の中で未来にも行けるようになっていた。社会ではそれをデジャビュというらしい。僕の場合は鮮明に未来を覚えていて、未来の技術を今の世界に生みだすこともできた。
だから、過去と未来、その両方に行くことのできる僕が研究員として入ったとしても、今の研究の邪魔になると思ったからでもあった。
確かにタイムマシンは早く完成してほしい。そして、そのタイムマシンもただ過去に行くだけではなく、未来にも行けるものであって欲しい。僕はそう願っている。
ただ、過去や未来を変えることで、この世界が破滅に導かれようが僕には関係ない。誰が利用するのか定まっていない器機で世界を破滅に導かないほうが自然の摂理に反している。人間だれしも心に欲望を抱えている。それを発散する形で事件が起きたり、ギャンブルや薬物に手を伸ばしたりして人生を破滅に導くのだ。
その点でいえば人間の人生とはいかに儚く、貪欲で、発散できない欲望を持っていて、いつ自分が自分でなくなるのか、そんなちっぽけな存在なのだと僕は思う。
だから、たとえ人間が世界を破滅に導こうが僕の知ったことではない。世界が滅びれば、過去に遡り過去を変えればいい。そう何とでもなるのだこの世界は……
僕は未来に行き、そこでタイムマシンが完成しているのかを確認するのは安易なことだと思っていた。
ただ、過去でも未来でも僕が行きたいと思う場面には行くことができなかった。
それに夢で見た場面での、僕の過去の言葉を変えることしかできない。そう考えると、かなり不便な力である。
でも、言葉だけでも過去や未来を変えることができるのだから満足している。
それから数ヶ月後にタイムマシンは完成した。そして、半年後、タイムマシンは本格的に実用化され始めた。当たり前だといわんばかりに、タイムマシンを利用し始めてから過去の変動が激しくなった。
初めから政府もその危険性を承知し、計画を実行に移したはずだった。しかし、政府はここまでの想定をしていなかった。危うさを覚えた政府がタイムマシンを作った研究員を集めたのはそれから三ヶ月後のことだった。
日本に二台しかないタイムマシンには、優先順位が決められていた。優先といってもお金を多く出した者から使えるというものであった。政府は国民の税金を引き上げることから手を引いて、新たな商売を始めたのだ。そして思惑通りに事は進んでいた。三ヵ月で集まったお金は全国民の年間徴収される税金のおよそ三十年分だった。
政府は研究員にこれ以上の被害が出ないよう、タイムマシンを作らないよう命じた。さらには、お金だけでなく利用目的も書かなければならなくなった。たかがそれだけで過去の変動を止められると安易に考えたのかは分からないが、その応急処置はあまりに遅く間に合わなかった。
そして、タイムマシンとは別に日本の一部が、一人の男によって壊滅に追いやられていた。
その頃には、僕はもう過去に興味が無くなりつつあった。最近僕は、夢で視た未来の技術を今の世界で生み出すことを趣味としていたからだ。しかし、仕事も多忙を極め限られた時間しか費やすことができなかった。仕事を辞めるにも大切な家庭があるため、むやみに仕事を辞めることができない。
僕が今作っている未来の技術は、不老不死になれる薬だ。化学などの技術がないと作れないが、ある程度は真似をすることができる。なぜなら僕は……僕はかつて才秀高校を受験するとき、そして入学後ももの凄く勉強をして全国模試で七位を取るまでに勉強が好きになっていた。
本来なら懐かしい思い出に浸るところだが、過去を変えてから、才秀高校の二年生までの記憶が抜け落ちていた。これは僕が抜け落ちた穴を、無理やり埋め合わせる形で作った過去だった。
「まあ、本当にすごいのは志桜里と難波何だけど……」
志桜里は僕が全国模試で七位を取った時に二位だった。さらに驚いたのは、難波がその模試で一位だったことだ。
なぜ難波が一位になったのか……
難波は僕の決めた才秀高校へ一緒に行くために猛勉強をした。朝から晩まで、授業中だろうが構わず難波は受験勉強をしていた。そして先生がそれを注意することは無かった。なぜなら難波は授業中の教科を勉強していた。
