上 下
15 / 25

15

しおりを挟む
 何かが起こる日は、

 大体いつも、

 こんな曇天の日だ。

 
 大学からアパートへ戻ると、家の前に松永くんが待っていた。

 彼はうちの合鍵を持っているのに、入ることなく玄関のドアに持たれかかって音楽を聞いていた。

「松永くん、どうしたの? 鍵は?」
 イヤフォンの片耳を抜いて話しかけると、全く私の気配に気づいていなかったようで、ビクッと体を捻じらせた松永くんの腕が、私の肩に思い切り当たった。

「ごめん! トウコちゃん大丈夫?」

 大丈夫かどうかと言われたら、痛かったけど大丈夫。
 それよりも無意識の松永くんが放った力がこんなに強いことに驚いた。

 一年近く一緒にいるのに、彼が全く男らしいアピールをしてなかったことにたった今気がついた。

 基本、彼は優しいので重い物は持ってくれたり、自転車が前から走ってきたら、そっと庇ってくれたり、女子がして欲しいことは叶えてくれる紳士的な男の子だ。

 そんな彼の優しさ以外の彼がいて、その彼が普段は、どんな行動をしていてるのかも知らない。

 彼のバンドには助っ人したこともない。
 クラスも違う。会うときは、ほぼふたりのときだ。
 ちょっとびっくりして固まっている私の肩をさすり、もう一度、「ごめん」と、言った彼に

「ほんと、大丈夫だから」
「でも、今日はこんな所でどうしたの?」と、言った。

「いや、約束もしてないのに勝手に入ったらいけないかなと思って」

「入っててよかったのに」

 私は部屋に入ってすぐ、灯りをつけ、鍋にお湯を沸かし始める。
 
 鍋のお湯が沸くまでチラッと彼を見るが、ベッドに腰掛けて黙っている。
 話しかけられる雰囲気じゃない。
 
 プツプツ、プツプツ

 水からお湯になり始める。外の音もやたらと静かだ。

 お湯が沸いたので火を止め、顆粒のインスタントコーヒーを鍋に投入する。
 スプーンで粉を混ぜきったあと、もう一度、鍋の火をつける。

 鍋からコーヒーが溢れないよう気をつけ、沸騰直前で火を止める。

「はい、コーヒーはいったよ。どうぞ」

 マグカップ受け取る松永くんの手が冷たい。
 
 一体いつからいたんだろう? 

 何のためにいたんだろう?



「トウコちゃんはさ、なんで俺とつきあったの?」



 映画のエンドロールのように、松永くんの言葉が私のなかを流れていく。

 トウコちゃんはさ、なんで俺とつきあったの?トウコちゃんはさ、なんで俺とつきあったの?トウコちゃんはさ、なんで俺とつきあったの?トウコちゃんはさ、なんで俺とつきあったの?













しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

アンドロイドの葬式

SF / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

終焉のファンタジー

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

難攻不落な箱入りお嬢様

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

処理中です...