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過去は美しい
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1.
いつだっけ。あの人を好きになったのは。
私が床に落としたタオルを拾ってもらったときだっけ?
いや、どっかの教室に忘れた辞書を届けてもらったときかも。
…そういえば、手袋も拾ってもらったなあ。
私は忘れっぽくて、人からよくどこか抜けてるね、と言われる。
でもそれは事実だから、私はなにも言い返すことができない。
でも、あの人ー
海野くんのことは、私はこれから先もずっと忘れない自信がある。
…多分だけど。
私は、あの時、間違いなく全力で恋をしていた。
そう、海野くんに。
★
海野くんは、高校3年生のとき、初めて同じクラスになった。でも、名前は前から知ってた。
海野くんは、陸上部のエースだったのだ。
たびたび、大会でいいタイムを出して新聞に載っていた。
同じクラスになるまでは、同じ学校の人が出てる、としか思っていなかった。
でも、あの時。あの時から。
「…あのう、体育委員に立候補してくれる人、いませんか~」
4月のはじめのことだった。
HRの時間。
新しいクラスの担任、上野先生が前に立つ。委員決めに思った以上に時間がかかり、先生のメガネのレンズの向こうに焦りが見え隠れしていた。
誰もやりたがらない、体育委員。
それだけが残っている。
もちろん私は手を挙げることなどまったく考えてなくて、まあ誰かやってくれるでしょ、というクラスのマジョリティーのひとつになっていた。
先生がちょっと苛立ち始める。
「誰かがやってくれないと、みんな帰れないよ? …じゃあしょうがないから、先生がくじを今からつくりまー」
「あ、僕やります」
そうだ。この時だ。この時、私は海野くんの声を初めて聞いた。
それと同時に、私の心の中で、なにかが始まった。
いつだっけ。あの人を好きになったのは。
私が床に落としたタオルを拾ってもらったときだっけ?
いや、どっかの教室に忘れた辞書を届けてもらったときかも。
…そういえば、手袋も拾ってもらったなあ。
私は忘れっぽくて、人からよくどこか抜けてるね、と言われる。
でもそれは事実だから、私はなにも言い返すことができない。
でも、あの人ー
海野くんのことは、私はこれから先もずっと忘れない自信がある。
…多分だけど。
私は、あの時、間違いなく全力で恋をしていた。
そう、海野くんに。
★
海野くんは、高校3年生のとき、初めて同じクラスになった。でも、名前は前から知ってた。
海野くんは、陸上部のエースだったのだ。
たびたび、大会でいいタイムを出して新聞に載っていた。
同じクラスになるまでは、同じ学校の人が出てる、としか思っていなかった。
でも、あの時。あの時から。
「…あのう、体育委員に立候補してくれる人、いませんか~」
4月のはじめのことだった。
HRの時間。
新しいクラスの担任、上野先生が前に立つ。委員決めに思った以上に時間がかかり、先生のメガネのレンズの向こうに焦りが見え隠れしていた。
誰もやりたがらない、体育委員。
それだけが残っている。
もちろん私は手を挙げることなどまったく考えてなくて、まあ誰かやってくれるでしょ、というクラスのマジョリティーのひとつになっていた。
先生がちょっと苛立ち始める。
「誰かがやってくれないと、みんな帰れないよ? …じゃあしょうがないから、先生がくじを今からつくりまー」
「あ、僕やります」
そうだ。この時だ。この時、私は海野くんの声を初めて聞いた。
それと同時に、私の心の中で、なにかが始まった。
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