そこが僕と難波との違いだった。僕は好きな教科だけを勉強していて、いい点を取っていたが、他の教科は半分暗記で何とかなっていた。でも、難波の勉強法は違った。難波は僕みたいな暗記ではなく、ちゃんと勉強をしていい点を取っていたのだ。
そのため、僕や志桜里を……さらには、全国で一位を取るまでになっていた。
僕は難波に負けないために志桜里と共に勉強をした。時には難波とも勉強をし、お互い切磋琢磨しあいながら学力を極めつづけた。
「今日も、学校か……」
でも、その日は何かがいつもと違っていた。
僕の足はまるでそこがお前の通うべき場所だと言わんばかりに、才集高校へと向かっていた。
そして、そこには当たり前のように、志桜里と難波がいた。昨日の夢の中で過去と違う路を選んだのは確かだが、まさか現実に過去が変わってしまうとは思いもしていなかった。
「もしかして、僕は夢の中で過去を変えてしまったんか……」
だとしたら志桜里との関係は……
僕は変化が起きた世界の中で、真っ先に志桜里のことが気になっていた。
過去が変わっているのだから、驚く必要はなかったはずなのに、僕は志桜里と恋人になっていること現実に目を丸くしてしまった。それはとても嬉しいことだったが、なぜ僕たちが付き合っているのか分からなかった。
僕のたった一つの会話、その一つの行為で過去が変わり未来までも変えてしまう。
でも、その時の僕は何一つ気にしていなかった。過去を変えれば未来を変えることになる。そんなことは初めから分かっていた。それでも僕は構わなかった。好きな人と一緒にいられるのなら……
その日の昼休み、僕は弁当を食べていた難波の隣の席に座り、志桜里とのことを聞いた。
「なあ、難波。僕はいつから志桜里と付き合ってるんだ?」
難波は何を言っているんだという目で見てきた。
「何だ。あんなに凄い告白をしとって、何も覚えてないんか。ほんま久遠は変わらんな。志桜里が可哀想だよ。何回あいつを待たせてると思ってるんだ」
難波は呆れていた。
難波から聞いた話では、三年前の中学卒業式の日に、僕は志桜里に教室のど真ん中で盛大に告白をしたらしい。
その話を聞き終えたとき、図ったかのようにチャイムが鳴った。掃除の時間だ。僕は自分の教室である二年一組の掃除をしている。この日から僕の毎日は楽しくなった。
僕が過去を変えてから二年が経過していた。
才集高校を卒業し社会人として働いていた。社会人といっても、町役場の新米として慌ただしい日々を送っていた。新米としては他の新卒よりも給料は貰えて、何不自由ない生活を送れていた。
元々家族みんなで楽しくやっていけるだけのお金があればいいと思っていたから、今の仕事は決して楽しくはないものの最後までやっていける気がした。
高校を卒業してすぐに僕は志桜里と結婚した。子供も授かり、一層働くことに一生懸命になっていた。
それでも僕はまだ過去に手を出して過去を変えていた。特にこれといって変えたい過去はなかったが、夢で見るたびに何か変えてしまいたいという衝動に駆られるのだ。
ただ、その過去を変えて世界に変化をもたらすこの力はむやみに使うものではなかった……
僕は夢から覚めるたびに、こんなことを言っているらしい……
「過去を変るのはいいけど、自分の行きたい過去に行くことができないな。いっそのことタイムマシンでも作ってみようかな」
この言葉を聞いているのは志桜里だけだ。
子供は天井を仰いで寝ることしかできない赤ん坊だった。耳は聞こえているだろうが、言葉までは理解できない幼さだった。
実はタイムマシンを作ろうという計画は、この頃にはすでに政府によって進められていた。それも完成に近いと言っても過言でないところまできていた。研究員の募集もあったが、僕の場合は夢であり、なおかつ科学的知識もなかったためこれには応募はしなかった。いや、出来なかった。
それにもう一つ理由があった。最近、夢の中で未来にも行けるようになっていた。社会ではそれをデジャビュというらしい。僕の場合は鮮明に未来を覚えていて、未来の技術を今の世界に生みだすこともできた。
だから、過去と未来、その両方に行くことのできる僕が研究員として入ったとしても、今の研究の邪魔になると思ったからでもあった。
確かにタイムマシンは早く完成してほしい。そして、そのタイムマシンもただ過去に行くだけではなく、未来にも行けるものであって欲しい。僕はそう願っている。
ただ、過去や未来を変えることで、この世界が破滅に導かれようが僕には関係ない。誰が利用するのか定まっていない器機で世界を破滅に導かないほうが自然の摂理に反している。人間だれしも心に欲望を抱えている。それを発散する形で事件が起きたり、ギャンブルや薬物に手を伸ばしたりして人生を破滅に導くのだ。
その点でいえば人間の人生とはいかに儚く、貪欲で、発散できない欲望を持っていて、いつ自分が自分でなくなるのか、そんなちっぽけな存在なのだと僕は思う。
だから、たとえ人間が世界を破滅に導こうが僕の知ったことではない。世界が滅びれば、過去に遡り過去を変えればいい。そう何とでもなるのだこの世界は……
僕は未来に行き、そこでタイムマシンが完成しているのかを確認するのは安易なことだと思っていた。
ただ、過去でも未来でも僕が行きたいと思う場面には行くことができなかった。
それに夢で見た場面での、僕の過去の言葉を変えることしかできない。そう考えると、かなり不便な力である。
でも、言葉だけでも過去や未来を変えることができるのだから満足している。
それから数ヶ月後にタイムマシンは完成した。そして、半年後、タイムマシンは本格的に実用化され始めた。当たり前だといわんばかりに、タイムマシンを利用し始めてから過去の変動が激しくなった。
初めから政府もその危険性を承知し、計画を実行に移したはずだった。しかし、政府はここまでの想定をしていなかった。危うさを覚えた政府がタイムマシンを作った研究員を集めたのはそれから三ヶ月後のことだった。
日本に二台しかないタイムマシンには、優先順位が決められていた。優先といってもお金を多く出した者から使えるというものであった。政府は国民の税金を引き上げることから手を引いて、新たな商売を始めたのだ。そして思惑通りに事は進んでいた。三ヵ月で集まったお金は全国民の年間徴収される税金のおよそ三十年分だった。
政府は研究員にこれ以上の被害が出ないよう、タイムマシンを作らないよう命じた。さらには、お金だけでなく利用目的も書かなければならなくなった。たかがそれだけで過去の変動を止められると安易に考えたのかは分からないが、その応急処置はあまりに遅く間に合わなかった。
そして、タイムマシンとは別に日本の一部が、一人の男によって壊滅に追いやられていた。
その頃には、僕はもう過去に興味が無くなりつつあった。最近僕は、夢で視た未来の技術を今の世界で生み出すことを趣味としていたからだ。しかし、仕事も多忙を極め限られた時間しか費やすことができなかった。仕事を辞めるにも大切な家庭があるため、むやみに仕事を辞めることができない。
僕が今作っている未来の技術は、不老不死になれる薬だ。化学などの技術がないと作れないが、ある程度は真似をすることができる。なぜなら僕は……僕はかつて才秀高校を受験するとき、そして入学後ももの凄く勉強をして全国模試で七位を取るまでに勉強が好きになっていた。
本来なら懐かしい思い出に浸るところだが、過去を変えてから、才秀高校の二年生までの記憶が抜け落ちていた。これは僕が抜け落ちた穴を、無理やり埋め合わせる形で作った過去だった。
「まあ、本当にすごいのは志桜里と難波何だけど……」
志桜里は僕が全国模試で七位を取った時に二位だった。さらに驚いたのは、難波がその模試で一位だったことだ。
なぜ難波が一位になったのか……
難波は僕の決めた才秀高校へ一緒に行くために猛勉強をした。朝から晩まで、授業中だろうが構わず難波は受験勉強をしていた。そして先生がそれを注意することは無かった。なぜなら難波は授業中の教科を勉強していた。
そこが僕と難波との違いだった。僕は好きな教科だけを勉強していて、いい点を取っていたが、他の教科は半分暗記で何とかなっていた。でも、難波の勉強法は違った。難波は僕みたいな暗記ではなく、ちゃんと勉強をしていい点を取っていたのだ。
そのため、僕や志桜里を……さらには、全国で一位を取るまでになっていた。
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